第349話手を振るとき
手を振るときはどんなときだろう?
僕が今でも思い出すのは、小さい頃に気になっていた君のことだ。
小学校は同じだけど、家が近所ということではない。
君は同じクラスで、女子の中では比較的おとなしい印象があった。
たまたま席が隣だったから、授業中に君が落とした消しゴムを拾ってあげたっけ。
そしたらしばらく僕を睨んだ君は、無言で消しゴムを仕舞ったのを覚えている。
あれはトラウマだ……。
あの日以来、なんか女子が怖い生き物に見えた。
それからというもの、いつも隣から睨まれているような気がして、まともに視線を動かすことができなかった。
でも、そんな君もいなくなった。
中学生になる前に、どこか遠くへ引っ越したんだ。
それから時は経ち、僕は高校生になった。
新しい学校にクラスメイト。
ほんわかと頬を撫でる風が気持ちいい。
「あ、落ちましたよ」
――桜が舞う校庭で、僕は女の子が落としたハンカチを拾う。
そこで「ありがとう」と振り返った女の子が、まさかあのときの君――なんていうことはなかった。
まぁ、そうだよな。
そんな展開をどこかで望んでいる時点で、君のことが特別だったのかも。
そんな風に思いながら、僕は手を振るように空を見上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます