第547話 ロブスターの新たな力


 さて、新たな応用スキルも手に入れた事だし、まずは試し……この場合は試し斬りだな。ハサミで斬るのは確定だけど、具体的にどんな感じなんだろう?


「よし、それじゃやってみよう!」


<行動値を10消費して『斬鋏閃Lv1』を発動します>  行動値 27/61(上限値使用:11)

<『斬鋏閃Lv1』のチャージを開始します>


 話している間に少し行動値が回復していた。……魔力集中はついさっき切れたので、今回は仕方ないか。

 さてと、このスキルは右のハサミか左のハサミのどっちかを指定するんだな。今回は右のハサミに指定してっと。名前に入っているようにハサミを持っていなければ使えないスキルなのだろう。そしてチャージ系応用スキルの特徴である銀光を放ち出していく。うん、この辺は大体予想通り。


「ま、目新しい感じでもないか」

「そだねー! でも、ケイさんに大技が増えたのはいい事さー!」

「後で説明はするけど、ハーレも強化しないとね。サヤのLv3の爪刃双閃舞もかなりの強化になったからね」

「おー! それは是非とも見たいです!」

「あはは、それはまた夜にかな。ヨッシとハーレも簡略指示を手に入れないとね」

「ハーレさんが来るのを待ってたとこもあるからなー」

「え、ケイさん、そうだったの!? やってくれててもって言っても……みんなは、それはしないよね?」

「ま、そうなるな。って事で、夜のどっかのタイミングでLv上げをしに行くぞ」

「えへへ、了解です!」


 ハーレさんを待っていたという話を聞いて、どことなく嬉しそうな雰囲気のハーレさんである。ま、その気持ちは分からなくもない。わざわざ自分が来るのを待っててくれたら嬉しいだろうしね。


 そんな風に考えていると、上空に方から何やら声が聞こえてきた。2人分の声で、どちらも聞き覚えがあるね。


「お、みんな発見! ダイク、降りてー!」

「ほいよっと。……てか、またケイさんが魔改造状態なんだけど、それどうなってんの?」

「お、レナさんとダイクさんか。見ての通り、岩の操作を活用した飛行モードだぞ。ついでに懐中電灯モドキ付き!」

「……昨日のアレの改良版か。相変わらず無茶苦茶な手段を考えるもんだな。……で、そっちの銀光はかなり強めだし、凝縮破壊Ⅰを手に入れてお試しってとこか?」

「お、大当たり! もう少しでチャージが完了するってとこだな」

「あ、そうなんだねー? それじゃわたし達の用件はそれが済んでからにしよっか」

「それもそだなー」


 レナさんとダイクさんは用事があるようだけど、まぁタイミング的にあれだろうな。今日の夜から予定していた纏瘴を使ったアルが、同じく纏瘴を使った桜花さんの桜の木と対峙するというスクショを撮る件だろう。

 一応夕方に確認自体は聞いたから、最終的に確定した時間の通達ってとこかな? 背景には雷雲を用意するという話でもあったし、結構な演出になるはずだしね。


<『斬鋏閃Lv1』のチャージが完了しました>


 あ、チャージが完了したね。用件は大体察しがついてるし、この1撃を使えばひとまず区切りにはなるから待ってもらおうっと。まだサヤ、アル、ヨッシさんの強化の成果は見せれてないけど、それは合間をみてやるつもりのLv上げの時でも問題はない。


「さて、待ってもらってる事だし、チャージも終わったから行くぜ!」

「わくわく!」


 これも挟み切るって感じのスキルなんだろうけど……って、あれ? チャージが完了したら、今までのハサミの開く可動域が広がって160度くらいになってる? ……ふむ、これはただ挟むって訳でもなさそうだな。


「……へぇ、随分とハサミが広がるんだな」

「ちょっとびっくりかな」

「それって、どんな感じになるの?」

「それを確かめる為にもやってみないとな! って事で、そこの木を斬り倒す!」


 他の木より少し細めではあるけども、それでもそこそこ太さはある木を標的にする。さて、かなり広く開いたハサミでどれだけ斬れるか実験だ。普通にやれば真っ二つには出来なさそうな太さだけど、果たしてどうなるか。いざ、実行だ!


「えー! 木が真っ二つに斬れたよー!?」

「おいおい、倒れて来てんじゃねぇか!? 『略:根の操作』!」

「アル、サンキュー! ……それにしても予想以上の斬れ味だった」

「見た目以上に切断範囲があるみたいかな?」

「どうもそんな感じだね」

「みたいだな。こりゃ、後で切断範囲の検証も必要か」


 明らかにハサミの大きさを超えた範囲が切断されているので、少し変わった性質を持っているようである。アルと特訓していた時にハサミのサイズで挟める大きさの限界があるのが気になってはいたけども、その辺を補うような形になってるのかもしれないね。


「ま、それは後でじっくりやろう。とりあえずレナさんとダイクさんの用事を聞こうぜ」

「賛成さー!」

「えっと、夜のスクショを撮る予定時間の確定で良いのかな?」

「うん、最終確認中だよー! 参加する人に確認をとって夜の9時に草原エリアにする事にしたけど、大丈夫かなー? ケイさんとハーレさんは直接の確認が出来てなかったしさー」


 確認の為の連絡はあったけど、正式に夜の9時で決定か。元々ヨッシさんが連絡を受けて、多分大丈夫という返答にはなってるけど、しっかりと確認しに来たって事なんだね。

 よし、予定通り9時なら8時くらいにはみんな晩飯を食べ終えてから再度ログインしてるだろうし、Lv16まで上げる時間くらいは確保出来そうだ。


「俺はそれで良いけど、みんなはどうだ?」

「問題なしさー!」

「うん、9時からなら問題ないかな」

「そだね。その時間なら私も大丈夫」

「俺も問題ねぇぜ」

「という事なので、レナさん、問題なしだ」

「うん、これで全員大丈夫だねー! あ、桜花さんと電気の昇華持ちの人は確認済みだから、みんなは時間通りに来てくれれば良いからねー!」

「あー、ちなみに補足説明をしとくと草原って初期エリアの草原な。一応そういう事をしたいって連絡は既にしてるから、場所としては問題ねぇぜ」

「既に手回し済みって事か」


 もう先んじてレナさんとダイクさんが、下準備は済ませておいてくれたようである。そういや電気の昇華持ちの人は俺らの知らない人って話だったけど、どんな人だろうね。ま、レナさんの紹介なら悪い人って事はないだろう。


「ねぇ、レナさん?」

「ヨッシさん、何かなー?」

「場合によっては見学人が多かったりもする?」

「あーうん、多分結構来ると思うよー。あとね、風雷コンビも来る事になっちゃった!」

「風雷コンビも来るのか。まー、それはそれでありか? アルはどう思う?」

「ま、いいんじゃねぇか? 演出用の雷の増量が期待出来そうだしな」

「確かにそりゃそうだ」


 電気の昇華持ちが最低でも3人いるという事になるのなら、それだけ雷の演出は大掛かりに出来るもんな。これは楽しみになってきたぞ!


「そういや俺は纏瘴を使う必要があったんだっけか?」

「うん、禍々しい桜の木とクジラの共演がテーマだしねー」

「あー!? 忘れてたー!?」

「……どした、ハーレさん?」


 急に何かを思い出すようにハーレさんが大声を出していた。……忘れていたって何かあったっけ?


「ケイさんは持ってるから意味ないのさー! ほら、『異常回復Ⅰ』の取得をすっかり忘れてます!」

「あ、そういやそんなのもあったっけ」

「……完全に忘れてたな。確か、浄化魔法と瘴気魔法を両方使うんだっけか」

「……それか両方でそれぞれ200回、属性付与した状態でスキルの発動だったよね?」

「確かそうだったかな?」

「およ? てっきりみんな持ってそうな気もしてたけど、そうでもなかったんだねー?」

「ま、今の今まで忘れてたっぽいしな。持ってるのは俺だけか」

「まー、そういう事もあるよねー!」


 異常回復Ⅰは俺しか持ってないはずだけど、みんなはどんな状態だったっけ? 間違いなく中途半端な状態にはなってるはず。


「みんな、取得条件のクリア状況ってどんなもん?」

「えっと、前にやった時は私とハーレが纏浄の方はクリアしてたかな? ヨッシは纏瘴だったよね」

「そうなのさー!」

「うん、そうなるね」

「俺はどっちもまだだな。今から纏浄をして浄化魔法を使っておけば、9時までには纏瘴の使用解禁に間に合うか……?」

「えーと、効果が切れてから3時間が使用不可だっけ。……今が6時前だから、いけるか?」

「いけそうだな。よし、俺はそうするか」


 結構時間的にはぎりぎりにはなるだろうけど、やってやれない事もないタイミングではある。状態異常の回復が早くなる『異常回復Ⅰ』を持っておいても決して損ではないし、今のアルなら浄化魔法も瘴気魔法も使えるもんな。

 それに浄化魔法を使えば即座に纏浄は解除される。まぁまともに動けなくはなるけどね。


「ん? あ、ごめん! 急用だからこの辺でー! ダイク、行くよー!」

「え、ちょ!? すぐに水のカーペットを出すから引きずらないで!? 『移動操作制御』!」

「ほら、急ぐ!」

「分かってるって!? でも内容くらい説明してくれ!?」

「情報共有板に、狙ってた成熟体が出たって目撃情報!」

「あー! そりゃ急がねぇと、また『強敵に抗うモノ』を取り損ねる!?」

「という事で、また後でねー!」


 そうして慌ただしくレナさんとダイクさんは水のカーペットに乗って飛んでいった。なるほど、成熟体との遭遇に関しては運が絡むから、レナさんとダイクさんは運悪くまだ挑めていないって感じか。あの2人なら称号の取得まで逃げ切れずにって事はないだろうしね。


