第604話 模擬戦の反省と分析


 ベスタとの模擬戦も終わり、みんなとの合流場所はミズキの森林のミズキの前に決まった。えーと、移動するのは転移で良いとして、何か模擬戦を始めるより少し賑やかだね?


 チラッと周囲を見てみれば、これから模擬戦をしようとしている人達が集まっている。あ、よく見てみると周囲を伺いながら落ち着きがない人もいるけど、あれはもしかするとランダムマッチングの人かな? うん、対戦相手が不明だから少し落ち着かないってとこなんだろう。

 それとは別に話し合いながら意気込んでいる2人組や、共同体らしき集団もチラホラと見受けられる。この辺は相手を指定しての対戦だろうね。


「おっしゃ! なんかテンション上がってきた!」

「公開範囲はどうする?」

「あー、灰の群集までで良いだろ」

「よし! ランダムマッチングが再開になってる!」

「どこの誰でもかかってこーい!」

「……誰が相手でも、倒す!」

「おーおー、血気盛んだねぇ」


 色々な声が聞こえてくるし、心なしか俺とベスタが模擬戦の順番を待っていた時よりも人が増えているような気もする。あー、もしかしたら俺らの対戦を見る為に離れてた人も結構いたのかな? それにしても赤の群集の人はどうも少ないみたいだね。


「ケイ、どうした?」

「いや、今日は赤の群集の人を殆ど見かけないなーって思ってさ」

「そりゃそうだろう。赤の群集は赤の群集で同じように群集内での模擬戦は可能になってるんだからな」

「あー、そりゃそうか」

「ま、全群集への公開設定が少なめってのもあるだろうけどな」

「……確かにそれなら見に来るより、自分達のとこで見たり戦ったりするほうが良いよな」


 わざわざ他の群集に出向いて来ても、見たい組み合わせが必ずしも他の群集へと公開されてる訳じゃないから、無駄足になる可能性があるもんな。……予め見たい組み合わせの対戦があるのが分かって、尚かつそれが自分達でも見れる事が分かってなければ実装当日には来ないか。

 俺だって慣れてきてからならともかく、今の状況では他の群集に見に行く気にはなれないしね。……まぁ他の群集の知り合い同士が戦ってる光景とか見てみたい気持ち自体はあるけど、確実にそれが見れるかどうかは運次第ってのはなー。


「まぁ、その辺については時間経過で多少は変わってくるだろう。あまり待たせるのも悪いから、そろそろ行くぞ」

「ほいよっと」


 そうベスタに促されて、ミズキの元へと転移を選択していく。ま、明日になるか、それ以降になるかは分からないけど、延期が続いている赤の群集の森林深部エリアと青の群集の森林エリアの所に行く時にその辺の様子をチェックしてみるのもいいかもね。


<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『ミズキの森林』に移動しました>


 サクッと転移は完了! 周囲を見渡してみると少し離れたとこで特訓をしている人と、なぎ倒された木々を岩で固めて運んでいる人がいるようだ。


「あれって、ベスタが逃げてた成熟体の竜の被害の残骸?」

「……だろうな。おそらく折れた木は薪にするんだろう」

「ま、そうするのが無駄にはならないか。そういやあの時、ベスタの背中に乗ってた青いトカゲの人は大丈夫だった?」

「……一緒に死んではいるから大丈夫と言っていいかは微妙だが、あの後は灰のサファリ同盟へと任せてきた。ま、あそこに任せておけば問題はないだろう」

「なるほどね」


 流石に背負って助けるまではベスタがやったけど、その後のフォローについては既に手慣れているだろう灰のサファリ同盟に任せたんだな。あの青いトカゲの人に関してはほぼ事故のようなものだったみたいだし、それを理由に責め立てるよう事にはならないはず。ま、その辺は灰のサファリ同盟に任せて大丈夫だろう。


 さてと、アル達が合流してくるまでもう少しかかるだろうし、模擬戦の反省でもしておこうっと。

 ……まず一番の反省点はあれだな。養分吸収と魔法吸収の存在を完全に忘れてたのは失策だった。普段は俺はあまり近接では動かないからPTで戦う時にはほぼ使う事がないもんなー。模擬戦で一対一をやってみて、あの辺のスキルの重要さを身を持って実感したね。


 後はこれもあまり気にしてなかったけど、近接での手数の少なさだな。徹底的に距離を取って魔法のみで戦っても良いんだろうけど、それをするなら昇華魔法は完全に捨てるしかなくなる。

 物理も魔法も十全に活かすなら、連撃系……それも応用スキルと通常スキルをそれぞれ1つずつくらい持っておく方が良いかもしれない。


 それと思った以上にベスタのコケの扱いが上手かった。俺も群体化を使ってベスタのコケの位置を把握……って、あれ? なんか、引っかかるぞ……? あ、戦闘中の違和感ってこれか! ベスタって融合進化になった時に、コケのスキルって改変されていたはずで、群体化のスキルって使えなくなってるんじゃ!?

