第40話
今日は日曜日だ。
私は花と鈴と一緒に近所のカフェに来ていた。
ここのパンケーキが人気があるらしく、それを食べるためにだ。
……まあ、もう一つ。
休み明けの告白大作戦の打ち合わせでもあった。
私は複雑な心境とともに、花たちと合流した。
○
「きゅ、急すぎない?」
未だ戸惑った様子で運ばれてきたジュースに口をつけていた花。
立ち寄った人気店の席に座ってすぐ、鈴が切り出した言葉に私は驚いていた。
「いいじゃない。というか、全然早くはないわよ」
鈴は涼しい顔でいうが、花は唇をぎゅっと結び視線を下に向けていた。
「ね、ねぇ……夏希。……は、早くないかな?」
助けを求めるように花はこちらを見てきた。
私は……よくわからなかった。
鈴の提案は、今週のどこかで告白してしまいなさいというものだった。
ちらと鈴がこちらを見て、口を開いた。
「別に早くないわよね、夏希? そもそも半年間、何もしていなかったでしょう?」
「い、いや……ただ単に意識していなかっただけだし……」
「まずそこね。あなたはもう意識しない程度に話せるようになっているわ。それじゃあ向こうは? 向こうもあなたのことを意識しない、友達的な感覚で話してしまっているのよ」
「……うっ」
「一度友達という枠に入ってしまうと、その先に進むのは難しいわよ。……本来であれば、もっと早くに手を打つべきだったわ」
鈴も手元の飲み物に口をつける。彼女は紅茶を注文していたが、熱かったのか唇を一度つけたあと、涙目になっていた。
それから冷ますように息を吹きかけていた。
私は……何も言えなかった。
花は私に意見を求めているのか、ちらちらと時折見てきた。
……このまま黙っているのも、彼女らに失礼だと思い、私は考えのまとまらない言葉を並べた。
「そう、ですね。確かに、このままだとずるずると今の関係を続けてしまうとは思います」
……その言葉が耳に痛かった。
今の私と湊の関係もまさにそうだったからだ。
……今は最悪、なのではないと思っている。最悪は、声をかけても無視される状況だと思っている。
だから、私は行動をできなかった。これ以上の最悪な状況にしないために。そうして、ずるずると今の関係を続けて、もうずいぶんと経っている。
花は私を見てから、ぎゅっと唇に力を入れた。
「休み明け、いきなりは無理だから……水曜日! 水曜日になったら、告白する! こ、これだけはお願い、譲れないから」
花が気合を込めるようにいうと、鈴は微笑んだ。
「そうね。まあ、けしかけておいてアレだけど、本当に嫌だったら無理にしなくてもいいのよ?」
「今それ言うの!?」
「だって、心が嫌だと思っていたら、相手に本気の気持ちは伝わらないわ。……第一、たぶんだけど湊くんは、からかわれているんじゃないかと、最初は疑ってしまうと思うわ。……大事なのは本気の気持ちをぶつけることよ」
「……わ、わかってるよぉ」
花はこくこくと頷く。
そんな、健気な様子の彼女に、私も微笑んで声をかける。
「頑張って、くださいね」
「う、うん……っ!」
口ではそう言っていても、私の中ではもやもやとしたものが残っていた。
運ばれてきたパンケーキに、鈴が目を輝かせる。
……私たちの中で一番甘いものが好きなのは鈴だ。普段クールで大人っぽい彼女だが、こと甘いものを目の前にしたときには私たちよりもずっと子どもっぽくなる。
「とりあえず、これでも食べて気合入れましょう!」
「わ、わかった!」
それから私たちは、パンケーキを食べ、町をぶらぶらと歩いてから別れた。
今日食べたものは、あまり記憶に残っていなかった。
〇
「おかえり」
家に帰り、リビングへと向かうと湊がスマホを見ていた。
テレビをラジオ替わりに、彼は何かのアプリを楽しんでいるようだった。
「ただいまです」
私はすぐにキッチンへと向かい、夕食の準備をするため手を洗う。
湊も、色々と手伝うためなんだろうソファから立ち上がった。そんな湊を私は一瞥もしないで、聞いた。
……今は、あまり顔が見たくなかった。
「夕食は何か食べたいものはありますか?」
「……魚があったし、魚とごはんでいいんじゃないか?」
「わかりました。……昼はインスタントラーメンですか?」
ゴミ箱と鍋を見て、おおよそ予想はできた。
「ああ、うまかった」
そ、それは私の料理よりマシというアピールなんだろうか……?
この話題を続けるのは危険だ。
私の心は今落ち込み気味だから、これ以上落ち込まないようにしないと。
「今日は一日何をしていたんですか?」
冷蔵庫を開けながら、私は露骨な話題変更を仕掛ける。
彼は考えるようなそぶりを見せた後、
「勉強とか、だな。多少はゲームも」
真面目だなぁ、と思う。
私はそんないつもの調子の湊に、苦笑していた。
「……そうですか」
「そっちはどうだったんだ?」
湊の言葉に、びくりと肩が跳ね上がった。
……まさか……湊に関しての話を熱心にしていたなんて言えるはずもない。
一瞬返答に困ったけど、別に細部まで話す必要はない。
「……そうですね。花たちと話題のお店に行ってきました」
「へぇ、良かったのか?」
「そうですね。そのお店パンケーキが人気だったのですが、おいしかったですよ」
パンケーキは美味しかったと思うが、それよりも私は花と湊のこれからのことが気になりすぎてあまり味は覚えていなかった。
告白決行は水曜日。
……その日がくれば、私と湊との今の関係も終わってしまうかもしれない。
――というよりも、終わるんじゃないだろうか?
花は可愛く、見た目は結構遊んでそうだけど、一途だ。
ちょっと子どもっぽいところはあるけれど、それがまた庇護欲をかきたてるのではないだろうか? 事実私も彼女を何度か手助けしないとと思ったことはある。
そんな子に告白されれば、湊も興味を持つのではないだろうか?
残念がる権利なんてないのに、私は凄い落ちこんでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます