第1184話 見落としていた事


 早くも土の操作がLv7になったから、もう上がる寸前までは育ってたんだな。まぁ普通に嬉しいとこではあるけど、ここからアルへ反撃しないといけないから、そこは後でだ!


 今回の一手で魔法で生成するのは、小石じゃなくて砂。今は模擬戦機能を使ってる訳じゃないけど、これからやる手段は魔力視で見えるようになった事を逆に利用するもの!

 そして、操作は3つまで出来る……いや、さっき4つに増えてって、今回はLv7での発動になってないから関係ないか。ともかく、アルの目の前に砂を展開! とは言っても、砂の操作ほど大量には扱えないけど。


「この程度の砂で視界潰しか? この程度なら吹っ飛ばすまで! 『旋回』!」

「いや、実はそうでもないんだよなー」

「……は?」


 いやはや、見事に砂の方に釣れてくれたね。並列制御がない状態だと、こうやれば意識の外になるんだな。

 ともかく、アルの旋回の動きが止まったところへ……土の操作の1つ分だけ操作対象を変えた天然の石をぶつけていくまで! 


「なっ!? 『旋か――」

「もう遅い!」

「……ちっ、やられたか。小石をぶつけてくるとは……」

「おし、成功! これで俺の勝ち!」


 ふっふっふ、アルの蜜柑を落とす事には無事成功! ちょっと手段的に蜜柑が潰れて質が悪くなったのが採集にはなったけど、勝利条件は満たしたから問題なし!


「勝者、ケイさんです! ですが、今のは一体何が起きたのでしょうか!? アルさんのクジラの目に砂が生成されて、それを振り払っていたのは分かりましたけども!」

「何か別方向から、小石が飛んでた気がするかな?」

「え、でも並列制御は禁止じゃ?」

「……並列制御じゃ……ない。……今のは……魔法で作った……小石じゃない」

「風音さん、それはどういう事でしょうか!?」

「……操作系スキルの……仕様の問題」


 おー、流石は風音さん! 俺が今ので何をやったのかをちゃんと把握してたっぽいね。俺もあんまりこの辺は意識してなかったんだけど、やろうと思えば出来るもんですなー。いやはや、使い道が奥深いもんだよ。


「……ケイ、土の操作の3つの枠を、魔法産の砂とそこらの石で別々に指定して使ったな?」

「アル、正解! 魔法で生成したら操作してから分割する必要があるけど、天然産だとそんな制限はないからなー。それに1つの操作で、魔法産のみとか、天然産のみなんて制限もないぞ!」

「……意識はしてなかったが、確かに同じ操作で魔法産と天然産を同時に操作したらいけないなんて決まりもなかったか。……そういや操作してから分割になるって制限が、Lv7で緩和されたとか言ってなかったか?」

「あー、そういやそうだった。1つの生成魔法で生成したのを、並列制御で2つの操作で一気に制御出来るようにはなってるっぽいなー!」


 スキルLvが上がっていけば、どんどんと緩和されたり強化されたりで便利になっていくもんだね。いやー、便利、便利!


「てか、今思ったんだけど、これって使い方次第ではアブソーブ系スキルへの対策にもなるんじゃね?」

「……魔法の中に……天然の操作したものを……混ぜる?」

「そう、そんな感じ! 魔法じゃなければ吸収出来ないしさ」

「確かにそりゃそうだが……流石に生成したように見せかけて天然のを使うのは難しくねぇか?」

「まぁ全部の基本属性が簡単とは思わないけど、水とか石ならいける気もするんだけどなー。それこそポイズンミストや闇の操作辺りで、視界を封じてさ? あー、閃光でもあり?」

「要は少しの間でいいから、見えなくすればどうにかなるって事だよね?」

「そういう感じだな!」


 天然のものをどうやって戦場に持ち込むかにもよるけど、水や小石や氷柱辺りならアイテムとして持ち運べる。同時に吸収される前提の魔法を使うとして、吸収出来ないものを混ぜて戸惑わせるのが目的ならいけるはず。


「さっきので完全に意表を突かれた俺が言うのもあれだが……効くのは最初の1回だけじゃねぇか? その後は確実に警戒されるぞ?」

「ぶっちゃけ、その1回の隙が欲しいんだよ。……ジェイさん相手に、俺は土魔法なしってどんな縛りプレイ? 俺の手段で1番強力なコケを倒す手段なのにさー」

「あー、それは確かにそうだな……」

「それに後々警戒されるなら、それでも十分! 土の操作なら、現地調達がしやすいしなー!」

「確かにそれはそうなのさー!」


 丁度いい大きさのものがあるかどうかはその時次第だけど、それでも現地調達が可能な土の操作なら意表は突きやすい。ミヤ・マサの森林での再戦ではジェイさんを警戒すべきだけど、その後の霧の森ではシュウさんも警戒しないといけないからなー。

 というか、アルとの対戦の最中に思いついた手段から、アブソーブ系スキルへの対策が出てくるとは思わなかった。どこでパッとアイデアが出てくるものかは分からないもんだね。


「……使われる可能性も……警戒すべきかも?」

「確かにそこは考えとかないとなー」


 赤の群集も青の群集も、どっちも少しでも油断しようものなら勝ちを持っていかれる可能性がある。アブソーブ系スキルへの対抗策を考えてない訳がないし、思いついた手段は基本的に相手も使ってくると想定してた方がいい。

 少なくとも赤の群集は見たものを真似て戦略に組み込んでくるのは確定なんだし、甘く考えるのはなし。……次も負けるのはゴメンだからな!


「それもだけど、そもそも私達自体への対策がある事を考えておくべきじゃないかな? 実際、ウィルさんには狙われたんだし……」

「確かにね。でも、対策される事への対策ってどうすればいいんだろ?」

「峡谷エリアの事前調査の時みたいに、隠れるのも1つの手だと思います! アルさんのクジラは小型化は必須だけど!」

「ふむ、確かにその手もありだが……霧での視界の悪さは群集拠点種からの刻印で克服出来るだろ」

「あぅ……そういえばそうだったのです……」


 うーん、視界の悪さが霧の森の特徴的な部分みたいだけど、それも限定的とはいえ克服は可能なもの。全部の群集で総力戦をやるとなれば、ほぼ間違いなく群集拠点種からの刻印を大半の人が使ってくるはず。

 いやいや、霧の森の事を考えるのもいいけど、その前に青の群集との再戦が先だ! てか、対策への対策なら、新たな手札を増やすのが確実! その為の熟練度稼ぎだし、ここで頭を悩ませて止まっててどうする!


「その辺を考えるのは、色々と強化してからだな! 手札を増やして、対策の上をいけばいいだけだ!」

「……言うのは簡単……だけど……実行は難しい」

「あはは、確かにそうかも。でも、今はそれをやるしかないよね!」

「もちろんなのさー!」

「熟練度稼ぎ、頑張るかな!」

「ま、今はそれしかねぇか」


 俺らの動きを封じてくるのであれば、その状況を突破出来るだけのものを用意するか、そもそも封じられるような状況にならないように立ち回るしかない。

 その為にもまだ知られていない手札を増やす事は有効……って、あれ? そういや、あれってどうなんだ?


「今更な気もするんだけど、ちょっと質問!」

「どうした、ケイ?」

「操作系スキルのLv10での強化内容って何?」

「「「あっ!」」」


 何気に重要な項目な気がするけど、全然確認してなかった部分! なんで今まで、そっちに意識が行ってなかった!?


「それならまだ情報は上がってなかったぞ。どうも魔法の方に意識が行ってる人が多いみたいで、Lv10までは出てなかったが……Lv8までなら判明してるみたいだがな」

「ちょっと人頼りが多くないか!? 灰の群集!」

「……何気に……欠点?」

「……そんな気がしてきた」


 一度情報が上がればそれをきっかけに一気に動き出すけど、それまでは試す人が少ないっぽい感じがしてきたわ!

 スキル強化の種自体が希少なアイテムで入手量が限られてるの原因なんだろうけどさ。うーん、学生組がテスト期間の時に赤の群集と青の群集に追い上げられた理由が何となく実感出来てきたよ……。


「あれかー。灰の群集は、初出の情報源が割と偏ってるんだな……」

「その筆頭のケイが言うと、説得力が違うな。躊躇もなく人柱になりにいくんだからな」

「否定は出来ないけど言い方ー!」


 まぁ俺にスキル強化の種がまだあれば、水の操作か土の操作をLv10にして試しはするけども! でも、俺みたいに最初に実行する人が少ないのが灰の群集の現状!

 だからといって、スキル強化の種を持ってる人にどうなるか分からないけど上げてみてくれと言うのも違うもんな。それこそ、アルが見ていた『旋回Lv10』なんてビックリする内容で試してくれる人もいるにはいるんだから……。


「……これは……スキル強化の種の……供給量の……問題?」

「他にも躊躇なく使いそうな人には心当たりがあるのさー! ザックさんとか!」

「確かにザックさんならやりそうだよね」

「……前にも……その名前は……聞いた」

「灰の群集で、ケイとは別方向で無茶をする筆頭みたいな人だからな、ザックさんは」

「……少し……気になる」


 確かにザックさんならどんな事でも躊躇なく実行しそうだよね。というか、やる人は本当に躊躇なく実行してるんだろうけど、もう使い切っただけの話なんだろうなー。

 数として沢山持ってそうなのはスクショのコンテストでの入賞が多そうなサファリ系プレイヤーの人達か。でも、その手のプレイヤー層はいつも再現に動いてくれてる人達だし、何もしてないって訳でもないのが……。


