第275話 青の群集との共闘へ


「ーーとまぁ、そんな感じになる」


 アルの樹洞の中で事情説明がようやく終わった。色々と思うところはありそうな感じだけど、アルもレナさんも最後までただ純粋に聞く事に徹してくれたのはありがたい。


「……なるほど、そういう事の顛末か。手段を間違えたのと、赤の群集に元々マナーが悪い連中が集まってたのが騒動が大きくなり過ぎた原因ってとこか」

「アルさんに同意。うん、そういう事なら問題ないね。自分で言えって迫っておいてなんだけど、わたしに話してよかったの?」

「周りに配慮して聞いてきた場合は話して良いってことにしたから問題ないよ」


 元々一部の人には見抜かれている可能性は考慮していたからね。レナさんの接触は思った以上に大胆かつ計画的ではあった。……まぁ一部失敗もしてたけども。


「逆にレナさんに聞きたいんだけど、赤の群集と灰の群集ではこの件はどんな感じになってる?」

「あー、そっか。ケイさんじゃ確認はし辛いよね。うん、大体は目論見通りに騙されてるよ。序盤と終盤での戦い方の違いも馬鹿が自暴自棄になって、火事場の馬鹿力を発揮したみたいな認識かな。わたしには序盤がわざとらしく見えてたけどね」

「よし、大半がそれなら問題ないか」

「ま、便乗犯の大半は確実に見る目がないから問題ないだろ。……だが、そうなると赤の群集の隠れてる奴ら、見抜いた上で出てきてない可能性もあるな……」

「それはあるだろうねー。対人戦には興味なさそうだけどね」

「そっか、興味があるなら既に出てきて戦ってるか」


 赤の群集には隠れた強者がいるのは間違いないと思うし、その一部はフラム情報によればルアーに接触してきているらしいけど、確かに対人戦には興味なさそうだ。それに過度な敵対をしてくるタイプではないと思うから騒動になる事はないか。


「あー、分からない事が分かってすっきりしたー! ごめんね、押しかけちゃってさ」

「いや、良いって。それなりにこの可能性は想定してたしね」

「ま、ベスタさんが絡んでるなら想定してない訳がないか。うん、この話はこの辺でお終いにしよう!」

「さっぱりしてるね、レナさん」

「それが取り柄なもんでね!」


 まぁさっきまでの怖さを内包した雰囲気のレナさんよりは、こっちの明るい雰囲気の方が良いね。さて、ここからは話題を変えて今日の共闘イベントの話へ移していこうか。


「それで今日は灰の群集や赤の群集がメインになる場所は避けたほうが良いって話だったか?」

「おうよ。アル、その辺はどう思う?」

「聞いてる限りだと今日はその方が良いだろうな。昨日のティラノを仕留めてやりたい気分ではあるが、時間がかかりそうだし明日に持ち越しだな」

「そういえばアルさん、明日の仕事はー!?」


 あ、ハーレさん、それはレナさんがいる時に聞いたら駄目なヤツ!? ……既に遅いか。もう聞いてしまった後だから取り消すことも出来ないし……。


「今週は休みだな。てか、基本は土日は休みだぜ。先週が休日出勤だっただけだ」

「おー!? それじゃ土日はみんな勢ぞろいだー!」

「あれ? これってわたしが聞いても良いやつ?」

「はっ!? しまった!?」

「このくらいなら別に構わねぇよ」

「ハーレ、気をつけようね?」

「あぅ……アルさん、ごめんなさい……」


 基本的にリアル情報を勝手に喋るのはマナー違反になるからね。まぁアルが良いと言うなら大丈夫だけど、ハーレさん、気をつけような。……ん? フレンドコールが来たな。あ、アーサーか。