「アルは魔法で取る方が早いけど、ヨッシはどうするのかな? 私とハーレは昇華がないから、無理だけど……」

「はっ!? そういやヨッシを止めた気もするよ!?」

「あはは、そういやそうだった気もするね。うん、私もサヤとハーレに合わせて物理の回数の方で取るよ」

「サヤとヨッシも私と一緒だー!」

「でもやるのは晩御飯を食べた後からね。Lv上げをする時か、スクショの撮影が終わってからにしよっか」

「回数がクリア出来るかは分からないけど、それが良さそうかな?」

「それで決定さー!」


 どうやら女性陣の方ではどういう風に取得するかは決まったようである。俺は既に取得済み……って、これは統合はあるのかな? うーん、試してみないと分からないけど、これについては二者択一のような気もする。

 そうじゃないと、俺みたいに両方からいけるのと、サヤやハーレさんみたいに片方しかいけないのに差が出るもんな。……よし、ここはまとめをチェックして……あ、検証情報発見。やっぱりどっちかのみか。


「ケイ、何か調べてるようだがどうした?」

「あー、『異常回復Ⅰ』の統合って可能なのかを確認してた。で、結論として無理だってよ」

「……なるほどな。確かにそりゃそうなるか」

「俺もこれの仕様は納得。不公平になってくるしな」

「だな。んで、時間も時間だからさっさと浄化魔法をやっちまいたいんだが、いいか?」

「おう、問題ないぞ。サヤ達もそれでいいか?」

「あ、うん。問題ないかな!」

「大丈夫です!」

「問題ないよ」


 サヤ達も問題ないようなので実行に移していくのが良さそうだ。えーと、アルは浄化魔法を使うとしたら水の昇華からになるんだな。性質は光を帯びたウォーターフォールになる筈だけど、今の拓けた場所なら特に問題はないか。


「よし、それじゃ始めるぜ。『纏属進化・纏浄』!」


 そしてアルの木とクジラがその身に浄化の力を纏っていく。暖かな光を放つクジラと木が、暗い森の中を幻想的に照らし出していた。


「これはスクショのチャンス!」

「あはは、ハーレらしいね」

「でも、見所はこれからじゃないかな?」

「あー、確かにそうだろな。……ちょっと距離を取っとくか」

「サヤ、竜に乗せてー!」

「はいはい。どうぞ、ハーレ」

「ありがとー!」

「ヨッシさん、俺らも退避しとくか」

「そだね。巻き込まれないようにして、スクショを撮っておかないと」


 そうして浄化の力を纏ったアルから少し距離を取って飛んでいく。俺が使った時は魔法砲撃にしたから実際に見てみないと分からないけど、浄化の光を放つ滝が生成されるはずだと思う。夜の暗闇の中で、その滝は見応えはあるはず!


「んじゃ行くぜ。『並列制御』『略:アクアクリエイト』『浄化の光』!」


 アルの生成した水と浄化の光が重なり合って、そこからウォーターフォールによく似た浄化魔法が発動した。ピュリフィケイション・アクア……というよりは浄化魔法の基本的な形は同じ属性同士で発動する昇華魔法が基準になるみたいだね。

 とりあえず思った以上に神秘的な感じになったので、スクショをしっかり撮っておこう。これはダメ元ではあるけど、個人部門で出すのが良いかな?


「よし、成功だ!」

「……まぁ墜落しながらだと、いまいちだけどなー」

「うっせーよ、ケイ! これを使うとしばらく操作出来なくなるのは知ってるだろ!?」

「まぁなー。でも、まぁここで殺せる人もいないし、しばらくは仕方ないだろ。……それとも水砲ザリガニでも捕まえてこようか? 死ねばすぐ回復するぞ」

「……いや、いい。大人しく動けるようになるまで待つさ」

「ほいよっと」


 アルは浄化魔法を放った事ですぐに纏浄が解除になり、地面へと墜落している。ま、それがデメリットだし、元々分かってた事でもあるから問題ない。

 それに途中からは比較的楽な的当てに変えたとはいえ、結構な時間は特訓してたしね。この辺でまたまったりと休憩でも良いだろう。


「ちょっと区切りもついたしもう少しで6時だから、そろそろ私とヨッシは一旦ログアウトかな?」

「それもそっか。続きはみんな食べ終わった頃でいいよね」

「了解です! それまでの間に私も少し鍛えるのさー!」

「……あー、どうせ動けないし俺も今のうちに飯を食ってくるか」

「……そういう手もあったか!?」


 動けない状態ならばその間にログアウトしてしまえばいいんだな。その辺の時間経過はログアウト中でも普通に反映されるみたいだし、時間の有効活用としてはありだね。


「それじゃまた後でかな!」

「ご飯食べてくるね」

「俺も便乗って事で、飯食ってくるわ」

「ほいよっと」

「いってらっしゃーい!」


 そうして6時目前という事でアルとサヤとヨッシさんはログアウトしていった。さてと、7時までは俺とハーレさんの2人になったね。


「ケイさん、お願いがあります!」

「あー、爆散投擲をLv3に上げたいってとこか?」

「大当たりなのですさー! 手伝ってもらってもいい!?」

「それくらいならいいぞー!」

「やったー!」


 なんだかんだでハーレさんも今日はアルバイトを頑張ってきたんだし、その分だけの遅れも取り戻したいんだろう。頑張ってきたご褒美にこのくらいの特訓に付き合うのも良いだろうね。

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