第17話 気付かれないコケの妙なこだわり
「あ、誰かに先越されたな。先のマップもう埋まってるわ」
「ちくしょー! 考える事は同じってか!?」
「まー、落ち着きなよ。この先、マップの切り替えみたいだし戻る距離が減ったと思えばさ? それに早いもの勝ちなんだから文句は言えないよ」
「……そうだろうけど、そうなんだけど、なんとも言えないこの悔しさ!!」
そんな光景をすぐ目の前で繰り広げているシカとキツネとトカゲの3人組、いや3匹組か? どうも回り道をしてマップを埋めてきていたのは彼らのようだ。マップの更新が30分毎だから多少の重複が出てしまったみたいだ。とはいっても彼らの前までマップを埋め終えたのはついさっきだから、お互いほぼ無駄はないはず。
結構疲れたけどな、群体化で短距離移動を繰り返すのもさ。熟練度が勿体ないけど『一発芸・滑り』を活用しまくったぜ! 初めは長距離用かとも思ってたけど、Lv2の群体関係のスキルって距離が伸びただけで近距離には使えないって訳ではなかった。『一発芸・滑り』って便利。
「でも前から埋めてた人がいたんなら遭遇してもよさそうなもんだけどね?」
「あーそういや見てないな? どんなプレイヤーなんだろ?」
「俺みたいに小さくて見落としたのか?」
あー実はすぐ近くにいるんだぜ。現在進行形で見落としてるよー? てかトカゲの人、小さいな。でもトカゲの人ならあの急斜面は行けたんじゃないか? まぁ一緒に行動してるみたいだしそっちを優先したのか?
さーて、どう話しかけたものか。またなんかネタでもやってみるか? 今度こそメリーさん的ホラー演出でも……。
「まぁいいや、他のエリア行っても仕方ないし戻ろうか?」
「よし、俺はこっちから行くぜ!」
「1人だけ別ルートで行こうとすんな!」
「ちょ!? 咥えるのは無し! 喰われてる気分になるから止めて!?」
「はいはい、そのまま咥えておいてね。走って戻るよ」
「ほいよ!」
「えっ!? 俺、このままなの!?」
急斜面を1人だけで行こうとしたトカゲの人がキツネの人に咥えられて捕まえられていた。なるほど、トカゲの人が勝手に動き回るのをキツネの人が抑えてるのか。それでシカの人がまとめ役って事。ってあれ!? 挨拶しようと思って演出考えてたら、気付かずに走ってどっか行っちゃった!?
コケってだけでこんなに気付かれないとは驚きだ。まぁ周り中、あらゆるところにコケがあるもんな……。
「……なぁ、アル?」
「どうしたよ?」
「……他のプレイヤーに遭遇したけど、気付かれずにどっか行っちまったぜ……」
「あー、まぁ気にすんな? コケのプレイヤーがいること自体は情報共有板に流したし反応もあったけどよ、全員が見てるわけでもねぇからな」
「……そうだけどな」
「気付かれたかったら、即座に自分から声かけるべきだぜ。ケイ、なんか企んでたろ?」
「……なぜバレた?」
何も言っていないのに、何故なにかしようとした事がバレる? アル、貴様エスパーか!?
「……逆に聞きたいんだけどよ、なんでバレないと思ったんだ?」
「だって何も言ってないからな?」
アルの声には呆れが結構な割合で含まれていた。え、なんで呆れられるんだ? 特に何も言ってないよな?
「いや、いつか誰かに仕掛けてやるって言ってただろ。あとサヤと会った時も転ばしたそうじゃねぇか?」
「サヤ、あの事言ったのか!? いつの間に!?」
っていうか、言ってた! そういえばホラー演出を誰かに仕掛けてやるって決意したよな。あの時言ってたか……。それにサヤも転ばしたのを知られたら、そりゃ推測もされるか。でもアルはいつ聞いたんだ?
