第615話 付与魔法の活用


 みんなに付与魔法をかけていく事に決まったし、要望通りにアルとヨッシさんに守勢付与を、ハーレさんに攻勢付与をかけていこう。


<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』を発動します> 行動値 25/72(上限値使用:1): 魔力値 50/206


 まずはアルの……まずはクジラの方でいいか。クジラの方に守勢付与をかけて、付与した3つの水球が漂うのは確認が出来た。よし、次はヨッシさんだな!


<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』を発動します> 行動値 18/72(上限値使用:1): 魔力値 29/206


 アルと同じく守勢付与をヨッシさんのハチに付与してっと。よし、こっちも3つの水球が付与されたのは確認出来た。さて、最後はハーレさんに攻勢付与だな。

 そういやベスタと俺以外はみんな共生進化だから、もう片方のキャラにも付与は出来るけど、流石に行動値も魔力値も足らないよね。……うーん、完全に付与のみに徹すれば可能ではありそうだけど、それ以外は何も出来なくなりそうなのはちょっと嫌だな。


「ケイさん、どうしたのー!?」

「あー、いや、付与魔法に徹していたら共生進化の4人にはそれぞれ追加で付与も出来そうだなって思ってな。でもそれすると、俺は他に何も出来そうにないからさ」

「あー、そういえばそうなるのか。ケイ、その辺は臨機応変でいいぞ? 俺らはプレイスタイルを縛る気はないからな」

「アルさんの言う通りだよー!」

「それについてはケイが必要だと思った形で使ってくれれば良いんじゃないかな?」

「うん、私もそう思うよ」

「……そっか。それならそうさせてもらうよ」


 ちょっとした不安が少しだけチラついたけど、完全に杞憂だったね。今まで一緒にやってきて、みんなが無理強いするような行為をする訳もないよな。……ちょっと失礼な事を考えてしまったし、これは反省だな。

 さて、それじゃ気を取り直してハーレさんに攻勢付与をかけていこうか。


<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』を発動します> 行動値 9/72(上限値使用:1): 魔力値 8/206


 これでハーレさんに攻勢付与をかけ終えて、周囲に水球が3つ漂っている。とりあえず行動値も魔力値もほぼ尽きたから回復していかないとね。


「……ベスタさん、険しい雰囲気だけどどうしたのかな?」

「……いや、ディーはどこに行った?」

「え?」


 そういやツバメとの戦闘に気を取られて、凧揚げをしていたディーさんと、一緒にいたクモの人がどうなったかの確認が出来ていなかったっけ。

 ベスタのその一言で周囲の様子を伺ってみたけど、イカのディーさんもクモの人の姿も見当たらない。……ただ単に目的を達成したから切り上げたという可能性もあるけど、俺らに気付いて赤のサファリ同盟の本隊と合流しに行ったとしたらまずいかもしれない!?


「あー! それっぽいの見つけたよー!」

「ハーレ、どっちだ?」

「ここから北の方ー! でも、望遠にしてぎりぎりの場所をイカが飛んでたから多分ディーさんだと思うってだけです! もう範囲外に行っちゃって、群集と名前は確認出来てません!」

「それがディーの可能性は充分あるな。ここから北って事は赤のサファリ同盟の元へ向かったか……? ハーレ、青の群集のクモはどうだ?」

「そっちは見当たりませんでした!」

「そうなるとさっきの凧揚げで目的を達成して、俺らを見つけた事で解散したか……?」


 これはどうやらディーさんは俺らがここにいた事に気付いた可能性は結構ありそうだ。……そして赤のサファリ同盟の集団が居たの確認した方向のエリアに向かって移動したとなると、懸念していた赤のサファリ同盟とドラゴン戦での競合が発生する可能性が高まったような気がする。

 うーん、変に避けるような真似をしたのは失策だったか……? いやでも、向こうの方が大人数だろうし、先に急いで辿り着けば問題はない?


