第816話 月と海
今出ている進化先の確認は出来たし、とりあえずみんなのログインの状況を確認していくか。まずはフレンドリストを開いて……ふむ、サヤもヨッシさんもハーレさんもまだログインしてないね。
あ、紅焔さんとソラさんはいる。他には……刹那さんが2ndのヒトデでログイン中、アーサーと水月さんとかもチラホラとログインはしてるみたいだな。
今日はフーリエさんと模擬戦の約束をしてるけど、まだフーリエさんがログインしてないタイミングか。まぁもう少しすればログインしてくるとは思うけどね。
思ったより近くにいそうな人はあまり居なかったけど、この時間帯だと割と紅焔さんとソラさんとの遭遇率が高いんだよな。フレンドリストを見た限りでは2人とも森林深部にいるみたいだし、エンの近くにいる可能性もありそうだ。
よし、1人で何かをするには微妙な時間だし、エンのとこに行ってみますか。居なかったら居なかったで別に構わないし、その場合は模擬戦のダイジェスト映像でも見て時間を潰そうっと。
現在地は桜花さんの近くだし、エンの所まではそう時間もかからないから何も使わずに普通に歩いても良い距離ではある。その場合はヒノノコが崖を崩して道になった部分に行くか、崖を飛び降りる必要があるんだよなー。
そういや昨日はサヤ達が氷で滑り降りてたっけ。まぁ今は水のカーペットでいいか。
<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 79/79 → 77/77(上限値使用:3)
という事で、水のカーペットの展開して乗っていく。それじゃ出発!
そうして森の上に出たけど、前より月も欠けてきているから夜の日が少しずつ暗くなってるような気がしないでもない。まぁ曇りの日や雨の日よりかは遥かにマシだけど……そういや、月の満ち欠けってどれくらいの頻度なんだ? 今が半月くらいだし、リアルよりも周期は長めなのかもなー。
まぁリアルの1日がゲーム内では半日になってるんだし、リアル1ヶ月で満月から新月の満ち欠けかもね。海岸での干潮とかってどうなってるんだろ? うーん、後でまとめでも見てみるか、情報共有板でも覗いてみようかな。あ、でも地球基準で考えていいのか……?
「おや、ケイさんじゃないかい?」
「ん? あ、ソラさん」
おっと、考え事をしてたら後ろからタカのソラさんが飛んできた。まさかこのタイミングで遭遇するとは思わなかった。ソラさんが飛んできた方向を考えると、目的地はエンのとこか?
「何か考え事をしてたみたいだけど、どうしたんだい?」
「あー、ちょっと月を見てて潮の満ち引きってどうなってるんだろうなーって考えてたとこ。ソラさんは紅焔さんと合流?」
「そうだね、合流場所はまさしくエンさ。……普段は海岸の方には行かないから、それは気にした事がなかったね」
「だよなー。あ、合流するのに足止めするのもあれだし、俺もエンのとこまで行くから一緒に行く?」
「おや、それは良いけどケイさんの目的地もエンなのかい?」
「まぁなー。紅焔さんやソラさんがログインしてたから、遭遇するかもって思ってたとこ」
「あはは、その途中で僕と遭遇した訳かい!」
「そういう事になるなー」
とりあえずエンの元に向かって並んで飛んでいく。ま、ソラさんは紅焔さんとの合流が目的みたいだし、そんなに距離もないから潮の満ち引きについては辿り着いてから考えよう。
「そういえばケイさんの方は、みんなはどうしたんだい?」
「まだログインしてないけど、まぁもうちょっとすればログインしてくるとは思う。今日はこの後、模擬戦の約束をしてるんだけど、そっちもまだだから微妙な空き時間で暇でさ」
「あぁ、それは確かに絶妙に暇だね。何をするにしても中途半端になりそうだよ」
「そうそう、まさしくそんな感じ」
みんなのログイン待ちだから変に他の場所に移動してもすぐに戻ってくる事になるし、特訓するにしても流石に桜花さんのすぐ側は迷惑だろうしね。
あ、そんな話をしてる間にもうエンのすぐ近くまでやってきていた。まぁ近いからそうなるよな。
「おーい、ソラ! こっちだ、こっち! って、ケイさんも一緒か!」
おっと、エンから少し離れて人が少ない所で龍の手を振っている紅焔さんの姿がある。周りを見てみると昨日ほどは混雑してないけど普段よりは混雑しているから、分かりやすい位置で待ってたみたいだね。
「待たせたね、紅焔。ケイさんとはさっきそこで遭遇してね」
「おっす、紅焔さん!」
「おう、ケイさん!」
さて、とりあえずエンの元にはやってきたし、少しタイミングはズレたけど紅焔さんとソラさんと遭遇は出来た。まぁ特に何か用事があった訳でもないから、ここからどうするかなぁ……。
「紅焔、突然だけど海岸での潮汐について何か知らないかい?」
「潮汐? あー、そういやその辺はどうなってんだろうな。てか、いきなりどうしたよ、ソラ?」
「いや、さっきケイさんが気にしてて、僕も気になってね」
「おっ、ケイさんが気にしてたのか!」
「ちょっと月を見てたら気になってな」
「あー、月か。なるほどなー」
ちょうせきって……あ、潮汐って潮の満ち引きの事か。一瞬どういう意味なのか出てこなかったー! 海辺の町に住んでる訳じゃないし、普段の生活で使う事ってないもんな。うんうん、だから今のは仕方ない!
