第1100話 次は刻瘴石の検証


 刻浄石を使えば、黒の暴走種が半覚醒になるのは確定。フィールドボスになるかどうかは今の段階ではまだ不明だけど、時期尚早でもあるから今回はスルー。多分、どこかでフィールドボスになるLvがあるはずだけど……。


「ちょい待った。刻浄石って、どう強化すりゃいいんだ?」

「……そもそも強化が出来るの?」

「え、ヨッシ、それってどういう意味かな?」

「ほら、生成する手段がそもそもアブソーブ系のスキルと纏浄での浄化魔法が必須じゃない? ハードル自体が高いしデメリットも多いのに、強化の為に量産出来るの?」

「現状では厳しいとしか言いようがないね。他に入手手段が……ん?」

「シュウさん?」

「あぁ、少し思いつく事があってね。弥生、少し考えをまとめさせてくれるかい?」

「了解ー!」


 なんだかシュウさんが考え込んでるけど、ヨッシさんの言う事も確かだよな。模擬戦では破棄される以上、自分達の群集だけでは生成する事は難しい。その上、纏浄……正確に言えば、浄化魔法は現状では1日1発しか撃てない。こんなので量産が出来る訳がないよな。


 半覚醒がどこかの群集所属なのはほぼ確定だろうから、討伐しやすくする為に協力して生成するという形は考えられる。それを前提にすると、量産はそもそも想定されてない?

 だとすると、他にどういう可能性が考えられる……? 今回の検証で半覚醒になった以外の相違点はなんだ? これまでのフィールドボスと違って進化階位は変わらず、見た目すら大して変わって……いや、待て。変わってなさ過ぎるのか!?


「もしかしてだけど、刻浄石での半覚醒化にはLv変動自体が存在しない……?」

「……確かにそれなら、刻浄石そのものの強化要素は消えるのか。可能性としてはありそうだな」

「ケイさんもその可能性は思ったんだね。それなら少し意見が欲しいんだけど、刻瘴石を使う対象を間違っている気がするんだよ。そこはどう思う?」

「刻瘴石を使う対象が間違ってる? それって……ちょい待って、今考える!」


 シュウさんはどういう可能性に思い至ってる!? 何をどういう風に解釈して……あ、そこまで深く考える必要もない話か! 刻浄石を使う対象は、成熟体の黒の暴走種で確定なのは間違いない。

 それに対してまだ試してない刻瘴石は、瘴気石の上位版って認識でいた。だから今は未成体Lv 30のネズミが用意されている。ここがそもそもの間違いか。対になってるって考えておきながら、そこの歪さを見過ごしてた! 説明文での異形の姿へ変貌させるって部分ももっとしっかりと考えるべきだったんだ。


「刻瘴石を使う対象は、未成体じゃなくて、成熟体の瘴気強化種か残滓のどっちかか! それなら刻浄石と刻瘴石の性能が釣り合うはず! そうじゃないと対になってなくて、歪に結果になる!」

「うん、僕と同じ結論だね。おそらく、従来のフィールドボスの誕生ルールとは別系統として存在してると判断するよ」

「なるほど、言われてみれば確かにそうだよな」

「刻瘴石を瘴気石の上位版と思い込んでたところに問題があったのかもしれませんね」


 やっぱりシュウさんも同じ結論か! エレインさんも言ってるけど、それは間違いなくある。その上で浄化魔法で生成出来るものの存在を把握してなかったのが落ち度か。

 後は瘴気の渦で、未成体の残滓が骨だけの成熟体へと進化したのを見たのも勘違いの一因な気がする。あの瘴気の渦と、刻瘴石の効果が一緒なんて保証はどこにもないのにな。


「んー、もしかして私がネズミを持ってきちゃったのも変に混乱させちゃった?」

「いや、弥生さん、それは違うぞ。そもそも実際に刻浄石と刻瘴石の両方を生成して、その上で出てきた推測だからさ。シュウさん、その推測が当たってるかどうか、すぐに試そう!」

「そうだね。もしこの推測が当たっていれば、未成体のネズミは何も反応しないはずだよ」

「そういう事ならやってみよっか! ケイさん、お願い出来る?」

「あ、そういやネズミも刻瘴石も俺が持ってたんだった。それは了解っと!」


 それじゃ今の推測を可能性を高める為に、瘴気強化種のネズミに刻瘴石を近付けて……いや、もう固めてる方の岩を近付けてこようっと。これでネズミの目の前に刻瘴石がある状態だけど、効果があるなら食べようとするか、避けようとするはず。……そんな気配はまるでないな。


