第39話
今日は日曜日なのだが、休日の過ごし方が俺と夏希ではかなり違うのだと気づいた。
夏希はだいたいいつも、誰かしらに誘われ、誘われた場所に足を運んでいるようだ。
つまりまあ、友達がたくさんいるというわけだ。
俺はというとだいたい休日はゲームするか本読むか、勉強するか、昼寝するかだ。
これがリア充と非リア充の差なのだろうか。
そんなことをぼんやりと日曜日という貴重な休日に考えていた。
部屋で一人本を読んでいると、夏希との生活を始める前に戻った気がする。
だが、休日なのに家は静かだ。
母のちょっとした小言もなく、父がテレビを見て笑う声も響かない。
途端に家が大きく感じた。
昼飯なども自分で準備しなければならない。一人暮らしに憧れたことは人並みにはあるのだが、こう色々と家事を経験すると、家族のありがたみも思い出された。
夏希は今日は夕方頃に帰ると言っていたな。
それまでに掃除しておかないとな。
一念発起して、各部屋の掃除を開始した。
……さすがに夏希の部屋は勝手に入ったらぶっ殺されそうなのでやめておいた。
○
本当は夕食でも作って待っていようかと思ったが、あいにく昼に茹でたインスタントラーメンが失敗してしまったので、俺はその計画を取り下げることにした。
……なんであのインスタントラーメン、あんなに麺がまずかったのだろう。
固まっていたというか、なんというか……もしかしたらお湯が少なかったのかもしれない。
いやいや。さすがにインスタントラーメンくらい作れないわけがない。
俺のミスではなく、きっと腐っていたんだろう。そう思わないとやっていられない。
激マズラーメンをなんとか食した俺は、リビングのソファで横になって、テレビをつけていた。
適当に映画やらアニメやらを流して、時間を潰していると、玄関の扉が開いた。
夏希が帰ってきたようだ。
リビングにやってきた彼女が小さく息を吐いた。
「おかえり」
一応は決まりの挨拶だ。だが、そう返すと彼女はびくっと驚いたようにこちらを見た。
じろりとこちらを見てきた夏希はそれから丁寧に頭を下げてきた。
「ただいまです」
……この程度のやり取りであるにもかかわらず、どこか気恥ずかしい。
俺がそんなことを考えていると、夏希はキッチンに行って手を洗っていた。
「夕食は何か食べたいものはありますか?」
「……魚があったし、魚とごはんでいいんじゃないか?」
「わかりました。……昼はインスタントラーメンですか?」
……こいつ探偵か。
恐らくだが、鍋が現れていたのと、ゴミ袋を見て確認したのだろう。
「ああ、うまかった」
失敗したなんて言えるわけもない。
この程度の料理もできないと思われたくなかった俺は小さな見栄を張っておいた。
夏希は相変わらずのじろっとした目を向けていた。
夕食の準備が始まったが、今回は俺の仕事はない。
夕食はごはんにすると半ば強引に決めていたので、すでに米は研ぎ終わり、炊く準備はできていた。
とはいえ、まったく何もしないというのもアレなので、テーブルを拭くなどの手伝いはすることにした。
お互いの間に言葉はない。
……黙っていてもアレだろう。
何か話題はないか……と考えていると、夏希がこちらを見てきた。
「今日は一日何をしていたんですか?」
え? 俺の無為な一日を否定するための質問?
ゲーム、ラノベ、アニメ……それらに八割近い時間が削られたのは言うまでもなかったが、俺は誤魔化すことにした。
「勉強とか、だな。多少はゲームも」
逆なんだけどな……ほとんどゲームで思い出したように勉強をしたに過ぎない。
「……そうですか」
俺の嘘は見透かされたような気がした。
これ以上俺の話題を続けるわけにはいかなかったので、代わりに質問した。
「そっちはどうだったんだ?」
「……そうですね。花たちと話題のお店に行ってきました」
花たちもそうだが、よくもまあ外に出るな。
話題の店となれば、人も多いだろう。俺なら絶対に行くことはないだろう。
「へぇ、良かったのか?」
「そうですね。そのお店パンケーキが人気だったのですが、おいしかったですよ」
……あれか? 映えるとかいうやつか? 俺には無縁なものなので、良くわからない。
SNSとか一切やらないし。登録もしていなかった。
夏希は短くそういって視線をそっぽに向けた。
……あんまりあれこれ聞くなよということだろうな。
確かに、女子高生に根掘り葉掘り休日の過ごし方を聞くのもな。俺だって、親にあれこれ聞かれたらウザがるだろうしな。
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