第155話 未成体との戦い


 そして先程カニのいた行き止まりの手前まで辿り着いた。左側が行き止まり、右側が海水の地下湖のある方向へと続いている。……止めてくれた人がいたお陰で追いかけてきている人達は特にいない。

 それにしても海エリア側はやっぱり人気はなさそうである。人気がないというよりは火魔法が光源代わりにならなくて、発光持ちが少ないから来にくいだけか……?


「さっきのとこまで戻ってこれたかな?」

「ヨッシ! さっきのカニにリベンジマッチだよ!」

「え、あれを倒すの? 意味ないんじゃない?」

「あ……。ヨッシ、意味がないどころか倒すのが必須になってるかもしれないよ?」

「え、サヤ、それってどういう……あ!? そっか、進化の軌跡って欠片は成長体しか使えないんだった……」

「あー!? そういえばそうだった!? 今の段階で進化したのって失敗!?」


 そういえば進化の軌跡の欠片シリーズは成長体限定だったっけ……。ミスったな、完全に失念していた。これはヨッシさんとハーレさん用の纏海の為の進化の軌跡の確保の為に未成体討伐が必須になってしまったって事か。

 ……ベスタが海属性の未成体を確認したとは言ったけど、海属性の進化の軌跡が落ちるかどうかってまだ未確認だったよな。でも海エリアに行きたい以上は無視する事も出来ないし、自分達で確認する方が早いか。さっきのカニ、海属性持ってたりとかね?


「さっきのカニ、海の進化の軌跡を落とさないかな?」

「そういやベスタさんも未成体は海属性ばっかりとか言ってたもんね! せっかく進化したし、倒してみよう!」

「そうだね。……うん、こうなったからには倒そうか!」

「それなら俺とアルで足止めがいいか?」

「そうだな。サヤはどうする?」

「……折角だし、色々と試してみても良い?」

「良いよー! サヤも新しい進化先を出さないとだね!」

「んじゃさっきのカニにするか? それとも他に探してそれを狙う?」

「「カニで!」」

「2人とも息ぴったりだね」

「行くよ、ヨッシ!」

「そうだね、ハーレ!」


 ヨッシさんとハーレさんが異口同音でカニを指定してきた。……どうやら完全に倒してしまいたいらしい。どうせ倒さなければいけない相手だし、未成体に進化したなら多分倒せるだろうから2人の要望通りにカニ狩りだな。未成体用の進化の軌跡が落ちるかどうかも確認しないといけないし。


「おっと、その前に……」

「どしたの、ヨッシ?」

「ハーレも巣を作り直しておきなよ。『巣作り』!」

「あ、それもそうだね!」

「ハーレ、待った! 先に石を除けておかないと危ないよ」

「あ、サヤありがとー! それじゃ『巣作り』!」

「あー進化で1回分使ったからか」

「それじゃ石も戻しておくね」

「サヤ、ありがとね!」


 3回までしか使えないので、1回使えばその都度作り直しておいた方がいざという時に役立つだろう。……ぎりぎりまで温存しておくという手もあるけど、戦闘中とかに再設置可能な時間があるとも限らないからな。安全な時に作り直しておくのが確実だろう。


「とりあえず未成体討伐をやってみるぞ!」

「「「「おー!」」」」


 準備も整ったという事で、カニ討伐戦の開始だ。再びさっきのカニがいた行き止まりに向かってみれば、そこにカニの姿はなくまた石があるだけであった。……多分これってカニが石に擬態してるんだよな。うん、パッと見だけじゃ石にしか見えない。これで何もしなければ攻撃してこないのなら、気付かない人も結構いるかもしれない。


「……この石だよね?」

「うん、多分ね」

「とりあえず識別してみるか」

「そうだね、私もしておこうかな。『識別』!」


 サヤも識別を発動して確認をしていく。熟練度もあるから別に余裕が有るときなら2人が同時に使っても問題はない。


<行動値を3消費して『識別Lv3』を発動します>  行動値 34/37(上限値使用:8)


