第1208話 妨害工作


「……今の、何?」

「あいつ、青の群集からの合図役じゃなかったのか!?」

「暴発で暴れて……逃げていった?」

「なんか『青の群集とも、これでおさらばだ!』とか言ってたよ? 青の群集じゃないの!?」

「……赤の群集からの横槍か?」

「いやいや、リーダー達が協議しに行った意味が無くなるよね!? それ!」

「意味を無くす事が目的……?」

「そもそも今日は大人しくしてるとか言ってたし……やっぱり赤の群集じゃない?」

「いや、無所属で妙な集団が出てきてるって話が出てるし、それ絡みかもしれんな……」

「あー、無所属相手に共闘するって取り決めの話か。なんでそんな事をするのかと思ってたけど、今のを見たら……」

「思いっきり何か企んでるよなぁ!?」


 ガゲツという名の青の群集からの合図役に成りすました、おそらくは例の無所属集団の1員だと思われる人の事でざわめいている。

 もう少しでミヤ・マサの森林での総力戦が開始だってのに、この状態は非常に良くない。でも、急にあんな事態が起きて動揺するなと言う方が無茶だ。


「あらら、こりゃちょっとした混乱状態になっちゃってるね……。んー、ケイさん、風音さん、スチームエクスプロージョンをぶっ放してもらっていい?」

「この状況は流石に、そうした方がよさそうだな。風音さん、ちょっと

目立つけどいいか?」

「……問題……ない」


 レナさんがアルのクジラの背中まで上がってきて頼んできたし、そういう事ならやりますか! まともに個別の内容が聞き取れないほどにざわめきが広がっているしなー。

 直接状況を見てない人にまで何か騒ぎがあった事が伝わるのも時間の問題だし、これはマズい! エリア切り替えの場所の前で大勢待機していたのが逆に仇になってるし、多少強引な方法ででもこの混乱状態をなんとか抑えないと……って、ベスタが上から駆けてきて、アルの背中の上に降りてきたか!


「あ、ベスタさん! 丁度良いタイミング!」

「ラックから大雑把には事情は聞いたが……どういう騒ぎになっている?」

「不埒者が暴れていたに過ぎん。なぁ、疾風の」

「あの程度で騒ぎ過ぎだな。なぁ、迅雷の」

「それはいくらなんでも、軽く流し過ぎなのであるよ!?」


 刹那さんのツッコミには大いに同意! サラッと流そうとしてるけど、状況的には結構な大事なんだけど!? 風雷コンビは結構な頻度で喧嘩してるっぽいし、騒動慣れしてないか……? 騒動を起こす側としてだけど!


「……風雷コンビには答えは期待していない。ケイ、レナ、具体的には何があった?」

「青の群集の開始の合図役を騙る偽者が出てたんだけど……それが分かってレナさんが取り押さえたら、暴発で大暴れしてその辺の人の爪に突っ込んで死んでいった。あ、ジェイさんには確認は取ったぞ!」

「ごめん、流石に取り押さえるのを目立つようにやり過ぎたよ……。これからケイさんと風音さんで、スチームエクスプロージョンを放ってもらうつもりだけど――」

「……おおよその事情は察しがついたが、それは少し待て」

「およ? どして?」

「この混乱は、おそらく俺らに強引な方法で抑えさせるのが目的だろう。直接見ていた奴らなら問題にはなりにくいが、事情を把握してない奴らから不信感が出かねんぞ。……それに、その為の人員が紛れ込んでいる可能性もある」

「それはそうだけど、このまま放置じゃ開始に悪影響があるよ?」

「……確かにな。何か動きがある可能性は考えていたが、ここまでやってくるか。ちっ、厄介な状況を作られたな……」


 あー、ここで俺らが強引な手段で従わせようとさせて、その行為に不満を持つように扇動しようって策略か。やっぱり思った以上に、例の無所属集団は危険っぽいな。それに本当にそれが狙いなら、やり方が陰湿だ……。何が今日は大人しくしておくだ。これ、全然大人しく済ませる気がないだろ。

