第571話 付与魔法の仕様


 もう少しで10時になるという事もあるし、敵への付与についてはサヤとヨッシさんが合流してからにしようかな。それまでに試しておける事もない訳じゃないしね。


「よし、最低限の報告は終わったし、次の検証をしていくぞー!」

「おう! で、ケイさん、次はどれやるんだ? 複合魔法か? それとも魔法砲撃?」

「とりあえず複合魔法からだな。……正直、これは出来るか怪しいけど」

「ま、それを含めての検証だろ。まぁ俺もケイに同意ではあるが……」

「重ね掛けが不可能って時点で、うまく行くとも思えんよなー。ま、やってみようぜ、ケイさん!」

「そだな。やるだけやりますか!」


 これについては単純に試せば良いだけの話なんだから、実際に発動してみれば良いだけではあるもんな。深く考えるより先に、並列制御で発動してみよう。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』は並列発動の待機になります> 行動値 64/71(上限値使用:2): 魔力値 185/206

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値14と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』は並列発動の待機になります> 行動値 50/71(上限値使用:2): 魔力値 164/206

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 情報共有板に報告している間に行動値も魔力値も全快はしていたけども、流石に通常スキルでもLv7の魔法の並列ともなれば消費量が多いな。

 えーと、付与の指定が出来るのはアルの木とクジラと紅焔さんの龍の3択か。これって指定から付与までの間に特に何もないから、複合魔法にしようとしても重ねようがないような……。やっぱり複合魔法化は駄目っぽい?


「んー、ちょっと紅焔さんに並列制御で同時に指定してみるよ」

「……それって、出来るのか?」

「正直分からない。……同時のタイミングで指定すれば、もしかしたらいけるかもってくらいか」

「……やってみるしかないって事か。良いぜ、ケイさん。やってくれ」

「了解っと」


 指定対象の待機中だった2つのアクアエンチャントを同時に紅焔さんに指定して……あ、駄目だ。同じ対象を指定する事は出来ませんって表示された……。


「これは無理っぽいね」

「あー、駄目かー。それじゃアルマースさんの木とクジラに同時にやるのはどうだ?」

「それなら多分いけると思う。アル、両方に攻勢付与をしてみるけど良い?」

「おう、問題ねぇぞ」

「んじゃそっちでやってみる」


 それじゃ今度はアルの木とクジラの両方に……って、待機時間がそろそろ切れそうでやばい!? 大急ぎで攻勢付与で指定してアクアエンチャントを発動!

 お、クジラの周囲を回るように浮かぶ3つの水球と、木の幹を回る3つの水球がそれぞれに生成されていったね。ふむ、共生進化なら両方のキャラに対して付与が可能なのはこれで確定。でも、これって……


「並列制御でやる必要はないな、これ……」

「……ケイ、そうなのか?」

「うん、ほぼ確実に。元々別々に指定出来るようになってたし、並列制御で行動値の消費量が増えるだけ損……」

「あー、そりゃ確かに損だな……って、あ、悪い。ライルが俺以外はもう揃ってるから、合流しようって連絡が来たわ」

「あ、そっか。それじゃ紅焔さんはここまでか」

「もうちょい検証していきたいとこではあるけど、全員集合のタイミングは流石に逃せないからなー。後で上がってくる報告を楽しみにしてるぜ!」

「ほいよっと! 午前中には上げきれるようにしとく」

「そんじゃまたな、ケイさん、アルマースさん!」

「おう、またな、紅焔さん」


<紅焔様がPTを脱退しました>


 そうして紅焔さんは自分の共同体のメンバーと合流する為に飛び立っていった。ま、元々合流するまでの時間で何かをやろうって話だったしね。ちょっと中途半端にはなったけど、それでも結構な成果はあったから良かったかな。


「さて、続きを……っていう前に、俺らもサヤとヨッシさんとの合流が先だな」

「それもそうだなー」


 改めて時間を見てみればもう10時目前だし、サヤとヨッシさんのログイン状態を確認して合流した方が良いだろうね。アクアエンチャントの検証の続きはそれからやっても遅くはない。

 さてとフレンドリスト……いや、確か共同体のメンバーリストでもログイン状態は確認出来たはず。よし、共同体のメンバーリストから確認して……お、サヤもヨッシさんも既にログイン済みで、現在地は森林深部か。


「サヤもヨッシさんも森林深部にいるみたいだな。チャットで俺らの位置を伝えとくか?」

「それもそだな」


 こういう時こそ便利な共同体専用のチャット機能だね。うん、共同体としては少人数なんだろうけど、いつも一緒にやるからにはこの機能はかなり便利。さて、チャット機能を開いてっと。


 ケイ    : サヤ、ヨッシさん、こんちはー!

