第291話 知らないところでの繋がり


 俺達のPTと臨時メンバーのレナさん、昇華の再現実験にやってきていたダイクさんはここでボス戦は離脱となった。参加希望のPTも来てたので入れ替わりという形になって丁度いいだろう。

 PT連結を解除して、とりあえず戦場からは離れた位置に移動して全員でアルの背中の上に乗っている。明日は休みだけど、流石に連戦は疲れるね。


「連戦だったから今日はもう戦闘は良いや」

「私もかな。やろうと思えば出来るけど、明日もあるもんね」

「私はまだまだ大丈夫さー!」

「そう言ってやり過ぎて寝坊だよね、ハーレの場合は。まだ前半の前半って感じだし、ペース配分は大事だよ?」

「あぅ!? ……身に覚えがありすぎる!?」

「そういう事なら、森林深部に戻ってからミズキの森林でスキルの熟練度稼ぎでもやるか?」

「お、アルそれいいな。それじゃそうするーー」

「ところでケイさんは夕方の件は大丈夫?」

「……あっ」


 しまった、雑魚討伐にボス戦にと連戦続きだったからすっかりその件を忘れてた。……今、森林深部に戻ると不味いかな……? というか、真っ先に問い詰めてきたレナさんがそれを言うのか。


「はっ!? ラックからフレンドコールだよ! もう戦闘終わってるから出ても問題ないよね!?」

「多分大丈夫かな?」

「敵が来ても私達で対処したらいいしね」

「それじゃちょっと出てくるー!」


 どうやらハーレさんにラックさんからのフレンドコールが来たらしい。……良いタイミングではあるけど、もしかして共闘戦略板でも覗いていたりしたんだろうか? あれは見るだけなら誰でもできるしね。……いや、群集に所属は最低限必須なのかな?

 それはいいとして問題は今から俺が灰の群集に戻っても大丈夫かという問題だ。いや別に悪い事をした訳じゃないし、堂々と行けば良いだけなんだけど。ただ単純に倒しただけならまだしも、裏取引みたいな事をしてるから若干の後ろめたさが……。


「あー、何か心配してるみたいだが多分問題ねぇぞ。俺が来た時に見た感じでは、話題は共闘イベントに移ってたしな」

「ダイクさん、それはマジか!?」

「んなとこで嘘付いてどうするよ……。ところで、あれってどういう事情があったんだ? ベスタとケイさんが絡んでるんだから、悪巧みって事ではないだろうけどなんかあるんだろ?」

「……あ、やっぱりバレてた?」

「気付いてねぇ奴も多いけどな。レナさんも気付いたんじゃねぇの?」

「もちろんさー! 問い詰め済み!」

「問い詰めって……。その結果でレナさんがそういう反応なら問題ないやつだな」


 全員騙せるとは思っていなかったけど、やっぱりダイクさん辺りにもバレるか。この感じだと競争クエストで一緒に戦ったような人達には大体バレてそうだね。まぁそれを表面上に出す人はいない感じだけど。


「ま、無理に聞く気はねぇからよ。多分あの赤の元凶のクマの動機とかに表には出せねぇ事情があった、とかそんなとこだろ」

「お、ダイク。大当たりだね」

「当たってんのかよ」


 はい、見事に大当たり! まぁ何も賞品はないですが。……さてとラックさんからの用事はなんだろうね?