「すまん、ちょっとフレンドコールだ」

「ほいよ」


「おう。アーサー、どうした?」

「コケのアニキ、やっぱり凄い! こっちで凄い話題になってる!」

「へぇ、そうなのか? 具体的にどんな風に?」


 ちょうどいいや、赤の群集での状況を一般プレイヤーに近いアーサー目線で確認しておこう。


「荒らしてた人達に天罰を下したコケの人とオオカミの人って大騒ぎになってるよ。ガストさんは今日は来れないだろうって言ってたけど、やっぱり無理?」

「……天罰ってそこまで行ってるのか。予想以上みたいだし、少し落ち着くまでは無理そうだな」

「……そっか。昨日みたいにコケのアニキと一緒に戦いたかったけど、無理は言わないよ」

「お、成長したな?」

「俺だって強くなって、そのうちコケのアニキと肩を並べて一緒に戦うんだ!」


 やっぱり人は変われば変わるもんだな。アーサーの成長っぷりには少し感動すら覚えるよ。初めて会った頃の心証は最悪だったのにね。


「元凶の方はどうなったか分かるか?」

「ルアーさんと大喧嘩になって追い出されるように赤の群集を出ていったって聞いたよ」

「……そうか。他になにか用事はあるか?」

「用事としてはそれだけ! それじゃコケのアニキ、またね!」

「おう、アーサーも頑張れよ」


 フレンドコールを切って、一息つく。そうか、とりあえずはルアー達の方も上手くやったんだな。それにしてもアーサーには随分と懐かれたもんだけど、こうも成長してきていると悪い気はしなくなってきている。……よし、今度どこかで空き時間でもあれば少し鍛えてやろう。


「赤の群集でも騒ぎになってるみたいかな?」

「天罰がどうとか聞こえたけど、関係ある?」

「ケイさんの天罰だー!?」

「……天罰云々は置いといて、思った以上に広まってるみたいだからやっぱり赤の群集は避けた方が良さそうだ」

「なら、青の群集と共闘だな。共闘戦略板でちょっと状況を聞いてみるか」

「そうだな、そうするか」

「はい、賛成です! 私も見に行くぞー!」

「良さそうな場所があれば決めてきても良い?」

「うん、構わないかな」

「その辺りはケイさんに任せるよ」


 赤の群集が落ち着くまでは青の群集との共闘をやっていこう。ボス情報を見た限りでは即座にボスを倒すのはあんまり良い手段ではないみたいだし、ティラノを仕留めるのはもう少し後になってからでも問題はないはず。……まぁ先に誰かに仕留められる可能性もあるけど、そうなったら諦めよう。


 さてと共闘戦略板の『灰の群集:青の群集(全体)』を見てみて、行くエリアを考えてみようかな。


●ジェイ   : とりあえず現状は順調のようですね。

 紅焔    : ボスの傾向もどこも大体同じっぽいな。多少攻撃手段は違うが、行動パターンは一緒か。昨日の夜の検証情報は助かるぜ。


●斬雨    : そりゃ地味に苦労したからな。ああいう地味な作業は俺は苦手だ。

●ジェイ   : あなたはすぐに全力攻撃に移りますからね。まぁかなり改善されましたが。

 ソラ    : そのきっかけが僕ら灰の群集というのも皮肉な話だね。

 ベスタ   : それは気にしても仕方ないだろう。

●クビナガ  : 半覚醒ボスを支配度3を確認。支配度1が上がるのは即座にだな。出現時HP8割で支配度2、HP6割で支配度3は確定。


 ベスタ   : 昨日は追撃で確認の余裕は無かったが、やはりそうか。後でまとめに追記しておく。


 ソラ    : 支配度の上昇で、半覚醒の意識がある時間が減っていくんだよね? あれはやっぱり意識があるタイミングを待った方がいいのかい?


●斬雨    : 別にそうでない時でもダメージは通るから、いつでもいいと言えばいつでもいいぜ。


●ジェイ   : まぁ意識がある方が狙いやすいですけどね。隙も多いので総攻撃のチャンスではありますよ。


 ソラ    : そうなんだね。その辺に気を遣って戦ってみるよ。

●濡れ〜スリム: ホホウ、森林深部の方がリアル側の都合で1PTが解散になって人手不足なので、灰の群集から可能なら1PTほど増援をお願いしたいですな。


 紅焔    : あーそりゃ仕方ないな。ちょっと群集の方で呼びかけてくる。


 お、青の森林深部って事は灰の森林の隣だな。よし、丁度いいからそこに行くか。それにしても長い名前ならそういう風に省略されるんだ。あ、視点を集中されると名前は全部表示はさせるようになってるのか。あくまで一覧で省略されるだけか。


 ハーレ   : 紅焔さん、待ったー! 私達が行くよ!

