第1102話 場所を変えて


 羅刹とのフレンドコールは、向こうに動きがあったみたいで中断するような形にはなったけど一応終わり。必要そうな事は大体聞けた感じだし、そういうタイミングで良かったよ。

 その辺の話をみんなに話しておきたいんだけど、アルがフレンドコールで誰かと会話中。流石に羅刹とフレンドコールをしながら、周囲の声を聞き取るのは無理だから状況が分からないからみんなに聞くかー。


「ケイ、どうだったのかな?」

「それは説明するけど……先に、アルが誰と話してるか聞いてもいい?」

「アルさんなら、桜花さんに連絡してるのさー! 混雑してる可能性が高いから、入れる余裕があるかの確認です!」

「あー、なるほど。そりゃその確認は重要だよな」


 まぁ見所が満載なトーナメント戦になってるだろうし、その決勝ブロックともなれば人が大勢いると考えた方がいい。……俺ら、後から行って入れる余地あるのか? 開催側に関与してる時ならともかく、ただの観戦者としてなら桜花さんに特別扱いしてもらう訳にもいかないしな。それは桜花さんへの信用に関わってくるし……。


「……あぁ、少し聞いてみる。ハーレさん……ん? ケイも話が終わってるなら丁度いいか」

「アルさん、どうしたのー!?」

「聞いてみるって、俺も関係ある感じ?」

「まぁな。俺らが実況と解説をするなら、そっちの枠で場所は確保出来るそうだ。ただ見るだけなら、流石にスペースに空きは無いってよ」

「そういう事ならやるのです!」

「……それ、そういう条件でなくてもハーレさんがやりそうだけどなー。てか、やってる人っていないのか? 既にやってる人がいそうな気もするんだけど……」

「それが桜花さんの伝手がある人は用事があったり、他の不動種のとこで先約済みだったり、そもそもログインしてなかったりで確保出来なかったそうだ。飛翔連隊に頼もうとしてたらしいんだが、紅焔さんが森林エリアのブロックで参戦しちまったのも誤算だったらしい」

「……みんなも候補だったけど……検証に行ってたから」

「あー、なるほど」


 俺らは要するに用事がある人達の枠組みの中で、頼もうにも頼めなかったって事か。桜花さんのとこで結構会う飛翔連隊も、森林深部じゃなくて森林で参戦した紅焔さんのを見るには桜花さんのとこじゃダメだったんだな。

 そういう誤算が重なって、他の人を確保しようにも既に他の不動種の人との先約があって確保出来なかった訳か。そういう事であれば、手が空いて桜花さんのとこに行こうとしてる俺らに話が来るのはおかしな流れではないね。


「ケイさんとアルさんと私で、実況と解説をするのです! それで、トーナメント戦を見ていくのさー!」

「ケイ、アル、頑張ってかな!」

「任せたからね!」

「サヤもヨッシさんもやる気はなしか!? たまにはサヤが解説でもやってみるのでどうだ? ほら、ヨッシさんもさ!?」

「それは絶対に遠慮するかな!」

「……あはは、まぁ私はやってもいいんだけどね?」


 そういう目立ち方をするのが好きじゃないのは分かってるけど、こうも当たり前に俺とアルがやるので確定ってのもなー。ハーレさんは自分からやりたがってるから問題ないけどさ。


「俺は引き受けても良いんだが、ケイは嫌か?」

「もう何回もやってるから、別に嫌って事はないぞ。ただなぁ……?」

「な、何かな?」


 サヤに普段とは違ってそんな風に弱々しい声を出されると、流石に悪い事をしてる気がしてくる。まぁ誰にでも得手不得手はあるんだし、今回のトーナメント戦の観戦は俺の希望でもあるからなー。嫌がってるなら無理にさせるような真似はやめとくか。


「いや、何でもない。アル、俺はそれでOKだぞ」

「私も問題ないのさー!」

「おし、了解だ。桜花さん、その条件で問題ないぞ。あぁ、これからすぐに行く」


 とりあえずこれで話は纏まったみたいだね。流れこそ違っても、結局いつもと同じ事をしてる感じになったなー。まぁある意味、特等席でもあるから別にいいか。見れなきゃ実況や解説が出来ないから、見やすい位置にはなる訳だし。

 それにしてもあからさまにホッとしてるサヤだね。本当に目立つのは苦手っぽいけど、何かあったりする? うーん、簡単に踏み込んで聞いていい事でもない気がする。


「ケイさん、ちょっとこっち」

「ん? どうした、ヨッシさん?」

「サヤって、中学の頃に変に悪目立ちした事があるみたいでね。なんかモテてる先輩に目立つ形で――」

「ヨッシ、それは内緒かな!? というか、何でそれを知ってるの!?」

「え、サヤと同じ中学出身の子から聞いたよ。あからさまに押し付けるように避けるなら、それなりに説明はしといた方が良いんじゃない?」

「それは……そうかもしれないけど!」


 ヨッシさんの話そうとした内容は遮られたけど、まぁなんとなく事情は察した。なるほど、詳しくは分からないけど要するに周囲の嫉妬からの悪目立ちか。目立つのが嫌なのがそういう理由なら、ちょっとサヤには悪い事をしたかも……。


