唯斗&南月編
俺は静原唯斗(しずはらゆいと)。
冴えない男子高校生だ。
下に10歳差の妹がいて共働きの両親に変わってお世話をしている。
今日も青縁メガネをくいと上げて、授業を受けていた。
ふと視線を感じる。
俺が視線を横にずらすが目に写るのは隣に座っているクラスで人気のある女子の横顔だけだった。
彼女は長添南月(ながぞえなつき)。
俺には羨ましい美人で裸眼の女子だ。
クラスの男子から好かれていて、学校のアイドル的存在らしい。
俺には住む世界が違う人間だ。
しかし、最近どこからか視線を感じることが多い。
俺は周囲を見渡すが、視線の先にそれっぽい人はいなかった。
気のせいか........。
俺は授業に集中することにした。
放課後、掃除当番を終わらせた後に急いで教室を出る。
「静原君」
誰かに呼ばれた気がしたが、俺は振り返らない。
なぜなら今日は金曜日。
妹の真由(まゆ)のお迎えをしに行く使命があるからだ。
「待ってろよ、真由」
ママチャリをかっ飛ばして保育園へ向かう。
三十分後、保育園に着いた。
「園長先生、こんばんは。真由いますか?」
「あらあら、唯斗君。いつもお迎えご苦労様。真由ちゃん、あっちのお部屋で遊んでますよ」
五十代前半くらいの女の園長先生が笑顔でキリン組を指差していた。
「園長先生も毎日ご苦労様です」
俺もペコリと頭を下げて、キリン組へ向かう。
扉を開けると真由が嬉しそうにこちらを見た。
「ゆ~にぃだぁ!!!」
真由は俺に抱き着いてくる。
俺は日ごろの疲れを彼女の笑顔で癒されていた。
「おまたせ。一緒に帰ろう」
「うん、かえる」
もう一度、園長先生に挨拶をして敷地を出た俺は、真由を自転車の前の椅子に乗せて保育園を後にした。
帰宅途中、真由に明日、公園で遊んでほしいと頼まれる。
もちろん、オッケーした。
だって、可愛い妹の頼みだもん!!!
翌日、真由を連れて家の近くの公園に行く。
ここの公園はそんなに大きくないが砂場や遊具、池がある場所だった。
午前中だったので、人が少ない。
いるのはベンチで本を読んでる同い年くらいの眼鏡をかけた文学少女くらいか。
真由も砂場を走りながらはしゃいでいた。
「真由、あんまり走ったら転んじゃうぞ~。気をつけてな~」
俺は可愛い妹に癒されながら見守っていた。
また変な視線を感じる。
周りを見渡すが誰とも目が合わなかった。
そんなことよりも妹と遊んで癒され........
「静原君?」
俺が砂場に向かおうとする途中に後ろから名前を呼ばれる。
振り向くとさっきまでベンチで本を読んでいた文学少女がいた。
俺の知り合いにこんな子いたっけ?
「えっと、失礼ですが、どちら様ですか?」
「私だよ、長添南月だよ」
長添って、あの!?
眼鏡をかけた彼女は焦ったように眼鏡を外す。
本物の彼女だった。
「眼鏡かけてたんだね........」
「普段はコンタクトだよ。でも、ずっとつけてると目が疲れるから休日は眼鏡なの」
「そ、そうなんだ.......」
俺は普段女子と話さないせいか、会話を上手く続かせられない。
俺は苦笑いをしながら、どうにか場を持たせていた。
「ゆ~にぃ!!!」
「うおっ!?」
「きゃ!!!」
真由が後ろから飛びついてくる。
その反動で長添さんとともに砂場に倒れてしまった。
「あたたっ........」
「あの........」
なんとか手を手をついたが、俺は自然と長添さんに床ドンなるものをしてしまっていた。
俺と彼女の瞳が吸いこまれるように合う。
彼女は恥ずかしくなったのか、頬がだんだんと朱色に染まった。
「ご、ごめん!!!」
俺は真由を背中にくっつけたまま退く。
「いや、大丈夫だ、よ........」
彼女は突然のことにまだ戸惑っているようだった。
「本当にごめん。ほら、真由も謝って」
「ごめんなさい」
真由を背中から剥がし、一緒に頭を下げる。
「いやいや良いんだよ、事故みたいなものなんだし.........」
長添さんは笑顔で許してくれた。
学校のアイドルじゃなくて、女神だったのでは?と錯覚する優しさだった。
「でも、このおねえちゃん、さっきからゆ~にぃのことずっとみてた」
真由が指を指しながら言う。
「それはたぶん俺が同じクラスの人だったからだよ」
「でも、ずっとゆ~にぃみて、かおあかかった」
「え?」
俺は長添さんの方を見る。
彼女は口を開けて固まっていた。
「ごめんね、長添さん。妹が変なこと言って........」
「おねえちゃん、ゆ~にぃ、すき?」
「真由!?」
いきなり何言ってるんだよ!!!
長添さんが困っちゃうだろ!!!
「妹ちゃん、な、何言ってるの?わ、私が静原君のこと、す、好きって.........」
彼女が明らかに慌てる。
「長添さん、落ち着いて!!!」
「おねえちゃんもゆ~にぃのこと、すきなんだ~」
「い、妹ちゃん!!!」
「真由もちょっと落ち着こうね!!!」
俺は暴走する真由を必死に止める。
長添さんも真由の口を抑えた。
「んんん~!!!」
真由が暴れて、長添さんの眼鏡を取る。
「ゆ~にぃはあげない」
「あ、ちょっと!!!」
「真由!!!」
真由が彼女の眼鏡を持って池の方に走っていく。
俺も咄嗟に真由を捕まえた。
「いやぁ、ゆ~にぃ、とられる!!!」
「真由、落ち着いてってば!!!」
暴れる真由の手にある眼鏡がポロっと手から離れ、池に落ちてしまった。
「あ!!!」
長添さんの眼鏡は池の中に沈んでいった。
これにはさすがの真由も固まる。
「真由、謝りなさい!!!!!」
俺は初めてなんじゃないかくらいの声で真由を叱る。
「ゆ~にぃがおこったぁ、あああああああ!!!!!」
彼女は俺の顔を見て泣き出してしまった。
俺は真由の代わりに必死に長添さんに謝る。
「ごめんなさい、ごめんなさい!!!」
俺は真由を泣き止ませて、もう一度二人で謝った。
「ごめんなさい」
「ぐすっ、ごめんあしゃい.........」
「いいよ、その眼鏡、最近、度が合わなくなってたから、近々変えようと思ってたし」
彼女は少し困った顔をしながらも許してくれたが、さすがに罪悪感が残る。
「いや、今から行こう!!!」
「え!?」
俺は真由をおんぶして長添さんの手を掴む。
「新しい眼鏡、作りに行こう!!!」
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