 ケイ    : 丁度、青の群集の方に行ける場所はないか探してたとこだしな。

●ジェイ   : これは思った以上に強力な増援になりそうですよ、スリム?

●濡れ〜スリム: ホホウ、そのようで。それではお待ちしておりますよ。

 ソラ    : あれ? ケイさん達って……あ、なるほど。

 紅焔    : 今は赤の群集では動きにくいのか。

●斬雨    : ん? ケイさん達は何かあったのか?

 ベスタ   : 俺とケイでちょっと、赤の群集の騒動の元凶をブチのめしてな? 今、思いっきり目立って動きにくいんだよ。


●ジェイ   : なるほど、だからベスタさんも青の荒野の方に行っているのですね。

 ベスタ   : まぁそういう事だ。


 ベスタはベスタで青の群集との共闘に動いているんだな。まぁ青の群集との共闘も重要だし、味方として戦ってみたい人達でもあるからね。ここで決定で良いだろう。


 ケイ    : それじゃ出発準備が出来次第、そっちに向かうよ。

●ジェイ   : はい。お待ちしていますよ。


 よし、これで今日の活動場所は決定。目指すは青の群集の森林深部! 今のアルなら俺の水のカーペットと併用すれば森林深部だって移動可能だ!

 さてと、みんなに行き先を伝えて出発しようかな。あ、レナさんはこの後どうするんだろ?


「みんなー! 目的地が決まったよ!」

「ハーレ、何処になったのかな?」

「青の群集の森林深部だよ!」

「へぇ、青の森林深部なんだ」

「アル、今日は水のカーペットを使用だぞ」

「ま、地形的にその方が良いだろうな」


 アルの単独でのクジラを小型化して木を引っ張る共生式浮遊滑水移動でも道を選べばなんとかいけるだろうけど、木々の上を飛んで行く方が確実に早いしね。


「あー、みんな。今日、一緒に行ってもいい?」

「ん? 別に良いぞ。なぁみんな?」

「レナさん、大歓迎さー!」

「うん、私も良いと思うかな」

「レナさんが恐縮しながらってのは似合わないよ?」

「あはは、ヨッシさんも厳しいね。ちょっと押しかけた感じで無理やり事情を聞き出そうとしたから遠慮気味になっちゃってね?」

「あー、まぁ状況が状況だったみたいだしな。それは仕方ないだろ。……流石に誤魔化すためにライトアップは勘弁して欲しかったが……」

「アルさん、ごめんよ!? 他に良い手段が思いつかなくてね!?」

「まぁいいさ。とにかく今日はレナさんが臨時メンバーだな」

「共闘イベント、頑張るぞー!」


 さてとこれで後は出発するのみである。あ、青の群集のマップはさっぱりだから、誰かに案内役でも頼もうかな?


「あ、そうそう。青の群集の森林深部なら、主要経路が埋まってるくらいのマップにはなってるから道案内をするよ!」

「お、それはありがたいな。でもなんでレナさんは青の群集のマップがそんなに埋まってるんだ?」

「青の群集の森林深部に限らないよー! 他の群集の初期エリアの周辺マップまでの経路は把握済み!」

「おー!? レナさん凄い!?」


 それならばかなり移動が楽になるね。大体の予想はつくとはいえ、マップのあるなしではやっぱり気楽さが変わってくるしね。それにこれなら青の群集の人に道案内を頼まなくても何とかなりそうだ。

 それにしても初期エリアの周辺マップまでの経路は埋まってるのはすごいね。隣接してるとこのを全てかな? 転移があっても手間が掛かりそうだし、流石に隣接だけで全部の初期エリアではないよね。


「それじゃ出発で良いのかな? みんな何かやる事はある?」

「私は特にないね」

「私も無いよー!」

「俺も問題なし」

「問題なしさ!」

「んじゃ、青の群集の森林深部へ向けて出発だ!」

「「「「「おー!」」」」」


 とはいえ、直接は行けないのでまずは灰の群集の森林エリアに移動だね。その南側が青の群集の森林深部の筈である。さてとさっきの会話ではフクロウのスリムの人がいるのは間違いないけど、他には誰か知ってる人はいるのかな? まぁ行ってみれば分かるだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る