第524話 白の無所属


 さてと、さっきの俺らへの奇襲はイブキの暴走という事や、既に紅焔さんも襲撃を受けていたという事は分かった。でも、まだ気になる要素は残っている。

 って、ウィルさんの2ndが移動種の木ならそういう事もあるのか。うん、まぁそうだよね。


「羅刹、いくらなんでも今のはねぇよ! 2回目の死亡だからデスペナで経験値が減っただろ!?」

「そんな事は知らん。嫌なら大人しくしておけ、このアホが」


 どうやらウィルさんの木にリスポーン位置を設定しているようで、死んでもすぐに戻ってきたイブキであった。戻ってきて早々、うるさいイブキである。

 それにしても俺らの中ではサヤが樹洞の中にリスポーン位置を設定しているけども、それで復活する場合って樹が勝手に開いてその中から出てくるような感じで復活するんだね。地味に樹洞の中にリスポーン位置を作った場合の復活方法を見たよ。


「でもせっかくの機会じゃねぇか! 勿体ねぇって!」

「……決めたルールをこれ以上破る気なら、適応進化が発生するまで仕留めるぞ?」

「うわ!? 折角、ここまで順調に育ててきたのにそれは勘弁!?」


 とりあえずはイブキは大人しくなったようである。っていうか、イブキは確実に未成体だから、それに適応進化を発生させるなら同じ死因で100回死亡だよな……? うん、確かにそれは嫌だし、羅刹なら実行出来そうな気がするのが恐ろしいところか。


「さて、アホがようやく静かになった。……迷惑をかけた詫びだ。答えられる範囲の事なら答えよう」

「はい! 1つ気になる事があります!」

「……確かハーレさんだったな。聞きたいのはなんだ?」

「えっと、イブキさんが暴走した理由はなんですか!? ただ私達を見たからってだけじゃないよね!?」

「……まぁそういう推測にはなるか」


 あ、俺が気になっていた事をハーレさんが先に聞いちゃったね。まぁ羅刹達の中でルールを決めているようではあるけども、さっきまでそれを押し切ってでも俺らと戦いたがっていたもんな。

 イブキはそもそもそのルールに納得していないのか、それとも他の要因で暴走しているのかが気になる所ではある。……さっき、2度目の死亡とか言ってたのが気になるしね。


「んなもん、成熟体にぶっ殺されて不貞腐れてウィルのとこにリスポーンしたら、目の前に戦いたい相手がいたからだ! 羅刹に気付いて距離を取ろうとしてたから、機会を逃したくなかったんだよ!」

「……まぁ、本人の言うように脳筋アホのこいつは自制が効きにくいって事が、その質問の回答だ」

「なるほどね。もしかして羅刹さんも成熟体に仕留められたのかな?」

「サヤさん、何故そう思った?」

「……ここに来た時には羅刹さんの姿が無かったからかな。それでイブキさんが成熟体に仕留められてウィルさんからリスポーンしてきたなら、そういう事かなって予想だよ」

「……ま、その通りだ。俺らとしても昨日の今日で、ここでまたグリーズ・リベルテと遭遇するとは思ってなかったからな」


 確かにかなりピンポイントなタイミングが重ならなければ、ここでこういう風に遭遇する事は無かっただろうね。俺達だって『進化記憶の結晶』の破片を確保する為に戻ってきて、探しに潜っていなければそのまま通り過ぎて遭遇はしなかった筈だし。

 さっきの奇襲は勘弁してほしいとこではあるけども、ついテンションが上がっていた状態で戦いたがっている相手がいて、なおかつ離れていこうとしているのを見たというのが原因なんだな。……流石に俺もそういう状況なら奇襲はしないけど、声くらいはかけたくなるだろうから気持ちは分からなくもない。

 

「……ケイさん、なんだかすごい申し訳ないんだけど、頼みがある」

「あー、何となく予想がついた。ウィルさんの頼みって、勝負してくれって話だよな?」

「まぁそうなるな。イブキの奴が一番戦いたがってたのって、ケイさん達なんだよ」

「え、そうなのか?」

「おう、そうだぜ! という事で、今度こそ正々堂々と勝負を申し込む!」

「どの口がそれを言うんだ、このアホが」

「羅刹、うっせーよ! 羅刹だって今日はログインしてから昨日の話ばっかだし、戦いたがってただろ!」

「ぐっ! ……そ、それはだな」


 どうやら羅刹自身も俺らと戦いたがっていたようである。しかも昨日の夜の一件が結構影響していたっぽいね。……この人はもっと戦闘狂で怖い人みたいな印象があったけども、意外とそうでもないみたいだ。まぁ戦闘好きって事だけは間違いないようだけどね。

