第1075話 不審な様子


 何やら獲物察知に怪しげな黒く侵食されていく青い矢印と、普通の青の群集を示す矢印を何本か見つけた。とりあえずアルが急いで減速してくれたので、その反応がある少し手前で止まれている。

 とはいえ、既に攻撃はされているんだから突破したのは伝わってるはず。今からアルに小型化してジャングルの中に隠れてもらうのはあまり意味がないか。


「ケイ、手短にでいい。変な反応って何があった?」

「縁が黒く侵食されてつつある青い矢印が、この先のジャングルの中にある。近くに青の群集の反応は……6本だから1PT分か」

「露骨に怪しいな、それ……」

「だから、ちょっと調べたいんだけど……遠隔同調にしてコケだけで突っ込んでくるか」

「ケイさん、小石がいりますか!?」

「それだと物音がしないかな?」

「……今更な……気がする?」

「そもそも強行突破してきてるしね」


 小声に切り替えての作戦会議を開始。とはいえ、そんなに時間はかけられないし、向こうも俺らの存在にすぐに気付くはず。それでどう対応してくるかも見たいけど、まずは何がいるのを確認しないとな。

 でも、ここからジャングルの中のコケは見えないんだよなー。怪しげなところの周辺は特に視界が悪い感じ。なんというか、わざと視界を悪い場所を選んでる? うーん、そうなると他の手段で……あ、あれがいけるか!


「よし、群体塊にして行ってくる。あれなら音も少ないはず」

「はっ!? 確かにそうなのです!」

「ハーレさん、音がしないように葉っぱを避けて投げれるか?」

「お任せなのさー!」

「それじゃその方向で!」


 そうと決まれば、急いで偵察に行ってしまおう! 俺らの強行突破の事は確実に伝わってるはずだし、その辺の情報を聞いた時の反応が分かればありがたいしね。


<行動値上限を1使用して『群体塊Lv1』を発動します>  行動値 89/106 → 89/105(上限値使用:2)


 これでロブスターの背中のあるコケが、コロコロと転がれる群体塊に変化した。そういやこの手段で突っ込んでいくって考えた事はあっても、実行するのは何気に初めてか。


<行動値上限を15使用して『遠隔同調Lv1』を発動します>  行動値 89/105 → 89/90(上限値使用:17):効果時間 5分

<『遠隔同調』の効果により、視界を分割表示します>


 ん? 群体内移動で核の移動をしなくても視界が分割された? あ、もう群体塊で転がっていけるし、離れられる状態になってるからそういう判定?

 まぁそこはありがたいから別にいいや。とにかく今はメインの視界をコケの方にしておこう。


「ハーレさん、投げてくれ!」

「はーい! 『狙撃』!」


 ハーレさんが俺の群体塊のコケを掴んで、狙撃で投げていく。てか、今更だけど何気にプレイヤーを投げれる仕様ってのも凄いよな。……よし、良い感じに葉っぱには当たらず、木の幹に当たってそのまま地面へと落下した。

 コケが衝撃を吸収して音は全然出てなかったし、いい感じに怪しい場所の近くまで降りれたね。さてと、獲物察知の矢印……一応コケ側の視点でも見れるのか。ロブスターの視点と比較して方向を割り出すつもりだったんだけど、これはありがたい!


 という事で、獲物察知の指し示す方向にコロコロと転がっていく。さて、あの妙な反応は一体なんだ? 可能性としては一応マサキと同種の群集支援種があるにはあるんだけど……とりあえず観察に専念しよう。

 おっと、青の群集の赤いオオカミの人がいるな。他にはイノシシ、スイカ、サメ、ネズミ、トカゲがいるのか。単独進化の人ばっかに見えるけど、見えないとこに共生相手がいるかもしれないから要注意。

 ふむ、オオカミの人が何を確認をしている様子で、それ以外の人は周囲の警戒をしててるっぽい。……露骨に怪しい反応は、その人達に囲まれて岩の檻に閉じ込められてるタヌキのものだなー。