「いつ聞いたって言われたら、ケイが強制ログアウトになってからサヤがログアウトするまでの間にだな。コケとの出会い頭に転けさせるってそっちの方が一発芸じゃねぇか?」
「確かに! よし、次からはそうするか!」
「おい、ちょっと待った!? 流石に迷惑だからそれはやめとけって!」
慌てたようにアルが止めてくる。サヤの時も怒ってたし、転ばすのは流石に迷惑かもしれない。やっぱり転ばすのは無しだな。
「分かった。やっぱりメリー方式にしとくわ」
「なぁ、普通の登場は出来ねぇの? 俺の時といい、サヤの時といい……。いや、傍から見てる分には面白くていいんだけどよ?」
「折角バレてないんだから有効活用したいんだけど」
「いや、ケイさ。掲示板で初対面で滑ってくるコケがいるとか話題にされたいか?」
アルは滑ると勝手に決めつけてくる。何を失礼な! 確かに踏めば滑るし、スリップだってあるが、それ以外のどこが滑ると……あ、スキルに滑ってるって認定されてたわ。
あ、それに『一発芸・滑り』も使えない。あれを使って大丈夫なら滑ったという認定だしね。『一発芸・滑り』の情報は伏せてもらったけど、いつか誰かが見つけるだろう。もし滑り判定受けても悲惨だし、滑ってなくても行動不能に陥る訳だ……。うん、色んな意味でやめといた方が精神的ダメージはなさそうだ。
「アルの言う通りだな。悲惨な事になって掲示板見れなくなりそうだからやめとくわ……」
「おう、そうしとけ」
さてと一応の結論は出たという事で次はどうしたものか?
「ケイ、一度戻って来られないか?」
「戻れるけど、なんかあったのか?」
「ちょっと、周辺の水分吸収をやり過ぎてな……? 周辺のコケも含めて周りの植物が枯れ始めて……」
「おぉい!? 何やってんだよ!?」
「いや、だって動けないからこうでもして熟練度とかLv上げるくらいしか出来ねぇもんよ。で、上限どんなもんかなってやってたらな?」
これはゲームである。だから、たとえ枯れ尽くしてもその内に勝手に回復はする。しかしその回復はオフライン版で実時間で4日はかかったはず。だから移動手段を得るまでは枯れないように慎重にやる必要があるんだけど、アルのやつ加減を間違えたな!
「完全には枯らすなよ!? コケが無くなれば多分俺は近付けないからな!」
「だから一旦戻って来れねぇかなってな? ケイの水分吸収ってインベントリに水を持っていられるんだろ? 水やりしてもらえねぇ? あと出来るか分からんけど、枯れかけたコケを群体化して光合成で回復とかもな?」
「地味に注文多いな!? まぁいいけど。で、そこまで弱らせたって事は成果はどうなんだ?」
これで何も成果なしだと悲しいものがある。それにしてもコケである俺が川の水を吸収して木に水やりか。変な話だ……。このゲームだとそんなものは今更か。それにしても枯れかけたコケを群体化して光合成で回復とか出来るのか? 出来るなら、結構いいスキルのLv上げになるんじゃないか?
「まぁ一応Lvもいくつか上がったけどな、スキルの方はポイントがもうちょい足らなくてな」
「どのポイントがあといくつだ?」
「増強進化ポイントがあと1だ。それで『根の操作』が手に入るぜ!」
「おぉ! そりゃいいな!」
アルが言った『根の操作』こそが植物系モンスターが移動手段を得るために必須の前提スキル。根を起点とする移動、攻撃、回復と色々なスキルに派生していくのだ。進化の方向性によっては完全に足代わりになるのが植物系モンスターの根でもある。って、あれ? もしかして、動けないアルの方がLv上がってないか?
「なぁ、アル?」
「いきなりそんな暗い声でどうしたよ?」
「Lvは今いくつになった?」
「ん? 今は7だな。初日にしては結構上がったぜ。そういやケイはどうなんだ?」
「まだ2だよ、クソったれ!」
「あーまぁドンマイ?」
「よし、そのまま枯れて足止め食らえばいい。その間に追いつくから」
「わー待った待った! さっき手に入れたばっかの情報教えるからよ!」
拗ねた俺がアルを放置する事に決めたのを察知したのかアルが焦って止めてくる。情報って言っても情報共有板に載ってた情報だろう。ふん、明日にでも攻撃スキルを手に入れて追いついてやる!
「さっき俺が手に入れたばっかの情報だぜ! まだ情報共有板にも流してないしさ!」
「……ほう? 俺にも活用出来るような情報だよな?」
「……試してみないと分からんけど多分な。俺の周囲を助けてくれたら教えるからよ!」
まぁ本気で拗ねてる訳でもないし、情報くれるなら良いか。アルに先んじられた事への軽い嫉妬でしかないしな。今日レベルがまともに上げられなかったのは攻撃スキルが無いことと、ハチのヨッシさんが原因だし。まぁ事情を聞いたら責める気もしないがね。
「その取引、乗ってやろう!」
「サンキュー! これで助かるぜ!」
「んじゃ、途中で川に寄って水の補給もしてくるわ」
「おう、待ってるぜ!」
こうして川への寄り道が決定しながら、一旦アルの植わっている崖の前へと戻ることになった。
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