第1020話 成熟体への進化 前編


 まずはハーレさんのリスから進化開始という事で、羅刹に殺される為に待機をしている。えーと、転生進化の場合は設定しているリスポーン位置からリスポーンした段階で、進化が完了して出てくるんだったはず。


「羅刹さん、サクッとお願いします!」

「おうよ。『魔力集中』『硬獲砕牙』!」

「おぉ!? ティラノに噛み砕かれるのは変な感じなのです!?」


 おー、羅刹のティラノの牙が銀光を放ちながら、ハーレさんのリスの胴体に噛み付いている。硬獲砕牙って確か少し前のタッグ戦の時に弥生さんが使っていた、俺の万力鋏の牙版みたいなやつだったはず。


「正直、過剰威力な気がするのは気のせいですか!?」

「……いや、気のせいじゃねぇな。ここまでの威力は必要なかったか」

「やっぱりそうだったのさー!?」


 その言葉を最後に、ハーレさんのリスのHPは全て無くなりポリゴンとなって砕け散って、クラゲもチリになる様に消えていった。あ、共生進化の相手側が残っててもこういう風に消えるのか。意外と共生進化のプレイヤーで、ログイン側が先に死んだ場合って見た事は無かった気がするから新鮮だな。

 それにしてもティラノに食われるリスの絵だった。うん、銀色に光ってたのが不思議な感じだったけど。


「リスの進化、完了なのさー! 『多彩豪投リス』に進化したのです!」


 そして進化を終えたハーレさんのリスが、アルの木に作ってある巣から飛び降りてきた。なんというか転生進化が1番演出が少なくて地味な進化のような気がする。


「ハーレさん、進化後の確認は後からな? 今のうちにクラゲに切り替えてこいよ」

「ケイさん、了解なのです!」


 元気よく返事をしてから、ハーレさんはクラゲへと切り替える為にログアウトをしていった。クラゲと言ってもハーレさんのクラゲは陸地に適応済みだからなー。

 進化後の変化の確認については、最低でも羅刹さんの傭兵の承認を終わらせてからにするとして、今はサクサクと進化を進めていこう。


「羅刹さん、次は私をお願いかな!」

「あー、地味にチャージが続いててすぐには出来ねぇ。悪い、応用スキルでやるべきじゃなかったな」

「そういう事ならチャージは止めれば良いんじゃない? 羅刹さん、攻撃してもいい?」

「あぁ、構わんぞ」

「それじゃ少しだけ失礼して。『アイスニードル』!」

「お、あんがとよ。んじゃ今度はこれでいくぜ! 『爪刃乱舞』!」


 ヨッシさんが羅刹のチャージを解除して、そこからサヤのクマがどんどんティラノの爪で斬り刻まれていく。イブキを蹴り飛ばしてる印象が強いけど、牙と爪での攻撃もあるんだな。

 通常スキルの爪刃乱舞でも成熟体の羅刹が使って、未成体のサヤがそれを無防備に受けたらそれだけでHPが無くなっていく。うん、さっきのハーレさんへの攻撃はどう考えても過剰攻撃だったのがよく分かる。


「あれ? 今のでHPは全部は無くならなかったかな?」

「ちっ、応用スキルじゃ過剰だが、通常スキルじゃ少し足りねぇか」

「ただいまー! あ、サヤがまだ生きているのです!?」

「お、戻ってきたらなら丁度いい。『爪刃双閃舞』!」

「あぅ!? 戻ってきて早々に切り刻まれてるのさー!?」

「ハーレ、ナイスタイミングかな!」


 羅刹が何度かハーレさんのクラゲが爪で斬って連撃で銀光を強めながら、サヤのクマを仕留めて、そこから残りの連撃でハーレさんのクラゲも仕留めていった。ちょっと想定していた光景とは違った感じにはなったけど、まぁ結果的にはハーレさんのクラゲの分が早めに済んだから良しとしよう。


「これで私のクマは進化完了かな! それじゃ竜に切り替えてくるね」

「私は成熟体での共生進化をやってきます!」

「ほいよっと」


 サヤはアルの木の樹洞の中から出てきてクマの進化は終わり、姿が見えないハーレさんはどこかでリスポーンをしてPT会話でそう言ってきた。まぁ共生進化を実行するには同じエリアにいる必要があるから、クラゲはミズキの森林でランダムリスポーンをしたんだろうね。


「さて、サヤさんが戻ってくるまで少し待ちだな」

「そだね。あ、今のうちに合成進化をしてきていい?」

「そういやヨッシさんはそうだったっけ。それなら今のうちだなー」

「俺らは待ってるから、ヨッシさんはすぐにやってこい」

「うん、ありがと。それじゃ手早くやってくるね」


 そうしてヨッシさんも一度ログアウト。支配進化を実行する前に、ハチとウニを繋ぐ部位が欲しいって話だったもんな。支配進化でウニに毒を持たせられるようになるから、それをモーニングスター的な感じで叩きつけられるようにするんだよな。


