第734話 狙っていたスキル


 俺が生成した岩の上にアルがキツネとアルマジロを拘束した状態で置いていき、ヨッシさんがその前に瘴気石を置いていく。さて、これでフィールドボスの誕生の下拵えは完了で、ここからはタイミングとの勝負だな。


「アル!」

「おうよ!」


 そうしてアルが巻き付いていた根を緩めて、解放されたキツネとアルマジロはどちらも瘴気石を食らっていく。そして互いに引き寄せられて禍々しい瘴気に包まれていった。さーて、これでフィールドボスへの進化が始まったぞ。


 でも、まだ岩の操作を解除するのは早い。岩の操作を解除して消滅させるのはフィールドボスへに進化が終わるその瞬間を狙わないとね。みんなもそれは分かっているようで、無言で進化の様子を伺っている。


「ケイ、先に準備しとくぞ! 『水流の操作』!」

「私も準備に入るかな!」

「おうよ!」


 アルが湖の水で水流を作り、サヤがその中へと飛びこんでいく。さてと、そろそろ瘴気の膜が薄れてきたから、仕掛けるタイミングはもうすぐだ。……まだちょっと早い。……もう少し。


<ケイが規定条件を満たしましたので、称号『大きな湖の強者を生み出すモノ』を取得しました>

<スキル『水属性強化Ⅰ』を取得しました>

<ケイ2ndが規定条件を満たしましたので、称号『大きな湖の強者を生み出すモノ』を取得しました>

<スキル『水属性強化Ⅰ』を取得しました>


 よし、狙っていた『水属性強化Ⅰ』の取得は成功! そしてこのタイミングが狙いどころだ!


「今だ!」

「アル、やるかな! 『連強衝打・土』!」

「おう!」


 進化を終えたキツネの背中の部分が、アルマジロの鱗のような外皮が鎧のようになっている姿が薄っすらと見えた瞬間に岩の操作を破棄して消滅させていく。

 そこにアルの水流とその中にいるサヤが進化したキツネのに向かって銀光を放つ連続打撃を加えて、水中へと追い込んでいった。さぁ今回のフィールドボス戦が本格的に開幕だ!


<行動値上限を4使用して『発光Lv4』を発動します>  行動値 53/77 → 53/73(上限値使用:5)

<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 53/73 → 53/67(上限値使用:11)


 まずは水中での移動手段が必要だから飛行鎧を展開して、今回は暗い湖の中だし背中のコケを発光させて懐中電灯モドキも使用していこう。とはいえ、発光Lv5は眩しすぎるからLv4にしておいて、周囲を全体的に照らすように光を操作しておこうっと。

 さて、アルの水流に押し流されつつ、流れの中でサヤがぶん殴っているところだろうけど、俺らも水中へと移動していこうじゃないか。ふっふっふ、水中から出しはしないぞ、キツネ!


「アル、適度なとこで水流は解除して、ハーレさんとヨッシさんを連れて潜ってきてくれ!」

「おう、了解だ!」

「了解!」

「潜ったらすぐに投げるので良いですか!?」

「おう、それで良いぞ!」

「了解なのさー!」


 とりあえずこれで攻撃の手順も決まったから、アルが水流の操作を使っている間に俺とサヤで攻撃を畳み掛ける! あ、その前に識別が必要だけど、まぁまずは水の中に飛び込んでいこうっと。


「それじゃ俺は先に行ってくる!」

「おう! ケイ、無茶はすんなよ!」

「ま、死なない程度には抑えるって!」


 そうして俺も湖の中へと飛び込んでいく。……アルの水流に乗ってもいいけど、飛行鎧なら一気に加速しても問題はないからそっちでいくか。


「追撃を行くかな! 『連閃・土』!」


 おっと、既に水中では水流から抜け出したアルマジロの甲殻っぽい鎧を持つ赤いキツネとサヤが攻防を始めているようだね。

 ふむ、パッと見た感じではキツネの動きは水の中という事で鈍いけども、アルマジロの鎧で攻撃を受けていてサヤの攻撃が思ったほどダメージにはなってないのか。こりゃ特性に堅牢とかがありそうだな。


 それにしてもこの湖の中は、一気に深くなっている位置の手前っぽいな。これは、この位置のまま戦うか、更に深いとこまで落としてしまうか悩みどころだね。……うーん、更に落とした方がキツネにとってはより不利に出来るか?