「うん、分かったー! ありがとね、ラック!」

「ハーレ、何の用事だったのかな?」

「渡したい物もあるから来てほしいってさー! それとケイさんー!」

「ん? どした?」

「さっき心配してた件、確認してみたよー! あの一件で目立つのを嫌がってるから変に聞かないようにって通達してるってさ! あとあの一件に関わってるみんなはいったんから注意を受けたそうです!」

「お、それは助かるね」


 そうか、灰のサファリ同盟の方で手を打ってくれていたのか。……そういや中継には木の人も結構関わってるからその中に灰のサファリ同盟の人が混ざってたのかな。


「およ? 何、その注意って?」

「……俺も聞いてないぞ」

「あ、これは直接は関係なかったから言い忘れてたかも。まぁ簡単に言うと晒し上げ目的の中継はすんなってさ。夕方のあれは色々な事情から注意のみってさ」

「ほほー? それは気を付けないとだね」

「……そうか。聞いている内容的には晒し上げになるよな」

「逆にそれが追求しない理由に出来たみたいだよー! 即座に通達はし切れなかったから直後には無理だったけど、今は大丈夫だって!」


 なるほどね、あの注意も意外な形で役に立っていたようだ。それならもう灰の群集の森林深部に戻っても問題なさそうかな。……ってちょっと待った。灰のサファリ同盟が具体的に裏事情の方を把握してないか、それ!? あそこってそんなに強い人いないって話じゃなかったっけ!?


「ハーレさん、ラックさんが何故そんなに詳しい……?」

「あ、そっか! ケイさん、知らないんだね!?」

「……何を?」

「あの時、協力してくれた中継の木の人はサファリ同盟の人だよー! ラックとはよく一緒に動いてる人ー!」

「あ、なるほど」


 そりゃ詳しくても当然だ。ものすごく当事者の一人に近い立ち位置じゃないか。……今度会ったらお礼を言っておこう。


「ちなみにあの時の中継先は桜花さんだー!」

「そこで桜花さんも出てくるのかよ!?」

「……桜花さんっていうと、あれか? ケイ達が助けたっていう青の群集からの移籍の人だよな?」

「おう、その人だ。そういやアルはまだ会った事はなかったっけ」

「あぁ。サヤから癒の小結晶は貰ったが、どうにもまだ会ってないって思うと微妙な心境でな」


 そう言われるとそうかもしれない。うーん、貰いすぎかと思ってPTとしてまとめて貰ったけど、逆にアルが恐縮しちゃってるのか。……よし、そういう事なら12時位までなら今日は問題ないし、アルと桜花さんを会わせに行ってみるか。


「よし、それじゃサファリ同盟のとこに行ってからアルと桜花さんの顔合わせでもするか」

「俺としてはそうしてくれると助かるな」


 アルもその方が良いようである。フレンドリストを見れば桜花さんはログイン中なので問題ないだろう。


「あ、わたしはちょっと別のとこに行きたいからこの辺で離脱するね」

「俺もそうすっかな。目的の称号も手に入ったし」

「ほほう? それならダイク、ちょっとこの後付き合わない?」

「……遠慮しとく」

「えー、なんでさ!?」

「なんかとんでもないとこに連れて行かれそうな気がするからだよ!?」

「えー連れて行くのはダイクの方だよ? 雪山上空から見たここのエリアのスクショ取りたいのさー」

「氷の小結晶は持ってないから、俺死ぬんだけど!?」

「ふっふっふ、小結晶なら予備はある! あ、逃げるって酷くない!?」


 レナさんがインベントリから氷の小結晶を4個ほど取り出したのを見て、無言でダイクさんは水のカーペットを生成して逃亡していった。……何となくダイクさんはレナさんに対して地味に苦手意識がありそうだよな。普通に話してたりもするから嫌っている訳ではなさそうだけども。


「みんな、また今度って事で! 待てー、ダイク! 『自己強化』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』!」


<レナ様がPTから脱退しました>


 そして全身に風を纏い、逃げていくダイクさんを風のような速度で追いかけていった。凄い速度で走りながらでもPTの脱退処理はしっかりしていったようである。……あのダイクさんの逃げ方の感じだと何度かレナさんの無茶振りに付き合わされたな。うん、ダイクさん、頑張ってくれ。


「……レナさんの発案は結構大変だからな」

「だよねー!」

「アル、ハーレさん、何か覚えがあるのか?」

「結構早い段階で他の初期エリアへの陸路での踏破をしようとしてたな」

「『徹夜でやるぞー!』って張り切ってたよねー!」


 徹夜でやるとか、アルとハーレさんが知っているって事はハーレさんが俺の妹だと発覚する前の頃の話か。あの時は俺がログアウトした後もアルとハーレさんは続けてやっていて、レナさんとはその時に知り合ったって事だしな。

 それにしても徹夜で踏破か。……何かどっかで聞いたような覚えがあるような、ないような……?


