第3話 大賢者、死す

 次に私が目覚めたのは、城内にある自室のベッドの中だった。


 ぼやけた視界に映る天井は、慣れ親しんだ自室の天井で間違いない。

 大賢者として国のために尽くしていたこともあり、王が城内に私の部屋と研究室を用意してくれていたのだ。

 大賢者という称号を貰ってからの二十有余年、この部屋がこの国で私の唯一の居場所であった。多くの魔法の研究、新しい魔道具や薬の開発、そんな楽しさや苦労が染みついた部屋だ。


 どうやら私は、毒を盛られたのだが、まだ死んではいないようだった。窓の外が明るい。おそらく倒れてから一晩は経過していると思われる。

 しかし毒の影響なのか、身体が全く動かない。未だ全身が麻痺しているようだ。やっとの思いで瞼を持ち上げてはいるが、眼球を動かすのも苦労するほどである。


 これはまずい、どんな毒が使われたのかは分からないが、身体を動かせない状態では、解毒薬を作ることもできないし、新しくこの毒を解毒するような魔法も造ることができない。ありふれた毒に対する解毒薬は、城にはたくさんの種類を常備しているし、一般的な毒に効果のある状態異常回復魔法はメリンダ王女も知っている。であるからして、今現在私がこうしてベッドへ寝かされているという事は、どの解毒薬も、魔法も、一切効果をなさなかったと推測できる。


 私が盛られた毒は、おそらく未知の毒、または一般的な解呪呪文で解呪できないような呪いのようなものなのだろう。

 毒の成分が分かれば対応できるかもしれないし、呪いのようなものでもその呪いの魔力の残滓でも残っていると、解呪の呪文を作成することも可能なのだ。しかし私が動けなければそれもできない状況である。

 メリンダ王女が今何をしているのかは分からないが、おそらく私と同じような考えで、毒物の成分分析や、呪いの魔力があるかどうかの検証をしていることだろう。


 しかしながら、その解毒薬、もしくは解呪呪文が完成するには、今の彼女では時間がかかると思わざるを得ない。全てを教えたとはいえ、彼女にはあまりにも経験が不足している。私が1日、2日で作れるような薬でも一から作ろうとしたなら、今の彼女であれば、おそらく十日以上を要してしまうことだろう。


 冷静に今の私の状況を鑑みるに、それ即ち、私の死の方が早い。そう結論付けられる。

 体の衰弱具合、毒、もしくは呪いが私の身体を侵食し尽くすまで、おそらくあと数時間だろうと予測できる。よしんば体が動いていたとしても、私でも解毒薬や呪いを解呪する呪文を完成させる前に私の体力が尽きてしまう。万事休す、だ。


 ──はは……やっとこの王城の部屋ともおさらばできると思っていたら、この世界からもおさらばすることになりそうだ……。


 そんな皮肉めいた現実に、乾いた笑いしか浮かんでこない。

 やっとのんびりと暮らしていけると思った矢先、こんなことになろうとは、もう笑うほかないではないか。


 誰に恨みを買っていたのかは知らないが、こうなってしまっては犯人を捜す気すら失せてしまう。どうせ死んでしまうのだから犯人捜しは無駄でしかない。

 きっと色々な人達に恨みを買っていたのだろう。戦争に出て早期解決の為に、今回のように時には極大魔法によって多くの敵兵を一瞬にして殺したこともある。今でこそ同じ国民として生活してはいるが、敵国だった国々の人達にしてみれば、家族や愛する人を失って、私に恨みがある人々も多いことだろう。


 ただ分かってほしいのは、戦争の早期終結にあたり、少数の犠牲で戦争を早期に終わらせるか、戦争を長引かせて大きな犠牲を出すか。そのどちらかの選択しかなったのだ。どちらにしても少なくない犠牲が出るのならば、より強大な力を誇示し、少数の犠牲を目の当たりにさせ、敵の戦意を喪失させて降伏を促す方が賢明だと判断したまでである。

 ただ少数とはいえ、それでも少なくない敵兵を犠牲にしたことを正当化はしない。実際に私のこの手で殺したことは、間違いのない事実なのだから。


 ──因果応報とはこのことか……。


 何が正義で何が悪か。国の上層部では、力こそ正義という者もいるが、私の力は正義だと本当に言えるのか、と言えばそれは分からないとしか言えない。

 ただ、私がしてきたことで、たくさんの人々が平和な国内で笑顔になったことも、また事実だ。それを誰かの命で賄っているとまでは言わないが、早期に戦争を終わらせることによって、一般人の死者が予想よりもはるかに少なかったこともまた事実だという事は付け加えておこう。


