第831話 3戦目に向けて
俺は特に何もしていなかったけど、無事にタケノコ状の尻尾を持ったティラノの討伐は完了した。さて、それじゃ次のフィールドボス戦の為にLv20の成長体を――
「ちょっと質問なのさー!」
「ん? どうした、ハーレさん?」
「ケイさんは樹属性と草属性を併せ持った状況がどういうものか気にならないー!?」
「あー、そりゃ俺も気になってるとこではあるけど……」
ぶっちゃけ、その2属性を同時に持ってる状況ってどうなんだ? えーと、確か樹属性が通常より防御が高くなって、草属性は癒属性か毒属性を持ってたら強化されるんだったっけ。
その2つが両方あって、何か意味があるのか……? うーん、タケノコはどうも不思議な種族っぽいし、何とも言えないとこだな。
「合成進化で混ぜる以外ではタケノコ以外にその組み合わせの例が見つかってないからな……」
「肉食獣さん、そうなの!?」
「あぁ、そうだぞ。1stのランダムからタケノコが出たという報告はねぇし、情報が地味に不足してる種族だ」
「あ、それもあってベスタさんがタケノコを作ったのかな?」
「それはあるとは思うぜ。だが、流石のリーダーでもまだ育成が追いついてないからな」
ふむ、確かにベスタがタケノコを作ってそれほど経ってはいないもんな。まだ情報が出揃うには少し時間がかかるという事か。
……少し前に2ndにキノコとタケノコが増えてたけど、まぁあれは一時的なもんだったみたいだしね。全然育ててないって訳じゃないんだろうけど、大体の人はメインの方を育ててそうだ。
「肉食獣、少数例で纏草を使った木のプレイヤーや纏樹を使った草花のプレイヤーの報告はありませんでしたっけ?」
「……そういやそんなのも見た気がするな」
「……それってザックがやってなかった?」
「おう、やったぜ!」
「え、ザックさん、マジか!」
「俺は嘘は言わない男だぜ、ケイさん!」
「……だろうなー」
まぁ嘘をついて騙してくるというのはザックさんらしくはないのは間違いない。てか、ザックさんは試してみてたのか。
「あー、話し込んでるとこ悪いんだが、ちょっと良いか?」
「紅焔、どうしたんだい?」
「いや、カリン。その辺の情報も気になるのは分かるんだが、並行して成長体の捜索をやっていかね?」
「……確かにそれもそうだけど、分かれて探しに行くのも良くなさそうだよ。最低でも1PTはこの位置に残っていた方がいい」
「あー、確かにそうっぽいな」
紅焔さんとカリンさんが周囲を見渡しながらそんな事を言っていた。あー、自分でも見回してみたら、その理由は一目瞭然か。
俺らが6時までと言ってるから、後から俺らと交代する人達がここに持ってくる成長体を探している様子が見える。
それとここが適正Lvだと思われる複数のPTが戦闘しているね。一箇所、敵が集まり過ぎてとんでもない事になってる……いや、連結PTになってるから意外と大丈夫そうだ。
「……成長体を持ってきたPTがいたら、受け取り係が必要そう?」
「おし! それなら俺が引き受けた!」
「……ザック、探しに行くのが面倒なだけじゃない?」
「別にいいだろ!? そもそも俺は2体捕まえてきてたからな!?」
「……そういえばそうだった」
地味にザックさんに辛辣な翡翠さんだけど、まぁ今回はザックさんに圧倒的に分がある。この連戦では必須になるフィールドボス1体分の成長体を持ち込んできた事になるんだしね。
そうなると、俺らもその辺はやっとかないとな。紅焔さんとソラさんはさっき成長体のクワガタを見つけてるしさ。
「そういう事ならヨッシさん、一緒に成長体を探しに行くか」
「それもそうだね。サヤとハーレは消耗してるだろうし、待機して――」
「ケイ、ヨッシ、それは待ったかな!」
「行くなら一緒になのさー! 戦闘をしなければ、回復は問題ないのです!」
「まぁそうなる気はしてたな」
「……あはは、まぁそうだよね。それじゃ、一緒に行こうね」
獲物察知を持っている俺が行くのは絶対として、俺らのPTはザックさんと翡翠さんは待機で問題はないだろう。サヤとヨッシさんは、まぁ一緒に行こうと言うのは想定出来た事だね。
「それなら俺らモンスターズ・サバイバルも捜索に行くか。だが、ザックに任せておくのも地味に心配だな……」
「ちょ!? 肉食獣、その言い方は酷くねぇ!?」
「……妥当な判断」
「翡翠の俺の扱いも酷ぇ!?」
うん、まぁ確かにストッパーになる翡翠さんがいるとはいえ、ザックさんに任せるのは何となく不安が残る。2戦目の前に迂闊な事をして、トカゲとタケノコを殺しかけてたしなぁ……。
「それならこういうのはどうだい? 僕と紅焔はさっき成長体のクワガタを捕まえたから、これを持って代わりに待機しておくよ」
「……何かやってるのは聞こえてたが、いつの間にか捕まえてたのか」
「気付いてなかったのか、肉食獣。ほれ、この通りだ」