「おし、俺もそれは気になるから少しまとめを見てみるか!」
「確かに気になるところだしね。それは賛成さ」
「えーと、俺が言うのもなんだけど、2人ともこの後の予定とかは?」
「ん? 特に決まってねぇよ?」
「適当にブラつこうとしか決めてなかったからね」
「あ、そうなんだ」
特にこれからの予定が決まっていないというのであれば、その辺は問題はなさそうだね。俺の方も……改めてフレンドリストを確認してみたけど、サヤ達もフーリエさんもまだログインしてないか。
よし、そういう事ならこのゲーム内での潮の満ち引きがどうなってるか、まとめで確認していこう!
「お、あったぞ!」
「って、早!?」
「……もう終わりかい?」
「そう言われても、すぐに見つけたもんはしゃーないだろ……。えーと、朝の6時から夜の18時までにかけて引き潮で、その後から翌日の朝6時までかけて満ち潮だとよ。リアルみたいに日によって違うって事は無いそうだ」
「へぇ、そこは固定なんだ。まぁ流石に潮見表を作るのは勘弁願いたいし、妥当なところだね」
ふむふむ、確かリアルでは潮の満ち引きって1日2回だったような気もするけど、ゲーム内では1回……いや、厳密にはゲーム内の1日はリアルでの2日だから、リアル基準で考えれば良いのか。この辺はゲーム的な都合に合わせて設定されてそうではあるね。
「一応、満月の時に比べると変化があるそうだから、大潮とか小潮とかの区別はあるっぽいな。今は半月くらいだし、小潮か」
「……紅焔さん、地味に詳しいな」
「あー、リアルの知り合いに潮干狩り好きがいるもんでなー」
「へぇ、そうなんだ」
紅焔さんの知り合いにそういうのに詳しい人がいるなら、こういう知識を持っているのには納得だね。ふむ、今の情報で考えてみると今は引き潮だから干潮に向かっている時間帯という事か。
「そういう情報があるって事は、影響があるエリアもあったりするのか?」
「おう、あるみたいだぜ。ここに流れてる川の河口が干潟エリアだとさ」
「え、マジで!? あの川の河口が干潟!?」
「へぇ、それは興味深いね」
うわー、コケのみの時に水を確保しに行ったり、魚に食べられたりしたあの川の河口が干潟なのかー! 干潟ってあれだよな、普段は海の底だけど干潮になると海底が出てくるとこ。
でもあの川って赤の群集のエリアの先だからなぁ……。まぁ別に通ったらいけない訳じゃないし、行こうと思えば行ける!
「ん? あ、面白い情報があるぞ!」
「お、どんなの!?」
「紅焔、どういう内容だい?」
「これ、前の満月……まぁ大潮の時の目撃情報らしいんだが、干潟に貝の敵が大増殖してたらしい。ただ、敵が未成体で強過ぎて手も足も出なかったみたいだし、その時にはまだ到達してる人が少なくて目撃情報自体が少数らしい」
「へぇ、そんな要素があったんだね」
「逆に今の小潮だと、敵の活動が緩やかになって一般生物の魚や貝が採りやすいらしいぞ。ま、干潟の範囲は狭くなるらしいがな」
「ほほう?」
一般生物の魚や貝が採りやすいというのはハーレさんが喜びそうな情報ではあるけど、まぁテスト期間まではLv上げに集中したいしなー。……まぁ次の土日にずっとLv上げのみってのもあれだから、息抜きに潮干狩りも良いかもしれない。
それにしても月の満ち欠けを見て何気なく思った潮の満ち引きだけど、まさかそんな要素があったとは……。そうなると次の大潮がいつかが気になるけど、前に満月を見たのは……いつだったっけ?