「おい、全員気を付けろ。こっちの方に灰の暴走種が強行突破してきたらしい」

「げっ、マジで!? 誰か来るのは想定済みだけど、よりによってそこ!?」

「引っかかってくれるのか、この罠……」

「おい、バカ!? その発言は気を付けろよ!? 聞かれてたらどうすんだ!」

「わ、悪い! てか、なんで獲物察知持ちがここに割り当てられてねぇんだよ……」

「再編中なんだから仕方ないだろ! 今頃は本当ならミヤ・マサの森林で戦闘中だったはずなのに、ご破算になったんだからよ!」


 残念ながら思いっきりその会話の内容は聞かせてもらっているよ。てか、思いっきり罠って言ってるー! いや、罠だという発言を聞かせて、そう思わせる作戦か!? 危機察知持ちを配置してないのもわざと……?

 うーん、いくらなんでもそれは疑い過ぎか? でも、これが罠ってどういう……そういえばこのタヌキ、聞いていたマサキみたいに骨の鎧みたいなものはないな? むしろ、全身が瘴気に染まってきてて、カーソル自体も縁が黒く染まりきる寸前の青いもの。

 あれ? NPCの類いって、カーソルの色は緑じゃなかったっけ? いや、でも半覚醒は黒だったはず。今のマサキみたいな例がないから、判断しきれないぞ。共闘イベントの時のエンってどうだっけ? あー、あんまりそういう視点で意識してなかったから覚えてない……。


 これってもしかして……あっ! このタヌキ、プレイヤー名で『夕陽』って出たよ!? 夕陽、夕陽……夕陽? どこかで見た覚えがあるような気がする名前だけど、どこだっけ? プレイヤーだと確定出来るなら、これは黒の統率種になりかけてるだけになる。この状態で声は出せないから、共同体のチャットを使おう。


 ケイ    : これ、どうも罠っぽい。夕陽ってプレイヤーに心当たりない? NPCじゃなくてプレイヤーなら、黒の統率種になりかけなだけな気がする。

 アルマース : 罠っぽい上に、黒の統率種になりかけのプレイヤーってどういう状況だ?

 サヤ    : その名前、どこかで見たような覚えがある気がするかな……?

 ハーレ   : 夕陽って人は、スクショのコンテストの個人部門で入賞してた人なのさー! 荒野で敵を統率してる感じのスクショを撮ってた人!

 ケイ    : あっ! どこで見たのかと思ったら、そこか!


 そういえば確かにそんなスクショはあった。撮った本人が写ってなかったから種族は分からなかったけど、黒の統率種になってるんじゃないかって話してた覚えがある!


「おい、そこにコケがいるぞ!」

「げっ!? ケイって灰の暴走種の1人じゃん!?」

「てか、なんでコケだけ!? いや、本体を倒すチャンスだ!」

「くたばれ! 『ファイアインパクト』!」


 どうやら存在に気付かれてしまったっぽいけど、まぁもうこれ以上はいる意味がないな。って事で、殺されないうちに撤退ー! ロブスターの背中に少しコケが残ってるとはいえ、ここで無茶して戦う必要もなさそうだしね。


<『遠隔同調Lv1』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 89/90 → 89/105 (上限値使用:2)

<『遠隔同調』の効果による視界を分割表示を終了します>


 よし、ロブスターの背中に戻ってきた。ふー、罠という発言の分析は後回しにして、今は逃げますか!


「アル、急いでここを離れるぞ! 詳細は後で分析するけど、無理に相手をする必要はなさそう……って訳にもいかなさそうだな」

「まぁな。……とことん今回は罠を用意してくれてるみたいだな、スリムさん、マムシさん」

「ホホウ。そうでなくては、勝てませんので」

「悪いが、ここで一旦送り返させてもらうぜ、灰の暴走種!」


 ちっ、既にスリムさんとマムシさんに挟撃されてる状態だったか! しまったな、コケの視点に集中してて、ロブスターの視点にこの2人以外にも新たに何人もの青の群集の反応が出てるのに気付かなかった。完全に囲まれてるじゃん。


「……丁度いい! ……青の群集の……作戦は潰す! 『並列制御』『共生指示:登録1』『共生指示:登録2』!」

「ホホウ!? これはハリケーンなので!?」

「ちっ! 共生指示だけでこれって、この黒い龍はどういう登録構成をしてやがる!?」


 え、広範囲に渡って暴風と大雨が叩きつけられていってる!? ははっ! ダメージはそれほどでもないっぽいけど、どうも動きを制限するように特化してる感じだね。地味に初めて見る気がするぞ、風と水の昇華魔法!

