第28話 幼馴染が私の友達と親しげ


「それにしても、三人一緒のクラスになれてよかったねー」


 ギャルっぽい見た目をした私の友人の藤上(ふじがみ)花(はな)が私の腕にぎゅっと抱きついてきた。

 髪は茶髪にそめ、制服も着崩している。初め私は不良だ! と思ったほどだ。


 ……結構遊んでいる人なのだと思って、私は初めこそ距離をはかりかねていたが、接してみると気さくな良い子だった。

 ……遊んでもまったくいないし。むしろどちらかというと少女チックなほうだった。


「ほら、あんまりくっつかないの」


 そういって、私にべったりな花を外そうと、川本(かわもと)鈴(すず)が花の腕を引っ張っていた。

 鈴は別に髪などは染めていないのだけど……なんだか、ちゃらい。

 本当にこの言い方が正しいのだ。黒髪ショートで真面目っぽい顔つきなんだけど、なんだかちゃらいのだ。


 鈴の場合はわずかに制服を着崩していたりするのがそう思わせるのかもしれない。

 私は二人とは対照的にぴしっと制服を来ていた。

 そういう自分なりのおしゃれとかは絶対にできない。服とかもマネキンセットで購入するようなタイプだし……。


「えー、だって春休みあんまり会えなかったしさー」


 それは本当に申し訳なかった。せっかくの休みで、湊との時間を少しでも長くしたいという私の欲ゆえの結果だった。


「そういえば同じクラスの人の名前みた? 結構人気の男子がいたみたいだよー」


 花がそういうと、鈴が軽く息を吐いた。

 

「あんたそんなこと言って、結局大して興味ないんでしょ? 運命の人に出会うまではーとかなんとか言って」

「そんなことないってー。そうだ、夏希は誰か興味ある人いないの?」


 湊。

 ……というか、それ以外の名前は覚えていない。

 とはいえ、そんな堂々と宣言するなんて絶対にできない。

 

 私は愛想笑いを浮かべながら、視線をさまよわせた。


「うーん、特にはないですね。あんまりそういうの興味ありませんし」

「もう、ほんともったないよ! 恋愛しないと、出生率あがらないよ!」

「……高校生の恋愛にどこまで求めているのよ」


 ぼそっとした鈴のツッコミに苦笑する。

 ……い、いきなりそういうことを言うのは未だになれない。私はそういうのに耐性がなかった。

 教室の扉をあけようとしたところで、中から声が響いた。


「なあ、泉山さん同じクラスだぜ!」

「ほんとマジでラッキーだよな! 初詣でお祈りしてよかったぁ!」

「ほんとだよな! 今年は修学旅行とかあるし、楽しみが増えたぜ、ほんと!」

「なんといっても、毎日あの天使の笑顔が見れる! これに限るよな!」


 ……扉開けにくくなるからやめてほしい。


「よかったね、天使だって」

「からかわないでください」


 とんと肩を叩いてきた花に、私はため息をついた。

 まったく。別に私は普通にしているだけなのに、周りが勝手に変な注目をして、期待してくるのだから困ってしまう。


 扉をあけて中へと入ると、一斉に視線が集まった。

 私は必死に愛想笑いを浮かべる。……困る、とはいえ、嫌われたいわけではない。……悪目立ちしたくない。それが私の本音だった。


 黒板に張り出されていた座席表を確認する。

 ……自分の名前よりも先に、まず湊の名前が目に入るのは、もう病気かもしれない。

 湊の名前を見つけたあと、視線を動かしていくと……あった。


 湊の隣――。嬉しくて小躍りしそうになるのを必死に抑え、私は冷静な笑顔を浮かべた。

 と、花がなんだか心配そうにこっちを見てきた。


「な、なんか怒ってる?」

「……怒ってはいませんよ?」

「そ、そうなんだね」


 笑顔を浮かべている。ただ、想定以上に周りから注目されているので、それはちょっとストレスかもしれない。

 私が座席について、ちらと湊を見る。


 ……真面目だなぁ、かっこいいなぁ。初日からすでに勉強を開始している。周りなんて、気にもしていない。

 ……昔からそうやって自分というものを持っている。私にはないものだった。

 と、花と鈴が私の席へとやってきた。花は周囲の男子を見て、からかうような声で言った。


「夏希―、二年に進級したしそろそろ彼氏作ったらー?」


 ……それは半分はからかいだろうけど、私のことを思ってのものでもあるのだろう。


「私はまだいいですよ。花はどうなんですか?」


 私は興味がない。だから、周りも関わってくるな。

 この会話にはこんな意味がこめられている。……まあ、あんまり周囲の男子は気にしていないようだったけど。


「あたしはきちんと頑張ってるけど、なかなか運命の人に会えなくて―」


 そんな冗談めかした言い方をしていた花が、言葉を区切りある一点を見ていた。


「てか、よく見たら湊じゃん! 一緒のクラスだったんだね!」


 な!? なんでこんなに馴れ馴れしいの!?

 湊は視線をそちらに向けると、どこか嬉しそうであった。う、嬉しそうに笑ってるゥ! なんで!?


「……ああ、そうだな」

「一年の時一緒のクラスだったしね。文化祭の時はいやー疲れたよねほんと」


 ……文化祭。そういえば、湊は去年文化祭実行委員をやっていたかもしれない。

 そして、花も同じく実行委員だったはず。滅茶苦茶大変だったと毎日泣き言を聞かされたのを思い出してきた。


「そうだな」

「てか、さっきまで忘れてたんじゃない?」


 花が湊の肘をつついている。だからなんでそんなに距離近いの!?


「そんなことはない」

「ほんと? なんか声かけられたとき驚いたような反応してなかった?」

「生まれつきこんな顔なんだよ。花だろ? 覚えてる覚えてる」


 なんで名前覚えてるの!? そして名前呼び!?

 湊の反応に、私は軽くショックを覚えていた。

 い、いや私別に……湊の交友関係についてとやかく言うような立場にはないんだけど……。


「おっ、ちゃんと名前覚えてたんだ。嬉しいかもー」


 花がニコニコといつもの調子で笑っている。

 ……花は案外誰に対してもこんな感じ。それで相手を勘違いさせてしまうことが多々ある。


「重たい荷物散々運ばされたしな」

「それは言わないでほしいし」


 湊は笑いながらそんなことを言っていた。

 ……私と話しているときと態度がまったく違う。


「また一緒のクラスだし、何かあったらよろしくー」

「ああ。ただ、面倒事はやめてくれ」

「えー、それはその時の気分だよー」

 

 二人の会話が終わり、花がこちらへと戻ってきた。

 ……私はなんとも言えない心境で、彼女を見るしかなかった。

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