情景10【カフェの壁を飾るもの】

 カフェの窓際でブレンドコーヒーを一杯。

 文字を打つ作業に一段落をつけて端末を閉じた。パタンと音が鳴る。


 街を行き交う人々に向けていた視線を店内に戻せば、その先には壁に備え付けの本棚。ふいに、紅いと思った。

 棚そのものは濃いブラウンで、紅い背表紙の本がまばらに何冊も差し込んである。きっと、店内を飾るための本なのだろう。


 妙なことに、その棚の真ん中に一冊だけ、毛色の違う本が差されていた。

 その本の背表紙は鮮やかな緑だった。翡翠を思わせる、吸い込まれるような緑。

深い紅色の壁に囲まれたなかで、翡翠の背表紙が際だって見える。


 つい、手にとってみたくなるわね。

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