 てか、そういう発動方法もありか。そういや共生指示で呼び出す場合は、それぞれの枠の再使用時間は個別になるんだし、こういう真似も出来るわ! その発想はなかったけどさ。


「今はここを離脱するから、風音さんはそのまま発動を維持! アル、無茶はしない程度に移動に専念! ハーレさんとヨッシさんは、追撃してくるのを叩き落とせ!」

「おう! 『高速遊泳』!」

「了解なのさー! 『魔力集中』『連速投擲』!」

「防御の専念は解除だね! 『魔力集中』『神経毒生成』『棘乱射』!」


 よし、スリムさんとマムシさん以外でアルに迫ってきている人達の迎撃はこれでいい。俺もそっちに参加するけど、まずは指示出しの方が先!


「ホホウ! 行かせないので! マムシ! 『ウィンドエンチャント』!」

「逃すかよ! 『連衝・重突撃』!」


 ちっ、流石にスリムさんとマムシさんは他の人みたいに甘くはないか。てか、マムシさんのは多分だけど応用連携スキルの、連撃と単発の組み合わせっぽいな!


「サヤ、風音さんの護衛を頼む! 風音さん、それが切れても振り払えなきゃもう1発盛大にやるぞ!」

「……分かった!」

「任せてかな! 『魔力集中』『連爪刃・閃舞』!」


くっ、連撃数がサヤの方が多いから何とか迎撃は出来てるけど、マムシさんの連続突撃がとんでもない! 周囲の木々をへし折りながら、その反動で次から次へと銀光を強めつつ襲いかかってきてる。


「へぇ、斬り落としてくるか! だけど、どこまで耐え切れるもんだかな!」

「うっ!? 攻勢付与の追撃分がキツイかな!?」

「「サヤ!?」」

「ハーレとヨッシは、自分の相手に集中してかな! そっちはそっちで余裕はないよ!」

「あぅ!? すぐに片付けるのです! 『拡散投擲』!」

「ホホウ! そうはさせないので! 『並列制御』『ウィンドエンチャント』『ウィンドインパクト』!」

「『並列制御』『アイスウォール』『アイスウォール』! それはこっちのセリフだよ!」

 

 なんとかみんなで凌いでくれてるけど、ここは一気にスリムさんとマムシさんを吹っ飛ばすしかない! ……消耗が激しいだろうし、まだ使い慣れてないけどここは一気に畳みかける! 勘付かれないように、ここは思考操作で!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値9と魔力値27消費して『水魔法Lv9:アクアウィークン』は並列発動の待機になります> 行動値 80/105(上限値使用:2): 魔力値 194/274

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値18と魔力値27消費して『水魔法Lv9:アクアウィークン』は並列発動の待機になります> 行動値 62/105(上限値使用:2): 魔力値 167/274

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 ロブスターの両方のハサミに、それぞれ魔法砲撃にして発射準備! これ自体に威力はないけど、次の一手の布石となる!


「ヨッシさん、一瞬でいい! スリムさんを捕獲しろ!」

「了解! 『エレクトロプリズン』!」

「ホホウ!?」

「スリム!」

「こちらはいいので、マムシは回避を――」

「させねぇよ!」


 良い感じにスリムさんに麻痺が入ったし、マムシさんは跳び上がって空中にいる。今なら当てられる! 魔法砲撃での水属性抵抗の大幅低下をくらえ!