「特に反応はなしか。よし、さっきの刻浄石を同じように押し当ててみるか!」

「どうなるかな?」

「この様子なら、何も起きそうにないけど……」

「触れたけど特に何も起きなかったのさー!?」

「どうやらケイとシュウさんの推測は当たりっぽいな」

「みたいだなー」


 見事な程にこの瘴気強化種のネズミは無反応。いや、正確には逃げ出そうと暴れてはいるけど、まぁそこは今は重要じゃない。


「水月さん、少しいいかい?」

「何でしょうか、シュウさん」

「多分反動はないとは思うけど、ちょっと無茶を承知で『瘴気収束』を使ってみてくれないかい? それでアンデッド系に進化するかを確認してみたいんだ」

「あぁ、そういう事ですか。確かにそこは気になる要素ですし、試してみましょう」


 あー、そういやそっちも試しておきたい内容ではあるか。残滓が瘴気の渦で進化をする光景は見たけど、それが瘴気強化種でも発生するかどうかは重要なはず。


「ケイさん、変化があったらすぐに離してくださいね」

「ほいよっと」

「それじゃいきますよ。『瘴気収束』!」


 そうして瘴気汚染・重度になったままの水月さんのホタテと、俺が岩で拘束しているネズミの間に瘴気が集まっていく。集まっていくけど、ただ収束されていくだけで渦にはならず、ネズミの動きにも変化はない。この様子は今までに見た事がある効果でしかないな。


「どうやら瘴気の渦になるのは、競争クエストの対象エリアでの特有の現象のようだね」

「みたいだなー。なんか予定とは違ったけど、これはこれで色々と収穫ありか」

「ふっふっふ、大収穫なのさー!」

「でも、刻瘴石と刻浄石の具体的な使い道は分からないままかな?」

「フィールドボスになるかも怪しくなってきたよね」

「んー、今はまだ早いってことじゃない? この辺の検証は、また機会を改めてで良いと思うよ」

「あれ? 弥生さん、アンデッドへの進化は試さないのか?」

「現状だともし上手くいっても、高確率でさっきの半覚醒になる部分が、アンデッドに変わるだけじゃない? あれ、まだ正式に種族名も名付けられてないしねー」

「あ、そういやまだ『???』のままだっけ」


 正直に言えば、それでも試してみたいとこではある。だけど改めて黒の瘴気強化種の捕獲をしに行って、その上でほぼ旨味のない結果が見えてるのは微妙か。

 アブソーブ系のスキルを持っているのはこの場では俺とシュウさんだけ。取得するタイミングとしてはどう考えても早過ぎるものだから、この辺の要素の本質が見えてくるのはもっと先でもおかしくない。それだけ分かれば、今回の検証の成果としては十分だな。それに……。


「これで青の群集の情報的なアドバンテージを潰すって目的は達成してるからそれでもいいか」

「はっ!? そういえば、そんな目的でした!?」

「忘れてたんかい!」

「内容的にはアドバンテージを潰すどころか、僕らの方が情報の内容は上回っただろうね。ケイさん、この続きはいずれやるという約束をしておく気はあるかい? その確約があるなら、刻瘴石は預けておきたいんだけども」

「あー、みんなさえ良ければ俺は良いけど……」


 みんなの方を見てみれば頷いてるし、これは了承って事で良さそうだな。内容的にどうしても他の群集の人と協力する必要はありそうだし、ありがたい申し出だしね。


「どうやら問題はなさそうだね。まぁ流石に続きは競争クエストが終わってからになるだろうけど」

「まぁそこは仕方ないって。でも、終わってからはよろしくな、シュウさん!」

「僕らの方からもよろしくお願いするよ。その時はアンデッドのフィールドボスを生み出せるか、そこからだね」

「だなー。それはそうと今回の検証の内容は自分の群集に流すのはありだよな?」

「それを制限する権利は僕らにはないね。共同での検証なんだし、その成果についてはお互いに自由にで良いんじゃないかい? 僕らも、必要であれば開示はするつもりだしね」

「それじゃ、今回の検証の結果の扱いについてはお互いに自由って事で!」

「うん、それで問題ないよ」


 正直、今すぐ必要な情報ではないけど、それでも報告を上げておいた方が良い内容ではある。まぁこの辺はお互い様って事で自由に扱うのがいいよな。


「えーと、それじゃ共同での検証はこれで終わりかな?」

「そういう事になるけど、シュウさん、ネズミはどうするのー?」

「……どうしようか? ケイさん達、いるかい?」

「……ぶっちゃけ、いらないよなー」


 どうやっても現状ではこのネズミを進化させる術はない。そして、この場にいる全員……ギャラリーの方はわからないけど、少なくともメインで動いていた人は全員成熟体へ進化済みだ。経験値的に旨みは皆無だし、討伐した時に進化ポイントが手に入るくらいしかメリットないよなー。でも、進化ポイントも余り気味だし、そっちもあんまり意味ない。


「それでしたら、私が貰っても構いませんか? モンスターズ・サバイバルのメンバーにはまだ未成体の方も多いので」

「って事なんだけど、シュウさん、弥生さん、それで構わない?」

「問題ないよー!」

「ここで僕らが倒しても旨みは少ないからね。有効活用してくれるなら、それで構わないよ」

「ありがとうございます、シュウさん、弥生さん」


 これにて今回の検証におけるネズミの役割は終了! 役立たずだったように思えるけど、実態としては未成体の瘴気強化種には意味がないっていう結果を出すには役立ってくれたね。

