第829話 2戦目の準備


 俺らよりLvが下だったのに地味に厄介な感じに進化したツバメを何とか討伐し終えた。

 あー、なんかさっきのツバメは地味に疲れた……。素早さには警戒はしてたけど、あんな行動パターンが出てくるのは全然想像してなかっしさ。


「おっしゃ! 次やるぜ、次!」

「……ザック、みんなの行動値と魔力値の回復が先」

「あ、そういやそうか! こりゃ失礼しました!」

「おい、ザック、根を振り回すな! トカゲとタケノコが死ぬぞ!?」

「おっと、悪い、肉食獣さ……あっ、根の操作が切れた」

「おいこら!?」

「ちょ、ザックさん!?」


 えぇ!? 俺らの戦闘中にザックさんがトカゲとタケノコをずっと捕まえててくれてたけど、このタイミングでそれってあり!?

 やばっ、受け止めないとこのままだとどっちも地面に叩きつけられて――


「危ないですね!? 『並列制御』『根の操作』『根の操作』!」

「エレイン、ナイスだ!」


 ふぅ、ザックさんに投げ飛ばされるような形になったトカゲとタケノコをエレインさんが無事にキャッチしてくれた。

 てか、よく見たら今の衝撃でぐったりして死に掛けてるトカゲがヤバそうだし、タケノコの見た目じゃ分からないけど思いっきりHPが危険水準ですがな!?


「……ザック、ここで死んだら色々と台無し。……そうなったら怒るよ?」

「おう、そりゃ確かにそうだな! 悪い、悪い!」


 今のはザックさんに悪気はないんだろうし、そもそもザックさんと翡翠さんが捕まえてきた2体だ。

 他人が持ってきたのを雑に扱うのは無しにしても、ザック自身が捕まえてきた敵であれば……微妙に釈然とはしないけど問題はない。いや、だからこそ翡翠さんからは直球での文句が言えるのか。


「……あまりどっちも保ちそうにないけど、何か回復アイテムを食べさせる?」

「もう進化させちまえばいいんじゃね? なんだかんだで、カリン達や肉食獣さん達は余裕あるだろ」

「紅焔の言う通りだな。俺はそれでもいいが、どうする? 無駄に回復アイテムを使うよりは進化させて回復させた方が早いのは間違いないぞ」


 ふむ、確かにここで回復アイテムを使って回復させたとしてもその後にフィールドボスへ進化させたら無駄といえば無駄だよな。

 俺は行動値は少ないけど魔力値は結構残ってるから、いざとなれば昇華魔法で支援も出来る。確実に休憩が必要なのは――


「はい! 私はまだ少しくらいならいけるのさー!」

「私はそんなに行動値は減ってないから大丈夫かな!」

「私と翡翠さんは……流石にちょっと無理だね」

「……行動値は少しはあるけど、魔力値は空っぽ」

「ま、ヨッシさんと翡翠さんはそうなるよな。俺も行動値は少ないから回復したいとこだけど、必要な場面があれば後方から昇華魔法なら使えるぞ」

「紅焔と僕は、ちょっと回復が必要だね」

「色々とぶっ放しまくったしなー」


 まぁ紅焔さんとソラさんは最前線でツバメの相手をしていたし、ヨッシさんと翡翠さんは言うまでもなく昇華魔法を使ったから魔力値が一切残っていない。

 サヤとハーレさんについてはまだ余力が残ってるみたいだから、この状況なら進化させてもいけるか?


「何人かは回復に専念した方が良さそうだけど、これくらいならいけそうだね。ザックさんもやる気みたいだし、やろうじゃないか」

「お、分かってんじゃんか、カリンさん!」


 ふむ、カリンさんのその意見に合わせて他のメンバーも頷いている。こりゃみんなやる気みたいだし、この一戦は任せますかね。

 それにしても何か妙な違和感があるんだけどなんだろ? 何かが欠けているような気がするけど……まぁ、それは後で考えるか。


「それじゃ今回は肉食獣さんに指揮を任せた! 俺らは襲ってこない限りは後ろでのんびりしとく」

「ま、状況的にはさっきのツバメの時とは逆の立場になるか。おし、指揮は任せとけ」


 特に誰からも異議が出る事もなく、次のフィールドボス戦の指揮は肉食獣さんがする事に決まった。

 まぁ灰のサファリ同盟から戦闘もがっつりやるという理由で分かれたモンスターズ・サバイバルのリーダーをやってる肉食獣さんは適任な役目ではあるよね。

 てか、よく考えたらさっきのツバメの時って、特に打ち合わせしてなかったのに俺が指揮になってた気がする。まぁ悪い事でもないし、いつもやってる事だから良いけどね。


「それじゃ進化させて2戦目をやっていくぞ!」

「えぇ、やりましょう」

「おっしゃ、それじゃ進化させて……って、誰が持ってる瘴気石を使うんだ?」

「今回のは僕らのPTが出すよ。構わないよね、肉食獣さん?」

「確かカリン達は瘴気石の持ち込みでの参加だったな。ちなみにどのくらいの強化具合の瘴気石だ?」

「いくつか溜め込んでるから、+10〜+14までは複数個あるよ」

「へぇ、結構持ってんだな!」


 とりあえず邪魔にならないように距離を……って、遠隔同調が発動したままじゃん!? 普通に何も考えずコケの視点で話してたけど、ちょっとした岩の上に核があったから視点の高さがロブスターと同じくらいで気付いてなかった。