 さてと、これはどうしたもんかな? 何となくイブキがしつこそうな気もするけど、別に俺自身はただ単に戦うだけなら嫌という程でもない。……どうするかはみんなと相談してからだね。


「あー、ちょっと相談させてもらっていいか?」

「おっ!? やってくれんのか!?」

「少し我慢というものを覚えろ、イブキ。……ウィル、流石に無条件で頼むのは気が引けるから、昨夜見つけたあれを出してくれ」

「あー、あれか。ま、俺らにはいらないし、ケイさん達にならいいか」

「……あれって何かな?」

「今って群集クエストをやってんだろ? それに関係したもんだ」

「……マジで?」


 無所属の羅刹達が群集クエストに関係するものを持っている……? そういえば気にしていなかったけども、無所属の場合って群集クエストの扱いはどうなるんだ?


「えーと、これだな。『進化記憶の結晶』って、群集クエストで集めるアイテムだろ?」

「っ!? ウィルさん達、それを見つけたのか!」

「しかも光ってる方じゃねぇか!?」

「お、やっぱり群集クエスト絡みのアイテムっぽいな。ケイさん、勝負を受けてくれるのなら、これを提供してもいいぜ」

「……ウィルさん、マジで?」

「おう、マジだ、マジ!」


 まさかの2つ目の『進化記憶の結晶』がこんな所で出てくるとは……。勝ったらではなく勝負をする事が条件だし心は惹かれているけども、その前に確認しておくべき事もある。

 まず無所属にとって、このアイテムの扱いがどうなっているかが重要だ。その内容を聞かないことには素直には頷けないな。


「ウィルさん、ちょっといい?」

「おう、大体聞きたい事は分かってるぜ、ヨッシさん。無所属での群集クエストの扱いだよな?」

「うん、そうなるね」

「無所属に関しては、基本的に群集クエストの参加資格はないな。ま、群集に所属してないんだから当然ではあるんだが……。ただし、無所属には増援クエストってのがあるんだよ」

「増援クエスト……?」

「そんなのあるんだー!?」


 ほほう、これは興味深い内容が出てきたね。増援クエストって、なんとなく名前から予想はつくけど、具体的な内容が知りたいところである。


「まず増援クエストの説明をするぞ。こっちは今の群集クエストの場合だと、さっきの結晶をどこかの群集に引き渡す事で進行するみたいになってるな。そしてその報酬として情報ポイントが貰えて、引き渡した群集の群集拠点種から引き渡した回数分だけアイテムの交換が可能になってるぜ」

「おー!? そんな仕組みになってるんだー!?」

「へぇ、興味深いじゃねぇか」

「って、地味にウィルさん達にもメリットがあるクエストじゃね!?」


 何か対戦の為の取引材料として提示されたけども、思いっきりメリットがあるよね、それ! いや、別にそれが悪いって訳でもないし、引き渡す群集も選べるのなら取引としては成立はするのか。


「ま、単純に言えばそうなるな。ついでに言うと、これを持ちっぱなしでい続けるとPKカウントと同じように白いカーソルが徐々に黒に染まっていくらしいんだ。まだ俺は黒くはなってないけどな」

「はい!? え、無所属ってそんな要素があるのか!?」

「おう、そうだぜ。ちなみに無所属には2系統のプレイヤーが存在しててな。羅刹やイブキみたいに自らの意思と目的を持ってあえて無所属になっている奴と、俺みたいに群集に居場所を失って抜けていった奴になるな」

「……なるほどね」


 無所属と言っても、全ての人が同じ理由でそうなっている訳ではないという事か。そうなってくると、赤の群集で問題を起こした連中が無所属にいる可能性は充分ありそうだ。

 という事は、自発的に出ていった人はともかく、居場所を無くした人は増援クエストはやりにくそうだな。……自業自得のような気もするけど。


「あー、ウィルについては本人は言わないだろうから俺から補足させてもらう」

「ちょ、羅刹! それは言わなくてもいい!」

「いや、どう考えても関係者だったケイさんには知る権利があるだろう」

「ぐっ、それは……」

「って事で、ウィルは少し黙ってな」

「……そうだな。分かった」


 そうしてウィルさんは少し諦めたように少し距離を取って待機し始めた。俺には知る権利があるという事は、あのウィルさんとの裏取引に関わってくる内容かもしれないね。


「……ウィルさんが赤の群集を抜けてからの話か?」

「あぁ、そうだ。あの赤の群集の騒動で処罰を受けて、居場所が無くなった奴らを集めて謝って回ってな。悪い事をし過ぎた反省した奴らは、俺らの集団の一員となっている。ま、まだまだ弱い連中も多いし、我が強い奴も多いがな」

