第283話その歌しってるよ。の、一言から距離が縮まった

 僕は君を見る。


 教室の後ろから、堂々と、見る。


 授業中は君の後ろ姿が見える。


 髪が、窓際の光に反射してきらめいている。


 しばらくして君は、こっくりこっくりと、船を漕ぎはじめた。


 あたたかいのが気持ちよかったのか、先生の授業がたいくつだったのか。


 そのうちチャイムが鳴って、みんなは席から散っていった。


 お昼の時間なのに、君はまだ、こっくり、こっくり。


 なんとなく気になって僕は立ち上がる。


 君の席までいって、声をかけてみる。


「もう昼休みだよ」


 僕の声が届いていないのか、君はまだ船を漕ぐ。


 でも、なんだか様子がおかしい。


 よくみると、目を閉じたまま、呟くような鼻歌でリズムにのっている。


 完全に自分の世界。


 周りを気にしないというか、周りの世界は見えていないというか。


 僕は君を見る。


 その世界が気になって。


 今日も、見る。

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