「ん? ヨッシさんは何を追加しようって目論みだ?」

「あー、アル、これって言っても良いやつ?」

「どうせこの後見る事になるし、今回の競走クエストでは味方になるんだし問題ないだろ」

「それもそだな。……あえて見てのお楽しみという事で!」

「その流れで教えてくれねぇのかよ!」

「いやー、多分見た方が早い?」

「まぁ見れば意図は大体分かるか」

「……そういう事なら、実際に見てからでもいいけどよ」


 というか、最終的に何を合成するかに決めたのかは聞いてない気がする? 木の根や草花系の蔓はあまり乗り気じゃなかった気もするから、タコとかイカとかクラゲとかの触手系で、伸縮出来るようにするんだろうか?


「たっだいまー! あれ? サヤとヨッシがいないのです?」

「おー、ハーレさんおかえり。1番乗りで戻ってきたかー」

「私が1番じゃ仕方ないのさー!?」

「ただいまかな! あ、ハーレの方が早かったんだね。あれ? ヨッシは?」

「ヨッシさんなら、合成進化中だぞ」

「あ、そういえばそうだったかな!」


 とりあえずサヤとハーレさんは戻ってきた。ハーレさんはどっちも成熟体への進化を終えて共生進化にして戻ってきたから完全に終わり。次はサヤの竜の進化を開始だな。


「さて、サヤさんが竜で戻ってきたなら再開だな」

「羅刹さん、お願いかな!」

「あぁ、任せとけ! ちょっと無駄が出ても応用スキルの方が楽そうだからそっちでいくぞ。『重脚撃』!」

「それで問題ないかな!」


 サヤの竜が終われば転生進化で死ぬのが条件の進化は終わるから、ここでサクッと応用スキルで仕留めてもらうのが早いか。まぁチャージの分だけ時間はかかるけど、そこは必要な事だから許容範囲って事で。


「ただいま。あ、サヤの進化までには戻れたね」

「……ヨッシさん、そのハチの脚に追加する様に増えてる2本の触手はなんだ? 片方の先にウニが付いてんのか?」


 おぉ、なんか明確にヨッシさんが今までとは違う姿で帰ってきた。……ハチサイズに小さくはなってるけど、なんか吸盤みたいなのがあるし、これってイカの触手? いや、あれの呼び方は触腕だったっけ。


「あ、羅刹さんは知らないんだっけ? これは、支配進化で毒ありにしてこうしようかなって予定でね! こんな感じ!」

「ウニを叩きつけるのか!? ……しかも毒ありときたか」


 おー、今は軽く振り回してみただけって感じだけど、実際に運用し出せば厄介そうな感じではあるよな。しかも、地味に2本になるとは思わなかった。


「ヨッシさん、なんでイカの触腕にしたんだ?」

「あはは、それは気になるよね、アルさん。私も実際に合成するまでは決め切ってなかったんだけど、イカの触腕は2本セットになってるのが分かってこれにしたんだよね。ほら、他にも何か色々と使えそうじゃない?」

「なるほどな」

「イカの触腕って、2本セットなんだー!?」

「そこは初耳だな」


 でも、ヨッシさんがイカの触腕を選んだ理由も分かった。……ぶっちゃけ触腕の部分だけ周りと噛み合ってなくて不気味な感じもするけど、進化した際にその辺が馴染めば良いんだけどね。普段は小型化してるウニも、今は通常サイズのままだから余計に変に感じるのかも?


「えっと、羅刹さん、チャージが終わってるかな?」

「おわっ!? すまん、ついあっちに気を取られてた。……それじゃいくぜ、サヤさん」

「お願いかな!」

「おらよっ!」


 チャージを終えた羅刹のティラノの眩い銀光を放つ脚で、サヤの竜を蹴り飛ばしていく。おー、流石は成熟体のチャージ済みのスキルだな。一瞬でサヤの竜のHPが消し飛んでポリゴンとなって砕け散っていった。


「これで私の進化は完了かな! 共生進化に戻してくるね」

「ほいよ」


 そうしてサヤもハーレさんと同様に、成熟体での共生進化を確立させる為にログアウトをしていった。ふー、これで転生進化組の進化は完了だな。


「それじゃ羅刹さんの傭兵の承認をやってくか」

「それもそうだな。これ以上待たせるのも悪いし、そうするか」

「賛成なのさー!」

「うん、そうしよっか」

「全員の進化が終わってからでもいいんだが……いいのか?」

「もちろん、いいから言ってるんだって。それで、具体的にどうしたらいいんだ?」


 残る進化については羅刹が灰の群集への増援クエストとして傭兵となった後からでも問題はない。転生進化で死ぬ必要性が無ければ、むしろ先に承認をしても良かった話だしね。


「そういう事なら甘えさせてもらおうか。俺から傭兵の申請を出すから、それを承認してくれればいい」

「あ、意外と簡単っぽいな。それじゃその申請をよろしく!」

「あぁ、よろしく頼む」


<羅刹様から『増援クエスト:傭兵(灰の群集)』の申請を受けました。承認しますか?>


 おー、こんな感じで傭兵の申請が来るんだね。これって事前に無所属の増援クエストの存在を知らなければ混乱しそうな内容だ。まぁそれの説明が出来ない人は増援クエストをやろうとはしないか。