 推測に推測を重ねて断定情報のように扱うのは避けた方がいいんだろうけど、群集に不満を持ってる人が自分達と同じように不満を持たせようとする手段としてはありか……。一度生まれた反発心を消すのは容易じゃないぞ。


 くそっ、これから総力戦を始めようって時に……いや、だからこそ狙われたのか。ここでグダグダになって青の群集に負けたりしたら、明日の士気への悪影響は酷い。それに今の出来事が変に伝聞で情報が歪めば、青の群集に対する心象も悪くなって共闘もし辛くなる。場合によっては、共闘も総力戦自体も流れかねない。

 変に俺らが強引に抑え込もうとするのではなく、意識を一旦ズラして話を通せるようにする方法が必要か。中々、厄介な条件を用意してくれる!


「悪い、ベスタ、色々としくじったぜ……。俺らが初手の対応を間違えたせいだが……だからこそ、強行策では抑えが出来ない……」

「肉食獣もそういう見解か……。流石にこういう手を仕掛けてくるとは思わなかったから、対応については気にするな。それより、混乱の広まり具合はどうだ?」

「今、灰のサファリ同盟の方で確認を取って、状況の説明はしてくれている。だが、予想以上に混乱は広がってるようだ」

「……そうか」


 どこからともなく現れた肉食獣さんが言うには、灰のサファリ同盟の方で今のこの騒動を収めようとはしてるみたいではある。でも、それだと時間がかかりそうだし、こうしてる間にも総力戦の開始時間が迫ってきているんだよな。

 手早くジェイさんとのフレンドコールは終わらせたけど、もう少し繋げておくべきだったか? 青の群集だって無関係ではない事態だし、開始するのを落ち着くのを待ってからにしてもらうというのも――


「なぁ、風雷コンビ。ちょっといいか?」

「「なんだ、ディール?」」

「その返事の揃いっぷりも、相変わらず奇妙な感じだよなぁ!? いや、今はそんなもんどうでもいいわ。あー、いつもの調子で喧嘩とか出来ねぇ?」

「あぁ、なるほど。普段から喧嘩をしてるこの2人なら、この状況でも目立つ行為をしても不思議じゃねぇな。考えたじゃねぇか、ディール」

「おう! いくらでも褒めてくれていいんだぜ、富岳!」


 ほほう、普段から喧嘩をしている風雷コンビなら、確かに違和感のない暴れ方になるはず! このタイミングで喧嘩を始めた風雷コンビをベスタが抑えるという形に持っていって、意識を別の方向に持っていってから――


「それは無理だな。なぁ、疾風の」

「別に狙ってやってる訳じゃねぇしな。なぁ、迅雷の」

「……マジかー。そこをなんとか出来ねぇ?」

「「無茶を言うな、ディール」」

「普段の喧嘩の様子を見てるから、その返答はどうも納得がいかねぇ……」


 あー、流石にそんなに都合よくはいかないか。良い案だとは思ったけど、喧嘩をしようとしてない時に狙って喧嘩をするなんてのは無茶だったっぽい。

 そりゃまぁ風雷コンビの喧嘩は、喧嘩するほど仲がいいを体現してるようなもんだしな。意見の不一致が発生しない限り、露骨な喧嘩には発展しようがないか。


「おう、ケイさん達! こりゃ、何の騒ぎだ?」

「……桜花! ……どうして……ここに?」

「いや、なんか変な事になってるって話を聞いてな? 青の群集が騙し討ちを仕掛けて来たってよ」


 誰が飛んできたのかと思えば、桜花さんのメジロがここまで飛んできたのか。メジロだけで来てるって事は、桜の木との共生進化は解除中なんだな。

 てか、森林深部にまでその情報がもう伝わってる!? いくらなんでも早過ぎない!? しかも、内容がなんか事実と違っておかしいし!?