 でも、この辺の深い場所ってちょっと自信はないんだけど、成熟体のアロワナがいたとこな気もする。……変に成熟体に近付くのも危険かもなー。


「サヤ、俺が識別するからもう少し抑え込めるか?」

「とりあえず問題はなさそうかな!」


 あ、そうサヤが返事をすると同時にキツネが口から火の弾を3連発で吐き出したけど、周囲に水によってあっという間に消えていった。……うん、思っている以上に水中での火魔法は役に立たないっぽいね。


「アル、水流はもう良いから潜ってきてくれ!」

「おうよ! 行くぞ、ハーレさん、ヨッシさん!」

「了解! ハーレ、万が一にも不発にならない様にしておくよ。『アイスクリエイト』『氷の操作』!」

「ヨッシ、ありがと!」

「『略:自己強化』『略:重突撃』!」


 えーと、見えないからはっきりとは分からないけど、アルが突撃しながら潜ってきつつ、その余波でハーレさんがチャージ中の爆散投擲が不発にならないようにヨッシさんが保護をしてる感じか。ハーレさんが小さいから氷の操作だけでも問題はないみたいだね。

 ま、そこはみんなに任せて、俺はこのキツネの識別をしていこう。水の中から出す気はないけど、情報は多い方が対処はしやすいもんな。……てか、水の中にいるからか、キツネのHPが微減しているね。


<行動値を4消費して『識別Lv4』を発動します>  行動値 49/67(上限値使用:11)


『豪傑硬鎧火ギツネ』Lv19

 種族:黒の瘴気強化種

 進化階位:未成体・黒の瘴気強化種(硬鎧強魔種)

 属性:火

 特性:豪傑、堅牢、魔法強化、硬鎧


 え、ちょっと待って! このキツネの特性に合成がないって事は、最適化の変異進化が発生してるやつか!? くっ、地味に硬鎧とか知らない特性もあるし、相性が良い組み合わせだったって事かよ!


「ケイ、どうしたのかな!?」

「あ、悪い! そのキツネは『豪傑硬鎧火ギツネ』で、属性は火、特性は豪傑と堅牢と魔法強化と硬鎧だ! 合成種じゃなくて、最適化の変異進化をしてるっぽいから気をつけてくれ!」

「……硬鎧に最適化の変異進化なんだね。随分とダメージの通りが悪いと思ったけど、それが原因かな! 『強爪撃・土』!」


 あ、サヤの爪がアルマジロ要素の鎧みたいなのに弾かれた!? なんというか、今回のフィールドボス戦は種族の選択を色々と誤った気がする。……最適化の変異進化が発生する組み合わせは敵としては良くないな。

 とは言っても、事前に予想が出来た訳でもないし、倒せないと決まった訳ではないか。キツネの背中部分を鎧が覆っているけど、それ以外の場所は守られてはいない。堅牢の特性はあるとはいえ物理の攻撃系の特性はないし、狙うべきは鎧がない部分ってとこだな。


「ヨッシ、もういいよー!」

「了解! いっけ、ハーレ!」

「いっくよー!」


 そして猛烈な勢いでキツネに目掛けて突進してくるアルのクジラの背の上から、ハーレさんの眩い銀光を放つ爆散投擲が炸裂した。よし、直撃! ……って、これもアルマジロ要素の鎧に阻まれてダメージはそんなに入ってないな。


「ちっ、思った以上に硬いじゃねぇか! てか、逃がすかよ!」


 お、ハーレさんの爆散投擲を受けたキツネが慌てる様に水面に向かって泳ごうとしていたけど、それを遮るようにアルの突撃が炸裂した。でもキツネは鎧で突撃を受けていてHPが全然減ってねー!?

 あ、でもそのまま勢いでアルがキツネを湖底へ押し潰した状態になって、キツネが苦しそうに暴れながらジワジワとHPが減りだしたな。予想外に良い感じの進化をしたけども、エリアとの相性は最悪で窒息状態になったようだね。ふっふっふ、火属性で水中は苦手という狙いそのものは大正解だった!


「ただ解除するのも勿体無いし、えい!」

「……お、切れそうな感じ? あ、そうでもないか」

「……少しだけ刺さったけど、すぐに解かされたね」


 ふむ、ヨッシさんがハーレさんの保護に使っていた氷をナイフの形に変えてキツネの腹部を狙っていたけど、触れた瞬間に氷のナイフは解けてしまっていた。

 うーん、火属性と氷属性ではやっぱり相性が悪いね。ま、逆に言えば俺の水魔法が相性抜群って事だけどな!


「アルとサヤに攻勢付与をかけるから、2人で挟み撃ちをしてくれ! キツネの動きは俺が止める!」

「ケイ、スキルは何がいいかな?」

「サヤは爪刃双閃舞をLv3で、アルは激突衝頭撃! そんでアルが鎧側からふっ飛ばして、サヤが腹部を狙ってくれ!」

「行動値はぎりぎりだけど分かったかな!」

「一気に弱点を狙っていく訳か。付与魔法をかけ終わるまでは、このまま押さえとくぞ」

「おう、よろしく!」


 さて、防御は硬いけど魔法型のキツネだし、アルのクジラに潰された状態から逃げられるとも思わないから、このまましていれば窒息で仕留めきる事も可能な気はする。でもちょっと時間がかかりそうだし、なによりそれじゃ面白みがないからな。

 弱点を狙ってはいくけど、しっかりと戦闘で倒していかないとね。それにフィールドボスの変異進化の条件がイマイチ不明なので、ここで水中に対応する更なる変異進化をされても困る。……まぁ環境への適応は、何度も死んで適応進化が発生するのが条件だから大丈夫だとは思うけど、万が一があったら困るからね。


 とにかく今はササッと付与魔法をかけてしまおう。サヤへの付与の方が本命ではあるけど、この場合は手数が多い方がいいもんな。まぁこれで削りきれるとは思えないけど、そこからはヨッシさんとハーレさんに行動値の回復時間を稼いでもらおう。


<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』を発動します> 行動値 42/67(上限値使用:11): 魔力値 192/216

<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』を発動します> 行動値 35/67(上限値使用:11): 魔力値 171/216


 よし、これでサヤのクマとアルにクジラに水の攻勢付与はかけ終わった。水中だから少し分かりにくいけど、ちゃんと3つの水球がそれぞれに漂ってるね。それじゃ次はキツネの捕獲をしていこうか。


「アル、キツネの上から退いてくれ。岩で固める!」

「おうよ。んじゃ俺はチャージしていくぜ。『激突衝頭撃』!」


 さて、これでアルとサヤの応用スキルに俺の付与魔法での追撃が発生するようになった。って、押し潰された状態から解放されたら、すぐに水面に向かって泳ぎだすんかい! いや、まぁそりゃそうだろうけど、逃がすか!


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 34/67(上限値使用:11): 魔力値 168/216

<行動値を19消費して『岩の操作Lv4』を発動します>  行動値 15/67(上限値使用:11)


 ふっふっふ、逃げようとしていたキツネを岩で固めて捕獲完了っと。えーと、そのまま全身を固めたら効果が薄くなるから、キツネの前後の脚をそれぞれに固め感じにしよう。1つの塊の岩である必要があるから、前脚と後ろ脚の部分が繋がるようにアルマジロ要素の鎧の側面に沿うようにして……よし、これで良い。


 そしてサヤのいる側にキツネの腹部を、アルのいる方向にキツネの背中部分を向けておいてっと。俺が岩で拘束はしてるけど、逃げ道を徹底的に塞いでいくまでだ!

 お、アルのクジラの頭部が眩い銀光を放っているし、チャージも終わったみたいだね。それじゃやっていきますか!


「やるぞ、サヤ、アル!」

「おうよ!」

「分かったかな! 『爪刃双閃舞・土』!」

「サヤ、アルさん、やっちゃえー!」

「みんな、頑張って!」


 ハーレさんとヨッシさんの応援もある中で、俺が固めているキツネの背中部分にまずアルが激突していく。うぉ!? ちょっと思ったより衝撃があったな。

 これは変に止めるよりは勢いを利用した方がいいね。アルの突撃を利用しつつ、サヤの攻撃へ勢いでの加算ダメージを狙う形にしよう!


「サヤ、そっちに動かすから対応してくれ!」

「え!? でも私の後ろって――」

「サヤ、竜に乗って!」

「あ、それもそうかな!」


 ちょっと急に変更を伝えてしまったから茶色い銀光を放ちながらキツネに近付いてきていたサヤは慌ててしまってたけど、竜に乗って少し後ろに下がる事で対応してくれた。

 てか、今のは俺の指示ミス……正確には周囲の確認ミスだった……。サヤの立っていた湖底の真後ろ、思いっきり一気に深くなってるとこだったよ! ふー、ヨッシさんが咄嗟に竜の利用を言ってくれて良かった。


 そんなミスはあったけども、アルの突撃の勢いと攻勢付与による水弾の追撃の勢いに合わせて俺が拘束している岩ごと移動させて、サヤはそれを正面から迎え討つ感じで連撃を繰り広げていく。

 おー、アルの突撃は背中のアルマジロ要素の鎧でダメージはそれほど与えられなかったけど、腹部を狙ったサヤの連撃と追撃の水刃では比べ物にならない程のダメージになっていた。うはー、こりゃ攻撃する場所によって全然ダメージの通り方が違うね。


「これでとりあえず、6割までかな!」


 そんなサヤの言葉と共に連撃の最後の一撃は振り下ろされ、キツネのHPは6割まで減っていた。ふっふっふ、これは良い感じで削れているね。

 さーて、この調子でどんどんキツネのHPを削っていこうか! それにしても地形の効果を使うのがここまで有効的だとはなー。敵の方にはお茶も纏属進化もないから、こういう状況への適応は出来ないって事だしね。

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