「ヨッシ、ヨッシ! 後で詳細、聞かせてね?」

「あ、うん。それはいいよ」

「私は良くないかな!?」


 うん、サヤがヨッシさんとハーレさんを追いかけ回してるけど、賑やかでよろしい事で。さーて、あんまりここで無駄に時間を過ごしてても仕方ないし、移動しますか。


「あ、風音さん、決勝トーナメントはまだ時間は大丈夫か?」

「……まだ荒野が終わってないから……大丈夫」

「よし、それじゃ情報共有板に報告を上げる時間くらいはありそうか。アル、急いで移動! サヤ、ヨッシさん、ハーレさん、戯れるのもそれくらいにしとけー」

「それはヨッシとハーレに言ってかな!?」

「「わー!」」


 なんというか、ヨッシさんもハーレさんもサヤをからかって遊んでるような……いや、これはサヤの気分を切り替えさせる為に強引にって感じか。なんか思った以上に弱々しい感じの声だったしなー。

 そういやサヤのリアルでの友人関係って、ヨッシさん以外はどうなってるんだろ? 俺が言うのもなんだけど、毎日こうしてログインしてきてて、引っ越したヨッシさんと仲良くしてる状態だと……あんまり他の人との関係が良い状態とも思えない。うーん、その辺はサヤから言ってこない限りは詮索は無しで!


「流石に時間が無くなるから、ヨッシさんもハーレさんもその辺にしとけ。ケイから、羅刹からの連絡の内容を聞く時間もいるしな」

「あ、それなんだけど、群集のみんなにも伝えときたい内容だから情報共有板でまとめて伝えるのでいい?」

「それで問題なしなのさー!」

「そだね。そうしよう」

「2人とも、逃げるのが速いよ!? ……2人は後で説明するから、その話題は今は勘弁してかな」

「分かったのさー!」

「断片的にしか聞いてないから、気にはなってたんだよね。その辺、相談はしてくれないしさ?」

「……それは、なんかごめんかな」


 なるほど、ヨッシさんはヨッシさんなりにサヤに気遣っての事だったんだな。まぁちょっとショック療法な気もするけど、ここは変に俺が口出しする事でもないか。


「えーと、皆さん、本格的に急いだ方が良いのでは? 時間、どんどん無くなっていきますよ?」

「あ、そりゃそうだ! アル、ミズキからの転移と、そのまま空中から、どっちで行く!?」

「エンの近くは混雑してるそうだから、空中から西に向かって移動していく! 全員持ち上げるぞ。『根の操作』!」


 ちょっと脱線があったから慌ただしくなったけど、アルの根で引っ張り上げられてクジラの背の上に移動完了!


「それじゃ桜花さんのところまで急ぐぞ! 『高速遊泳』!」

「「「「おー!」」」」

「……時間はまだ大丈夫」


 急ぐとは言っても、速度は控えめ。まぁ空を飛んでる人達も以前よりずっと増えてるから、衝突防止でそうなるよなー。でも、成熟体に進化した事で基礎的な移動速度が上がってる感じだから、控えめでも前よりは速度は上がってるよね。



 ◇ ◇ ◇



 そうして森の上を飛んでやってきました、桜花さんの所! 実況をするんだし、アルに乗ったままでいいか。別にそのままでも樹洞の中には入れ……アルのクジラだと入れるスペースがなかった!?

 覗き込んでみたけど、もう一杯じゃん! あ、でも中継を投影してる部分の近くに空いてるスペースはあるね。あそこか、俺らの行く場所は。


「桜花さん、来たぞ」

「おっ、来たか、グリーズ・リベルテ! 喜べ、実況役が来たぞ!」

「解説にもなってない解説じゃなくて、まともに解説が出来る人が来た!」

「おし! これで何をやってるかが分かりやすい!」

「解説になってない解説で悪かったな! てか、そう言うならお前がやれよ!」

「それは断る! 出来ないと分かってる事は引き受けん!」

「自分が出来ない事で文句言ってんじゃねぇよ!?」

「おーい、喧嘩はやめろー」

「トラブルになるなら、桜花さんに締め出されるよー!」

「「す、すまん……」」


 おぉ、なんか喧嘩になりかけたけど、桜花さんに締め出されるって内容であっさり沈静化した。相変わらず、桜花さんの樹洞内は桜花さんの権限が強いなー。


「桜花さん、俺らはどこにいればいい?」

「それならスペースを空けてるから、そっちに行ってくれ。小型化すれば収まる範囲のはずだ。悪いが、通れるだけのスペースは空けてくれ」

「「「「「おう!」」」」」

「おっ、助かる! それじゃ全員降りてくれ。『小型化』!」

「ほいよっと!」


 樹洞の中のサイズに合わせて大きな種族の人はゲーム的な処置で自動的に小さくなったりはするけど、小型化を使えばスペースは更に少なくて済むからなー。


 とりあえずアルが小型化して、みんなで実況席へと移動完了! さーて、それじゃ決勝トーナメントが始まるまでの間に情報共有板に報告をしていきますか!