「いや、流石にこれから指揮を取ろうって段階で集中力を他に回せねぇからな? まぁ、それはいい。そういう事なら、ここは頼めるか?」
「おう、任せとけ!」
「紅焔が暴走しないかは僕が見ておくからね」
「……ザックは私が見ておく」
「「俺らは監視対象か!?」」
おぉ、見事にザックさんと紅焔さんの声が重なった。うん、確実に翡翠さんとソラさんのそれぞれの認識は同系統のものだと思うよ。まぁ口には出さないけど。
「あはは、今の紅焔が楽しそうで良かったよ」
「今の笑うとこか、カリン!?」
「そりゃ、解散した時の経緯が経緯だったからね。こっちの都合で紅焔だけ除け者みたいになったのは気にしてたんだよ」
「……あー、まぁ……カリンの方は特に気にしちゃいねぇから心配すんな。カリンは誘ってくれたのに、リアルの知り合い集団に混ざるのを拒否したのは俺の方……って、この話題はやめだ、やめ!」
「……そうだね。もう済んだ事だし、やめておこうか」
ふむ、なんか俺らが聞いてていい話なのか分からないけど、紅焔さんとカリンさんの間にも色々あったんだな。
確かにリアル知り合い集団の中に1人だけ混ざるのは躊躇しても仕方ないよな。俺らのグリーズ・リベルテも似たような側面はあるけど、状況は同じとは言い難いしさ。
「紅焔さんとソラさんが待機しておくのでしたら、カリンさん達も一緒に待機してもらうのはどうでしょう? 獲物察知……いえ、ソラさんの場合は鷹の目ですね。あれがない状態では効率も悪いですし」
「あぁ、それもそうだな。カリン達はそれでも良いか?」
「うん、それで問題はないよ。いいよね、みんな」
「「「おう」」」
ふむふむ、エレインさんの提案でカリンさん達も待機組に決定か。まぁソラさんの鷹の目を活かせれないのであれば、効率が悪いのも間違いではない。
まぁこの場所からでもソラさんの鷹の目が使えない訳でもないし、決して悪い割り振りではないか。
「よし、それじゃ俺ら4人と肉食獣さん達6人で別々に成長体の探索、残りのメンバーはここで待機って事で!」
「戻ってくるのに時間がかかった意味がないから、あまり遠くへは行くなよ。周囲の連中から提供がある可能性もあるからな。紅焔、もし来た時は受け取りを任せたぞ」
「おうよ! あ、肉食獣、その時の条件はどうすんだ?」
「6時での交代希望なら交代の順番を最優先で、ここが適正Lvの奴ならモンスターズ・サバイバルの方に希望の報酬を受け取りに行ってくれと伝えてくれ。紅焔からそのプレイヤー名とその要望を聞いた段階で俺の方で調整しておく」
「おし、肉食獣に報告すりゃいいんだな。了解っと」
そうして役割を分担して、3体目のフィールドボス戦を行う準備をしていく事になった。
いやー、ある程度の規模があるモンスターズ・サバイバルの人達が後ろに着いているから、取引関係を任せられるのは安心だね。……ただ、恩恵ばっか貰うのもあれだから、俺らが使わない分でも成長体は確保しておきたいとこだな。
さて、みんなで移動しながら探すなら真下も見える水のカーペットで……いや、風の強い上風の丘で移動操作制御には頼りたくないな。
強制解除になると面倒だし、通常発動でいくか。って、それは駄目だ。そんな事をしたら獲物察知が使えなくなる。
「ケイさん、私が足場を作ろうか?」
「……あ、また声に出てた?」
「最近は声に出るのは少し減ってきてた気もするけど、今は思いっきりね。まぁ今のは必要な事が分かったから問題はないよ」
「……あははは」
そっか、声に出てなくても読まれてる事もあるから気をつけても全然駄目だった気もしてたけど、一応減ってはいるんだな。
今回は思いっきり声に出てたみたいだけどね! まぁ不安要素を把握するのに役立ったのなら良しとしよう。
てか、今のヨッシさんの状態なら俺の岩での飛行をヨッシさんの氷塊版で実行が出来るのか。ヨッシさん自身が普通に飛べるから、その辺は地味に失念してたよ。
「まぁそういう事なら、ヨッシさんに任せた」
「うん、任されるよ。『アイスクリエイト』『氷塊の操作』!」
「わぁ! 大きな透き通った氷の板なのさー!」
「ヨッシ、これは滑らないかな?」
「あ、それもそうだね。それなら少し窪みを作って……これならどう?」
そう言いながらヨッシさんは3ヶ所に窪みが出来るように氷を追加生成していく。追加生成が終わった時点でみんなで乗ってみたら、氷だから表面は滑りやすいけど窪みの中にいる限りでは落ちる事はなさそうだ。
少し厚みが増した分だけ透明度は悪くはなったけど、地形は把握出来る範囲だから支障はないだろう。
「多分大丈夫なのさー!」
「うん、大丈夫そうかな」
「それなら良かったよ」
「よし、これで移動の準備完了! さて、それでどの方向に行くかだけど……」
「はい! 何となくここから北西が良い気がします!」