「風音さんが怒ってるかと思って少し様子を見にきたんだが……やっぱり様子が変だな? ベスタさんが自分の取り巻きだけで戦力を選んで意に沿わない連中を強引に抑え込もうとして、守られなかった協議を破棄して報復するのを邪魔してるって妙な話題も出始めてたんだが……」

「え、そんな事になってんの!? てか、ベスタはまだ何もしてないぞ!?」

「まだ何もしてないないのに、それは不自然なのさー!?」

「……デマが……流されてる?」

「あー、やっぱりデマか。なんか話の広がり方が異常に早いから妙だと思ったんだが……それなら妨害工作を受けてんだな? 仕掛けてきた相手は……例の無所属集団ってとこか?」

「あぁ、おそらくな。その辺の確認まではまだ出来ていなかったが、情報は助かるぞ、桜花」

「どうもっと。風音さんが心配になって慌てて見に来て正解だったか」

「……桜花!」


 うっわ、思った以上に厄介な状況になってるっぽい。この森林エリアだけでなく、森林深部でデマを流してるっていうのが本気で敵に回ってきてるな……。

 ベスタが止めずに、俺と風音さんでスチームエクスプロージョンで抑え込もうとしてたらどうなってたのやら……。


「……本気で、この状況はどう収めるかな?」

「どう動いても、誰かが汚名を被るように計画的に動かれてるな……。ケイ、何か案は思いつくか?」

「アル、無茶言わないでくれ!? この状況、俺らやベスタとかの主戦力で動く人ほど何も出来ないようにされてるからな!?」

「……まぁそうなるか。悪い、無茶を言った」


 くっそ、騒動を沈静化させようと動く事自体を批判の対象として狙ってくるような状況だと、本気で何も出来ない! かといって、このまま混乱したまま放置する事でも『何もしなかったベスタ』というレッテルを貼ってくるはすだ。

 思った以上に汚い手を使ってきやがるな、例の無所属集団は! 相当厄介な人が今回の件を仕掛けてきてるのは間違いない。


 そう簡単にベスタへの信頼が崩れるとも思えないけど、その辺は承知のはずだろうから、おそらく完全な瓦解は狙ってない。でも、それを多少なりとも揺るがす為の手段にはなり得る。対応を間違えればかなり危険だし、どうする? この場をどう切り抜ける?


「こうなると多少の批判は甘んじて受けるしかないな。レナ、肉食獣、灰のサファリ同盟に連絡を頼む。俺を批判してくるような事を言った奴らを見落とすな」

「それって今回の1戦で連携の邪魔になりかねない人達になるけど……ベスタさん、大丈夫? 確認は出来ても、それ以上は何も出来ないよ?」

「……批判する者は強制排除なんて真似は出来ないからな。それこそ思うツボだぜ?」

「あぁ、それは分かっている。だが、それ以上に俺が何もしなかったという事態に陥る方が厄介だ。その流れを作られると、これからの青の群集との総力戦も、明日の全群集での総力戦も、俺が代表として協議したという前提が成り立たなくなるからな」

「うーん、確かにそれはそうなんだけど……うん、桜花さん! ちょっとお願いがあるんだけど、いけるかなー?」

「ここでレナさんが俺にって事は……不動種として、何か力が必要なんだな? 何をすればいい?」


 あ、なんとなくレナさんがしようとしてる事が分かった。……この状況になってからでは、もう推測だからとか言ってる場合じゃないか。

 ベスタ……より正確には、群集の動きを主導する人達への妨害行為が狙いなのは明確だしな。狙いがハッキリとした以上、これ以上後手に回るのは避けるべき。ここで打つ手を間違えれば、協議をした意味が無くなりかねない。


「桜花さんは不動種の人脈を使って、この一連の流れを中継機能を使って全部暴露しちゃって! ベスタさん、もう例の無所属の集団は無視出来ない状況になり過ぎてるし、全ての群集に対して不満を持ってる人達の集団の可能性が高いって情報は出しちゃっていいよね? 今はちょっと無茶を押し通すけど、後からカバーする感じで!」

「……これ以上は下手に隠そうとする方が危険だな。だが、ここで誰をその役目に向かわせるかという問題もあるが……羅刹、北斗、下に隠れて何の用だ?」


 って、下から小さくなったティラノが、翼竜に運ばれて出てきた!? あー、ティラノは言わずと知れた羅刹が小型化してるだけみたいだけど、翼竜は傭兵の北斗さんか。

 てか、いつからいた? くっそ、これだけ人が大勢いると下方向の確認は難しい! でも、下を移動してたジンベエさん達が気付いても良さそうだけどな? って、あれ? いつの間にジンベエさんが大きくなって、サンゴの隙間に他のみんなが入って浮いてるね。いや、それはやっとくべき事だから、別に問題ないのか?


