第3話 梟の一声その3
「やめておけ……」
ピタリと、1人の男の声が、銅駝の手を止めた。
「貴公1人では……、この人数を相手にするのは不可能だ」
低く、しかし重くはない。
耳元を撫でるような声だ。
(殺気を気取られたか……)
銅駝は声の主の方を見る。
小屋の壁にもたれかかり、隣には自分の倍以上はあるであろう大刀を立て掛けた男。
顔の下半分を鋭い牙が掘られた漆黒の面で隠した、長い銀髪の男。
死流山王土だ。
強者揃いのこの空間でも、おそらく頭1つ飛び抜けているであろう男に不意打ち狙いの一撃を読まれては、それこそ自分より格上の人間を狙う不意打ちをやる前から潰されたような物だった。
「……あんた達が協調して俺を潰しにかかるとも思えんけどね」
「はは、そりゃそうだ」
そう言うのは、まるで剣山の様に髪の毛を逆立てた、やたら手足の長い男。
その鋭い糸のような相貌は、狙った獲物は決して逃がさない狩人の物。
蜘蛛井一だ。
「忍ってのは基本個人で行動すっからなー。ましてやここにいるのは名こそ知っていても初対面の連中ばかりだ。だったら協力するふりして横からグサリ……、と行った方が賢いやり方と言うものよ」
蜘蛛井はニタニタと笑いながら自分の右手を胸に当て、グサリ、グサリと刃物を突き立てるような仕草をしている。
「そんな事はどうでもいいからよー。何で私達はこんな狭っ苦しいとこに集められたんだ?」
絵巻で、伝え聞く、獅子の鬣の様になびく黒髪、そしてその体は、おそらく獅子をも上回るであう人間離れした身体能力を窺わせる。
肉弾戦を想定された忍装束は、軽く、余計な装飾品のような物は一切付けられていない。
いや、武器すらも装備されていなかった。
それが、鉄身の写楽こと、鉄島写楽だ。
「向こうから呼び出してといてよー、遅れてくるとはどういうことなんだって話ぃ!」
どうやら彼女はかなり苛立っているようだ。
「まぁ……、私達の処分はおそらくろくなものではないでしょうし……、下に見られているのかもしれませんねぇ」
そう優しい声で言うのは、祈祷の師、羅世蘭だ。
写楽とは正反対の、厚い黒地の布に金の刺繍が入れられた
「……少し黙れ……。来たようだぞ」
騒ぎ立てる写楽を鬱陶しそうにそう言ったのは、真ん中に「黒丸」が描かれた仮面を被った、腰に日本刀とその脇差を付けた忍。
黄泉原戻だ。
「すいません、お待たせしました」
銅駝の後ろ、小屋の扉を開ける音と同時に小屋に入って来たのは、柔和な笑みを浮かべた1人の侍だった。
侍は銅駝の横をすっ、と通ると、小屋の中にいる忍達に向けて口を開く。
「まずは自己紹介を……、私の名前は
男は笑みを絶やさず喋り続ける。
「皆様を集めた理由を結論から申しますと、皆様の里の中から幕府直属の「殺しの部隊」。名を「
その言葉は、だれもが予想だにしていなかったものであろう。
しかし、佐久間の表情は先程の言葉を言い終わってから、緊張を解そうとする様な笑みではなく、決意に満ちた真摯な物になっていた。
(……そんな顔をされては……)
その言葉が、真実だと思うしかあるまい……。
小屋の中に集められた忍達は、そう、佐久間に思わされていた。
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