第4話 私は大好きな幼馴染と料理する


 今日は四月一日だ。両親が海外へと旅立ち、私が大好きな人と一緒に暮らすようになった記念日である。

 ……高校卒業までに私は湊と仲を深めることはできるだろうか。

 そんな心配をしながら、私は湊と時計を見た。


 現在時刻は、午後十八時。そろそろ夕食の準備を始めるべき頃合いだ。

 ……ただ、中々切り出せずにいた。

 湊が中々食事の準備をする様子がなかったからだ。


 私の計画では、彼が『夕食は何にする?』『私料理できます!』『本当か? わー! 夏希の手料理最高だ! しゅきー!』となる予定だった。頭が沸いているのは自覚している。


 ただ、彼は未だに喋らず、ソファに座ってスマホを弄っていた。


 普通の家族と考えればこれは極めて普通のことだろう。

 だけど、私は湊との仲を深めたい。

 ……ならば、何かしらの行動をとるべきなのだ。

 

 けど、何も言えなかった私は、しばらく見つめていることしかできなかった。

 ……湊を見ていられるという幸せに浸っていたのも束の間、彼が動き出した。

 場所はキッチンだ。私もすぐさま行動を開始する。料理をするのに長髪だと邪魔なので、きゅっと縛っておく。

 

 私は料理が得意で、マイ包丁を持っている。自宅からきちんと持ってきているので、いつでも取り出せる。

 すっとカバンから取り出した包丁を持って、私は彼に声をかけた。


「どうしたんだ?」


 来た。良いチャンスである。


「そろそろ夕食の時間になりますし。私が料理をしましょうか?」


 ベリーグッド! 想定通りの返事ができた。


「……料理、か。それなら米くらい炊く」


 ……優しい! 好き!

 まさか料理をするといってすぐに手伝うと言ってくれるなんて思っていなかった。


 これが、初めての共同作業というのだろうか?

 なんだか夫婦っぽくて悪くない。……別に、夫婦じゃないし、そもそも幼稚園くらいの頃は共同作業とかよくやっていたし。


「分かりました。それでは簡単に冷蔵庫にあるもので作ろうと思います」


 私はすぐに冷蔵庫を開けた。

 事前に湊の母に、「冷蔵庫の食材がまだ残っているから好きに使って」と言われていた。

 これなら、豚肉の生姜焼き、野菜炒め辺りを作ろう。


 私はニンジンの皮をはぎ、食べやすいように切り分けていく。

 といっても、料理を作り始めるのはごはんが炊き終わってからになるだろう。

 じゃないと冷めちゃうし。

 

 ニンジンが大量に残っていたので、今日はニンジン祭りだ。そんなことをのんきに考えていると彼がこちらを見ていた。

 な、何その人を殺さんばかりの目つきは!?


「……何ですか?」


 な、何か変なことしたかしら!? それとも、ニンジン祭りーなんて脳内で歌っていたつもりだったけど口に出してしまっていたのかしら!?

 恥ずかしかったが、それを表に出すわけにはいかない。必死に、表情を引き締めなおした。


「料理、うまいんだな」


 ほ、ほめられた!? 褒められたの!? 

 だが、彼の表情は微塵も褒めましたという様子はない。

 じっと彼を見ていると、口元が一瞬だけ緩む。


 まるで小馬鹿にしたような。……何の才能もない人間をあざ笑うかのような――。

 ま、まさか……今彼は私をバカにしたの?

 その可能性は十分に考えられる。今私がやっていることはニンジンを切って歌を脳内で歌っただけだ。

 褒める部分はあまりない。


 そうとなれば、バカにされていると考えたほうが自然だ。

 やはり、彼は私を嫌っている。……けど、嫌いであれば好きになる可能性もあるのだ。

 好きの反対は無関心。嫌いということは、相手の嫌いな部分を知っていることになる。無関心よりは……い、いくらかいいはずだ。


 まずい、ニンジン切っているのに、涙出てきそうになってしまった。


「ありがとう」


 けど、嬉しかった気持ちも確かにあったので、私は伝える。

 こ、このくらいじゃ、くじけない。

 私は彼を惚れさせる――いや、きょ、興味を持ってもらう程度には頑張るのよ。

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