第31話 俺は弁当をお願いする


 十九時になったところで、俺はカップ麺を食べ始めた。

 一応、夏希を待ってはいたが、向こうは向こうで食事をしてから帰ってくるだろう。

 カップ麺をちゅるちゅる食べていると、雨音が聞こえた。


 雨、か。

 部屋のカーテンを開け、外を見る。

 今日は雨の予報は出ていなかったな。夏希も傘は用意していないだろう。


 一応、連絡くらいはとっておくか。

 俺はそんなことを考えながら、ラインでメッセージだけ送っておいた。

 迎えが必要なら必要だと言ってもらえれば、俺としてはいつでも行ける準備はできている。

 

 それにもうすぐ二十時になる。女性が外を出歩くにはもう暗い時間だしな。

 しばらくスマホを弄っていると、返信がきた。


『お願いできるのであれば、傘を持ってきてほしいです』


 ……そうか。

 ほっとする。そりゃあ近くの店で傘を買えばいいのかもしれないが、コンビニで買うくらいしかないだろう。

 コンビニの傘は高いからな。俺はすぐに上着を羽織って、傘を二つ持って家を出ていった。



 ○



 夏希がいるのは近くのショッピングモールだそうだ。

 ……ショッピングモールならどこかしらで傘を買うこともできるのではないかと思ったが、すでに我が家にはたくさんの傘があるし、これ以上コレクションが増えても困る。

 

 ショッピングモールについた俺は、ラインで連絡を送る。

 今いる場所がわかったので、俺はそちらへと向かったのだが――。

 ……げぇ。まだ、クラスメートと一緒じゃねぇか。


 俺はさっと姿を隠し、彼女らの同行を見守る。

 男子三人、女子三人。女子三人は夏希と仲の良い人達だ。

 

 六人はフードコートで食事をしていたらしく、今もテーブルには食べおわった皿が並んでいる。

 ……どうするか。

 

 ここで夏希に会いに行くと、夏希にも迷惑がかかるだろう。

 とりあえずは、様子を見ながら俺はラインを送った。

 

『ついたんだけど、どうすればいい?』


 まあ、そのうち夏希も抜け出すだろうとは思っていた。

 しばらくして、夏希からメッセージが届いた。


『北口の入り口で待っててください。今行きます』


 ……夏希からの返信を見て、ほっとする。

 北口は家側に近い。といっても、ここから歩いて二十分くらいはかかるが。

 俺は北口へと向かい、夏希が来るのをまっていた。


 しばらくして、夏希がこちらへと歩いてくる。

 周囲にクラスメートの姿はなかった。


「すみません、わざわざ来てもらって」

「気にするな」


 雨だし、傘増やされても困るし。

 そう思いながら彼女に傘を手渡した。

 夏希は一つ頷いてから傘を受け取って開く。


 俺たちは並んでショッピングモールを出ていった。

 ……並んで歩いているが、話すことがない。

 そりゃあ、色々聞きたいことがある。


 クラスの人たちとは仲良くなったのか、とか。

 カラオケはどうだったのか、とか。

 けど、下手に詮索するのもなぁ、と思う。俺たちは一緒に暮らしているだけでそれ以上の関係はないわけだし。


「夕食は食べましたか?」

「ああ、もう食べた。そっちも食べたんだよな?」

「はい」

「こっちのことは気にしなくていいからな」


 俺の両親に頼まれたからって、毎日料理を作れというわけではない。

 そんな強制力はない。

 俺がそんな気持ちを込めて伝えると、夏希はコクリと頷いた。


「……そこで、一つ思ったのですが……明日からお弁当になります。どうしますか?」

「……」


 弁当、か。

 

「別に俺はコンビニとかで買うから気にしなくていいからな?」


 ……弁当は弁当で、また別の苦労があるだろう。

 出来る限り夏希に負担をかけたくはなかったので、俺はそう提案した。

 しかし、夏希の表情は芳しくない。……ま、また何か怒らせてしまったのか?


「毎日食べていたら、体壊しますよ」


 ……なるほどな。先程の夏希の表情の意味がわかった。

 俺が体を壊すと、海外にいる俺の両親が心配してしまうだろう。

 そうなると、任された夏希としては困るのだろう。


「……それなら、弁当を頼んでもいいか?」

「はい」


 ようやく理解したか、という顔で夏希が見てきた。

 楽させようか、と思っていたが別の部分で苦労する可能性が出てくる。

 ……話をするのは難しいな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る