第279話そして君は替え玉をたのむ

 僕は人気のラーメン店にやってきた。


 学校の帰りによく側を通るのだけど、そのたびに行列を目にしてきた。


 毎日途切れることのない行列。


 そしてダシの香り。


 某グルメサイトの評判もいい。


 こうなると、一度は食べてみたくなる。


 だから今日、はじめてこの店に入る。


「いらっしゃい!」


 威勢のいい店員さんの声が出迎えてくれる。


 僕は席に案内され、入り口で購入した食券を渡した。


 そしてしばらく待つ。


 コップの水で少し口を潤し、麺をすする準備を整える。


「お待たせしました~」


 目の前に置かれるラーメン。


 それは想像していたものとは別次元のものだった。


 とにかくデカい。


 量が多いとは聞いていたけど、麺だけで5玉くらい入ってるんじゃないかな?


 スープも1リットルくらい?


 これで標準なのか……。


「い、いただきます」


 パチっと割り箸を割って、がむしゃらに麺をすする。


 ――……


 うまい!


 一口含んだだけで食欲が腹のそこから目覚めるようだった。


 一口、二口とすすっていくうちに、気付けばすり鉢のような器を両手で持ち、スープまで飲み干していた。


「ごちそうさま」


 両手を合わせて僕は店を出る。


「ありがとうございました~」


 と店員さんの声を背中に受け、僕は満足気な表情で家路についた。


 今思うと、このときからラーメンにハマったのかもしれない。


 大学生になった今では、この店でバイトをしながらラーメンの研究をしている。


 ところで同期の君は、女の子なのにこの店の大盛りラーメンを完食するつわものだ。


 話してみるとラーメンの趣味が似ていることがわかり、やがて二人は付き合い出す。


 デートはもちろんラーメン屋。


 特盛の器を空にするたびに、僕は幸せを感じる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る