 

「……ベスタって、群体化してる場合の群体数の扱いってどうなってるんだ? かなり群体化してたよな?」

「あー、それか。コケの時よりも群体数の総数は減っているし、生存条件には含まれていないぞ」

「あ、そうなんだ。っていうかさ、コケのスキルって融合進化をした時に統合や改変されるって話じゃなかったっけ……?」

「あぁ、それか。まぁ群体化については融合進化した際に群体同化へと改変はされるんだが、再取得が可能でな。他の群体内移動や群体化解除については取得は不可能だったが……」

「え、マジで……?」

「マジだぞ。ただし、必要な進化ポイントが激増している。群体化は融合進化ポイントが150必要だったぞ」

「多いな!?」


 いや、でも融合進化でのコケの群体化の性能を考えるならそれくらいは必須なのか……? うん、コケ自身が使うのならともかく、コケの特徴を持ったオオカミが扱うスキルと考えればそうおかしくもないか。


「種明かしをするとだな、ほぼあの群体化は他のコケの動きを察知するのと群体化を邪魔する以外には使い道はねぇ。コケ渡りを使う際には群体同化の発動は必須だし、コケ渡り自体は視認したコケが対象でしかないからな。群体化したコケで使えるのはスリップやグリースくらいか」

「……なんかコケの最大の天敵は同じコケな気がしてきた」

「育て方にもよるんだろうが、ある意味で正解だ。互いに動きを制限する事や察知する事が出来るから、他の種族と戦う時より攻守共にかなり厄介にはなるぞ」

「……ですよねー」


 うん、今回の模擬戦を通じて感じた事ではあるけども、同種族であるコケがかなり厄介な事になるのは実感したよ。いやまぁ、いつかの常闇の洞窟にいたコケも俺が封じたりはしたけどね。

 とりあえず違和感の正体はこれみたいだな。ベスタが融合進化で無くなったはずの群体化を当たり前のように使っていた事が引っかかってたんだ。ふむ、群体化したコケに警戒してたけど、それも意識を逸らすためのものだったんだね。……コケ渡り、恐るべし!


「ケイさん、ベスタさん、お待たせー!」

「え、ちょ!? ハーレさん!?」

「……なぜ勢いよく吹っ飛んできている、ハーレ」

「『略:傘展開』『略:ウィンドボール』! ふっふっふ、サヤに大型砲撃で投げてもらったのです!」

「あー、なるほど」

「……そういう事か」


 そう言いながら平然と地面に着地していくハーレさんであった。……そういや昨日の丸太から薪割りをしてた時にサヤが大型砲撃を取得したんだったっけ。ふむ、そうやって大型砲撃でハーレさん自身を投げて、クラゲの傘を広げて減速というのもありなんだな。

 まぁ遠距離攻撃のハーレさんを投げる意味はないような……あれ、そうでもないな。敵の中へと突撃しての攻撃の為じゃなく、敵から距離を取って安全圏に逃げる為にはありか。


 そんな事を考えていたらアルの姿が見えた。あー、距離的には普通に見える距離だったけど、なぎ倒された木やベスタと会話していた事で気が逸れて気付いていなかっただけのようである。


「おう、待たせたな、ケイ、ベスタ」

「いや、それほどは待っていないから気にするな」

「俺らは俺らで話してたしなー」

「どういう話をしてたのかな?」

「その内容は気になるね」

「あー、まぁ単純に言うとコケの敵はコケだなって話」


 ものすごい簡単な要約だけど、内容としてはそれほど間違っている訳でもない。詳しい話をするにしても、それは移動中でも良いだろうしね。


「確かにベスタさんのコケの使い方は上手かったかな!」

「ケイさんは逆に思ったほどコケを使ってなかったよね?」

「……ヨッシさん、それは違うんだ。使うつもりではいたんだけど、ベスタに潰されたってのが正解……」

「あ、そうなんだ」


 くっ、本当なら遠隔同調を発動してから、グリースを発動しつつ閃光と光の操作のコンボや、アクアボールかアースバレットを使って多方向からの連続発動とかを狙ってたのに、あっさり焼き払われたからね……。

