第643話 欠点を減らす為に


 6時目前という事で、サヤとヨッシさんは食事の為にログアウトしていった。さて、しばらくはハーレさんと2人だけど、少し試したい事もあるんだよな。


「ハーレさん、ちょっと試してみたい事があるんだけど、いいか?」

「うーん、土日であんまりスキルを強化出来てないから、自分のも鍛えたいから微妙な心境です!」

「あー、それもそうだよなー。……よし、俺のは試せてもすぐには使い物にはならないし、ハーレさん鍛えたいやつを優先するか」

「おー!? やったー!」


 ま、土日で俺はがっつり鍛えていたし、ここら辺はハーレさんを優先しても良いだろう。闇の操作の実験は今すぐにでないと出来ない訳じゃないし、また今度の機会という事で。


「それじゃとりあえず移動するか。色々な人がいるだろうけど、湖の畔に行くか? それともどっかの外れでやる?」

「湖の畔で!」

「ほいよっと。それでハーレさんは何を鍛える?」

「もちろんクラゲの魔法なのさー! 目指せ、風の昇華ー!」

「なるほどね」


 ハーレさんのクラゲは色々と活用方法もあるし、風の昇華があれば出来る事も広がるもんな。昨日の土属性のドラゴン戦では風属性の攻撃は不足していたから、そういう意味でもPTに1人は風属性の昇華は欲しいとこだ。

 ふむ、そうなると魔法の撃ち合いをしても良いけど、俺は俺でベスタとの対戦で思った弱点部分を鍛えておくのも良いかもしれないね。


「よし、それじゃ――」

「あ、ケイさんごめん! ラックからフレンドコール!」

「あー、昨日の報酬の件か?」

「多分そうだと思います! って事で、少し待っててー!」

「ほいよっと。それなら話してる間に湖まで移動しとくか」

「はーい! あ、ラック、こんばんはー! えっと、今はね――」


 ラックさんの方からの連絡があったし、報酬の+10の瘴気石はもうすぐ手に入りそうだね。今はちょっとした空き時間ではあるし、取りに行くか、持ってきてもらうかについてはハーレさんに任せておくか。


 ハーレさんがフレンドコールで会話をしてるからこの時間は有効活用していこう。乗ってる岩が2人分だと広過ぎるから、少し量を減らして大きさを調整……よし、直径1メートルくらいの岩で充分だな。この状態で崖上から森の上を飛んでいこうっと。


 さっきは中途半端になったけども、ハーレさんの特訓に合わせて俺も新たな特訓をしていこうじゃないか。……まぁミズキの森林なら少しくらい余所見しながらでも大丈夫だろ。……成熟体でも出てこない限りにはなるけど。


 昨日のベスタとの模擬戦で一番感じた欠点は、近接で近付かれ過ぎた際に対処方法が限られるという事だ。もちろん魔法でどうにかする手段もあるけど、それが間に合わない……魔法を発動してから狙いを定める余裕がない場合の対処方法だな。

 ま、これについては手段は考えてはいる。……確実性を取るなら連鎖増強Ⅰを狙った方が良いんだけど、それにはどうしても時間がかかる。だから今は応急的な手段としてポイントでサヤの持っている応用スキルの『連強衝打』を取っておこう。

 えーと『連強衝打』は増強進化ポイントが40、融合進化ポイントが10だね。……よし、取得完了!


 それと後々から連鎖増強Ⅰを狙う為にも通常スキルの方で連撃系のスキルを取っておこう。こっちは……あー、取れる連撃系のスキルも色々と種類はあるけど、応用スキルには特性が前提条件に入ってくるから、持ってる特性に合わせて斬撃系と打撃系のどれかに絞らないとね。


 ふむふむ、ハサミを持ってる必要がない斬撃系の『乱斬り』や『連斬撃』、打撃系の『連殴打』や『強連打』とかがあるね。この辺は種族の部位があまり影響しないスキルか。

 それでハサミが必要なのもあるんだね。えーと、斬撃系は……『連鋏斬』と『連続バサミ』か。……なんか連続で挟むみたいな感じっぽい気がするからこれはパス。打撃系は『鋏連打』や『乱れ鋏打ち』か。んー、なんか名前から打ち合う感じじゃなくて、抑え込んで滅多打ちにするようなイメージだな。

 ハサミが必要なやつは使い方次第では悪くはないけど、今の目的からは外れるような気がするからなし。先に表示されたのが派生前のスキルみたいだから、取るのは一番ポイントが低いやつでいい。どっちにしても連鎖増強Ⅰを取るなら派生で取得する事になるしね。


 さて、斬撃系はハサミの内側の鋭い部分を使う事になるから、通常の斬撃系はあまり相性はよくなさそうだし、ここは通常の打撃系にするとして、取るのは『連殴打』だな。増強進化ポイント8だし、段階的には『鋏強打』と同格のスキルってとこだろう。……よし、取得完了!