「……それで?」

「私はその後どうなったのか知らない! アルさん、知ってる!?」

「後から聞いた話だが、知ってるぞ。何人も巻き込んでランダムリスポーンを繰り返して辿り着くには辿り着いたけど、赤の群集の森林深部と青の群集の森林へ辿り着いたらしい」

「……それ、似たような事を掲示板で見た気がするんだけど?」

「多分、それに参加してた奴の1人だろうな。心が折れたって奴が何人かいたらしいぜ」

「……だろうなぁ」


 あの以前の掲示板で見た徹夜での陸路での初期エリア移動の悲惨な結果の発案はレナさんだったのか。……うん、レナさんはほんとに色んな事をやってるね。


「まぁ少し方向性は違うが、似たようなのはここにもいるけどな」

「だよねー!」

「確かにそうかな」

「うん、それはそうかもね」

「俺の事かー!?」

「「「「うん」」」」


 見事に異口同音での即答が返ってきたよ……。ある程度は自覚はあるけど、みんなだって程度の差はあれ似たようなもんだよね!? ……よし、反論するだけ墓穴を掘りそうなのでこの話題はこの辺にしておこう。


「……さて、森林深部に戻りますか」

「あー!? ケイさんが露骨に話を逸したよ!?」

「ハーレさん、明日ゲーム出来なくても良いんだな?」

「あぅ!? それだけはご勘弁をー!?」

「ま、その辺は今更だしな。ケイの言う通り無駄話してないでさっさと戻るか」

「そうだね。戻ろっか」

「うん、そうしようかな」


 ラックさんが何か渡したいものがあるらしいし、あんまり待たせるのもなんだしね。ササッと移動してしまおうか。段々と12時にも近付いて来ていて、少しずつ夜明けの演出になってきているはずだ。……まぁ共闘イベントエリアは禍々しい雰囲気で暗いままではあるけども。少しだけ明るくなりつつあるくらいか。


「ここからなら帰還の実が早いかな?」

「それもそうだな。使ってすぐ新しいのも貰えるし、日付変わるまでそれほど時間もないしな」

「それじゃ、それでいこうー!」


 という事で、帰還の実の使用が決定である。こういう時にこそ使わないとね。……その前にアルを浮かせておくか。


<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 54/54 → 52/52(上限値使用:3)


 既に空中浮遊を発動したままだったアルの下側に水のカーペットを生成して浮かせておく。今は小型化していないので、森林深部に行くにはこうしておかないとね。

 さて移動準備は完了だ。帰還の実を使って、森林深部へ戻ろうじゃないか。


<『リリーフ高原』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>


 そして戻ってきました、灰の群集の森林深部! 共闘イベントのエリアから出れば夜明け演出は分かりやすい。とりあえず忘れないうちにエンからすぐに新しい帰還の実をもらっておかないとね。

 そこそこ明るくなってきているし、もう夜目は要らないかな。


<『夜目』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 52/52 → 52/53(上限値使用:2)


 よし、夜目を切っても普通に明るめになっているのなら問題ないね。リアルの時間では真夜中だけども、ゲームの中では夜明けが近い。……ハーレさんが夜明け前の朝焼けの森林のスクショを取りまくってるね、多分だけど。


「とりあえず灰のサファリ同盟のとこまで行くか」

「「「「おー!」」」」


 ラックさんが渡したいものって何だろう? 色々アイテム絡みで試してたみたいだし、何か成果があったのかもしれないね。どんなものが出てくるか、少し楽しみである。

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