第347話エンジンが掛かる

 追い詰められるほどに、エンジンが掛かる。


 僕だったら夏休みの宿題とか。


 新学期が迫る直前で、ようやくやる気にスイッチが入る。


 もっと早くやっておけよと思いながら。


 それでも深夜まで机に齧りついている……。


 追い詰められるほどに、エンジンが掛かる。


 僕だったら文芸部の原稿の締め切りとか。


 期日までに収めるように部長から言われてたのに、まだ1ページも書けていない。


 文章どころかアイデアすら白紙。


 ついでに僕の瞳は白目……。


 震える指で、テキストを埋めていく……。


 追い詰められるほどに、エンジンが掛かる。


 君に彼氏がいると知った、放課後のこと。


 相手は成績も優秀なバスケ部の部長だ。


 ハイスペックの輝きを前に、僕は茫然と空を見上げる。


 追い詰められた勢いで、いっそ告白してしまおう――なんて思わない。


 二人の幸せを願いながら、僕はそっと心のエンジンを、切る。

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