 アルマース : おっす、2人とも。

 サヤ    : あ、ケイ、アル、こんにちはかな。

 ヨッシ   : 2人ともこんにちは。ハーレから伝言はちゃんと伝わってた?

 ケイ    : おう、ばっちりだ。……寝てるとこを無理やり起こされたけどな。

 ヨッシ   : あはは、それはハーレらしいね。

 サヤ    : ところで、コケの人が人柱になってLv7の魔法情報を公開したって少し騒ぎになってるって聞いたけど、ケイの事で良いのかな?


 ケイ    : ちょっと待って、間違ってはないしそれは俺だけど、今の森林深部ってそうなってんの!?


 折角の新情報なのに、赤の群集がいる可能性のある森林深部エリアでその状態は良くないんじゃない!? えー、赤の群集で既に知ってる人とか居そうではあるけど、流石にさっきの今でその状況は勘弁して……。


 ヨッシ   : あ、大丈夫だよ。それってさっきラーサさんと会って、情報共有板でそうなってるって聞いただけだからね。


 サヤ    : 説明が足りてなかったね。森林深部は表面上はいつも通りかな。

 ケイ    : あー、なるほど、そういう事か。


 なんだ、情報共有板で盛り上がっているという情報をサヤのクマ友達のラーサさんから聞いただけで、別に森林深部で目に見える形で大騒ぎしてるわけではないのか。ふー、単なる杞憂で良かった。


 アルマース : とりあえず俺とケイはその検証の真っ最中だな。さっきまでは紅焔さんもいたんだが、自分のとこの共同体に合流するって事で別れたとこだ。


 ヨッシ   : あ、さっき紅焔さんが転移してきて、ソラさん達と合流してたのはそういう事だったんだ。


 ケイ    : ま、色々と説明はするからとりあえず合流しよう。

 サヤ    : うん、分かったかな。えっと……2人はミズキの森林かな。

 ヨッシ   : それじゃすぐにそっちに行くね。

 ケイ    : ほいよっと。

 アルマース : おう、待ってるぞ。


 さてとフレンドリストから俺の現在地の座標は分かるだろうし、ここで待ってればサヤもヨッシさんもすぐに来るだろう。それで合流したら、アクアエンチャントの検証もしつつみんなのスキル強化だね。


「さて、2人が来るまでにちょっと水の攻勢付与の性質を見ていくか。ケイ、アクアウォールを使ってもらえるか?」

「それは別に良いけど、なんでまたアクアウォール?」

「紅焔さんの時は爪での追撃だっただろう? クジラの突撃や、木の根での刺突ならどうなるかを見てみたいんだよ」

「あー、なるほど。そりゃ確かに気になるとこだな」


 確かに今まであった操作属性付与による追撃効果は攻撃に使うスキルによって変化してたし、この攻勢付与でも変化しそうではあるもんな。

 斬撃系統なら水刃になるし、打撃系統なら水を打ち据えるような感じにはなるから、突撃だと打撃と同じような感じかな? ま、それを確かめる意味でも使ってみる価値はあるか。


<行動値5と魔力値15消費して『水魔法Lv5:アクアウォール』を発動します> 行動値 55/71(上限値使用:2): 魔力値 170/206


 ちょっと行動値と魔力値が回復してたけど、全快にはまだまだだったか。ま、それは良いとして、今は俺の目の前に水の防壁を生成した。これはアルの攻撃と攻勢付与の追撃効果を受け止めるだけが目的だし、そこまで耐久値は気にしなくて良いだろう。


「水の防壁はこれでいい?」

「おう、いいぞ。それじゃ行くぜ。『並列制御』『多根縛槍』『略:重突撃』!」

「ちょ、同時にやんの!?」

「まぁな!」


 まさかの並列制御での同時発動だった!? いや、魔力集中や自己強化も発動してないから威力としては低めだから大丈夫か。ちょっと距離を離してからやっているのは観察しやすくする為かな?