「いや、この1戦は大人しくしておこうと思ったんだが、妙に不穏な空気が流れ出して、その上で少し前に呼ばれたから大急ぎで来てな? 色々状況を聞いた上で提案するが、その役目を俺らにやらせてもらっていいか?」

「なっ!? 羅刹、本気か!? お前の存在は最終戦まで青の群集には隠し通すつもりだっただろうが!」

「そうも言ってられるか! おそらく、このやり口ならドライアの野郎も絡んでるぜ? 指揮系統の混乱を狙ってたし……それが狙いなら、あの時は下手に俺も口出し過ぎたからなその後始末だ」

「……ちっ、峡谷でのあの時は、内部に不破を作り出すのが目的か! ……ツキノワ、わざわざフレンドコールで俺らを呼びつけたのは、これが狙いだな?」

「さぁな? そこは北斗の解釈に任せるが……俺らが感謝する事になるのは違いないぞ」

「……ちっ!」


 えーと、いつの間にそんな話が出来てたんだ? あー、周囲のざわめきで誰がどう話してるかがまともに分かってなかったってのもあるのかも。

 それにしても、ツキノワさんって北斗さんと知り合いだったのか。まぁ俺らが北斗さんと直接会うのが初めてなだけで、知り合いがいるのは特に不思議ではないよなー。誰かしら知り合いがいないと、そもそも傭兵として承認されないんだし。


「おい、羅刹。そもそも無所属同士での模擬戦は可能なのか?」

「その群集の傭兵かつ中継をオンにするのが必須条件らしいが、それさえ許容出来るなら可能だそうだ。目的は戦闘じゃないし、問題ないだろうよ」

「条件的には問題ねぇって事かよ! てか、無所属の俺らでいいのか? この話はよ!? なぁ、ベスタ!?」

「……下手に標的にされている俺達がやるよりは、無所属の傭兵であるお前達の方が適任だろうな。ただし、傭兵権利の剥奪の危険性があるが……その方がむしろ都合がいい。そんなものに正当性はないからな」


 あ、そうか。傭兵として来ているこの2人が暴露するなら、下手に排除しようと権利の剥奪をされたとしても、不当なものとして運営に異議の申し立てが出来る。それで復帰出来るなら、主張が正しいと証明にもなる。そもそもが嘘なんだから、復帰出来ないはずがない。

 今仕掛けてきてる連中からの嘘の内容での妨害行為が効かない、数少ない切り札になり得る訳か! ツキノワさん、ここまで狙ってこの2人を呼んだんだな!


「あぁん? そんなもん、どこの誰が……って、灰の群集に隠れ潜んでるかもしれない連中か。なるほど、下手に俺らを排除しようとすれば、自分達のやってる事を証明する事になって……へぇ、そりゃいい! ただ、そうなるとこの貸しは高くつくぜ?」

「……可能な範囲にはなるが、何かしらの要望には応えよう」

「言ったな、ベスタ! おし、行くぞ、羅刹! 無所属だからって変な形で一括りにされるのも気にいらねぇし、足を引っ張って追い落とそうなんてやり方自体も気に入らねぇ! 妨害行為には妨害行為で返してやろうじゃねぇか!」

「という事だ。傭兵だからこそ出来る事ではあるし、こっちは俺らに任せておけ。桜花さん、中継の方は頼むぜ?」

「おう、そこは俺ら不動種に任せとけ! ケイさん達、風音さん、ベスタさん、レナさん! 他のみんなも頑張れよ!」

「ほいよっと!」

「桜花さん、分からないとこがあれば補足はするから、開始まではわたしとフレンドコールを繋いどいて!」

「了解だ!」


 そうして、桜花さんと北斗さんと羅刹はこの場を離れていった。さて、後からの批判の修正はどうとでもなるようになったから、今はちょっと無茶をしてでも強引に流れを引き戻していきますか!

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