第1013話 検証と特訓
とりあえずウナギの白焼きは完成した。色々と予想外というか予定外の連続だったけど、そこは良しとしよう。
「……ふと思ったんだけどさ」
「ヨッシ、どうしたのかな?」
「前に話題に出てた塩釜焼きだったら、もしかして――」
「あ、塩釜焼きは見落としていた!? レナさん、確かスクショのコンテスト報酬でアイテムの詰め合わせに卵があったって話はあったよな!?」
「それは確かにあったけど、カインさん、ちょっと落ち着いてー!?」
「お、おう、すまん……」
おぉ、まさかカインさんがレナさんを掴み上げて迫るという光景が見れるとは思わなかった。ウナギを焼いていた時でもそうだけど、カインさんって結構料理にこだわりを持ってるのか。
「カインさん、胡椒もあったよ?」
「なに!? 胡椒もか!? くっ、俺はスクショコンテストでは何も取れてないから、その辺が分からねぇ!」
「およっ!? カインさん、放り投げないでよー?」
「あ、すまん、レナさん! ケイさん、少しの間で良いからヨッシさんを借りていっていいか!?」
「あー、それは俺に聞かれてもなー」
なんというか妙にカインさんのテンションが高いなー。うん、放り投げられたレナさんは無駄に空中で一回転して着地してるとこは流石だね。今の一回転、欠片も意味はないけどさ。
一応グリーズ・リベルテのリーダーは俺になってるから、俺に聞くのは完全に間違ってる訳じゃないけど、そういうのを聞くのはまず本人にだよね。時間的にも18時まではそこそこあるし、ヨッシさんは明確な特訓予定もないから、ここはヨッシさんの意思次第か。
「俺としては別に止める理由もないけど、ヨッシさん、どうする?」
「うーん、何か急ぎでやる事がある訳じゃないし、18時で緊急クエストが始まるまでなら別にいいけど……サヤとハーレはどう?」
「私とサヤは、後ろで邪魔しない程度に特訓をしながら眺めてます! いいよね、サヤ!」
「うん、問題ないかな。ケイ、いざって時はお願いかな?」
「あー、操作ミスの対処か。それは了解っと」
俺も特にする予定の事もないし、その辺の調整を引き受けますか。サヤの電気の操作が変に乱れて調理の邪魔になってもいけないしね。
「それじゃカインさんとヨッシさんの2人で色々と調理の実験になるんだね。よーし、それじゃわたしも――」
「レナさん? 18時まではここの整理の手伝いじゃなかった?」
「……えーと、それはダイクに任せた!」
「レナさん、自分じゃ殆ど料理はしないよなー!?」
「やらないだけで、出来ない訳じゃないからね!?」
「よーし、弥生さんに今の言葉を……」
「およっ!? ちょっとダイク、それは卑怯だよ!? 弥生はその辺は厳しいんだから……あー、うん、分かった。分かりました! 元々引き受けてた事だし、大人しくやりますよー」
「って事で、レナさんは回収していくから!」
「今日のダイクはなんだか生意気だねー?」
なんか口を挟む余地なく、戻ってきていたダイクさんがレナさんを連れていった。普段はダイクさんの方が振り回されてる感じだけど、珍しい事もあったもんだね。
「……弥生さんって、料理にこだわりがあるのかな?」
「今の感じだと、レナさんが迂闊に触れられないくらいではありそうだよな」
レナさんの料理は出来ないんじゃなくてやらないという発言がどこまでのものか分からないけど、少なくとも弥生さんが納得しない範囲のものではあるんだろうね。あんまり詮索する気もないけど、レナさんのリアル生活って割と謎……。
「さて、それじゃヨッシさん、何が作れるかを検討してみるか!」
「うん、まずはそこからだよね! サルのカインさんなら、器さえあれば塩釜焼きに使う塩の用意……卵白と塩を混ぜるのはやりやすい?」
「他の種族よりはやりやすいだろうし、器なら肉の詰め合わせの入れ物の土器が使えるな」
「あ、確かにそうだね。あっ、カインさん、ハンバーグ辺りも作れそうじゃない?」
「タマネギは発見されてるし、卵に塩胡椒があるなら出来なくはないか。あー、だがソース無しになりそうだな」
「とりあえず、肉をミンチにしてやるだけやってみない? あ、でもケイさんは特訓の方を見てないといけないんだよね。まな板、どうしよっか」
「……あー、しまったな。ミズキの森林には丸太を加工したのがあるんだが、ここにはねぇか」
あ、そっか。俺がサヤの操作の暴走の抑え役をするのなら、さっきみたいに岩を生成して、まな板代わりは出来ないもんな。うーん、飛行鎧の方の移動操作制御でやってみてもいいけど、あれだとヨッシさんが使う氷のナイフが当たったらそれだけで解除になりそう……。
