第1016話 夕方の部はここまで
干潟での緊急クエストの変化は分かったし、大体予想していた通りの内容である。まだフィールドボスの誕生は見てないけど、変化自体は確認出来たからサヤとヨッシさんは晩飯の為にログアウトしていった。
「ケイさん、少し席を外していいですか!?」
「ん? あ、風の昇華称号か。それじゃ俺も――」
「ケイさん、それはダメなのさー! PTでの順番待ちは誰か1人は待機しておくってルールなのです!」
「……そういやそうだった。それじゃハーレさんは1人で行ってくるのか?」
「そうするのさー! 上風の丘まで行って、強風を操作してくるのです!」
「それは了解っと。あ、ハーレさん、それなら転移の実でここの登録をしとけよー」
「一応はするけど、使う気はないのです!」
「え、なんで?」
転移の種でネス湖に登録はしてるし、今日はまだ使ってないからそれでも転移は出来るだろうけど……ここで転移の実を使った方が楽じゃね?
「ふっふっふ、私はネス湖でアルさんがログインするのを待つのです!」
「……アルは俺らがログアウトした後もやってる事も多いし、ログイン場所があそことは限らないぞ?」
「そうなった時は共同体のチャットで確認して、転移の実で戻ってくるのさー! アルさんがもしネス湖でログインした場合は、一緒に川下りをしてくるのです!」
「あー、まぁ確かにそれでもいいか」
別に共同体のチャットを使えば普通に連絡は取れるし、ハーレさんが転移の実でここの登録をしていくなら大丈夫。アルのログインする位置次第にはなるけど、今のアルならネス湖からここまでの移動もそう時間はかからないはず。だから、ここでの待機の交代も問題ないだろう。
「それならアルと上手く合流出来たら、ここでの適正Lvの変化の件は伝えといてくれ」
「はーい! それじゃ風の昇華称号を取りに行ってきます!」
「ほいよっと!」
転移の実の登録演出はしっかり出てから、ハーレさんは転移していった。多分どこかの帰還の実を使ったんだろうな。どこのを使ったかまでは分からないけど。
「色々とバタバタしてんな、ケイさん」
「あー、今日は特にって感じではあるけどなー。晩飯の時間帯が違うのは初めからだし、リアルの都合はどうしようもないし」
「ま、そりゃそうだ。んで、ケイさんはどうすんだ?」
「んー、移動ができないからな……」
ぶっちゃけ20時頃までは全員揃わないという申告はしているから離れても大丈夫な気はするんだけど、誰か1人は居てくれって話だしな。それを無視して順番待ちから抹消されても困るから、当分は移動は出来ないね。
「とりあえずしばらくは、ここでフィールドボスの観察だなー。そういうカインさんは?」
「俺はもうちょいしたら晩飯を食いにログアウトして、その後2ndのトカゲを育成しに忘れ者の岩場に行くつもりだぞ」
「お、そうなんだ」
カインさんともうしばらく雑談でも出来ないかと思ったけど、もう予定を決めてるのならそれを邪魔する訳にもいかないか。この時間帯は食事時になるから、どうしても予定が合わない人も出てくるしね。
「おっ、ケイさん、フィールドボスへの進化が発生してるぜ?」
「あ、マジだ! 何が進化してるんだろうな?」
連結PTの人達に囲まれて、禍々しい瘴気に包まれていく敵の様子が割と近くで見えているね。瘴気石を食べさせる前の様子は見てなかったから何が進化してるのかは分からないけど、そこまで大きな敵ではないっぽい。
あ、徐々に瘴気が晴れてきて、進化の済んだ敵の姿が見えてきたね。ふむふむ、変わり種ではなく、干潟に順当にいそうな感じの種族だな。
「ヤドカリのフィールドボスか。……無茶苦茶デカいって程でもないけど、それでも割とデカくない?」
「ケイさんのロブスターと同じくらいの大きさはあるな」
「だよなー」
リアルにもデカいヤドカリっているけど、それを抜きにしてもかなり大きいヤドカリだね。ヤドカリといえば十六夜さんだけど、それよりも一回り大きい感じか。まぁ十六夜さんのヤドカリも貝殻部分にヨモギが生えてるくらいだから、決して小さい訳じゃないけどな。
「おし、Lv30のフィールドボスの誕生だ!」
「未成体での最大Lvのフィールドボスだ。寄せ集めのPTだが、油断するなよ!」
「各PT毎で行動値の回復の交代をしながら仕留めていくぞ! 基本的に各PTが指揮を取ってくれ」
「「おう!」」
「さーて、即興の連結PTでどこまで戦えるかだな!」
「お互いに邪魔にならないように動けば良いだけだ」
「とりあえず識別するよー! 『識別』!」
そんな感じで連結PTの人達がフィールドボスに進化したヤドカリとの戦闘が開始になっていく。固定でのPTではなく、様子見を兼ねてるソロの人や、少人数の人達の寄せ集めでの連結PTっぽい。
うーん、野良での連結PTだと連携はその時のメンバー次第だよな。まぁ人数はいるし、極端に足を引っ張るような状況が発生しなければ大丈夫なはず。
「さてと、それじゃ俺はそろそろログアウトするわ。またな、ケイさん」
「カインさん、またなー!」
そう言ってカインさんも晩飯の為にログアウトしていった。フィールドボスの進化の様子は見れたし、フィールドボスになると個体によって戦闘パターンが大きく変わってくるから、これ以上見てても仕方ないかー。
でも、ハーレさんは風の昇華称号を取りに行ったし、確かレナさんも18時にはログアウトすると言ってたっけ。俺はここから離れる訳にもいかないし、しばらく暇っぽい?
