第660話 未知のスキルの分析


 氷樹の森に入ってすぐに白光を放ち始めたリスっぽい成熟体と遭遇して大ピンチである。くっ、何か全滅しそうな予感はしてたけど、こんなに早く予定外の形になるとは……。成熟体相手だけど、ダメ元で逃げるしかない!


「全員、逃げるぞ! 雪山に戻ったら迷惑をかけるだろうから、このまま真正面に突っ切って他の敵を巻き添えに――」

「ケイ、ちょっと待て!」

「なんだよ、アル!?」

「ちょっと落ち着け。前にこの手の成熟体は見た事あるだろ?」

「……え? ……あっ」

「忘れてたんかい!」


 そう言われると、そういや前にミズキの森林の湖の畔で岩に擬態した成熟体を見た事……というか、対峙した事があったような?

 あー、思い出した、思い出した。ミズキの森林の湖の畔で岩に擬態してたヤドカリだ! あれだ、この手の成熟体は襲ってくるんじゃなくて、刺激を与えたら逃げていくんだった。


「……逃げていくタイプの成熟体なんでしょうが、そうも言ってられないようですよ!」

「……そうみたいだなー」


 そういうタイプの成熟体がいたのを思い出してホッとしたのは良いけど、リスっぽい成熟体のが白光がどんどん強くなって……いや、ちょっと違う? 少し青白い氷属性っぽい色と真っ白な光で順番に明滅してるっぽい? なんだろう、この見た事のないスキル……。


「……あれ、どういうスキルかな?」

「白く光るって、今あるスキルの中にはないよねー!?」

「前も見たけど、これは謎だよね」

「だと思うけど……ジェイさん、何か知ってたりしない?」

「……知っていても教えると思っているのですか、ケイさん?」

「いや、ダメ元で聞いてみただけ」

「……でしょうね。まぁこれに関しては、成熟体が白光を放つスキルを使うという目撃情報があるくらいしか知りませんよ。そのくらいの情報は灰の群集には間違いなくあるでしょう?」

「さっきまでケイは忘れてたがな。ま、灰の群集にもその情報があるのは間違いないぞ」

「アル、余計な事まで言わないで!?」


 まぁさっきの逃げる指示の時にそれは盛大にバレてる気はするけども、改めて言わなくてもいい! あ、みんなして、呆れた風に苦笑いしてるし……。

 あー、でも盛大に判断ミスをやらかしたー! 穴があったら入りたいんだけど……よし、掘るか! ……しょうもない現実逃避はやめとこ。


「てか、教えないとか言いつつ、教えてくれるんだな、ジェイさん」

「情報を聞いてばっかだと落ち着かないんだよな、ジェイ?」

「うるさいですよ、斬雨!」


 あはは、なんだかんだでジェイさんのこういう所は憎めないよな。情報戦を仕掛けてはくるけど、かと言って完全に自分達の情報を伏せてくる訳でもない。まぁだからこそ偽情報を掴まされる可能性が出てきて厄介だという話でもあるんだけど……。


「あ、動きがあったかな!」

「あー! リスじゃなくてモモンガだー!」

「あ、ホント……だ……ね?」


 杉の木から飛び降りるように青白い光と白光を明滅させながら突撃していくリス……じゃないな。皮膜を広げて滑空している様子からして、あれはモモンガ……って、ちょっと待ったー!?

 え、木々を避けていくんじゃなくて、滑空したまま突撃してなぎ倒して行ってるんだけど!? あ、やばい、なぎ倒された近くの杉の木が倒れ込んできた!?


「げっ!? おい、ジェイ!」

「言われなくても分かっています! 『アースウォール』!」


 おっと、とりあえずジェイさんが倒れ込んできた杉の木を受け止めてくれて、そのまま俺らの上をモモンガが通り過ぎていった。……って、反対側もなぎ倒して行くんかい!


<行動値5と魔力値15消費して『土魔法Lv5:アースウォール』を発動します> 行動値 50/75(上限値使用:1): 魔力値 145/212


 あ、しまった。ジェイさんのかけてもらった守勢付与の土の球の1つが強化の効果を発揮して、耐久値が増量された土の防壁で受け止める事になってるよ。ただ単に倒れてくる普通の木を受け止めるだけなら付与魔法での強化は要らなかったのに……。


「とりあえずケイ、ジェイさん、助かった。それにして今のはすげぇ威力だったな」

「……あれで直接攻撃されなくてよかったかな?」

「だなー」


 ふー、流石にモモンガが森の木々を滑空しながらなぎ倒していくのは驚いたけど、成熟体ともなればそれが出来る程の威力があるスキルも使えるって事なんだろうね。それがあの白光していたスキルなのかも――