 よし、ここは突撃してきているアルに付与した攻勢付与の追撃効果をしっかり観察していこう。アルの重突撃に合わせてクジラの周囲を漂っていた水球の1つが動き出しているね。現状では水球が頭の上に待機している感じか。

 そして、背中にある木の根も突撃と一緒に勢いを増して突っ込んで来ている。あー、根そのものの動きは遅いけど、突撃と組み合わせる事で速度が補われているっぽい? こっちはこっちで木の周りに浮かんでいた水球の1つが動いて、並んで動いている感じだね。形状は水球のままか。


「おっしゃ、効果を見極めてやる!」

「おうよ!」


 そこから俺の水の防壁に向けてアルの突撃が直撃し、その直後に追い打ちをかけるように水球が水の防壁に向かって打ち据えられてくる。って、アルの突撃よりも水球の追撃の方が耐久値の減少量が多いんですけど!? くっ、流石は俺の魔法と言うべきか。


 そして次の攻撃となる根の刺突からの拘束攻撃が水の防壁に突き刺さり、水の防壁に絡みついていく。うげっ、地味に水の防壁の移動が不可能になった!? そこに追撃の水球が形を変え、絞りに絞った高圧水流のように凄まじい勢いで水を放出してきた。

 ふむ、水での刺突追撃ってこうなるのか。というか、こっちもアルの攻撃よりも追撃効果の方が威力が上なんですけどー。……これ、思った以上に強力だな。


「……なぁ、ケイ?」

「……何となく言いたい事は分かるけど何だ、アル?」

「攻勢付与の追撃効果、威力が強過ぎじゃね?」

「俺の魔力が高めなのが理由の1つだろうけど、確かになー。ま、流石は水魔法Lv7ってとこなんだろ。これ、現状では気軽に取れないっぽいし……」

「あー、確かにそれもそうだよな。そういう意味ではこれくらいの威力がないと、価値もなくなるのか」

「そうだと思うぞ。Lv7の攻撃と思えば不思議な威力でもないしさ」


 水魔法Lv6のアクアインパクトでもかなりの威力があったし、それより上の魔法なんだもんな。しかも自分自身には付与出来ないというデメリットも存在しているし、行動値や魔力値の消費量も決して少ないとは言えないからね。

 こればっかり使っていたら今度は昇華魔法がろくに使えなくなるし、戦闘の状況に合わせて使い分けていくのがいいんだろうな。それにまだ検証出来ていない、敵への付与についてもある。


「今の、凄かったかな!?」

「それが例の水魔法Lv7なんだ? ケイさん自身が自分で使う訳じゃないんだね」


 そんな風に言いながら、サヤとヨッシさんが上空から降りてきていた。今の2人の発言的に、アルと一緒に攻勢付与の追撃効果の検証は思いっきり見られていたようである。


「サヤ、ヨッシさん、到着してたんだな」

「到着したなら言ってくれて良かったぞ?」

「到着した時には、もうアルが突撃してたかな」

「あはは、もう始まってたもんね。それにちょっとどんなものなのか気になったしさ?」

「ま、その気持ちは分かるぜ。今までとは系統が違うもんだしな」

「そうみたいかな。……追撃の威力はケイのステータスを参照かな?」

「どう考えてもアルさんのステータスの威力ではなかったよね」

「おう、そうみたいだぜ」


 まぁそれについては見てたならすぐに気付くよね。魔法型のキャラにとって、現時点では最大の支援魔法ってとこかもしれない。……広範囲に影響がある昇華魔法が使いにくい場所もあるだろうし、用途は色々とあるはず。


 あ、でも敵が使ってくる場合ってどうなんだろう? 自分自身には付与出来ないけど……って待てよ? もう一度ヘルプを読み返してみよう。えーと……『自身のログインキャラには付与は不可能』って書いてあるね。え、支配進化は両方を同時に操ってる事になるけど、共生進化の場合ってどうなるの? もしかして共生進化だったら共生相手に付与するとか出来たりする……?


「……ケイ、どうしたのかな?」

「あー、ちょっと支配進化ではデメリットがある可能性に気が付いた。あ、違うか。共生進化だとメリットがある可能性に気が付いたのが正解か」

「ケイ、どういう事だ?」

「俺じゃ検証出来ないから他の人に任せる必要があるんだけど、共生進化ならもしかしたら共生相手に付与が出来る可能性がある」

「……マジか」

「まだ実際どうかはわからないけどね。ちょっと共生進化での検証を頼んでくる」

「あー、検証できる人がいればいいが……」

「そこも問題なんだよな。ま、報告をするだけしとくよ」

「おうよ」


 今のはただの思いつき案件ではあるけども、試す価値はある内容のはず。まぁアルの言うように検証が出来る人がいるかが問題なんだけど、そこは運良くいる事に期待するしかないね。

 あ、そういえば今朝書き込もうと思ってた支配進化での2つの半自動制御を並列制御で使う方法の情報も書き込んどこう。……よし、そういう事で検証の依頼の書き込みは完了っと。


 さて、こうやって段階的に報告をしつつ、Lv7の魔法の検証を続けていきますか。他の人達の方の検証結果も気になるところだね。


 

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