「……なんか特訓でもするか」
「ケイさん、何か特訓するのー!?」
「しばらく1人で暇だからなー」
とはいえ、何を特訓するかが問題だ。進化に必要なスキルに関しては条件達成済みだから、どうせなら普段あまり鍛えてないスキルをやるのもありだよね。
うーん、何が良いんだろ? あ、そうだ。ロブスターの応用スキルでも鍛えておくののもありか? Lv2になってるのは1つもないし、魔法が効きにくい相手用に鍛えていくのもありかもしれない。
大技で物理ダメージを稼ぎたいなら、サヤやハーレさん、今ならアルもか。その辺は3人に任せればいいし、ここは競争クエストで俺が集中的に狙われた場合の自衛用に鍛えるか。近付かれた時に使いやすいのは連撃だし、ここは連強衝打が無難? 双打連破はどうしても吹っ飛ばす性質があるから……。
「……ん? いや、逆にそれが良いのか?」
近付かれて動きを制限されるのがマズいから、あえて敵を吹っ飛ばす方向で自衛というのもありだな。ジェイさんは完全にピンポイントで俺を警戒して狙ってくるだろうし、その意表を着く形でダメージを与えつつ距離を取る手段……。
「ちょっと試してみるか!」
構想自体は思いついた。実際にどういう挙動になるかは実際に試してみないと分からないけど、それをこれから試してみるまで! えーと、ここだと周囲には人が多めだから、邪魔にならない位置に移動しよう。干潟になる『リヴィエール・河口域』から出なければ、順番待ちも大丈夫だろ。
◇ ◇ ◇
という事で、ウナギの罠があった『リヴィエール・河口域』と『リヴィエール』のエリア切り替え付近から少し東に行った陸地部分へと移動完了。
この辺なら人は少なめで特訓している人がチラホラいる感じだし、ここなら問題ないはず。ちょっと邪魔にならなさそうな位置を探すのに時間がかかったなー。
「さーて、それじゃやりますか!」
「ケイさん、今度は何を試す気ですか!?」
「自衛と攻撃と離脱の複合コンボ。まぁ出来るかどうかはやってみてからになるけど」
「なにかとんでもない事を言ってる気がするのさー!?」
「ま、とりあえず想定通りにいくかの実験からだな。ハーレさんの方は?」
「そろそろ上風の丘に辿り着く頃なのです! ちょっと森の上の天の川を撮ってて脱線しちゃったのさー」
「あー、まぁその辺は今日だけだもんな。そっちも頑張れよー!」
「そのつもりなのさー! ケイさんもファイトなのです!」
「ほいよっと」
それじゃ本格的に実験を始めよう。双打連破を使うのは確定だけど、問題は他の部分。いくつか候補はあるけども……行動値の消耗を考えるなら、これが第一候補になるね。
あ、何か標的はいた方が良さそうだけど……都合が良いのはいないなー。ま、今は無しでも良いや。これで吹っ飛ばし効果がどう出るかが重要だしね。
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値を10消費して『双打連破』は並列発動の待機になります> 行動値 76/86(上限値使用:1)
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値10と魔力値15消費して『土魔法Lv5:アースウォール』は並列発動の待機になります> 行動値 66/86(上限値使用:1): 魔力値 223/234
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
さーて、それじゃ目の前に生成した土の防壁を思いっきり両方のハサミで叩きつけ――
「おわっ!?」
ちょ、ある程度は想定してたけど、防壁の位置は少し動かせる程度で大きくは移動しないから、反動が思いっきり俺の方に返ってきた! くっ、初撃だからそこまででもないけど、踏ん張るのが難しいくらいには反動がきたぞ。
でも、これなら敵をアースウォールに叩きつけてダメージを与えつつ、踏ん張らなければ後方に一気に距離は取れそうだな。残る連撃も追撃防止には役立ちそうだ。
それに魔力集中を使ってないのにこれなら使ったらもっと威力や反動が出そうだけど、アースウォールの耐久値も結構減ってるのが欠点か。いや、敵を殴りつけたらその分だけアースウォール自体の耐久値は減らなくて済む?