かと言って、この辺にある岩はゴツゴツしてて平たいのがないもんな。近くに木でも生えてればぶった切ってきて、即席のまな板を作るという手もあるけど……。
「おし、ケイさん達は自分達の事をやっててくれ。俺はミズキの森林まで行って、サクッと取ってくるわ」
「あ、うん、了解」
「ほいよっと」
「んじゃ、行ってくる!」
そうしてカインさんは転移していった。元々ここに来た時も転移してきてたみたいだし、転移の実に登録してるんだろうなー。転移の種じゃ1日1回しか使えないから、おそらく実の方のはず。
あ、そういえば竈の部分に繋げた生成した岩は……まだ操作時間には余裕はあるけど解除しとこ。特訓をするには俺のスキルはいつでも使えるようにしとかないといけないしね。
「さてと、それじゃサヤとハーレさんは昇華を目指して特訓だな!」
「晩御飯までには仕上げるのです! 『略:ウィンドクリエイト』『略:風の操作』!」
「私は18時までに仕上げて、ケイ達を待ってる間に雷が発生するの待つかな! 『略:エレクトロクリエイト』『略:電気の操作』!」
「サヤ、ハーレ、頑張ってね!」
「はーい!」
「頑張るかな! あ、ハーレ、今回は対戦形式にはしないの?」
「やりたい気分ではあるけど、それだとヨッシの調理の様子が見れないのです!」
「……あはは、そういう理由かな」
「その辺はハーレさんらしい理由だな」
まぁそこを気にするからこそ、離れずに後ろで難易度の高い留める方法での操作の特訓をしてるんだろうしね。気にしないのであれば、上空とか、他に空いてる離れた場所でやればいいだけだし。
「おし、戻ったぜ! さて、やるぞ、ヨッシさん!」
「あ、はい!」
「カインさん、ヨッシさん、何が出来るか期待してるからなー!」
「おう!」
「……あはは、まぁ期待は程々にね?」
あ、カインさんがその辺の石を積み上げて、持ってきた木製のまな板を平坦になるようにしてる!? やっぱりそういう作業はとことん慣れてるっぽいな!
さてと、とりあえず俺はサヤが操作を誤らなければ特にする事もないけど、どうするかなー? あ、今のうちに情報共有板を見ておくのもありか!
「サヤ、危なそうになったら声をかけてくれ! 俺は情報共有板を見てるから」
「あ、分かったかな!」
「ケイさん、何か美味しい情報があったら教えて下さい!」
「お、それなら他に料理の検証をしてる人がいるだろうし、成功事例と失敗事例があったら教えてくれ!」
「ケイさん、よろしくね」
「ほいよっと」
そういう情報収集を目的にしてた訳じゃないけど、まぁ料理関係の情報を聞きたい気持ちは分かる。さて、その辺も気にしながら情報共有板を見に行こうっと。そういや久々に見る気がするね。
マグロ : ちょ!? なんか食べ物を見る目で俺を見てくる人が多い気がするのは気のせい!? なんか新情報でもあったのか!?
イノシシ : さっき、料理関係で新情報が出てきたとこだぞ。
キツネ : え、それってどんなの?
木 : 普通に他のゲームで料理アイテムが試食データになってるってのがあるじゃん? それがHP60%以上の性能のアイテムになれば出てくる事が判明。
マグロ : マジで!?
サメ : マグロを食っても、物足りない刺身の味だったのはそれがあるからか!
ネズミ : マグロをしっかりと解体はした事ってあったっけ?
ネズミ2 : そもそも討伐して手に入る赤身の切り身以外のアイテム化の方法が不明だった気もする?
クジラ : マグロを丸ごとのまま、アイテム化を狙うぞー!
クジラ2 : マグマを解体して、中トロ、大トロ……! 中落ちやカマ焼きとかもいいよねー!
マグマ : 視線の正体はそれかー!?
タチウオ : マグマの解体なら任せとけ! リアルで捌いた事はあるからな!
カンガルー : おぉ、それは心強い!
なんか料理関係の情報は広まってるけど、マグロも解体を狙っている人達がいるんだね。プレイヤーがプレイヤーを食べる事は出来ないから大丈夫だろうけど、一般生物のマグロを探してるんだろうな。
てか、マグロを捌けば部位として手に入るのか? うーん、そこら辺はよく分からないから、やる気になってる人達に任せよう。
草花 : 朗報、朗報! ひまわり油の安定した生成に成功したよー!
草花2 : 条件は岩の操作Lv5以上で適度に絞ってから、水分吸収でアイテム化は成功だー!
木2 : 初めはコケの水分吸収でしか無理だったけど、草花の水分吸収でも、木の水分吸収でも、アイテム化は可能だったぞ! 絞る力加減が分かってきた!
カンガルー : マジか! うっわ、料理の情報と含めたらもの凄い情報じゃね!?
タヌキ : それならアジの素揚げを作ろう!