「ベスタ、大急ぎで移動しよう。先に辿り着けば、それで問題ないだろ」

「……それもそうだな。アルマース、全力で行けるか?」

「行動値の回復を少し待つ必要はあるが、まぁそれで可能な範囲だな」

「……よし、アルマースは移動で行動値を使い切っても仕方ない。アルマース以外は可能な限り行動値を節約して、一気に岩山エリアまで突っ込むぞ」

「おう、任せとけ」

「ほいよっと!」


 何だか自然な流れでベスタの指揮に移っているけども、まぁそれは別に良いか。多分俺が指示しようとしても同じ内容になるだろうし、そこでごちゃごちゃ言ってる時間も惜しい。

 折角の格上のドラゴンを赤のサファリ同盟に取られたくはないから、ここは手早く動いていこう。もし取られたとしても構わないといえば構わないけども、その可能性に気付いた上でのんびりしてたからという理由だったらちょっと後悔しそうだしね。


「ここのエリアは強行突破だね。とりあえず遭遇した敵は倒すのじゃなくて、振り切る方向性かな?」

「まぁ早く辿り着きたいなら、それしかないよね」

「強行突破、頑張るぞー!」


 ま、大急ぎでこの先の岩山エリアまで行こうと思うなら、道中の敵を一々相手にしている場合でもないか。……割とこの上風の丘は俺らの適正Lvに近いっぽいから、時間さえあれば戦いたかったとこではあるけどそれは仕方ない。


「とりあえずアルマースの回復待ちではあるがな。……ふむ、こうなるとケイのさっきの付与魔法は強行突破には好都合か」

「あ、そっか。あの攻勢付与の追撃効果は威力が高いから、私達は最小限の行動値の消費で攻撃が出来るかな」

「守勢付与で防御も任せられるから、不意打ち防止にもなるしな」

「あぁ、そういう事になる。……ケイ、悪いがアルマースの守勢付与だけは切れたら再付与を頼めるか?」

「あー、確かにそれが良さそうではあるね。使い切っての付与のし直しは、アルを最優先にはするけど俺の判断で様子を見ながらでいい?」

「余裕があれば、それが良いだろう」

「それじゃ付与魔法についてはそういう事で了解っと」

「ケイ、任せるぞ」

「おう、任せとけ、アル!」


 誤算というとちょっと間違っている気もするけど、さっきの付与魔法がいきなり役立ちそうだね。ふむふむ、こういう風に行動値を節約しつつ移動したい時に使うのもありか。

 まぁその分だけ俺の行動値と魔力値をかなり消費する訳だけど、その付与効果が切れるまでは俺は回復に専念していればいいもんな。


「……ふむ。ヨッシ、少し手伝ってもらっていいか?」

「ベスタさん、何かするの?」

「ケイの養分吸収用の敵を捕まえに行く」

「あっ、その手があったか!」


 それなら俺の行動値の回復も早められるし、魔力値に関してはアイテムで回復をすれば問題はないもんな。ふむ、忘れ気味な養分吸収ではあったけど、これはもっとちゃんと育てて活用していくのが良いかもしれない。

 でも養分吸収は毒や魔法砲撃と同じで、核の位置からしか発動出来ないから近付いて直接触れる必要があるのが欠点ではあるんだよな。まぁスリップみたいに群体化したコケのどこからでも発動出来ると破格な性能になるから仕方ないけどさ。


「ベスタさんには攻勢付与がかかってるし、攻撃の威力も高いから私が代わりに捕獲をすれば良いんだね?」

「まぁそうなるな。手伝ってもらって構わないか?」

「そういう事なら了解。みんな、ちょっと行ってくるね」

「うん、分かったかな。それじゃ私とハーレで、アルとケイの回復中の警護かな?」

「了解です! ここは死守します!」

「……その場合は適当に引きつけつつ、呼び戻してくれ。敵を探す手間が省けるからな」

「あ、確かにそれはそうかな」

「そうだったー!? 改めて了解です!」


 ま、そりゃそうだ。ここに他の敵が出現したのならわざわざ捕まえに行く必要がなくなるし、ベスタとヨッシさんを呼び戻すのは当然といえば当然だよね。


「まぁいい。とりあえず行くぞ、ヨッシ」

「そだね。それじゃちょっと行ってくるよ」

「そこまで時間をかけるつもりも遠くまで行く気もないから、アルマースが動けるようになった段階で声をかけろ。すぐに戻ってくる」

「ほいよっと。それじゃベスタ、ヨッシさん、よろしく!」

「見つけるつもりではいるが、確実ではない事だけは認識しておいてくれ」

「そだね。近くにいると良いんだけど……」


 そうしてベスタとヨッシさんは敵を探しに移動を開始していった。まぁどこに敵がいるかは、視認出来る事もあれば、唐突に現れる事もあるから何とも言えないもんな。

 今いる木々の近くから見える範囲に敵はいるにはいるんだけど、他のプレイヤーと戦闘中の個体ばっかだしね。少し離れたとこにいれば良いんだけど、それは運に左右されるのは仕方ないか。


