第754話 海での討伐作戦 その2


 アンモナイトの誘導役であった招き猫さん達は、かなり壮絶な攻撃を掻い潜りながらアンモナイトを作戦の実行場所まで連れて来てくれた。


「ヨッシさん、ライルさん、拘束をやっていくぞ! まずは俺からやるけど、どれだけ保つか分からないからすぐに対応出来るように頼む!」

「了解!」

「えぇ、分かりました!」


 もう真下まで移動してきているアンモナイトを拘束する為に行動を開始していく。アルは攻撃しないようにって考えてたけど、さっきアンモナイトのアースボムの迎撃に動いてて大丈夫かな……?

 いや、ここはどういう理由であっても狙われる危険性はあると考えて動いた方がいいな。成熟体については分からない事が多いんだから、油断は即命取りになる。


「アルは行動を控えめにしつつ、みんなが死んでもリスポーン出来るようにしといてくれ! いざって時はクジラを盾に凌ぐ感じで!」

「おうよ! そういやライルさんはその辺は大丈夫か?」

「……拘束を行うのでかなり危ないでしょうね。ですが、流石にここでは木のリスポーン位置の設定は出来ませんのでどうしようもないですよ」

「ソラ、カステラ、辛子! ライルが狙われたら死んでも守り切るぞ!」

「「「了解!」」」

「任せましたよ、皆さん!」


 俺らの方も紅焔さん達の方も絶対安全とは言えない対応策ではあるけど、一応の準備は完了だ。さてと、このまま真下にいるアンモナイトの拘束をしていかないと招き猫さん達を追いかけていくだろうから、手早く行動をしていかないとね。


 とりあえず俺は速攻、飛行鎧を駆使して海中へと飛び込んでいく。俺が飛び込む直前にライルさんとヨッシさんは三角形の配置になる様に移動をしていた。

 そして紅焔さんの背の上にカステラさん、ソラさんの背の上に辛子さん、サヤが大型化させた竜に跨って飛びつつ、ハーレさんは竜の頭の上に乗っている。アルはそのままの位置で待機という感じだな。


 とにかく海中に飛び込んだからアンモナイトの拘束をしていくか。てか、1メートルくらいあるアンモナイトって結構迫力があるなーってそんな事を考えてる場合じゃないな。……さて、成熟体相手にどこまで通用するものか……。


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 65/66(上限値使用:12): 魔力値 213/216

<行動値を19消費して『岩の操作Lv4』を発動します>  行動値 46/66(上限値使用:12)


 よし、これでアンモナイトの巻き貝部分……この表現で合ってるのかよく分からないけど、とりあえずその部分を岩で固め……って、うわっ!? 拘束したら思いっきり暴れてる!?

 くっ、魔法型なのに思った以上に暴れる力が強いぞ、これ。いや、だからと言って今更中断とか出来るか! 強引に暴れるのを抑え込んで、海上まで持ち上げるしかない。


「おっらぁ!」

「ケイ、ナイスかな!」

「サンキュ、サヤ。ライルさん、ヨッシさん、予想以上に暴れ方が凄いから気を付けてくれ! これ、操作時間がどんどん削られてる!」

「……やっぱり成熟体は甘くなさそうだね」

「了解しました。いつでも再度拘束出来るように待機しておきます」


 まぁ予想以上の暴れ方ではあるけど、とりあえずアンモナイトを海上に上げる事には成功だ。拘束で思った以上に操作時間が削られているのはしっかり伝えておかないと、後々の失敗に繋がりかねないから情報共有はしっかりしておかないとね。さて、このままアンモナイトが単純に暴れるだけとも思えないし、その辺の対応も必要だな。


「おっし、それじゃ俺らはアンモナイトの気を逸らすぞ! 魔法型なんだし、物理攻撃の方が気を逸らしてみるか」

「紅焔、まずは僕が行くよ」

「おし、カステラに任せた! 移動は俺の方でしていくぞ。『自己強化』『高速飛翔』!」

「移動はよろしく、紅焔。それじゃ行くよ。『魔力集中』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』『連強衝打・風』!」


 おっ、紅焔さんがカブトムシの角で緑色を帯びた銀光を放つカステラさんをアンモナイトのすぐ近くまで連れていき、カステラさんがアンモナイトの巻き貝部分を盛大に叩いていく。

 銀光の強弱が発生しているからLv2以上での発動みたいだけど、アンモナイトのHPは全然減ってねー!? ……進化階位の差は絶対的な力の差があるのは分かってたけど、ここまでの差があるのか。あ、でもアンモナイトが拘束から逃れようと暴れているのが少し収まった……?