タチウオ : おー、それはいいな。
草花 : あ、そこはごめん。朗報ではあるんだけど、まだ根本的に量が足りないんだー。
カンガルー : なるほど、原材料の増産が間に合ってないのか。
ネズミ : でも、進展があったのはいいな!
ほほう、昨日の油の件に進展があったんだな。でも、まだ原材料不足で増産はまだ無理か。まぁそこは仕方ない部分だけど、とりあえずこれはみんなに報告しとこ。
「カインさん、ヨッシさん、朗報だ! 油の安定した生成が可能になったとさ」
「お、そりゃ朗報だな! でも、原材料って不足してねぇか?」
「……まさしくそこが問題点として上がってるところ」
「でも、油が手に入るなら色々と出来る幅が増えるよね」
「だな! おし、とりあえずハンバーグの肉種は出来たな」
「……ここで焼く前に油が欲しいとこだけど、まぁ失敗してもいいから焼いていこっか」
「多少は肉から脂が出てくるだろうし、それでなんとかなればいいんだけどな。バーベキューでも割と引っ付かないし、無しでもいける可能性はある」
おー、なんか少し目を離してる間にハンバーグの元が完成して、これから焼いていくタイミングになってるっぽい。カインさんが鍋型の土器を抱えて、そこでミンチにした肉を練ってたようである。
サヤとハーレさんは……うん、なんだかんだで順調に特訓をしてるみたいだね。サヤは苦戦してるみたいで1ヶ所に留められずに多少動いているけど、それでも俺が手を出す程の状況ではなさそうだ。これなら戻っても大丈夫そうだな。
「とりあえず情報共有板に戻るけど、成功したら報告するからよろしく!」
「了解!」
「おうよ!」
さーて、俺らの方からも何かしらの報告が出来そうな雰囲気ではある。てか、料理をするには油は重要そうだし、この油の生産は今後重要になってきそうだよね。
カンガルー : そういや、今日の緊急クエストはもう少しで始まるけど、どうなると思う?
ヘビ : 『忘れ者の岩場』と『リヴィエール・河口域』でのLv帯の変化の話かー。同じとこばっかだと面白くないから変わって欲しいところ。
イノシシ : てか、根本的に混雑し過ぎー!
サボテン : それは流石に仕方ないって。
草花 : 混雑が嫌なら、通常のLv上げに向いてるエリアに行くのもありだよ?
草花2 : 普段よりかなり空いてるもんね。
ドラゴン : 実は固定位置の成熟体も狙い目だぞ。まぁ同じ事を考えてる人がいて、少しタイミングがズレたら完全に無駄足にはなるけどなー。
イノシシ : それじゃ意味ねー!?
あー、確かに昨日のネス湖のアロワナとかは、成熟体狙いの人からしたらチャンスだったんだよな。まぁ無所属の黒い龍の人が……って、そういや地味に気になる事があったよ!
コケ : おーっす! ちょっと疑問に思ってる事があるんだけど、その辺はちょっと良い?
サボテン : お、コケの人か。疑問ってどんな内容?
ヘビ : いいぞー!
コケ : それじゃ失礼して。昨日ネス湖の湖底の『湖底森』に行ったんだけど、その時に無所属の闇属性っぽい成熟体の龍の人を見たんだよ。そこで思ったんだけど、競争クエスト中って無所属の扱いってどう予想する?
オオカミ : 様子を見にきたら、かなり興味深い疑問だな。俺の推測としては、無所属にはまた増援クエストがあるんじゃないかと予想している。
マグロ : あー、その手の話題は何度か出てるよな。
クジラ : 開催になるまで分からないけど、増援クエストは本当にありそうなんだよなー。
ヘビ : 競争クエストが開始になった時点で無所属に接触しておく?
オオカミ : それも考えておく必要はあるが、開催になるまではなんとも言えないな。だが、必要そうなら接触も考えた方がいいだろう。
ふむ、この辺はみんなも考えてはいた内容っぽいなー。でも、やっぱり現段階では結論は出てないか。まぁ無所属の状況が分からない以上は、それは仕方ない。
ドラゴン : ところで、コケの人! その黒い龍は何か興味深いものは使ってなかったか?
コケ : 興味深いもの? あー、それなら黒い球体が敵を吸い寄せるみたいな攻撃をしてたぞ。
オオカミ : それは闇属性魔法か……? ふむ、取得を狙ってみたいとこだな。
草花 : まだ闇属性魔法の取得条件って判明してなかったよね?
ヘビ : 闇属性魔法は、吸い寄せるような性質か。
コケ : まだそこについては詳細は分かってないんだなー。
オオカミ : まぁそうなるな。
このオオカミの人は取得を狙ってるって言ってるし、ほぼ確実にベスタだろうね。ベスタ自身が闇属性を持ってるから、条件次第では取得も狙えるんだろうな。
ふー、成熟体からのスキルは種類こそ分かってるけど、取得に関してはまだ全貌が判明してないみたいだしね。成熟体に進化したら、その辺の検証も手伝っていきたいところだな。
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