「うん、それじゃまた後でねー! って、ケイさんストップー! 湖、通り過ぎたよー!」

「え、あ! マジだ!?」


 連撃用のスキルの物色と取得をしてた、思いっきり湖を通り過ぎてた! でも、通り過ぎたばっかでハーレさんが気付いてくれて助かったー! ふー、少しだけバックして、湖の畔へと戻っていこう。……よくベスタはこんな感じの同時作業が出来るもんだなぁ……。


「何か考え事してたのー!?」

「あー、ちょっとポイントで新しいスキルを取ってて、完全に周りを見てなかった……」

「おー、そうなんだー!? 何を取ったのー!?」

「それは後でのお楽しみって事で。それでラックさんはなんて?」

「えっとね、湖の畔に用事があって丁度いいからって、ラックが渡しに来てくれるという事になりました!」

「お、そりゃ良いな」


 ふむふむ、報酬の瘴気石についてはラックさんが持ってきてくれる事になったか。てか、湖の畔に用事があるって事はモンスターズ・サバイバルとの用件とかかな? ま、持ってきてくれるならありがたいね。


 とりあえずそういう事になったから、湖の畔へと降りていこうか。あー、混雑とまではいかないけど、少し人が多めではあるな。まぁここは割と人が集まる場所だし、その辺は仕方ないから少し離れた所に着地っと。もう岩はいらないから解除しとこ。


<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 66/66 → 66/72(上限値使用:4)


 あ、そういや発光や魔法砲撃も発動したままだったっけ……。まぁ、発光はLv2で控えめに発動してるし、魔法砲撃も負担は少ないからそのままでもいいか。


「よし、それじゃラックさんが来るまでちょっと特訓していくか!」

「おー! それでどうやるのー!?」

「折角だし、風の操作と風魔法を同時に上げてくか。そんでもって、俺はさっき取得したばっかのスキルを使う!」

「おー! 早速だねー!」

「それでなんだけど、魔力集中はありとなしのどっちがいい?」

「それを聞くって事は物理攻撃だー!? うーん、使用回数で熟練度を稼ぎたいから魔力集中ありで!」

「ほいよっと」


 ハーレさんは魔力集中ありでの特訓を希望だね。魔力集中なしなら今の取り立ての通常スキルである『連殴打』では魔法の破壊は不可能だけど魔力集中ありなら破壊は多分出来るだろう。

 ま、操作系スキルの方は操作時間の長さでも熟練度は入ってるみたいだけど、魔法の方は発動回数っぽいもんな。両方を鍛えたいなら回数で稼ぐのが一番か。


<行動値上限を3使用と魔力値6消費して『魔力集中Lv3』を発動します>  行動値 66/72 → 66/69(上限値使用:7): 魔力値 206/212 :効果時間 14分


 よし、ハサミに無色のオーラが纏っている状態になったし、魔力集中の準備はこれで完了っと。湖から少し離れた位置に降りたから、邪魔にはならなさそうな位置だな。このまま、ここで特訓しつつラックさんが来るのを待つか。


「それじゃ始めるぞ!」

「はーい! 『並列制御』『略:風の操作』『略:ウィンドボール』!」


 お、風の球を3つ撃ち出して、それぞれに方向を変えつつ狙ってきたか。うん、ハーレさんは操作系スキルの扱いはそこそこ上手いって感じだな。

 それじゃ俺も新スキルで迎撃と行きますか! ……地味にオンライン版で近接の連撃を使うのは初めてな気がするね。


<行動値を1消費して『連殴打Lv1』を発動します>  行動値 66/69(上限値使用:7)


 とにかく使ってみるのが一番早いから、実際に発動してみよう。お、連撃だとどの部位を使うかの指定が出るのか。……ふむ、スキルの対象にしたい部位を毎回指定する必要があるから……こうか!