「さぁ、突然ですが皆さんにお知らせです! 決勝トーナメントの開始はまだですが、さっきまで私達が検証してきた事を情報共有板で報告していく予定になっております! 興味があるという方は、待機中にご覧下さい!」

「おっ、マジか!」

「グリーズ・リベルテのしてた検証案件ってあれだよな。赤のサファリ同盟からの提案で謎の『刻瘴石』ってアイテムの生成と性能把握」

「興味深い内容だな!」

「荒野エリアの決着に時間がかかってるみたいだし、今のうちに確認しとこうぜ!」

「だなー!」

「それではしばらくの間、報告となります! 決勝トーナメントの開始まで、しばしお待ちください!」


 なんかハーレさんが上手く情報共有板へ報告をする事をみんなに伝えてくれたね。無言で報告をしていくよりかは、この方が決勝トーナメントが始まるまでの時間潰しにもなるはず。

 羅刹からの情報は競争クエスト絡みの内容だけど、さっきまでシュウさん達とやってた検証については今後のフィールドボス……厳密にはまだフィールドボスになるかは確定してないけど、そこに関わってくる可能性が高い情報だからね。把握しておいて貰えるなら、その方が良いのは間違いない。


「説明の前に群集クエストの進捗状態を確認しておかないかな?」

「あ、それもそうだね」

「確かにその辺の確認は出来てなかったな」

「そうするかー」


 サヤの提案通り、情報共有板に行く前に今の群集クエストの進捗状態だけは確認しておこう。さっき荒野エリアから『未開の峡谷』への経路が確立されたのは把握してるけど、草原と森林深部がどうなってるかの把握が出来てないしね。


「えー、私達の確認が出来ていない部分がありましたので、その確認の時間を少しだけ取らせていただきます。少々お待ち下さい!」

「確認出来てない内容って、さっきの群集クエストの進行具合についてっぽいな」

「変に足りてない情報があって齟齬が出るよりは、確認してもらった方がありがたい」

「てか、検証してくれてるんだから、恩恵を受けてるだけの俺らに文句を言う資格無し!」

「ま、そりゃそうだ」

「一部に一方的に教えろって横暴な奴らもいるけど、そいつらとは違うぜ!」


 しっかりとアナウンスしてるよ、ハーレさん! 別に今の内容に関しては、誰もどうこう言ってはこないんだな。

 さてと、それじゃ手早く今の群集クエストの進捗状態を確認してから、情報共有板に報告に行こう! どこの経路が確立済みなのかは、先に把握しておいた方が良いもんな。という事で、群集クエストの状況を表示!



群集クエスト《群集拠点種の更なる強化・灰の群集》


【群集拠点種:エニシ(始まりの森林・灰の群集エリア1)】


 転移地点の確立 達成

 経験値強化  100%


【群集拠点種:エン(始まりの森林深部・灰の群集エリア2)】


 転移地点の確立 未達成

 経験値強化  93%


【群集拠点種:ユカリ(始まりの草原・灰の群集エリア3)】


 転移地点の確立 未達成

 経験値強化  91%


【群集拠点種:キズナ(始まりの荒野・灰の群集エリア4)】


 転移地点の確立 達成

 経験値強化  100%


【群集拠点種:ヨシミ(始まりの海原・灰の群集エリア5)】


 転移地点の確立 達成

 経験値強化  100%



 えーと、森林エリアのエニシと、荒野エリアのキズナと、海エリアのヨシミからの経路は確立済みか。おそらくイブキが最初に飛ばされた『未開のサバンナ』は草原エリアからの経路確立で行ける場所な気がする。

 でも、森林深部エリアからの経路確立で行ける場所についての情報はまだ知らない。この辺は情報共有板で聞いておきたいところ。情報があればいいけどなー。それに羅刹以外にも傭兵の人は少ないとはいえ何人かいるんだし、その人達から何か情報が得られたらいいね。


「よし、とりあえず現状の経路確立の状況は把握した! それじゃ情報共有板に行くぞ!」

「「「おー!」」」

「という事で、これより報告を開始します!」


 そこでしっかりとアナウンスをしているのは、流石はハーレさんだな。時々思うけど、ハーレさんってこうやって司会をしたり、人と触れ合うような仕事は向いてそう。

 って、その辺は今考えなくてもいい事だな。決勝トーナメントの開始までって時間制限もあるんだから、必要な報告はその時間内に確実に済ませておかないとね。

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