「え、もしかして羅刹さん達ってもっと大人数の集団なのかな!?」

「おう、そうだぜ。まだこの辺まで来れる奴は多くはないがな」

「それって、もう問題行動は起こしてないって認識でいいのー!?」

「ま、そうなるか。……抑止力としてウィルが俺とイブキを勧誘したってのもあるけどな」

「そうなんだ。ウィルさん、やるね」

「……そんなんじゃねぇよ。俺は俺のやらかした事のケジメをつけようとしただけだ」


 どこか哀愁の漂う言い方をしているウィルさんだけど、それはやろうと思っても簡単に出来る事ではない。そっか、ウィルさんはあの裏取引で赤の群集を抜けた後から色々と頑張ってたんだね。


「あー、俺の事は良いから、説明を続けるぞ。俺らの方については、集団化してるとはいえ個人の自由意志でどこに増援をするかって事に決めた。まぁ無所属にはそういうクエストがあるって事で接触したい奴もいるから、多少は警戒を緩めて欲しいってとこだな。つっても、本格的に始まるのは今回が初めてなんだが……」

「……なるほど、それに関しては了解。後で群集の方に伝えとく。そういえば共闘クエストの時はどうなってたんだ?」

「あー、共闘クエストか。あれは参戦自体は可能だったんだが、現地までの移動手段とボス戦のタイミングが分からなくて、参戦出来たのは極一部だな」

「あーそうなのか」


 せっかくの大型の共闘イベントだったのに、無所属だと充分に楽しみきれないようになっていたんだな……。でも、それが無所属になるという事でもあるんだろう。


「ま、その辺は気にしなくて良いぜ。それを承知の上で無所属になっているか、自分から居場所をぶっ壊して戻るに戻れない奴のどっちかだからな」

「ウィルの言う通りだな。デメリットは承知の上で俺もイブキも無所属になっている」

「だな! 自分からメリットを捨てといて文句を言うのは馬鹿って話だぜ!」

「それに、やらかした俺と違って、羅刹やイブキみたいに自発的に無所属になってる奴はいつでも群集に戻れるからな」

「あー、そういやそうなるのか」


 ウィルさんは自分が間違った事をしたというのを理解した上でだし、羅刹とイブキについては元々そういうイベントよりも対人戦を優先したという事になるんだろう。

 いつでも戻れる状態でかつ、本人達が納得しているのであれば、そこに口出しをするのは野暮ってもんだろう。


「ウィルさん、それは分かったけど少し話を戻してもらってもいいかな? その『進化記憶の結晶』を持ち続けるとカーソルが黒くなるってのはどういう事なのかな??」

「確かにそれは気になるのさー!」

「PKと同じようにカーソルが黒くなるの気になるね」

「あー、まぁ無所属が持ち続けるなって事なんだろう。隠し持ち続けたら群集クエスト自体が進まなくなるだろうしな。まぁ、これはこれでちょっと面白い要素があったりするんだが」

「……面白い要素?」


 カーソルが黒くなるのはPKの証だし、この場合だと増援クエストを進めずに群集クエストを妨害するって話にもなってくるのか。ふむ、それにどんな要素があるんだろう? 


「……まさかとは思うが、黒いカーソルに変わると黒の暴走種に関係してくんのか?」

「お、アルマースさん、鋭いな。ちょっと違うが、かなり近いぜ、それ」

「……マジかよ」

「どういう事だ、ウィルさん?」


 PKでカーソルが黒くなっていくというのは前から少し気になっていたけども、それ以外にも意図的にカーソルを黒くする手段があり、それが黒の暴走種と関係してくる……?


「単刀直入に言うぜ。PKを繰り返してカーソルを真っ黒に染めて黒の統率種に進化した無所属のプレイヤーは確認した。これは残滓と瘴気強化種の統率が可能になるぜ」

「まぁ、そいつは羅刹が成長体に戻るまでぶっ倒しといたがな。多分、その状況になった奴が『進化記憶の結晶』を持ってたら、倒せば落とすんじゃないか?」

「……マジで? え、場合によってはPKのプレイヤーが持ってる可能性もあんの!?」

「まだ確認した訳じゃなけどな」

「……それでも色々ビックリなんだけど」


 うん、残滓と瘴気強化種の統率が可能になる進化先があるとか、場合によってはプレイヤーがボス化するとか、色々とびっくりだよ。全然知らなかった無所属の方はとんでもない事になっているようである。てか、PKで黒く染まった人ならLvも下がるって仕様だったけど、進化前までもいくのかよ!

 でもウィルさんが頑張って集めたメンバーでそれなりに無所属のプレイヤーが暴れないように抑えている感じではある。……ただ群集から居場所を失っただけの問題がある連中が集まった訳ではなく、それなりに治安を維持出来るだけの勢力にはなっているようだね。ウィルさん、頑張ったんだな!

 

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