「はぁ……まぁ今すぐどうこう出来ない事を気にしてても仕方ないか」

「ケイ、ちょっといいかな?」

「ん? サヤ、どうかした?」

「えっと、ちょっと忠告かな。1つはスキルLv10になるのが一般的だと思ってない?」

「……え? あ、そんなはずないな!? すまん、サヤ!」


 サヤに言われて気付いたけど、よく考えたら俺らの持ってるスキル強化の種の量が多いだけだよ!? プレイヤー全体で見れば、Lv10に届くだけの個数を持ってる方が少数派なはず!

 それを持ってるのが当たり前みたいな感覚で判断してんだよ、俺! 今はまだLv10の効果が判明している方が稀で、判明してない方が当たり前な内容だ!


「今の俺らのLv10になったスキルを持ってる方が異常か。その辺の認識はちゃんとしとかないとダメだな……。人頼りが多いとか言ったのは反省……」

「うん、それでいいかな!」


 今のはサヤが気付かせてくれてよかったよ。相手にしているのが同等水準以上だから感覚が麻痺してたってのもあるんだろうけど、Lv10のスキルを持ってる人は本当に全体で見れば少数派。

 おそらく、その辺の事情はどこの群集であっても変わる事はない。そもそもの供給量が少ないんだから。とはいえ、主力勢では持ってる人がいるんだから、そこの警戒は怠らないようにだな。


「アル、操作系スキルでもLv8までは内容は判明してるんだよな? ざっくりでいいから、内容を教えてくれね?」

「おう。つっても、Lv8では精度が上がった以上の事は何もないみたいだぜ?」

「え、特に強化スキルはなし!?」

「Lv6で昇華、Lv7で操作数の増加があったから、Lv8では特に何も無いみたいだな。Lv10で大きく強化されるんじゃねぇか?」

「あー、なるほど……」


 操作系スキルは途中で既に色々と強化が入ってるからこそ、Lv10までは劇的な強化は無さそうって判断か。その状況なら、まぁそうなるよね。

 Lv7からLv8への変化が少ないなら、それより先に何があるか分からなければスキル強化の種を地道に注ぎ込む対象にはならないな。主力であればあるほどに、個数が揃わない限りは無理には上げずに温存するわ!


「よし、操作系スキルについてはこの辺にしとこう! 情報自体は欲しいけど、無いものは無いで仕方ない!」

「……俺が取るという手もあるにはあるが、またここで属性で悩むとこだからな」

「アルさんは選択肢が地味に多過ぎるのさー!?」

「別に俺に限った話でもねぇけどな? ハーレさんだって、狙撃以外の選択肢もあっただろう?」

「確かにそれはそうなのです! うーん、数があったとしても悩む気持ちも分かるのさー!」

「逆に1つしか選べない方が、サクッと決まるのかもね? 私がそうだったしさ」

「私もそうだったし、そういう面はありそうかな」

「あー、そういやサヤとヨッシさんは、ギリギリの個数だったもんな」


 サヤは爪刃乱舞がLv7まで育ってたからだし、ヨッシさんも毒魔法がLv7まで育ってた上で運良くスキル強化の種を手に入れたからだもんな。ハーレさんは他の投擲用のスキルならどれでも選べたはずだけど、狙いがあってこそだったしね。

 俺だって水魔法か土魔法かで悩んだし、選択肢が多い人ほど決めかねる部分はあるのかも。やっぱり人頼りが多いって発言は反省だな……。


「……そろそろ……対戦を再開? ……でも……その前に……刻印のセット?」

「あ、そういやそれがあるんだった!」

「ケイが色々と言い出したから、また忘れるところだったな」

「そこ、俺のせいなの!?」

「あはは、まぁそこは置いておいて、誰が何をセットするか相談かな!」

「それが終わったら、今度こそ熟練度稼ぎを再開なのさー!」

「まだアルさんとケイさんしかしてないけどね?」

「……対戦形式……楽しみ!」


 サラッと俺のせいかどうかは流されてしまってるんだけど!? いや、そこを念入りに掘り下げていきたい訳じゃないから、今はスルーでいいや。

 あ、そういえば土の操作がLv7になった事をまだ言ってないけど……それは後でいいか。ともかく今は、まだ何もセットされていない刻印系スキルに何をセットするかを考えていこう! この部分は戦略として重要になってくるだろうしね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る