 あー、もうすぐ時間切れで勝手に解除になりそうではあるけど、一応自分で解除しとくか。


<『遠隔同調Lv1』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 22/63 → 22/78(上限値使用:2)

<『遠隔同調』の効果による視界を分割表示を終了します>


 遠隔同調を切った事でコケの核がロブスターの背中へ強制的に戻されたね。……って、さっき感じてた違和感の正体はこれか。普段は見えてるロブスターのハサミが視界になかったのに気付いてなかっただけかい!

 いや、自分の事ながら流石にそれは気付けよ……。ちょっと思ってた以上にツバメの相手がしんどかったのかもしれないなぁ。うん、次のフィールドボス戦はじっくり休ませてもらおうっと。


 おっと、そんな余計な事をしている間にエレインさんが根下ろししている場所に集まって進化を始めようとしてるね。……うん、間抜けな事をしていたのには誰も気付いていなかったようである。よかった、よかった。


「ケイ、何か安心してるみたいだけど、どうしたのかな?」

「……いや、何にもないぞ?」


 くっ、今のサヤの聞き方だと声には出てなかったみたいだけど、何か仕草の方に出ていたか!

 よし、ここは逆転の発想だ。いつもこういう時には考えてる事を読まれるから、逆にそれを利用しよう。これ以上は詮索するなー。詮索するなー! これでどうだ……?


「……まぁさっきのツバメとの一戦はお疲れ様かな」

「そういうサヤも……って、基本的にハーレさんの足場として飛んでただけか。サヤ、次の一戦はよろしく!」

「あはは、まぁさっきの一戦は相性が悪かったかな。だから次は頑張ってくるね」

「私も頑張るのさー!」

「おう、ハーレさんも頑張ってこい!」

「はーい! サヤ、行こー!」

「あ、ハーレ、待ってかな!」


 そうして次の一戦も普通に戦うサヤとハーレさんは、エレインさんの元へと駆けていった。

 うん、さっきのサヤの言葉には少し間があったし、念じた事が通じたみたいだね。もしくは察してくれたと言うべきか。……それが良いのか、悪いのか、正直よく分からないけども。


「ケイさん、なんだか疲れてる?」

「あー、ヨッシさんもそう思う?」

「うん、ちょっとぼーっとしてたよね?」

「……何となく自分でもちょっとそんな気がしてる。正直に言えば、あのツバメの行動パターンでピンポイントで狙われるのは想定してなかったしさ」

「……ケイさん、今まで情報が無かった特性を相手にしたんだから、それは仕方ないよ?」

「ま、そりゃ翡翠さんの言う通りだな。……ちょっと油断してたとこもあった気もするし……」


 今まで黒の暴走種のフィールドボスと瘴気強化種のフィールドボスの違いとかは大して意識してなかったんだよな。……疲れてるというよりは、自分よりLvが低い楽勝なフィールドボスだと油断し切っていたところに、あんな風に翻弄されて地味に凹んでいたのかもしれない。

 一応黒の暴走種のフィールドボスとしては自然発生していた岩山エリアの土属性のドラゴンやカイヨウ渓谷の例の逃げまくるイカと遭遇してるけど、どっちも特殊例だと考えてた側面はあったしね。


 でも、さっきのツバメと戦ってみてそれが勝手な思い込みの可能性も出てきた。……詳細な検証は必要だけど、黒の暴走種がフィールドボスになった場合は、特殊な行動パターンが出てきているのかもしれない。


「まぁその辺は後で考えよう? ほら、進化が始まるよ」

「……トカゲとタケノコ組み合わせ、どう進化するか気になる」

「確かにそれは気になるな。……今は気分を切り替えますか」


 今、その辺の細かい事を考えていてもどうしようもないもんな。とりあえずこの辺の情報は6時を過ぎてから情報共有板を覗きにいって、みんなの見解を聞いてみよう。

 今までそういった情報が出てきていないって事は、ただ黒の暴走種をフィールドボスに進化させるのだけが条件じゃない可能性もあるしね。今思いつく限りでも、進化後のLvが条件という可能性は思いつくしさ。