「これはやべぇ!?」

「ホホウ!?」


 よし、撃ち出したシャボン玉は狙い通り2人に命中! ここから更に畳みかけるのみ! どうせジェイさんが土魔法Lv10まで育ってるんだ。ここで出し惜しむ理由は欠片もない!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値10と魔力値30消費して『水魔法Lv10:アクアクラスター』は並列発動の待機になります> 行動値 52/105(上限値使用:2): 魔力値 137/274

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値20と魔力値30消費して『水魔法Lv10:アクアクラスター』は並列発動の待機になります> 行動値 32/105(上限値使用:2): 魔力値 107/274

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 両方を魔法砲撃にしたいとこだけど、多分流石にそれは狙いをつける余裕が無さすぎるから片方はそのまま無差別に撃ち落とす! これで他の青の群集の連中を牽制しつつ――


「ホホウ! これはやってくれるので!」

「まずはケイさんから潰すしかねぇな! 『ポイズンインパクト』!」

「させないよ! 『アンティヴェニン・デュオ』!」

「ちっ! Lv2の抗毒魔法か!」

「ヨッシさん、ナイス!」


 ははっ、凄い良いタイミングで毒を防いでくれたよ! それにしても、まだ魔法砲撃にしたアクアクラスターは撃ち出せてないんだけど、そんなに呑気にしてていいのか?


「ぎゃー!?」

「暴風雨の中から、水が叩きつけられてくる!?」

「避けろ! ともかく避けろー!」

「お前ら、それは無差別砲撃だ! 狙いはちゃんとついてねぇから、しっかりと避けろ!」

「ホホウ! 水属性抵抗を下げても当てられなければ――」


 あ、なるほど。両方ともそのまま発動したと思ってるのか。まぁハリケーンの効果中で分かりにくいんだろうけど、油断してくれてるなら丁度良いからもう片方は右のハサミに魔法砲撃にして撃ち出していくまで!

 狙いはスリムさんとマムシさんに6発ずつ! ……へぇ、撃ち出すのが水滴だから、こういう暴風雨の中だと相当判別しにくいっぽいね。こりゃいいや。


「ホホウ? ハサミを掲げて、何を――」

「ちっ! しまった、スリム! 周囲に水滴が漂ってやがる!」

「ホホウ!? これは魔法砲撃にしたクラスターの照準!?」

「くたばれ、スリムさん、マムシさん!」

「くそったれ! 逃げるぞ、スリム! って、麻痺って動けねぇのかよ! おらっ! 魔力集中解除! 『自己強化』!」

「ホホウ、すまないので……」


 上空に撃ち出した水の塊からスリムさんとマムシさんに向かって、水がどんどん叩きつけられていく。マムシさんがスリムさんを咥えて大慌てで逃げていってるけど、12発分は逃げ切れるんだろうか? ふむ、ちょっとだけど着弾までタイムラグがありそうだね。

 なんとか躱してるけど、結構ギリギリっぽい。さてと、全弾当たるかどうかまでは確認する必要もないか。そろそろハリケーンの効果も切れてきたみたいだし……てか、威力が低い代わりに効果時間は結構長めなんだなー。


「アル、今のうちに離れるぞー! とりあえず青の群集から離れたいから、北北西へ!」

「……あぁ、そうするか。『アクアクリエイト』『水流の操作』!」

「なんかジャングルが荒れ果てたのです!?」

「そういや、これだけ暴れた割には荒らすモノの称号は手に入らないんだな?」

「え、そうなのかな!?」

「これで荒らし足りないの?」

「……規模が……今まで以上に……必要?」

「どうなんだろうなー?」


 まぁその辺は後から考えればいいや。もしかしたら激戦が想定される競争クエスト中だと称号の取得が狙いにくいから、あえて取得出来ないように制限がかかってる可能性もあるしね。

 とにかく今はこの場を離れて、少し身を隠そう。その後、青の群集の罠の意味を分析していきますか! 何かと誤認させようとしてる感じはあったから、そこが分かれば重要な意味がありそうな気がするよ。

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