「って、あれ? 何かこの杉の木、凍ってない……?」

「……おや、どうもそのようですね」

「え、何でだろ?」

「はい! 何かモモンガが滑空していく際にキラキラしてたのが見えました!」

「……キラキラしてた? ハーレさん、それってどういう感じだ?」

「えっと、ヨッシの昇華魔法の……えっと、名前なんだっけ!? 氷同士発動するやつ!」

「……ダイヤモンドダスト?」

「ヨッシ、それさー! あんな感じでキラキラしてました!」


 ふむふむ、俺はそこまで細かく観察は出来ていなかったけど、観察力のあるハーレさんが言うなら間違いないだろう。とにかくもう少し受け止めている杉の木や、なぎ倒されている木々を見てみよう。

 あー、雪に覆われているエリアだからパッと見では分かりにくいけど、モモンガの突撃が当たったのはどれも表面が凍り付いてるっぽいね。ふむ、こうなってくると推測でしかないけど、もしかすると……。


「……ケイさん、ここは互いに今のを分析した情報の共有といきませんか?」

「そういう提案をするって事は、ジェイさんも推測は出来た?」

「えぇ、あくまで推測ではありますが」

「……まぁ、確定のしようがないから推測にはなるよな」


 さっきのモモンガのスキルを現時点で取得する方法がある可能性も否定は出来ないけど、成熟体での目撃情報があるからなー。今までも進化階位が上がった事で初めて取得出来るようになったスキルもいくつかあるし、最低条件として成熟体への進化が必須という可能性もある。

 これから先、あの白光を伴うスキルを取得する条件を絞り込む為にも、ここで情報交換……というよりは、推論を比べてみるというのもありか。


「よし、乗った!」

「それでこそケイさんですね」

「あー、それはそれで良いんだが、移動はどうすんだ?」

「それはアルに任せた!」

「Lvが高くなってくる中央部に近付くまでは皆さんにお任せします」


 おっと、考える事はジェイさんと同じだったか。まぁどっか全く別の場所に移動する訳でもないから、Lvが低いうちなら戦力的にみんなに任せても大丈夫だろう。


「……あいよっと。ハーレさん、索敵は頼むぞー」

「お任せなのさー!」

「指揮は一時的にアルにお願いしてもいいかな?」

「あ、確かにその方が良いかも?」

「……この状況ならそうなるか。斬雨さん、それで良いか?」

「おう、それで問題ないぜ!」

「それじゃ一時的にケイとジェイさんは戦力外で、俺が指揮を取って進んでいくぞ」

「「「おー!」」」

「おうよ!」


 さーて、一時的にアルが全面的に指揮を引き受けてくれたみたいだし、手早くジェイさんと分析した内容を話し合ってみるか。まぁ極端に別物の推測だとは思わないけど、これは実際に確かめてみないとなんとも言えないからね。


「それではケイさん、始めましょうか」

「ほいよっと。んじゃ早速だけど、俺はさっきのは氷属性を持ったスキルって可能性を考えてる。ジェイさんは?」

「私も同じ見解ですね。おそらく、氷属性の魔法ダメージとチャージ系の応用スキルを複合したスキルなのではないかと……」

「あー、確かにそれっぽいよなー。ただ、前に見た事がある白光を放っているスキルの時は属性は無かったっぽいのが気になる……」

「おや、私は自分自身で見るのは今回が初めてなのですが、ケイさんは前にも見た事があるのですね?」

「まぁなー」


 うーん、でもあの時のヤドカリは白光こそ放ってはいたけど、属性っぽいものはなかった気もするんだよな。でもなんでジェイさんは魔法ダメージと断定してるんだろ? それを確定するような情報はないはず……。


 んー、目撃情報のサンプルが少ないって事もあるし、ちょっとまとめの方を覗いてみようっと。えーと、お、成熟体の目撃情報についてのまとめがあるね。

 ……ん? あんまりスキルの目撃情報はないけど、見覚えのない魔法を使ってくる場合があるって情報があるね。……火を槍のような形状にして撃ち出してくるって、なんだこれ? 他の目撃情報は白光のみばかりだな。あー、さっき見た属性がありそうな攻撃の目撃情報はないみたいか。


「……魔法でも全く見覚えのないものがあるという話ですし、いくつかの種類がある可能性もありますね」

「あー、確かに……」


 魔法については今知ったばかりだけど、その情報を見た後であれば確かにそれはあり得る可能性だな。……無属性っぽい白光するスキルに、属性ありっぽい明滅する白光を伴うスキルに、見覚えのない魔法スキルか。これってもしかして……。


「成熟体から、物理型と、バランス型と、魔法型のそれぞれに今のスキルより強力な物がある……?」

「……その可能性は充分あると思いますね」

「あ、やっぱりジェイさんもそう思う?」

「えぇ、思いますよ。……現状では、ステータスが均等になるバランス型の火力がどうしても低くなっていますからね。それを補うスキルがあってもおかしくはないかと」

「あー、だからさっき氷属性が魔法ダメージって言ったのか」

「そうなりますね。バランス型でステータスの攻撃と魔力の両方を参照するスキルであれば、物理か魔法に特化した場合と同等の威力は狙えるでしょうから」

「確かにそりゃそうだね」


 基本的に物理攻撃はステータスの攻撃を、魔法攻撃はステータスの魔力を参照して基本的な威力が決まってるみたいだしね。まぁ勢いとか攻撃速度とかで物理攻撃の威力の上乗せは出来るけど。

 ふむふむ、そうなると無属性の白光するスキルの方は物理攻撃の強化版で、今ある応用スキルの一段階上の攻撃スキル……? いや、それだと強力になり過ぎてバランスが取れていない気もする。……何か違う方向性で……。


「あ、もしかして無属性っぽい白光は魔力集中や自己強化の上位版……?」

「あぁ、確かにその可能性はありそうですね。それでしたらバランス型の方にも反映されますし……いえ、ですがそうなると魔法型には何もない……あぁ、だからこそ見覚えのない魔法ですか」

「魔法型は魔法型で、上位の魔法があるってとこか」

「えぇ、その可能性は高いかと。……ですが、どれも推測の域は出ませんね」

「だなー。何か共通点でもあれば、もう少し情報の精度も上がるけど……」

「……共通点ですか」


 上位の魔法があるなら、魔力集中とか上位版でなくて強化版のスキルの可能性も出てきたか。うーん、それにしてもこれらの推測したスキルに共通点……? ふむ、共通点か……。あくまでここまでのは推測でしかないけど、それが事実だと仮定した上で共通点になり得るもの……。えーと、これだけで考えても仕方ないから、参考になりそうな過去の情報を思い出してみよう。

 魔力集中や自己強化の上位スキルがあり、属性ありの魔法ダメージがあるってことは何かしらの魔法的な強化があって、未知の上位の魔法が存在するか。……ん? あれ、これってもしかして全部魔力が関係してる……? あー! もしかして、そういう事か!?


「ケイさん、何か思い当たる共通点がありましたか?」

「……うん、あった。これ、今の段階で共通してる前提のスキルがある!」

「……なるほど、そういう事ですか。よく考えれば共通する前提スキルがありますね。『魔力制御Ⅰ』の事ですよね?」

「そう、それ! 『魔力制御Ⅰ』があるなら『魔力制御Ⅱ』があるはずだ!」

「……取得条件は分かりませんが、スキルの名称からして存在するのは間違いないでしょうね」

「まー、確かにそうなんだよなー」


 あくまで推測に推測を重ねただけであって、それが確定とは限らない。……というか、もし本当に『魔力制御Ⅱ』が共通点になるのなら、それを手に入れなければどうしようもないという事になる。

 『魔力制御Ⅰ』自体が成長体になって初めて手に入るようになってたから、今回の場合は成熟体になってからでなければ『魔力制御Ⅱ』が手に入らない可能性も……。これは岩の操作を取得した時のように前倒しして取得するのは不可能かもしれないね。


「……かなり有力な推測情報だとは思いますが、これ以上は実際に試してみる以外に手段がありませんね」

「だよなー。それでも合ってる保証もないから、色々と博打か」

「そうなりますね。……これはお互いの群集に情報を開示という事でいかがでしょうか?」

「それで問題なし!」

「それではそのようにしましょう。……では、そろそろ私達も参戦といきましょうか」

「だな。結構敵の数も集まってるみたいだし!」


 大体の話の区切りはついたので、あえてスルーしていた周囲の状況に目を向けていこう。余裕はあるみたいだけど、少し前から戦闘状態に入ってるんだよね。


「はっ! 左前の方から危機察知に反応ありです!」

「青白いフクロウか! 斬雨さん、そっちの対応は任せた! 『アクアボム』!」

「おうよ! 『乱斬り』!」

「あ、サヤ、根が迫ってるよ! 腐食毒の『ポイズンボム』!」

「ヨッシ、ありがとうかな! 『爪刃乱舞』!」

「そこなのさー! 『連投擲』!」

「だいぶ弱ってきたし、一気に決めるぜ! 『大型化』『連閃』!」


 おっと、今の斬雨さんの連続斬りで大体片付いたっぽいね。思ったほど経験値は入ってないし、特に討伐報酬もないので残滓ばっかりだったようである。

 それにしても見た目が氷っぽくなっている松や杉が4体と、青白いフクロウとモモンガが1体ずついたのか。ま、まだまだ余裕だったみたいだけど。


「おっし、これで片付いたぜ。で、ジェイとケイさんも復帰か」

「おうよ! それで流石に今のは余裕っぽかったし、中心部はまだだよな?」

「えぇ、まだもう少し距離はありますね」

「よし、ケイとジェイさんも戦線復帰したし、一気に突っ込むぞ!」

「「「おー!」」」

「おう!」

「そういう事なら頑張りますか!」

「えぇ、そうしましょう!」


 一時的に戦線離脱はしていたものの、重要な中央部に突入する前には戻ってこれたようである。さて、一番危険な中心部での戦いを頑張っていきますか!

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