「ケイさん、少しでも効果はある?」

「ちょっと拘束に対する抵抗が軽くなったから、効果はあるっぽい」

「よし! それなら、このまま!」


 あ、やばい!? アンモナイトの触手が、カステラさんに向けられていってる。これって、もしかしなくても魔法砲撃か。ちっ、少し操作時間が短くなるけどアンモナイトがカステラさんを狙い撃つ前に岩の操作で少し方向をずらし――


「カステラ!」

「紅焔!? 何をするのさ!」

「よく見ろ、カステラ!」

「……え? もしかして僕、危なかった?」

「もしかしてじゃなくて、完全にヤバかったな」

「……紅焔、ありがとう」

「なに、気にすんな」


 ふー、何とかカステラさんが撃たれる前に紅焔さんが回収してくれた事で何とかなった。魔法砲撃で放たれているアースバレットも紅焔さんが華麗に回避している。

 ふむふむ、ちょっと注意は必要ではありそうだけど意識を逸らす事は可能ではある……って、ちょっと待てー!? カステラさんと紅焔さんへのアースバレットの射出が終わった瞬間に、またさっきまでと同じように暴れだしたんだけど!?


「ライルさん、拘束準備を頼む! これ、意識を逸らせるのは攻撃してる最中だけっぽい!」

「どうやらそのようですね……。私はいつでも構いませんので、ケイさんのタイミングで解除してください」

「時間切れで解除になるよりはそっちの方がマシか! 解除するぞ、ライルさん!」

「お任せください。『アースクリエイト』『岩の操作』!」


 よし、俺の拘束はあっという間に解除されてしまったけど、ライルさんが即座に引き継いでくれた。……でも、これは思った以上に厳しいな。さて、どう対応していくか。


「とりあえず攻撃をしていればその分だけ意識は逸らせるなら、それをやっていくまでかな!」

「そうなのさー! 次は私がやるのです! 『魔力集中』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』『連速投擲・風』!」


 ん? ハーレさんの投擲は思いっきり命中しているのに、さっきのカステラさんの攻撃と違って全然様子に変化がない。っていうか、完全にハーレさんは無視されているっぽい。


「……え、どういう事かな?」

「何で私のは無視なのさー!?」

「これ、もしかしてLv2以上の応用スキルじゃないと相手にすらされないんじゃねぇのか……?」

「うー!? アルさんの推測がありそうなのです!」

「……あり得そうな話だな」


 うん、冗談抜きで既に他の行動に対して反応している成熟体の意識を逸らすにはそれくらいの事は必要な可能性は充分あるな。

 そうなると使える手が限られてくるから、かなり厄介だ。俺らのPTだとサヤの爪刃双閃舞とハーレさんの爆散投擲くらいしか有効打がない……。他に可能性があるとしたら昇華魔法……いや、それだけとは限らないか?


「……これは本当に操作可能時間の消費が激しいです……え?」

「ライル! 『並列制御』『ウィンドウォール』『ウィンドウォール』!」

「辛子!?」

「……予め言ってたとはいえ、無茶をするね、辛子はさ」


 くっそ! ライルさんの拘束が破壊されたかと思ったら、間髪を入れずにアンモナイトがライルさん自身をアースバレットで狙ってきやがった。しかも今回は魔法砲撃ではなく8発の小石の同時射出になっていて、咄嗟にソラさんの背中から飛び降りでライルさんを庇ってポリゴンとなって砕け散っていった。

 やばい、思った以上にアンモナイトの魔法の威力が高過ぎる。複合魔法でウィンドプロテクションになってた辛子さんの魔法もあっさり貫通していた……。いや、今は呆けている場合じゃないだろ!


「ヨッシさん、急だけど拘束を頼む! サヤ、ハーレさん、ヨッシさんを守れ!」

「……あ、りょ、了解! 『アイスクリエイト』『氷塊の操作』!」

「サヤ、ヨッシを守るのさー! 『並列制御』『散弾投擲・風』『散弾投擲・風』!」

「……それしかなさそうかな! 『略:自己強化』『魔力集中』『爪刃双閃舞』!」


 とりあえずサヤが竜に乗って飛び回りながらヒットアンドアウェイで強弱のある銀光を放つ連撃で斬りつけつつ、ハーレさんはアンモナイトからのアースバレットを散弾で威力を削いでいる。まぁ完全に防げてはいないので、サヤの回避の補助って感じだけど今回はアンモナイトの気を逸らす事には成功しているね。

 でも、これは結構厳しい戦いになりそうだな……。ちょっと成熟体を足止めするという事を甘く見過ぎていたか……?