「……使えそうではあるけど、まだまだ改良の余地はありだな」
ふむ、今回は連撃は出来そうにないから無駄撃ちになりそうだね。まぁそれは仕方ないとして……出来れば連撃が無駄になるから、吹き飛ばし効果は連撃ではなく単発で済ませてしまいたいとこではある。……いや、それも使い方次第か?
アースウォールじゃなくて、岩の操作で固めて俺の前まで持ってくる? それかこれがカウンター的に攻撃になるから、吹っ飛んだ直後に飛行鎧を展開してその勢いを利用した追撃もありか。
もしくはアースウォールを魔法砲撃で相対位置を固定して……あ、これは駄目だな。展開する為に魔法砲撃を当てる必要があるから、そこで一手足りない。
「ケイさん、上手くいきそうですか!?」
「あー、一応は理屈としては成功ではあるなー。ただ、実戦で使うにはどこかで実際に敵に使ってみないとなんとも……。ハーレさんはどうなった?」
「そうなんだー!? 私は無事に風の昇華称号は手に入れたのです!」
「お、そりゃ良かった」
どうやら俺が実験をしている間に、ハーレさんは目的は達成したようである。これで後はサヤの竜が電気の昇華を手に入れられたら、成熟体への進化は開始できる。できるけど、問題は雷がどこかでタイミングよく発生してくれるかどうかだよなー。
って、あれ? 共同体のチャットが光ってるけど早く……あ、いつの間にか18時40分くらいになってた!? だったら、これは確実にアルだな! まぁサヤとヨッシさんの可能性は低いし、今会話してるハーレさんな訳もない。
アルマース : 少し早めにログイン出来たが、ケイとハーレさんはどこにいる?
ハーレ : 私は上風の丘で風の昇華称号を取っていたのです!
ケイ : 俺は『リヴィエール・河口域』だな。PTでの順番待ちで待機中。
アルマース : お、ハーレさんは風の昇華に到達したか。ケイは順番待ちで待機って事は、俺はそこに向かえば良いか?
ケイ : そうしてくれると助かる。あ、そういやアルは今どこだ?
アルマース : ん? それなら昨日はケイ達と同時に終わりにしたから、昨日いたネス湖の湖畔だぞ?
ハーレ : アルさん、それならそこにいて下さい! すぐに転移していくのです! あ、ケイさんPTリーダーを下さいな!
ケイ : ハーレさんがアルと合流して、今日の変化について説明する事になってるからなー。ほいよっと。
今のPTリーダーは俺だったから、ハーレさんにPTリーダーを変更して……よし、完了。これですぐにアルもPTに加入出来るね。
アルマース : あー、そういう事か。だったら、俺が大急ぎでそっちに向かいながら、ハーレさんから状況を聞けばいいんだな。
ケイ : そういう事だな。ハーレさん、任せたぞー!
ハーレ : 転移完了です! 任されました!
<アルマース様がPTに加入しました>
お、アルも無事にPTに入ったし、残りはアルとハーレさんが一緒にここに来るまで待てばいいだけだな。その間、俺はロブスターのスキルを鍛えていこうっと。
さっきのは改良の余地はあるけど、応用スキルだと連発が出来ないし、行動値の消費も多いから回復しながらだね。実戦で試すのは、また後でという事で。
「おし、それじゃ大急ぎでケイの方に向かうぞ」
「高速空中船『アルマース』、出航なのさー!」
「それじゃ待ってるからなー」
それからアルとハーレさんが大急ぎで移動をしながら分かった事の説明をしていき、俺も合間で補足をしていった。料理絡みのあれこれも含めて。
そして思ったほど時間はかからず19時までにはアルとハーレさんが辿り着き、PTの順番待ちをアルに任せて晩飯でのログアウトになった。夜から具体的にどう動くかは、全員集合して、その時の競争クエストの進捗状態によって決めるという事で!
◇ ◇ ◇
晩飯で一旦ログアウトという事で、いつものログイン場面へとやってきた。えーと、今回のいったんの胴体部分は『今宵も始まる、力の糧の大量発生! さぁ、間もなく始まる戦いの備えるがいい!』となっている。煽ってるね、運営。
「いったん、このお知らせってもう競争クエストの開始が目前って認識で良い?」
「具体的にどこがどのくらいとかは答えられないけど、そういう感じにはなるね〜」
「……なるほどね」
群集によって、多少の進捗具合に差がありそうな言い方な気がする。これは場合によっては、新エリアに進出しても既に他の群集が動き出してる可能性がありそうだね。
状況次第にはなるけど一気に乗り込むんじゃなくて、偵察部隊を編成して調査をした方が良いかもしれないな。うん、それを考えるのは晩飯を食って再ログインしてからでいいや。
「スクショの承諾はきてる?」
「今は特にないよ〜」
「そっか。それじゃ晩飯を食ってくるわ!」
「はいはい〜。いってらっしゃい〜」
そうしていったんに見送られながら、現実へと戻っていく。さて、今日の晩飯はちらし寿司で確定なはず。……流石に全く違うものとかにはならないよな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます