第725話 大掛かりな演出


 風の昇華魔法で曇り空の雲を吹き飛ばし、そこから射し込む月明かりに照らされ、纏浄になっている紅焔さんとソラさんが高原を飛ぶという状況になり、現在はそのスクショの撮影中である。

 さーて、それなりの時間をハーレさんからあちこち位置の指定を受けて俺も飛行鎧で飛び回っているけど、そろそろ終了で良いんじゃないかな。割とプレイヤーの行き来やボス戦も出来るハイルング高原でこれだけ目立つ事をやってると、結構ギャラリーが集まってんるんだよね。


「わっ、なになに? スクショの演出をやってるの、これ」

「あ、レナさんだ! あの人、相変わらず色んなとこで色んな事をやってるねー」

「飛んでるのは『飛翔連隊』の紅焔とソラだな」

「そういえば、ちょっと前にフェニックスが掲示板で話題になってたよな?」

「あー、そういやあったな。この光景を見てると、あれも演出で作れそうもんだ」

「あれ、本当にどこかに居たとは聞いたよ?」

「どこに?」

「さぁ? 又聞きだからわかんない」

「……それじゃ意味なくね?」

「いやいや、ほら、ネス湖に成熟体のアロワナいるじゃん? あんな感じでどこかにいるんじゃないかなーと?」

「まぁそりゃそうなんだけど、肝心の溶岩がなー」

「……溶岩ならちょっと前に見つけたぞ。フェニックスがいるかどうかは知らんがな」

「え、どこ!?」

「……流石にここで言う訳にはいかんな。あとで群集の方に報告をしておく」

「おっし、やりぃ!」


 え、何気なくギャラリーの会話を聞いていたら、凄い重要な情報を聞いた気がするんだけど!? 今の溶岩を見つけた人ってどの人だ!? くっ、ギャラリーが多くてどの人の発言なのかがわからないぞ……。

 いや、でも今の人が灰の群集の人なのであれば報告が上がってくるはず! ……今ここに全群集の人がいるという事を除けばだけどね! 赤の群集と灰の群集の人の割合が多いけど、雪山エリアから見えてるのか、そっちから慌ててやってきた感じの人も多いんだよな。

 そっかー、溶岩はあるのかー。……他の群集の人の偽情報でなければ良いけど、そこも探ってみたいとこではあるよね。


「あらら、随分人が集まってきちゃったね。十分撮ったし、そろそろ切り上げよっか」

「はーい!」

「レナさん、今しか出来ない事で少し要望がある! そしてソラにもだ!」

「ん? 紅焔さん、どんな要望?」

「……なんとなく察しはついたけど、僕が運ぶのはお断りだよ?」

「ちょ!? 言う前に断るのか!?」

「……浄化魔法を使いたいって言うんだろう? 僕のタカだと、普段の紅焔のサイズでも移動は面倒なんだよね。ライルがいる時にしなよ」

「今、ライルいねぇじゃん!? ソラ、そこを何とか頼む!」

「うーん、とは言ってもねぇ……」


 あー、今しか出来ない事って浄化魔法を使う事か。まぁあれは反動で身動きが取れなくなるから、紅焔さんはしばらくの間は自力での移動は不能になるもんな。ソラさんのタカはサイズ的には普通のタカだから、小型の龍の紅焔さんとはいえ背負うの持ち上げるのも面倒だというのは分かる。

 ま、どっちの気持ちも分かるけど今であればそれはそれほど心配のいる内容ではないね。ソラさんが俺やダイクさんに視線を向けてきているし、俺らに頼むという手段自体は思いついているようだ。ただ、ちょっと頼むのに悩んでいるって感じか。


「んー、火の浄化魔法のスクショはわたしも撮りたいし……ダイク、身動き取れなくなった紅焔さんを運ぶのをお願いねー!」

「おう、問題ないぞー」

「別に俺でも良いぞー!」

「おぉ! ケイさんとダイクさん、いいのか!? でも、俺が言い出してこれを言うのもなんだが、足手まといになるぞ……?」

「……紅焔、分かってて言ったんだね」

「だからソラに頼んだんじゃん!?」

「なんでそこで紅焔がキレているんだろうね!?」

「はいはい、紅焔さんもソラさんもその辺でストップねー! ほら、見てる人も沢山いるからね?」

「「うっ……」」


 あ、流石に紅焔さんもソラさんもバツが悪いのか、そのレナさんの一言で黙ってしまった。まぁこのギャラリーに囲まれている中で喧嘩は目立つもんね。


「さてと、ダイクには拒否権はないとして――」

「……分かっちゃいたけど、やっぱり俺には拒否権ないのなー」

「ケイさんもちょっと演出、やってみない? ほら、やっぱりぶっ放すには狙う対象があった方が良いしねー? それをやってる間はソラさん、ハーレを乗せてもらえないかなー?」

「あぁ、ハーレさんくらいの小ささなら問題はないよ」

「了解なのさー!」


 なんかまだ了承してないのに話が先にどんどん進んでいくんですけど!? てか、大真面目に俺が演出をするっていうのは何を想定してるんだ……? うーん、使えそうなスキルが多くて選択肢が絞れないぞ。……ここは素直に内容を聞いておくか。


「レナさん、やるのはいいんだけど、俺は何をすりゃいいんだ?」

「あ、ごめん、ごめん。先にそっちを説明しないとねー! ケイさん、土の瘴気魔法の『ミアズマ・アース』を紅焔さんの火の浄化魔法の『ピュリフィケイション・ファイア』にぶつけるのってのはどうかなー? コンセプトは地上から迫ってくる禍々しい攻撃を打ち消す浄化の炎を吐くドラゴンって感じで!」

「お、俺がメインか! よっしゃ、やる気が湧いてきた!」

「ほほう、そりゃいいね。それなら俺は纏瘴を使えば良い感じ?」

「うん、そうなるねー。ソラさんの風の浄化魔法の『ピュリフィケイション・ウィンド』も考えたんだけど、ほら、ソラさんって火属性になってるけど火の昇華はまだじゃない? 火属性の見た目で風の昇華魔法っていうのもねー」

「あー、なるほどね」


 紅焔さんもソラさんも火属性と浄化属性の合わせた見た目になっているから、可能なら火の浄化魔法で統一したいんだろうけど、今は出来ないから別の方向性にするって訳か。

 ふむふむ、そこでレナさんは俺の土の昇華に目をつけたんだろう。こりゃ意外と面白い組み合わせになるかもね。よし、そういう事なら色々見た目の細工していこうじゃないか!


「その案、乗った!」

「そうこなくっちゃね、ケイさん!」

「わー! どうなるんだろ!?」

「ケイさん、なんか企んでるよな?」

「ふっふっふ、そりゃもちろん!」

「あはは、それはケイさんらしいね!」

「おっしゃ、それじゃやってくか!」

「おうよ!」


 さて、ただ単純に瘴気魔法をぶっ放すのでは芸がないからね。飛行鎧を今まで使ってきた中での形状で、今の状況に相応しい姿へとしていこうじゃないか! っと、その前にやっておく事があるね。


「ソラさん、ハーレさんを頼んだ!」

「それは了解だね。ハーレさん、いつでも良いよ」

「失礼します! えいや!」


 そうして俺の隣まで飛んできたソラさんの背中の上にハーレさんが飛び移っていった。それにしても、浄化属性と火属性の2属性だと見た目の神秘性が凄いもんだな。……一枚スクショを撮っとこ。


 さて、まずは纏瘴へと纏属進化をしていこうじゃないか。インベントリから瘴気の凝晶を選んで、使用っと。よし、これで纏属進化が始まるな。纏瘴には回復アイテムが使えないっていうデメリットがあるけど、今は問題ないだろう。


<『瘴気の凝晶』を使用して、纏属進化を行います>

<『同調強魔ゴケ』から『同調強魔ゴケ・纏瘴』へと纏属進化しました>

<『同調打撃ロブスター』から『同調打撃ロブスター・纏瘴』へと纏属進化しました>

<『瘴気制御』『瘴気収束』が一時スキルとして付与されます>


 えーと、ロブスターの表面に瘴気を帯びて、禍々しい雰囲気になっているね。コケは……ロブスターの背中のコケに視点を変えて見てみれば、禍々しいコケへと変貌している。ただ、飛行鎧の岩の部分は普通の岩で雰囲気が出てないなー。

 うーん、自己強化を使って操作属性付与で表面を石みたいな表皮に変えても良いけど、ここはコケの増殖でやっていくか。さて、その為にも色々とやっていかないとね! まずは地面に降りて、飛行鎧を形状を変えて再生成していこう。


<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 71/71 → 71/77(上限値使用:1)


「およ? ケイさん、何か大掛かりな事をしようとしてない?」

「してるぞー! あ、紅焔さん、浄化魔法は魔法砲撃でブレス的な感じでいける?」

「俺は元々そのつもりだぜ! って事で、『魔法砲撃』!」 おし、これでいつでもいけるぞ」

「ほいよっと。んじゃ俺の準備が終わるまでもうちょい待ってくれ」

「おうよ!」


 まぁそれほど時間がかかる訳ではないけど、手早く済ます方が良いのは間違いない。……またギャラリーも増えてきてるし、これが最後の大掛かりで仕上げの演出になるからね。


「なぁ、これ何やってんの?」

「見ての通り、スクショの演出だな」

「そりゃ見りゃわかるって。そういう意味じゃなくて、具体的にどういう演出?」

「見てた範囲では、これから瘴気魔法と浄化魔法のぶつけ合いをするっぽいぜ」

「……あー、よく見たら纏瘴と纏浄か」

「……普通に見てるけどよ、赤の群集と青の群集の奴はもうちょい離れといた方が良いんじゃね?」

「これくらいの距離なら大丈夫じゃない?」

「あの2人なら、ちゃんと準備をしてる時なら巻き込まれはしないだろ」

「……突発的なら、巻き込み率は高いけどねー?」

「ま、死んだら死んだ時だな」

「あー、本人がそれで良いなら別に良いか……」


 おいこら、ギャラリーよ、ちょっと好き勝手言い過ぎではないかい? そりゃ岩で転がって轢いたり、湖の水で津波を起こして巻き込んだり、草原を火事にしかけたり、雪崩で押し潰しかけたり……って、こんだけやってりゃ言われても否定できないな……。

 よし、そこは気にしない方向で準備を進めていこう。うん、今のギャラリーはそれなりに距離は取っているし、よっぽどの予定外が無ければ巻き込みはしないはず!


<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 71/77 → 71/71(上限値使用:7)


 これで改めて飛行鎧……今回も光の操作は破棄した状態で、戦車型……じゃないな。今回のは砲撃台って感じに生成だね。今回は飛ぶ予定はないので、ロブスターの形状を保つように表面を岩でコーティングしていくようにしてっと。

 そして砲塔を背中から前方に伸ばすようにしつつ、砲塔の内部にロブスターの両方のハサミが取り込まれているような形にしていく。ふっふっふ、今回はここから瘴気魔法を放つのだ!


<行動値上限を1使用して『魔法砲撃Lv1』を発動します>  行動値 71/71 → 70/70(上限値使用:8)


 よし、これで魔法砲撃にした土の瘴気魔法が岩の砲塔から伸びていく形になるはず。さて、次は岩の砲撃台のようになってる岩の表面に禍々しいコケを増殖させていこう。


<行動値を4消費して『増殖Lv4』を発動します>  行動値 66/70(上限値使用:8)

<行動値を4消費して『増殖Lv4』を発動します>  行動値 62/70(上限値使用:8)

<行動値を4消費して『増殖Lv4』を発動します>  行動値 58/70(上限値使用:8)

<行動値を4消費して『増殖Lv4』を発動します>  行動値 54/70(上限値使用:8)


 うーん、自分じゃ全体像が分からないんだけどコケで岩を覆うのにはこんなもん? 遠隔同調で確認……するよりは普通に聞いた方が早いか。


「ハーレさん、禍々しさはこんなもんでどうだ?」

「バッチリなのさー! どう見ても真っ当なプレイヤーには見えない禍々しさなのです!」

「……まぁ狙い通りではあるんだけど、その評価は微妙な心境になるなぁ……」


 纏瘴をしているから瘴気属性だし、そこから考えればまぁ真っ当なプレイヤーではない状況には見えるよね。ちゃんと喋れるから黒の統率種ではないけども!

 後は……禍々しい水球とかを周囲に漂わせたかったりもするけど、それは普通の魔法と瘴気収束を並列制御で同時に使わなきゃ無理だったはずだから無理だな。よし、それじゃ準備はここまでだね。


「よし、紅焔さんやるぞ!」

「ケイさん、ちょーっと待ったー!」

「……レナさん? 何か問題あった?」

「問題というか、ちょっとやりすぎ感が凄いんだけどー!?」

「えー、やるなら可能な範囲で全力でやりたいんだけど」

「うん、それは分かるんだ。分かるんだけど、これなら紅焔さん側からと、ケイさん側からと、両方が写る構図にしたいんだよね」

「あー、なるほどね」


 俺の方がおまけ的な要素だったはずが、ちょっと色々とやり過ぎたんだな。それでレナさんとしてはスクショの撮る位置を増やしたいという訳か。


「……うーん、ダイクかソラさん、全体像のスクショをお願い出来ない?」

「え、俺はスクショは苦手だぞ!?」

「それなら僕が引き受けようかい?」

「それじゃソラさんに任せるね。ハーレは地上からケイさん側からのスクショをお願い。ダイクはわたしと紅焔さんの背後に回るよー! ちゃんとハーレのスクショに映らないように位置取りは気を付けてねー!」

「レナさん、それって結構無茶じゃね!?」

「良いからやるの! チャンスは一回限りなんだから、失敗しても良いからやるだけやる!」

「……そう言われると失敗したくはねぇな」


 そこから俺から見て右側の方にハーレさんが、その対角線上になる俺から見て紅焔さんの左後方にダイクさんとレナさんが位置取り、俺から見て左側で距離を取って全体像が映るようにソラさんが位置取りをしていた。

 ふむふむ、これならハーレさんからはダイクさんとレナさんは紅焔さんに隠れて見えないし、逆にレナさんからもハーレさんは見えないだろう。ソラさんからも紅焔さんの左後方に位置取っているレナさんとダイクさんは写らないし、ハーレさんは俺に隠れて写らないはず。


 さて、それじゃスクショの撮影の準備は終わったから始めていこうじゃないか!

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