「紅焔さん、前の満月の日付っていつか書いてたりしない?」
「えーと、それは6月8日だな。リアル1ヶ月で満月から新月になる感じっぽいし、次に同じような事が起こるとしたら新月でも大潮だから7月8日辺りか?」
「お、嬉しいタイミングじゃん!」
今日が6月23日で、テスト期間が7月6日までだから、地味に結構良いタイミングじゃないか! 問題は適正Lvが分からないという所だけど、そういう時期によるボーナスエリアが1ヶ所だけとも思えない。
ふっふっふ、これはテスト期間明けのLv上げをする場所の候補になり得るかもしれないね。
「ケイさん、嬉しいタイミングってどういう事だい?」
「あー、ちょっと来週頭から10日くらいログイン出来ないんだよね」
「そういやケイさん達はアルマースさん以外は学生だったよな。この時期ならテスト期間ってとこか?」
「ま、そんなとこだなー」
「真面目だなー、ケイさん。俺はテスト勉強を放り投げて遊んでたけどな」
「そういう所は紅焔らしいね」
「ソラはどうなんだよ!?」
「僕かい? それは内緒さ」
「おーい!?」
なんというかこの会話を聞いている限りでは紅焔さんは俺より年上で、高校は既に卒業済みって感じがするね。ソラさんに関しては……うん、ぶっちゃけよく分からん。紅焔さんとソラさんはリアルで知り合いって訳でもなさそうだけど……ま、あんまりリアルの年齢を考えるのはやめとこう。
俺らについてはそれなりに不在になっちゃうから、そこだけは伝えておきたいんだけど、タイミング的に学生って事はバレるよな。まぁこの程度の情報なら無理に伏せる気も無いから別に良いけど。
「そういや潮の満ち引きがあるって事は、どこかにマングローブとかがあったりする?」
「あー、それは確かにありそうだな」
「でも、熱帯系の植物の出現するエリアってあったかい?」
「……ぶっちゃけ知らないとこの方が多いしな。こっちも調べてみるか?」
「……そうだね、この際だし調べておこうか」
「気になるところだしなー!」
という事で、さっきはあっという間に紅焔さんが見つけてしまったけど、今回は俺もまとめを見て確認していく。
えーと、熱帯系のエリア、熱帯系のエリア……。うーん、それっぽい情報は全く見当たらない。地味に青の群集の『涙の溢れた地』から再び川になった先にある河口も干潟エリアだという事と、灰の群集の草原エリアの近くにも干潟エリアがある事が分かったくらいである。
「こりゃ、今行けるエリアの中には無さそうだな」
「そうみたいだね。まぁそのうち、新エリアの解放も予定されているみたいな事は見た覚えはあるし、そこで追加じゃないかい?」
「確かにそれはありそうだよな!」
今のマップでも一部は無限ループになって、その先には進めないという場所もあるというのは見た事がある。それにオンラインゲームなんだから、新マップの追加というのは目玉のアップデート内容ではあるもんな。
もし新エリアが追加されるとしたら、夏休み辺りに夏のアップデートという形で行われそうな気もするよね。まぁ絶対にあるとは言い切れないけど。
「あ、ケイさん!」
「ん? あ、フーリエさん、ログインしたんだな」
「はい、今ログインしたところです!」
「それならちょうど良い場所にいたっぽいな」
「連絡や探す必要がなかったのはありがたいです!」
「ま、そうだよな」
待ち合わせ場所を決めて合流する必要もなく、すぐにこうして揃ったんだから都合はいいよね。……それにしても緑色の細長いコケの塊で前進しているのが不思議な感じだなー。
まぁヘビとの融合種だけど、ヘビ感が薄いのは俺としてはありがたいとこだ。うん、ヘビが苦手だからって変に避けずに済むしね。
「フーリエさんっていうと、あれか。ケイさんの一番弟子って話題のコケの人か」
「はい、そうです!」
「あれ、そんな話題になってんの!?」
「僕は何度か聞いた事があるよ」
「もちろん俺もだぜ!」
「……あの、ケイさんには迷惑でしょうか?」
あー、そういやハーレさんは昨日の俺らが開催したトーナメント戦の実況の時にフーリエさんを俺の弟子と紹介してたし、桜花さんからもフーリエさんは俺を目標にしてるとも言われたもんな。
「俺とフーリエさんでは育成方向が全然違うけど、まぁそれでも良ければ弟子でもいいぞ」
「っ!? はい、それで構いません! ケイさん、ありがとうございます!」
「……なんかこれはこれで、むず痒いなぁ」
まぁでも、ここまで俺を目標にして慕ってくれているのは純粋に悪い気はしない。うん、この後にやる模擬戦では名実ともに師匠になった以上は、可能な限りアドバイスをしながら鍛えようじゃないか!
そういやサヤ達もそろそろログインした頃か? とりあえず確認の為にフレンドリストを開いて……うん、3人ともログインをしているね。今は森林深部……ちょっと待て、今3人がいる位置って……!?
「やっぱりか!?」
「あ、バレたかな」
「……あはは、ケイさん、こんにちは?」
「フーリエさん、正式に弟子入りおめでとうなのさー!」
「ハーレさん、ありがとうございます!」
うん、背後を振り向いてみればなんか近くの木の影に隠れて、また思いっきりみんなで覗き見ていたようである。別に悪い事ではないから良いけどさ、普通に声をかけてくれません!?
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