 惜しむらくは、やっと平和になった世界で、のんびりと暮らせなかったことだけが心残りである。幼い頃、放浪していた私を拾って育ててくれた私の師に出会ってからというもの、のんびりとする暇もなく、忙しなくここまで来てしまった。

 やっとのんびりできる基盤が整ったというのに……あまりにも酷ではなかろうか。

 それが多くの敵兵を屠った代償であるかのように、私はもうすぐ死ぬのだろう。


 ここで犯人探しをしても詮無きこと、徒労でしかない。すでに私は死にゆく定め。もう受け入れるより他ないのだ。後は心静かに逝くこと。そのことに尽きるだろう。


 ──もし、もしも次の人生があるのならば、今度こそのんびりと暮らしたいものだ。


 全てを諦め達観し、死を覚悟してそう考えた時、ハッと脳裏に思い浮かぶものがあった。


 ──そうだ、それがあるじゃないか!


 一筋の光明が目に見えるような気がした。

 人が死んだ後どうなるのかは誰にも分からない。死ぬと精神体になるとか幽霊になるとか言う者もたまにはいるが、残念ながら私は見たことがない。死者が現世に戻ってきて話をしてくれることもないし、新しく生まれ変わり次の人生があるのかどうかもわからない。新しい身体で生まれてくると記憶がリセットされてしまう、と言われても、それが本当に前にどこかで生きていた人の魂かどうかも分からない。実に眉唾でしかないではないか。

 要するに、死後は死んでみなければ分からない、という事だ。


 しかし古代遺跡や文献などで、魂の所在は明らかにされている。

 古代魔法の中で、魂を使った魔法が少なからず散見されているのだ。

 そして私はそのいくつかを繋ぎ合わせて、古代魔法を復活させた。

 それは、


「──お師匠様! 目が覚めたのですね‼」


 なんともタイミングよくメリンダ王女が部屋に入ってきて、目を開いている私を見て開口一番そう叫んだ。

 しかし私は体が動かず声も出ないので、目の動きだけでまだ死んでいないことを伝えた。

 メリンダ王女は大きな銀色の瞳に涙を溜めている。


「ごめんなさいお師匠様……わたくしが、わたくしがもっと気を付けていれば、こんなことにはならなかったのに……」


 彼女は自分が手渡したワインに毒が仕込まれていたことを悔いているようだ。忸怩たる思いで、もっと気を付けていれば防げていたはずなのに、と何度も謝る。

 しかしいくら気を付けていても、どうにかなるようなものではないと思う。

 まさか王城で毒の入った飲み物が持ち込まれているとは考えないだろう。持ち込まれた飲食物は、全て毒の有無を確認されているのだから。

 おそらくあの給仕は、私にあの毒を仕込んだワインを飲ませるために用意された給仕だったのだろう。もしかしたらそんな給仕が複数人、あの宴会の場に潜り込んでいたと考えられる。


 今考えるとあまりにも不審な行動をしていたと思い当たる。誰かを探しているように、会場内をきょろきょろと見回しながら歩いていた。あんな賑やかな場所でなかったなら、その挙動不審さに注視していたはずだが、誰も気にも留めていなかった。

 もちろん探していたのは私なのだろう。観葉植物に隠れるようにしていた私を見た途端に浮かべた表情は、私が喉を詰まらせていたから驚いているという表情ではなかった。目標を発見し嬉々とした表情だった。そしてメリンダ王女にグラスを手渡す時に、どのグラスに毒が混入されているのかを選んでいるようにも見えた。

 私も喉を詰まらせていなければ、その微々たる所作を不審に思っていたことだろうが、あの時点では喉の詰まりを解消させることに重きを置いていたので、その辺りを警戒することはなかった。これもまた自業自得である。


「それに重ね重ねすいません……あの後、すぐに胃の中の洗浄をし、あらゆる解毒剤、魔法を試みてみたのですが、効果が得られるものがありませんでした。一応何かの呪いかとも考えたので、同じような症状を発症する呪いの解呪を行ったのですが……」


 その全てがまったく効き目がなかった、という事らしい。

 やはり彼女は優秀だ。考えられる全ては実践済みだった。

 なんとも厄介なものを仕込んでくれたものだ。敵ながらあっぱれ、と言う他ない。


「今の所、飲み物に混入されていたモノの成分を解析中です。毒なのか呪いなのか今は判然としませんが、もう少しお待ちください。必ず、必ずわたくしが……」


 治して差し上げます、と言いたいのだろうがそれ以上言葉が出てこない。彼女の目算でも、私の残りの命と、それを治すべき薬か呪文ができるまでの時間を計算しても、残された時間は絶望的だと理解しているのだろう。