 まぁ気分を切り替えるって言ったんだし、とりあえず今は目の前の状況に集中しようか。

 えーと、エレインさんが根で捕獲しているトカゲとタケノコを地面に置いて、カリンさんがその前に瘴気石を置いている。お、さっきまで弱り切ってたとは思えないくらいに暴れ出したね。


「あ、そういやどっちにどのくらいの強化した瘴気石を置いたんだ?」

「えっと、トカゲの方に+12で、タケノコの方に+11だって言ってたよ」

「……組み合わせ的には、トカゲがメインになるはず」

「その組み合わせだとそうなるだろうけど……具体的にどんな姿になるんだろうな」

「タケノコが角になってるとか?」

「……それ、ありえそう!」

「あー、確かにありそうだな。あ、表皮がタケノコの皮で覆われてるとかはどうだ?」

「キツネの背中がアルマジロの表皮で覆われて鎧みたいになったりもしてたし、それもあるかもね」

「……キツネとアルマジロでそうなるの?」

「キツネとアルマジロは実際にやったから間違いないな。お、進化が始まったぞ」


 俺とヨッシさんと翡翠さんで勝手にトカゲとタケノコの進化先の予想をしていたら、その間に既にどちらも瘴気石を食べた後で卵型の瘴気に包まれている状態になっていた。

 さて、さっきの予想が当たるか、それとも全く的外れな進化になるのか、この辺は合成進化でフィールドボスを誕生させる時の醍醐味みたいなとこはあるよね。


「あれ? そういや紅焔さんとソラさんは?」

「あ、そういえばいないね?」

「……紅焔さんなら、後ろの木々のところ」


 えっと、後ろと言われたからそっちの方向を見てみれば……紅焔さんが何か木に向かって掴み取ろうとしてるっぽい? ソラさんはそれを後ろで見守ってる感じだな。


「おっしゃ、成長体のクワガタ確保! いやー、ダメ元でも鷹の目を使ってみてもらうもんだな!」

「まぁこれで完全に行動値は空だけどね。それじゃ戻ろうか、紅焔」

「おう! ちょうど進化が始まるとこみたいだしな」

「あ、成長体が近くにいたのか」


 紅焔さんとソラさんの姿が見えないと思ったら、どうやら成長体の捕獲をしていたようである。

 一応6時になったら俺らのPTと入れ替わりになる人達や、この周辺で狩りをしている人達が成長体見つけたら提供してくれるという話にはなってはいる。

 だけど、自分達で空いている時に探すのが本来の予定だし、そういう意味では紅焔さんとソラさんはグッジョブだね!


「そろそろ進化が終わるぞ! 戦闘が始まったら、まずは俺が識別をする!」

「私の方で防御は受け持ちますので、危なくなったら木の影に来てくださいね」

「「「「おう!」」」」

「ザックさん、特攻して死なないようにね」

「今回は死んだ方が圧倒的に損っぽいから、やらねぇよ、カリンさん!」

「それじゃザックさんには毒を期待してるかな!」

「効く相手限定だが、そこら辺は任せとけ!」

「頼りにしてるのさー!」


 ふむふむ、みんなはそれぞれに気合が入ってるみたいだね。それにしてもザックさんは死んでいくのを前提に考えられてるけど、これが普段の行いというものか。

 ザックさんは何度も死にまくってデスペナで経験値が減ってる状態って言ってたし、普段から本当に死にまくってるんだろうね。まぁその経験値を補填する為に今回参加してるんだし、よっぽどの事がない限りは大丈夫かな?


「おし、間に合った! ほれ、お土産の成長体のクワガタだぜ」

「紅焔さん、成長体の確保はナイス!」

「次はこれを使ってやりたいとこだけど、もう1体は必要だけどな」

「って事は、このクワガタが瘴気強化種か。ま、それは後で考えるって事で」

「だなー」


 もうすぐフィールドボスの連戦の2戦目が始まるというタイミングで、この場を離れて成長体を探しに行く訳にもいかないしね。距離にもよるけど、下手に離れ過ぎたら経験値が入らなくなるからなー。


「そういえばケイさん達、さっきは面白そうな予測をしてたね」

「ソラさんならどう予測する?」

「僕かい? うーん、そうだね。それならトカゲの尻尾がタケノコになってるってのはどうだい?」

「おっ、そうきたか。そのパターンもあり得そうだな」

「ま、どれになっても面白そうだし、あと少しで進化も終わるから答え合わせといこうじゃねぇか」

「だなー!」


 紅焔さんが言うように、既に卵型の瘴気は薄れ始めて進化を終えようとしている。それに合わせて戦闘を行うメンバーには緊張感が走っていく。

 さーて、トカゲとタケノコがどんな風に合成進化をしてフィールドボスになるのか、その姿を確認していこうじゃないか。ここから先は戦闘の邪魔にならない程度に声は抑えめにしておかないとな。

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