『石海ガニ』Lv2

 種族:黒の暴走種

 進化階位:未成体・暴走種

 属性:土、海

 特性:擬態、堅牢


<規定条件を満たしましたので、称号『見破るモノ』を取得しました>

<スキル『看破』を取得しました>


 あ、なんか称号取得とスキルの取得が出た。ほう、『看破』ときましたか。オフライン版では識別の上位互換でお世話になりました。……オンライン版の『看破』はなんか仕様が違う気もするな。

 そしてこのカニ、特性が擬態と堅牢か。……どう考えても、『看破』の取得条件に関わってるだろ。肝心の海属性があるのが確認できたけど、正直そっちは後回し。


「え、看破!?」

「やっぱりサヤの方もか。これ、多分オフライン版とは仕様が違うよな?」

「え! 『看破』の取得が出たの!?」

「まぁな。このカニの属性は土と海、特性が擬態と堅牢。……これ、みんな『識別』取って、『看破』も取ればいいんじゃないか?」

「私もそう思う。称号が『見破るモノ』だから、擬態状態の敵を識別するのが条件かな?」

「……確かにある意味では絶好の取得チャンスだな。『識別』も取っておくか」

「未成体で『看破』のポイント取得が可能になってるみたいだけど生存進化ポイント15だから、これは『識別』からの称号取得が良さそうだね」

「そうだねー! なんとなくオフライン版の使えないスキル感があって『識別』は取ってなかったけど、評価を改めないとだね!」

「あー取ってない理由ってそういう事か」

「あと、ケイさんとサヤが持ってたってのも大きいよ!」


 PTで動く事がメインでそのうち2人も持っていれば無理に取る必要もないというのは確かにある。それに『識別』ってオフライン版じゃ序盤の図鑑埋め以外には用途なしのゴミスキルだったしな。でもオンライン版の『識別』はLv3にもなればオフライン版の『看破』とほぼ同じ様な性能になっている。という事は『看破』の性能は全く別物の可能性が高いし、ちゃんと性能を確認しておこう。


『看破Lv1』

 敵の隠れる特性や弱点等を見破る事が出来る。何を見破れるかはLvに依存し、効果時間10秒。効果は同じ進化階位以下の相手に限り、自身のLv+スキルLvまでのLvの相手までとなる。

 現在見破れる特性:『擬態』『隠密』


 あ、やっぱり完全に別物だ。今は『擬態』と『隠密』は見破れて、Lvが上がれば他の弱点とかも見破れる様になる訳か。……弱点はある程度属性とかから想像はつくけど、明確に分かるようになるのは大きい。上限値を使用するスキルではないみたいだから、発動して10秒間の間に何かあれば分かるってことだろう。

 ……このカニ相手だと俺の方が進化階位は下だから『看破』は無意味だな。偶然アクアボールを打ち付けていなければ存在すら気付かなかったけど、気付きさえすれば『識別』の方は有効だった。まぁ状況によって使い分けだな。


「よし、『識別』を取ったぞ。『識別』!」

「私もー! 『識別』!」

「やっとくべきだよね。『識別』!」


 そしてみんな揃って称号『見破るモノ』と『看破』を手に入れた。それにしても攻撃さえしなければほんとにこのカニって何もしてこないんだな。後でこの情報も流しておくか。……なんか称号取得に来る人で溢れかえりそうな気もするけど。それにしてもよくベスタはこれを見つけたな……?


 思わぬ称号とスキルの収穫で本題が逸れ過ぎた。目的はこのカニの討伐だよ!