 相手もコケのスキルを使える場合はこの辺は使えないと考えておかないとね。……本格的に対コケ用の戦略を考えておかないといけない気がしてきた。


「……ケイ、1人で何もかもを対処するのは難しいからな。そこはPT……いや、グリーズ・リベルテとしてで対応していくと良い」

「えー、ベスタがそれを言うのかー?」

「……俺だって無敵ではないからな。防ぎ切れずに昇華魔法は食らっていただろう?」

「まぁそりゃそうだけど……」

「正直な話をしようか。今はケイの魔法を回避し切る事は出来ているが、そのうち限界が来るとは思っているぞ」

「……はい?」

「え、どういう事かな?」


 ちょっとそのベスタの言葉が意外過ぎるんだけど、どういう事? ベスタが俺の魔法を回避し切れなくなる……?


「……それはどういう事だ、ベスタ?」

「まぁ慌てるな、アルマース。今すぐにという訳ではない」

「はい! その理由はなんですか!?」

「……まぁ言ってしまえば手数の問題だな。現状の魔法……操作も含めていいか。何だかんだで一撃の威力は高いが、回避自体はそう難しくはない。ケイも俺に当てられる気がしなくて、ここぞという時以外には使っていなかっただろう?」

「あー、まぁそうなるな」


 避けられる可能性が高いからどうにか隙を作って昇華魔法を発動したり、回避出来ない位置からの発動くらいしかしていなかった。……なんだかんだで防壁魔法はあっさり……とまではいかなくても避け切られたし。

 あー、何となくベスタが言いたいことが分かってきた。確実に当てられるだけの手段を使えるようになれば、避けきれなくなるって事か。つまり……。


「……並列制御Lv2以上と、付与魔法での拘束魔法の強化と攻撃魔法の同時発動と、それを使っても問題ないだけの行動値が揃えばってとこか」

「ま、その場合だと付与魔法の効果がどっちにかかるかって問題はあるんだが、そんなとこだな。……現時点でも手分けしてそれをされると1人で避けきるのは厳しいぞ?」

「だろうなー」


 強化された拘束と同時に高威力の魔法が直撃すればそりゃ厳しいよな。まぁその手段は行動値の消費がかなり多くなるから、言うのは簡単だけど実行するのはまだまだ難しいけど……。


「……ベスタ、ひょっとしてなんだが……」

「あぁ、アルマースが聞きたいのは、なんでその話を今するかだな? 大体、想像の通りだと思うぞ」

「……やはりか」

「アルさん、どういう事ー!?」

「単純な話だ、ハーレさん。昨日、ベスタは結構なダメージを負って戻ってきていた。そしてベスタが避けきれないと話す内容と、今日の午前中の付与魔法の情報を照らし合わすと……」

「あー!? もしかして土属性のドラゴンがそれをしてくるの!?」

「あぁ、その通りだ。昨日の時点では何が起きたのか分からなかったが、今日の午前中の付与魔法の情報から推測すればその可能性は高い」

「……マジで?」

「ここで嘘をついてどうするんだ、ケイ……」

「……ですよねー」


 これから戦いに行くドラゴンって並列制御Lv2以上で、付与魔法まで持ってるのか……。いや、逆に言えば未成体の間にそこまでの強化は可能になっているとも考えられる。


「とりあえず付与魔法の検証がこういう形でも役立っているってのは良い情報だな」

「あぁ、あれは確かに重要だった。ドラゴンのLvが高いだけにしては妙に魔法の威力が高いし、性質も見覚えがないものがあったからな。あれが付与魔法による強化だと考えれば納得はいく」

「なるほど、それは確かに……」


 普通の魔法とは何かが違うとは分かってはいたみたいだけど、ベスタ自身だけではそれの正体までは突き止められなかったんだろう。

 まぁベスタ自身は多少は魔法も使うとはいえ、物理の近接攻撃がメインだもんな。Lv7の魔法の性質を自分で調べるというのは無茶な話ではある。


「なんだかんだで、手分けをして検証して、情報の共有をするのって大事なんだな」

「ケイに同意だ。これからのドラゴン戦で付与魔法の事を知ってるかどうかは勝敗に大きく影響しそうだしな」

「ケイさん、ナイスです!」

「ベスタさんの事前調査も役立った感じだよね」


 そっか、ベスタが事前調査をしていた事もあって初めて全体像が見えてくるんだもんな。……流石に格上のフィールドボスのドラゴンとなると、この辺の情報は重要になってくるだろうしね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る