 刻浄石と刻瘴石がフィールドボスの誕生に繋がるかどうかは分からないままだったけど、従来通りの瘴気石を使って行う手段が残っている可能性が高まった。瘴気石の更なる強化の手段を探っていく必要もありそうだな。


「さてと、それじゃ今回の検証はここまでで解散って事で! シュウさん、弥生さん、次は倒すからな!」

「受けて立とうじゃない、ケイさん!」

「ははっ、楽しみにしてるよ、ケイさん」


 くっ、思いっきり余裕がありそう返事だ!? でも、1回は負けたし、1回は逃げたし、そんな風に余裕があっても仕方ないか。だからこそ、倒したいとこではある! ……厳しいだろうけど、なんとか倒す策を考えないとなー。


「おーい、俺としてはこの2人との戦闘は避けたいんだが?」

「負けたままで悔しくないのか、アル!?」

「全く悔しくない訳じゃないが……まぁ今それを言っても仕方ないか」


 単純に負けたままだと悔しいってのもあるけど、弥生さんとシュウさんを抑える為にベスタやレナさん、風雷コンビが抑え込まれる状況は決して良くない。特に総指揮を行えるベスタと、顔の広いレナさんは自由に動けるようにしておきたいんだよな。


「コケのアニキ! 俺だって負けないから!」

「おっ、アーサーもやる気だな。手加減はしないから、遭遇したら覚悟しとけ!」

「うん! 俺も全力でやるから!」


 アーサー相手に手加減なんかしたら、それこそ失礼だろうしな。遭遇するかは分からないけど、まだ赤の群集と戦う可能性のあるエリアは残っている。

 もしそこで遭遇する事があるのなら、俺の全身全霊で戦うのみ! 出来れば弥生さんとシュウさんとは別行動であってほしいけど。


「アーサーもこのように言ってますし、私もサヤさんにリベンジ宣言をさせてもらいましょうか」

「望むところかな、水月さん!」


 おー、水月さんがサヤへのリベンジに燃えている! 前に2人が戦ったのって……あぁ、雪山の赤のサファリ同盟での対戦をした時か。あの時はサヤが勝ったんだよー。てか、俺がアーサーと戦ったのもその時だっけ。


「それじゃそろそろ解散ねー! 検証、お疲れ様ー!」

「お疲れ様!」


 みんながそれぞれに労いの言葉をかけつつ、今回の検証はお開きになった。シュウさん達はミズキの森林を避けていくように戻っていったね。さて、次に会う時はまた敵だなー。


「さて、それじゃミズキの森林に戻りますか! あ、エレインさん、ネズミはもう渡しておいた方がいい?」

「あ、そうですね。少しお待ちください。岩の操作は解除して……『根脚移動』『根の操作!』 はい、これで大丈夫ですよ」

「それじゃ、渡したからなー」

「えぇ、確かに受けとりました。ありがとうございます」

「取ってきたの、弥生さんだけどなー」

「ふふっ、確かにそれもそうですね」


 あくまで俺は預かってただけだし、お礼を言われる立場じゃないからね。まぁ単純に扱いに困ったのもあるんだろうけどなー。


「よし、それじゃ一旦ミズキの森林まで戻るぞー!」

「「「「おー!」」」」

「えぇ、そうしまよう。ギャラリーの方々も、戻りますよ」


 という事で、アルに乗ってミズキの森林まで戻っていくまで! さーて、これから何をするかを相談しないとな。ジャングルでのカメとの戦闘の報酬で刻印石が手に入ってるし、刻印系スキルを取っていくのもありかも?

 それか安全圏に現れた妨害ボスの討伐に行くのも良いかもなー。でもその前に現状の群集拠点種の強化の群集クエストや、検証内容に報告とかもしないとね。


 あ、このタイミングでいつの間にか瘴気汚染・重度から瘴気汚染に軽減してたのが完全に回復したね。ふー、デメリットがキツイからこれで解放され……って、あー!?

 瘴気汚染・重度の状態で纏浄を使うとどうなるのかが気になってたのを、言うかどうか悩んだまま、すっかり忘れてた! うーん、もうシュウさん達はいなくなっちゃったけど、とりあえずみんなには言っとこうか。試す方法自体は……あー、これならいける?


「アル、ちょい質問。模擬戦中のアイテムの使用って、既に今日は使用済みで制限がかかってるのも使えたりする?」

「ん? その辺は模擬戦ではカウント外だから問題なく使えるが……それがどうした?」

「いやさ、ちょっと思ったんだけど、瘴気汚染・重度になった状態で纏浄を――」

「っ!? ケイ、言いたい事は分かったがそれ以上はまだ言うな。続きはミズキの森林に戻ってからだ。それは聞かれたら良くない内容な気がするぞ」

「……ほいよっと」


 あ、忘れ去ってて言わなくて良かったっぽい反応? 内容はすぐに察してくれたみたいだけど、悩むだけの内容ではあったか。この辺の話の続きはミズキの森林に戻ってから、他の群集の人に聞かれる心配がない状態でだなー。

 

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