 救いたくとも救えないと分かっていて、嘘でも励まそうとしている彼女の姿は、とても痛々しい。涙を流しながら薄く可愛いらしい唇を噛みながら微笑む姿は、自分の力の足りなさに悔しさがこみあげているようだった。


「……そ、それまで、それまで待っていてください……また、回復魔法と身体強化魔法を重ね掛けしておきます。少しは楽になるはずです……」


 メリンダ王女は自身が使える最高位の回復魔法と身体強化魔法を詠唱した。

 その途端多少は楽になってくる。しかしながら体の麻痺は依然として取れない。顔や口元が少しだけ動くようになる程度だった。


 ──なる程、それで今まで死なずにすんでいたのか……。


 この症状で今生きていることが少しだけ疑問だったが、おそらくメリンダ王女は数時間おきにその魔法を私に掛けていたのだと理解した。

 しかしそれにも限界がある。高位の魔法は魔力を多大に消費するのだ。今の彼女を見る限り、後数回で魔力が尽きる。弱冠12歳の彼女の魔力総量はそれほど多くはない。それでも私の弟子という事もあり、上級魔法使いのそれよりも魔力総量はある方なのだが、高位魔法を延々と連発するだけの魔力量はないのだ。それに消費した魔力が数時間で回復することはない。数時間おきにここに訪れ魔法を使い、それが済むと研究室に戻り私が受けた毒物の調査、解析に当たっている。おそらく昨日から寝てもいないし、休む暇もない程だったのだろう。遅かれ限界を迎えるはずだ。彼女の顔色は、疲労と魔力不足でとても悪い。


 それでも魔法の効果は微々たるもので、徐々に私の体を蝕んでいる。今目覚めた事すら場合によっては奇跡に近いことかもしれない。

 これは目覚めたことを幸運と捉えるしかないだろう。メリンダ王女が魔法を掛け続けていてくれたおかげで死ななかったのだから。


 しかしこのままでは確実に私は死ぬだろうし、無理を押し通している彼女の命も危険に晒される。もう選択の余地はない。

 私は残っている自分の魔力を巡らせ、声が出せるように自身の発声器官のみに集中して身体強化魔法を施した。これで数分ぐらいは会話ができるはずだ。


「……姫殿下」

「お、お師匠様! 無理はいけません。お師匠様は魔力を温存してくださいませ。もし、もしも間に合わないときの為に、少しでも……」


 私が身体強化魔法を掛けたことに気が付いたメリンダ王女は、その魔力を温存して置けと泣き縋った。

 しかしそれも気休めでしかない。

 こうしている間にも肉体は衰え、魔力も回復などせずに徐々に減衰しているのだ。あと数時間もしない内に魔力も命も尽きる。


「もう、無理はなさらないでください姫殿下。私の命は残りわずかです」

「そ、そんなこと言わないでください‼ 必ず、必ずわたくしが治して──」

「──いいえ、もう間に合いそうもありません」


 メリンダ王女の言葉を遮り、私は優しくそう告げた。


「あと数時間で薬か魔法ができればよいのでしょうが、その短時間で仕上げることができるとは、到底考えられません。このままでは私は死に、それに姫殿下のお身体も危険な状態になることでしょう。私はそれを許容することはできません」

「いいえ! わたくしの身体などどうなっても構いません。お師匠様が死ぬのであれば、わたくしもご一緒する覚悟です‼」


 メリンダ王女は、私に縋りながら自分も死ぬ覚悟だと涙ながらに言う。


「なりません。それだけはなりません‼」

「どうしてですか⁉ お師匠様はわたくしをお嫌いなのですか⁉」

「嫌いとかそう言う話ではありません。私の為に、私の死に道連れになることはないと言っているのです。この先国を魔法で支えてゆくのは姫殿下しかいないのですよ? その姫殿下がこんな死にぞこないの老いぼれと一緒に死ぬなど言語道断です。私がこの国を豊かにしたように、私が亡き後、この国をより一層豊かにする役目があるのです。それをゆめゆめ忘れてくださらぬようにお願い申し上げます」


 本当は私の後釜に姫殿下が次の賢者となり、自分はのんびりと暮らそうとしていたことは、この際言わないでおく。もうそれもできなくなるのだから……。


「嫌です! お師匠様がいなければ、わたくしは何もできません! わたくしを置いていかないでくださいませ‼」


 12歳とは思えぬほど、気迫のこもった声で言い募る。

 しかしそれは許されない行為だ。片や国の王女、そして片や大賢者と呼ばれてはいるが、蓋を開ければただの一介の平民と、心中紛いのことができるはずもない。死んだあとも非難囂々と罵声を浴びせられるなどまっぴらである。


