第6話頭上に浮いている、不思議な色。

 君を見ていると色が見えるようになった。


 頭の上にぼんやりと浮かんだそれは、赤い色で丸い形をしている。


 はじめは錯覚と思っていたけど、どうやら本物らしい。


 目を擦ってみても、君の頭上から色が消えることはなかった。


 数日間頭上を観察することで、僕は色の役割を突き止めた。


 喜怒哀楽に応じて、その色は形を変えるらしい。


 笑ったときは丸くなり、怒ったときは刺々しくなる。


 まるで生き物を見ているようでおもしろい。


 観察を続けるうちに、だんだんと興味が湧いてきた。


 他にどんな形になるんだろう?


 目を細めながら君の後ろをつけていると、不審者に思われて、逃げられた。


 ……ゴメン。


 これ以上の観察はやめよう。


 次の日から僕はおとなしくなった。


 実は好きな子だったから、もう話せないのは、つらい……。


 それからしばらくしてのことだ。


 君の頭上に、いつもの色が浮かんでいた。


 でも形が違う。


 よく見る丸いものではなく、分度器みたいな半円に近い形をしていた。


 そして色は『赤』だ。


「…………」


 依然として不審者のレッテルを貼られているのかな?


 僕は警戒する。


 自業自得だから仕方ないんだけど。


 少し落ち込みながら廊下を歩いていると、背中から声をかけられた。


 なんだろうと思い振り返ると「それ、ずっと見えてるから」と、君は人差し指で僕の頭上を指した。


 一瞬なんのことかわからなかった。


 どうやら僕の頭上にも分度器みたいなものが浮かんでいるらしい。


 色は『白』だ。


「あなたその意味わかってる?」


 そんなことを言う君に動揺して、僕はハッと気付く。


 これはつまり、自分の心を表す形。


 僕の形と君の形が同じなら、要は気持ちが一緒ってこと。


 その意味を理解した途端、なんだか顔が熱くなった。


「今日、一緒に帰らない?」


 顔を覗き込んでくる君。


 僕は視線の置き場所を探す。


 そんな放課後の帰り道。


 なんだかいつもの風景が、違って見えた。


 街の色が鮮やかに見えた。


 二人の頭上に浮かぶ、不思議な色。


 やがて半円だった赤と白は引っ付いて。


 ピンク色のハートに、形を変えた。

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