「……これ、魚でも投げたら敵が現れたりしないかな?」

「あー、川の近くではトンビが出てきそうだし、やってみる?」

「……ケイ、このエリアでそれは止めておけ。さっきのツバメと同じようなのが群れで現れるぞ」

「え、マジで?」

「マジだ。だから、その手段を選ばずに探しに行っている」

「……なるほどね」

「あはは、良い案だと思ったけど駄目だったかな……」

「サヤ、そういう事もあるさー! 気にしなくても良いのです!」


 流石は情報のまとめを取り仕切っているベスタだね。知っている情報が俺らより遥かに多いから、現在の状況で無駄な労力になる事は排除してくれている。

 それにベスタからはどうしても必要な情報だったり、俺らから聞いた場合でなければ、無闇に情報を話してくるという事がないのもありがたい。


「てか、Lv上げには良さそうな情報ではあるな」

「あ、確かにアルさんの言う通りだね。ベスタさん、ここって適正Lvはどのくらいなの?」

「ここは大体、未成体のLv10〜15ってとこだがエリアとしての特徴が強いから人気はあまりないぞ」

「……確かに急な強風だと戦いにくそうではあるかな。それにLv15までが適正なら、私達はもう過ぎてるよね……」

「まぁフィールドボスや、少数ではあるがLv15以上になっている敵もいる事はいるがな」

「……そういえば育つ個体もいるんだったかな」


 ふむふむ、とりあえず育っていく個体は少数だから例外と考えるとして、Lv15までが適正Lvって事はさっきのツバメはこの上風の丘では上限Lvの個体だったんだな。

 そうなってくると、その隣のエリアになる岩山エリアがもうちょい適正Lvは高めか? うーん、まぁこの後に大急ぎで行くんだし、先に聞いておいてもいいか。


「参考として聞きたいんだけど、岩山エリアの適正Lvってどんなもん?」

「岩山はLv13〜18ってとこだな。物理寄りの堅牢の特性持ちの敵や土属性持ちが多めのエリアで、斬撃は少し効きにくいぞ」

「あー、敵の特徴は何となく想像通りだったか。それにしても、俺らには丁度いいLv帯だな!」

「今度、どこかで様子を見て岩山エリアでLv上げかな?」

「サヤに賛成です!」

「俺もそれ自体は賛成だが、その前に赤の群集の森林深部と青の群集の森林に行くのが先じゃねぇか?」

「……まぁそれはアルの言う通りだなー。流石に先延ばしにし過ぎてるし……」


 流石に探索の方が延期に次ぐ延期になっているので、明日こそはそっちをやっていかないとね。……それにしても群集クエストの進行具合って何か停滞気味のような気がしているけど、その辺はどうなってるんだろ?


「なんだ、まだ行ってなかったのか? ……いや、そういえばハーレが不在だったな。今のは余計な事だったか」

「私はリアルでちょっと用事があったのです! だけど目標は達成したので、明日には探索を再開なのさー!」

「そだね、ハーレ。あ、ベスタさん、あっちに敵がいるよ!」


 お、どうやらヨッシさんが敵を見つけたようである。PT会話で雑談をしながらではあったけど、結構早い段階で見つけられたのは幸運かもしれないね。


「ほう、緑色のスライムか。普通の敵として出てきたのは初めて見たな」

「え、スライムがいるのか!?」

「それ、見たいです!」

「俺も興味はあるな」

「私もちょっと興味はあるかな!」


 掲示板でスライムに進化したというプレイヤーの情報は見た事はあるけども、実際に敵として出てくるというのは初めて聞いたような気がするし、俺も見た事はない。

 ベスタですら初めて見るみたいだし、これは是非とも見てみたい! そういやこのゲームのスライムは物理攻撃には凄い強いみたいな情報が掲示板にあったよな。


「これはヨッシに来てもらって正解か。スライムは魔法に弱いという話だし、ケイの付与魔法で消し飛ばしかねん。それに状態異常に弱いという情報もあるからな」

「あはは、状態異常なら私の出番だね。でも魔法で状態異常にするのは大丈夫?」

「……それは少し危ういか。よし、物理毒で頼めるか」

「それが無難そうだよね。毒の種類は麻痺毒がいい?」

「あぁ、まずはそれで良いだろう。……とりあえず識別をしていくか」

「了解!」


 そうして俺の養分吸収に使う為の敵……見つける事に成功したスライムの捕獲作戦が始まった。さて、PT会話越しだけど、どんな風になるんだろうね。

 それと大急ぎでの移動をする為にも、手早く済ましてしまわないといけない。無事にドラゴン戦まで辿り着けるかどうかがかかってるからね。空にしても赤のサファリ同盟は、本当に今はどんな動きになってるんだろう……?

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