第137話 状況は分からずとも、暴れるのはやぶさかでない
肌寒い廊下の端にある書斎ではランプと暖炉の明かりに照らされた少女が安楽椅子に腰かけ、祖父アルダベルトの残した兵法書の一篇『謀攻虚実』を
鳴り響いたノックの音に応じて許可を与えると、“武力に
「ご苦労様です、ウィルバ殿」
「夜分に失礼致します、お嬢様。斥候より、詳報が届きましたので……」
恐縮しているような物言いとは裏腹に、
キィ、キィと軋む音を聞きつつ黙考すること数十秒、元々の所有者が
「想定外の誤差はありますけど…
「恐らくは利害が一致しているだけで、我々の内情を察している事はないと愚考しますが、勘づかれる危険性も否めません」
もし誘拐の経緯が明るみに出れば、妻子を残して自領と地続きの北部王国へ逃亡する手筈の自分達は
謀略と関係ない表側の間者まで相当数を動員して、異形の襲撃で身内を失った人々に働きかけ、現リグシア侯爵家を
「ん… 彼らアルマイン領の者達が
暗躍させていた人員を絞って、適度に妨害工作を緩めながら事の推移を見守るのも
「どうせ、すぐには
「誰が
「所詮、私達は日陰者の身、これ見よがしに恩も売れないですからね」
白々しく嘆き、あまつさえ泣き真似などしているが、
好色な
多分に漏れず
「さて、どう転ぶのでしょうかね、お爺様」
年季の入った安楽椅子に深く身体を預けて呟いた後、少女は羊毛製のひざ掛けに
以後数日、過激な強硬手段を選んだホルスト領の一派は鳴りを潜め、最新鋭騎を率いて西部戦線入りした長兄に負けじと、エルベアトや配下の
軌道に乗ったにも
「申し訳ありません、周辺の路地は封鎖されているようです」
「突破を試みた連中が敢え無く捕縛されたあたり、一兵卒に至るまでが手練れ」
「隠密に徹していた
「最悪だ… 十中八九、
つい数日前からアルマイン領も女狐殿の派閥に鞍替えしている事を公言した手前、話せば折り合いが付くだろうと貴族の次男坊は思案するも、時既に遅く間借りしていた商館の窓が魔弾で次々と割られ、硝子の砕ける音が
それは彼らのいる二階客間も同様であり、木枠の残骸を物ともせず、
「ちッ、
「動くな、撃つぞッ!!」
有無を言わさずに
さらに返し刃の峰打ちで意識を刈り取ると剣戟の勢いのまま
「がはッ!?」
肺の空気を吐き出して
その直後に剣身を軍靴の底で踏みつけ、帝国だと珍しい太刀を握り締めた右拳のフックで整った横顔を打ち抜く。
「ぐッ、この!!」
口端より血を流した女騎士は悪態を吐くが、間髪入れずに放たれた左拳で顎先を
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