 よし、右のハサミ、左のハサミ、右のハサミの順番を意識して横殴りにしてみたけど、可動域の範囲内であれば攻撃の向きは特に制限はなしと……。ま、この辺はオフライン版の感覚と同じか。1撃に攻撃に使う部位を1ヶ所しか指定できないのはスキルの仕様だな。


「おー! ケイさん、連撃系のスキルを取ったんだー!?」

「まぁな。ベスタとの対戦でこれが一番足りてないって思ったからさ」

「そうなんだー! でもまだ威力不足だねー!」

「そりゃ覚えたてだしな……」


 魔力集中を使っているとはいえ、まだ取り立てのLv1のスキルだし、魔法を破壊し切れなかったのは仕方ないだろう。弾き飛ばして周囲の木に当てただけでも良しとしておかなければね。

 おっと、そうしている間に見覚えのあるリスがこちらに向かって駆けてきているね。思ったより来るのが早かったね、ラックさん。


「あ、ハーレ、ケイさん!」

「おっす、ラックさん」

「ラック、早かったねー!」

「あはは、まぁ早めに渡そうとは思ってたけど、ログインしたのがさっきだったから急いで来たんだよね。ところで、特訓中だったみたいだけど、邪魔しちゃった?」

「時間潰しに特訓してたとこだけど、急ぎじゃないから問題ないぞ」

「そうなのさー!」

「それなら良かったよ。慌ただしくなるけど、これ、昨日のスクショの手伝いの報酬の瘴気石ね! えっと、ケイさんとハーレ、どっちに渡せば良い?」

「それならケイさんですさー! 共同体のリーダーだしね!」

「あー、まぁそうなるか」


 誰かが代表して受け取っておく必要はあるし、ここはハーレさんが言うように俺が適任だな。ま、ぶっちゃけ全員が揃ってる時に使うつもりだから、誰が持ってても関係ないといえば関係ないんだけど、渡す側のラックさんからしたらそういう訳にもいかないしね。


「って事で、俺が受け取っとくよ」

「はい、それじゃこれはケイさんに渡しとくね」

「確かに受け取りましたっと。ベスタの方は?」

「ベスタさんなら、さっき灰のサファリ同盟の本拠地の方に取りに来てたから問題ないよ。ただ用事があるってすぐに立ち去って行ったけどねー!」

「あ、もう取りに行ってたんだな」


 手渡された瘴気石ちゃんと+10の瘴気石だから問題なしだし、ベスタもしっかりと受け取りに行っていたみたいなので、昨日のスクショの手伝いの報酬についてはこれで終わりだね。


「さてと、私は他にも用があるからもう行くね! 慌ただしくてごめんね」

「そういう事もあるし、気にしなくていいのさー!」

「ま、最低限の用件も済んだしな。ラックさんにはラックさんの都合もあるし、気にする必要はないって」

「そう言ってもらえるとありがたいよ。それじゃ、また機会があればよろしくね!」

「おう、またな、ラックさん!」

「ラック、また明日ねー!」


 そうしてラックさんはモンスターズ・サバイバルが管理している湖の畔にある野外炊事場に向けて駆けていった。どうやらラックさんの用事というのは、モンスターズ・サバイバルに関わるもののようである。

 生産がメイン活動のモンスターズ・サバイバルと灰のサファリ同盟の間では取引とかもあるだろうし、その関係なんだろうね。まぁこの辺は詮索しても意味もないし、特訓に戻りますか。


「さてと、それじゃ続きをやっていくか」

「おー!」


 ラックさんが瘴気石を届けに来てくれたから夕方に片付けておきたかった事は完了した。って事で、晩飯までの時間はハーレさんのスキルの強化をメインにしつつ、俺も取得したばかりの新スキルを鍛えていこうじゃないか!


「次はこっちで行くのさー! 『並列制御』『略:ウィンドボム』『略:風の操作』!」

「おっと、そうきたか!」


 ふむ、これはこれで単発の高威力攻撃への対処法の練習にはなりそうだな。


<行動値を1消費して『連殴打Lv1』を発動します>  行動値 65/69(上限値使用:7)


 今度は太鼓でも叩くみたいに、左右のハサミを交互に振り下ろす感じで3連打! おっ、1撃目が良い感じ……じゃねぇー!? 2撃目に入る前に指向性を操作された爆風でふっ飛ばされた!


「ケイさん、大丈夫ー!?」

「あー、大丈夫、大丈夫」


 思いっきり背後の木に叩きつけられたりはしたけども、ダメージはないし、朦朧も入ってはいない。だから、基本的には問題なし。

 でも、Lv1じゃLv4の魔法の相殺は出来ない訳だ。連撃って回数がある分、単発の攻撃に比べると1撃辺りの威力は低いから、まぁ仕方ない。


「よし、次行くぞ!」

「おー!」


 それじゃウィンドボムを破壊出来るくらいを目指して頑張っていきますか! ま、晩飯を食べる為にログアウトする前にハイルング高原の手前までは移動しときたいから、その時間を目処に特訓だな。

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