 とりあえず承認してっと。これが灰の群集所属のプレイヤー6人分あれば、灰の群集の傭兵として参加出来るようになるんだね。


<羅刹様から『増援クエスト:傭兵(灰の群集)』の申請を承認しました> 2/6


 これで俺の承認自体は完了したっぽい。そして必要な承認の6人中2人が完了したのも表示されるのか。ふむふむ、これは興味深いところ。


「おし、とりあえず承認完了!」

「同じく承認、終了なのです!」

「私も承認は出来たよ」

「俺も完了だ」

「おし、これで残りはサヤさんだけか」

「ただいま……って、私がどうかしたのかな?」

「サヤ、残りの進化の前に羅刹の傭兵の承認を先にやってるから、申請を受け取ったら承認をしてあげてくれ」

「あ、そういう事なら了解かな! 羅刹さん、申請をどうぞ」

「おうよっと」


 さて、これで羅刹が灰の群集の傭兵として参戦するのに必要な承認が完了になるはず。目印が出るって話だったけど、どんな目印になるのかが気になる。


<無所属のプレイヤーが灰の群集の傭兵として登録されました。競争クエストの傭兵リストを更新します>


 おぉ、プレイヤー名こそ出たりはしてないけど、傭兵として登録された事はこうやって告知されるんだな。これの告知範囲ってどこまでだろ? 俺らはまだ競争クエストの参戦登録はしてないから、灰の群集全体に告知された?


「おっ、白いカーソルが灰色に縁取られたけど、これが傭兵の印か? へぇ、これは群集毎に赤色だったり青色だったり灰色だったりで区別されるのか」

「おー! 本当なのさー! そして黒なら黒の統率種になる可能性がある乱入プレイヤーなのさー!」

「あ、競争クエストへの参戦した時の印も出てるかな!」

「カーソルの上に光る球が出てるもんね」

「羅刹、これでベスタにフレンドコールで伝えられるか?」

「あぁ、そうなるな。自分のカーソル表示は客観視はしにくいし、そこの説明は助かった」


 そういや自分のカーソルを自分で見る手段ってあんまりないのか。1stと2ndの視点の切り替えが出来たらログイン側のを見たりは出来るけど、羅刹はティラノ単独みたいだしその辺は自分じゃ分かりにくいよな。


「すまんが、ベスタに伝えるのは急いだ方が良い情報もあるから少し外させてもらうぞ」

「ほいよー!」


 その辺の都合もあるから、羅刹の承認を先にしたっていうとこもあるからね。とりあえず羅刹はベスタにフレンドコールをし始めたし、ここまできたら羅刹が伝え終わるのを待ってから俺とアルとヨッシさんの進化を進めていくか。


「ところで、今回って競争クエストの受注ってどこでやるんだ? 開始のメッセージは見たけど、開始の演出も見てないしさ。サヤとヨッシさんはミヤ・マサの森林にいたんだし、その辺は知らない?」

「……そういえば見てないかな?」

「でもエリアを移動してきた人で、参戦の印の光る球が出てる人っていなかった?」

「あ、言われてみれば見た気はするかな!」


 ふむふむ、どうも競走クエストが開始になった時に対象エリアにいても受注は出ないっぽい? 


「そもそも、ミヤビはどうなったんだ? 『未開のジャングル』の方に行ったんじゃないのか?」

「アル、ごめんかな。私達、ミヤビからは離れた位置にいたからその辺は分からないよ」

「割とエリアの切り替え位置に近かったから、そっちから入ってきた人は結構見たんだけどね」

「……なるほど、そういう位置関係か」

「そうなると、競争クエストが開始になってから改めて対象エリアに踏み込めば、受注の演出が開始になる?」

「その可能性は高そうなのです!」

「俺もそんな気はするが、実際に行ってみるか、その辺の情報を仕入れてこないとなんとも言えんか」

「それもそうだなー」


 今の時点でどう考えても分かる内容じゃないし、その辺りの情報は進化を終えてから実際に動き始めた時に把握出来てればいいか。それにしても今回の競争クエストは、前回のに比べると相当大規模な戦闘になりそうだね。

 冗談抜きで成熟体へと進化してからじゃないと、勝負の土俵に立つ事すら出来なさそうなのが厄介だな。あ、だからこそ多くの人がそこまで辿り着けるように、経験値のボーナスイベントや育成期間が用意されていた? うん、こうなってくると運営の意図はそこにありそうだな。

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