「あー、もう1回目死んだか……。分かってはいたけど、きっついな、これ」

「……助かりましたよ、辛子」

「いやいや、気にすんな。ライルに死なれるのが一番厄介だからよ」

「まぁそうなるね。……さて、思った以上に厳しいけど、ケイさんどうするんだい?」


 うーん、実際問題、これはどうしたもんかな。……Lv2以上の攻撃の応用スキルを叩き込まないと拘束はあっさり破られるとなると、もっと人手を増やした方が良いか?

 今なら遊撃のベスタと風雷コンビもいるから人員補充自体は可能ではあるけど、伝達役をしているベスタに参戦をしてもらうのはもう少し温存しておきたい。……イカが来るタイミングが分かり辛くなるし……。


「ケイ殿、ケイ殿」

「ん? 刹那さん、どうした?」

「拙者、断刀と連閃のどちらもLv2にはなってるであるよ」

「俺も砲弾重突撃ならLv2だぜ。ソラと紅焔はLv2の攻撃系の応用スキルはないが、それ以外は忘れてもらっちゃ困るっての!」

「……悪い、ちょっと冷静さを欠いてた。刹那さん、自力で空中戦は行けるか?」

「纏風を使えば問題ないのである。そこは任されよ!」

「……よし、分かった。俺らが拘束してる間は、Lv2の応用スキルの再使用時間が過ぎた人で交代しつつアンモナイトの気を逸してくれ。回避は刹那さんだけは自力でやってもらう事になるけど、他の人は一緒に組んでる人に移動を任せる感じで頼んだ!」


 そこまで言い終わればみんなは納得するように力強く頷いていた。ふー、ちょっと冷静さを欠いてしまっていたけど、刹那さんのお陰で少し冷静になれた。そうだよ、紅焔さん達や刹那さん達にも手の内はあるんだから、そこもしっかり把握して対応していかないとね。


「ケイさん、ごめん! そろそろ無理!」

「ほいよっと!」


 何とか方針を立て直している間にヨッシさんの氷塊での拘束が限界に来ているようである。拘束が途絶えると海中に戻ってしまうから、すぐに再拘束をしてしまわないと……。

 それにしてもアンモナイトは海中ではないのに元気だな。タコとか陸上でも動いたりするし、そういう感じでそれなりの時間は平気なのかもね……。


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 48/66(上限値使用:12): 魔力値 212/216

<行動値を19消費して『岩の操作Lv4』を発動します>  行動値 29/66(上限値使用:12)

 

 よし、とりあえずこれでヨッシさんの拘束が破壊されたけど、再び拘束をし直す事が出来た。とはいえ、この早さで拘束を破壊され続けると応用スキルの再使用時間や行動値の回復時間が不安になるね。

 養分吸収で行動値の回復速度を上げて……いや、俺だけ回復速度が上がってもライルさんとヨッシさんの回復速度が上がらないとどっちにしても追いつかない。何か拘束の破壊をしにくくする方法でもあれば良い……ん? あれ、ちょっと待って。手段はあるかもしれない!


「ベスタ、風雷コンビを貸してくれ!」

「ほう? 呼んでくるから少し待ってろ」

「何か作戦あるのであるな!? その時間は拙者が稼ぐのである!」

「刹那さん、任せた!」

「任されたであるよ! 【我が身を纏うは大いなる風! 一重之太刀・乱れ風!】」


 海面で小石の上に乗って俺らの様子を伺っていたベスタが、海中から出てきていない風雷コンビを呼びに行ってくれた。その間に纏風をして空中へと飛び上がった刹那さんが緑色を帯びた銀光を放つ連続斬りでアンモナイトを引きつけてくれている。


「刹那さん、頑張れー!」

「サヤ、あれは真似出来そう?」

「……やり方自体は真似は出来るけど、竜に乗った状態では少し不安が残るかな?」

「要するに足場の問題?」

「うん、そうなるかな。しっかりした足場なら出来るとは思うけど……」

「……まぁ地面の上とは勝手が違うよね」

「その辺は私がフォローするのです!」

「そこはよろしくかな、ハーレ」


 サヤ達が刹那さんの戦い方を見てそんな風に話していたけど、どうやら刹那さんは連撃の合間を可能な限り空けて引き付けれる時間を伸ばしてくれているみたいだね。

 それでいてアンモナイトの反撃のアースバレットも回避したり、正面からはぶつからないように角度を合わせて斬り落としているのも凄いな。……刹那さん、近接は相当強いんじゃないか?


 さて、刹那さんがアンモナイトの注意を引きつけてくれているお陰で、俺の拘束は比較的負担が少なく済んでいる。……この間に素早く対応策を打っていかないとジリ貧になりかねないな。

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