「初撃、誰がやる?」

「私がやってみても良いかな? 未成体に『操作属性付与』がどのくらい通じるか試してみたいし」

「良いよー!」

「私も問題ないよ」

「確かにあれの1撃をまともに近接では見てないからな。動かないから良い機会か」

「それじゃいくよ。『魔力集中』『アースクリエイト』『操作属性付与』『爪刃乱舞・土』!」


 まずは魔力集中でサヤの爪に無色のオーラが覆われていき、アースクリエイトによって土が生成され、操作属性付与により生成された土が光を放ちながら魔力集中のオーラと融合するように混ざり合っていき、そしてサヤの爪は石に覆われ大きな石の爪へと変化する。そして土属性の付与された爪刃乱舞の連撃が石海ガニに襲いかかった。

 しかしサヤのいつものような軽快な連撃ではなく、どこか振り回されてまともに扱えていない感じに見えた。そしてそんな攻撃がまともに未成体に通じる訳がなく、途中でカニのハサミに振り払われてサヤはバランスを崩している。


「重くて連撃には使いにくいね!」

「確かに重さに振り回されてる感じだったな」

「これは連撃じゃなくて単発攻撃向けだね。……連撃の方が好きだったけどあれも取ろうかな?」

「サヤ、危ないよ!」

「ハサミでの打撃が威力が凄いから気をつけて!」

「わっ!? びっくりするくらいに行動パターンが変わるね!?」


 このカニは攻撃さえしなければいくら目の前で話そうが反応もしないのに、攻撃さえしてしまえば思いっきり攻撃的になるようだ。サヤを狙ったハサミでの打撃が風切り音を立てながら振るわれる。動き自体は単調だったのであっさりと避けられてはいたが、サヤに運用方法を考える時間もあまり与えてくれないらしい。とりあえずこれは足止めが必要か。


「アル、複合魔法で足止め行くぞ!」


<行動値1と魔力値4消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 36/37(上限値使用:8) : 魔力値 72/76

<行動値を4消費して『水の操作Lv5』を発動します>  行動値 32/37(上限値使用:8)


「おうよ。『コイルルート』!」


<『複合魔法:ルートレストレイント』が発動しました>


 そして複合魔法になった樹木魔法の根で巻きつけて、カニを拘束する。これで少しは時間を稼げる筈だ。未成体とはいえ、今の段階で俺達の中で分かっている中では最強クラスの拘束魔法を簡単には……。


「げっ……」

「マジか。これを簡単に引き千切るのか?」


 カニを拘束したものの、ブチブチと嫌な音を立てながら根が引き千切られていく。……これはあんまり保たないか? でも全く無意味という訳でもなさそうだ。無意味ならば即座に脱出されているだろう。


「やっぱり成長体のままじゃ厳しいって事だね!」

「それじゃそろそろ、カニを氷漬けにしようね」

「ごめん、もう1発だけ試させてもらってもいいかな?」

「良いよ! けど、拘束されてる間までね!」

「そうだね。多分、これの本格的な相手はやっぱり進化しないと厳しそうだし」

「我儘言ってごめんね。あとありがと! それじゃ『強爪撃・土』!」


 拘束されたカニへと襲いかかるのは石の爪による『強爪撃』の横薙ぎの一撃。こちらも風切り音を立てながらである。これは連撃系ではなく1撃の威力を重視した技だな。確かに操作属性付与との相性は良さそうだ。

 そしてその結果はというと……おそらくポイントで取得したばっかりというのはあるのだろうけど、ダメージはほぼ無し。だけど、直前で根の拘束から逃れたカニを行き止まりの壁へと吹き飛ばすだけの勢いは持っていた。


「威力はまだLv1だから仕方ないけど、これなら鍛えれば使えそうかな? ……それになんか進化条件も満たしたみたい」

「お、マジか!」

「サヤ、おめでと!」

「……そりゃめでたいことだがよ、まずはこっちが先だぜ」

「だね。とりあえず『アイスプリズン』!」


 サヤの新しい進化先が出たり、新技の運用方法が固まってきたのは良い事だ。でもアルの言う通り、今はカニの討伐が先だな。さっさと倒してしまうぞ!

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