「……北西か」
ハーレさんの勘は意外に当たったりするので、その方向に行ってみるのもありかもね。ざっと見た感じではその方向で戦ってるPTも見当たらないし、可能性としては悪くはない。
「よし、ハーレさんの勘を採用しよう。って事で俺らは北西に行くけど、肉食獣さん、それで良いか?」
「あぁ、問題ない。……ちなみにザック、お前なら今の状況からならどこに行く?」
「んー、俺も北西な気はするんだが、次に選ぶとしたら南東の方だな」
「なるほど、南東か。まぁ指標もないし、勘頼りでもいいだろう。エレイン、頼む」
「えぇ、お任せ下さい。『根脚移動』『アースクリエイト』『岩の操作』!」
ほほう、肉食獣さん達はザックさんの勘を頼りにして探しに行くんだな。それにしてもザックさんの勘の第一候補がハーレさんと同じだったのは意外だった。これは期待出来るかもしれないね。
そして、エレインさんが移動の為に発動したスキルで面白い使い方をしているね。今更木が根で歩くのは何も不思議な事ではないけども、幹を中心に岩の足場を作ったのが印象的だ。
なんというか、岩で出来てるけど松の木の周りにウッドデッキを作った感じとでも言えばいいんだろうか。その岩の上に肉食獣さん達が乗っていき、その状態で歩いて移動をしていくようである。
面白い使い方だな、これ! でも、6時までという時間制限があるんだから呑気に見ている場合でもないか。現時点で5時半より少し前だから、捜索の時間も含めて後2体くらいは倒しておきたいところだな。
「それじゃ出発していくよ!」
「「「おー!」」」
「私たちも出発しますよ」
「「「「「おう!」」」」」
そうして待機組の紅焔さん達に見送られながら、成長体を探しに出発した。さて、無事に見つかると良いんだけどね。その為にも早速獲物察知を使っていこうじゃないか。
<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します> 行動値 73/78(上限値使用:2)
あ、夜目は必須だけど、魔法砲撃が発動したままになってたか。まぁ発動コストは低いしそのまま発動した状態でいいか。
それはそうとして範囲が広くなるLv5で発動したけど、成長体を示す細めの黒い矢印は見当たらない。……てか、ちょっと曇ってきて視界が悪くなってきたか。
「みんな、光源はいるか?」
「これはあったほうが良さそうです!」
「ハーレに同意かな。あと、もう少し高度を下げれないかな?」
「あ、ちょっと高過ぎたんだね。えっと、このくらい?」
「うん、これくらいかな」
サヤの要望により、4メートルくらいの高さを飛んでいたのを2メートルくらいに下げていった。
夜の日だから、上から見下ろして探すには高過ぎだったっぽい。さて、俺も要望通りに光源を用意しますかね。
<行動値上限を5使用して『発光Lv5』を発動します> 行動値 73/78 → 73/73(上限値使用:7)
<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 73/73 → 67/67(上限値使用:13)
結局、懐中電灯モドキを使う為に移動操作制御を発動する事にはなったか。まぁ必要なものだし、出し惜しむものでもないけどね。
とりあえず光の操作で進行方向の広範囲を照らすようにしておいて、視界を見やすくしておく。
でも夜の日に光源を使うと虫が集まってくる可能性があるから、そこは要注意か。
まぁ獲物察知でも分かるし、ハーレさんの危機察知にも反応するから大丈夫だろ。そもそも俺らの方がLvが上だから、それほど近寄って来ない可能性もある。
「ケイさん、獲物察知の反応はどうですか!?」
「んー、あちこちで戦闘してるっぽいのは分かるけど、目当ての成長体の反応はまだないな」
「すぐに見つかるほど簡単ではないよね」
「それもそうだけど、私は木の幹に擬態してる蝶とかが居ないかを確認していくかな」
「確かにその辺がいる可能性はありそうなのです!」
「あー、それは獲物察知には反応しないやつだもんな。擬態してそうなのはサヤとハーレさんに任せるわ」
「うん、任せてかな!」
「任されたのさー!」
今回はヨッシさんが移動の担当、俺は獲物察知に引っかかる成長体のチェック、サヤとハーレさんは擬態している虫……虫以外の可能性もあるけど、とりあえずその辺を担当して捜索だね。
あ、そういや樹属性と草属性の同時所持や、タケノコに関する情報を聞くのは中途半端になっちゃったな。
この辺は6時から調べてみますかね。どっちにしても黒の暴走種をフィールドボスに進化させた時の事について情報共有板で聞くつもりなんだし、その時に一緒に確認していこうっと。
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