「なりません。姫殿下、私を悪者にしないでください。姫殿下を道連れにした極悪大賢者などと、死んでまで未来永劫語り継がれるのはごめんです。私がもし生まれ変われてもいたたまれなくなります」

「そのようなことにはなりませんし、させません!」


 そうは言っても、死んだら言い訳も何もできないのだが……。


「もし生まれ変わるのでしたら、わたくしも一緒に生まれ変わって、その汚名を雪ぎましょう。お約束いたしま……って、生まれ変わる? もしや、お師匠様! あれを、あれをなさるお積りですか?」


 一緒に生まれ変わる気満々の彼女だったが、生まれ変わる、という単語であることに思い至ったようだ。


「やはり姫殿下は賢いですね。そうです、を実践しようかと思います」


 その魔法とは、古代魔法から引用し、編み出した究極の魔法、【転生魔法】である。


「な、なんと……」


 その魔法自体はメリンダ王女も知っている。というよりも、私と共同で作り上げた魔法なので、基本構造から全て熟知しているはずだ。


「で、でも、それは本当に成功するのでしょうか……」


 転生魔法の成否を考え、メリンダ王女はしりすぼみに言葉をなくす。

 それは当然だろう。この魔法の実験などしたことがないのだから、成否など分かるわけもない。

 理論的には間違いなく完成しているとは思う。しかし今まで一度も使うこともできず、実験もできない魔法なのだ。

 何度か他の研究者に呪文を教えて試そうとしたこともあるが、それをすると人としての道を踏み外してしまうと考えた。なぜなら、その魔法を使う、それ即ち使用者は死んでしまうからに他ならない。

 この魔法は転生するために魂の保存を行う。その触媒は現世の命、なのだから。


 よしんば実験ができたとしても、その魔法が成功したかどうかなど検証さえできない。

 その魂が本当に転生したかどうかの立証すらできないのだ、この世界のどこの誰にその魂が宿るのかも分からない。そして何年先に転生するのかも分からないのである。明日産まれてくる子供に宿るのか、それとも数年、数十年、もしかしたら数百年も先だとしたら、この魔法の成否を確認する者すらいなくなっている可能性だってあるのだ。

 真に成否を知る者がいるとすれば、それはその魔法を実践した術者でしかないのである。


「それは、やってみなければ何も言えないですね」

「き、危険です! もし、もし失敗したなら……」

「失敗してもしなくとも、私の命は残りわずかで死を迎えるでしょう」

「で、でも……」

「ははは。これは大賢者である私の最期の大仕事です。この魔法を検証できるまたとない機会なのです。どのみち死ぬのであれば、もう迷うことはありません。この魔法を使うのが私の本懐なのでしょう」


 この魔法は誰でもない、今の私のためにある魔法なのだ。誰よりも先に私が実践しなければならない。

 人が死に、後に転生するという事の検証にも繋がりそうだ。ただ普通に転生したのならば記憶はリセットされてしまうという眉唾な話も、この魔法で魂の保存が可能なら、転生後も今世の記憶を有したまま新しい命として生まれてくるかもしれない。

 実に興味をそそる実験だ。


 ──つまりは、今世の記憶を持ちつつ、新しい身体で思う存分のんびりとした生活ができる。まるで夢のようじゃないか!


 という言葉は口にしない。


「わ、分かりました……お師匠様がそこまでおっしゃられるのなら、わたくしには止める権利などございませんね……」


 メリンダ王女は渋々と言った体で了解してくれた。

 同時に、どちらにしても私の死が目の前にあるのだから、一か八か転生魔法に賭けてみたい、という気持ちもあるのだろう。先ほどまでの悲壮感は幾分薄れてきている。彼女も私の弟子、偉大な魔導師なのだ。


「ありがとうございます。もしこの魔法が成功し、近年中に転生できたならば、一等先に姫殿下にご報告に上がります」

「あ、え、ええ、きっとですよ! 必ずわたくしに最初に、さいしょに……」


 言葉を言い切る前にメリンダ王女は、大粒の涙を零しながら号泣した。


「では、もう強化魔法も切れそうです……それではお元気で、健やかに成長されますよう、いずこかの空の下にてお祈り申し上げます……」


 先ほどかけた身体強化魔法も徐々に効果が無くなって来た。

 私は残りの魔力を練り上げ、今生最後の魔法を唱える準備をする。魔法陣をイメージし、魔力を注入し始める。


「はい、お師匠様! お師匠様も……」

「……」


 お元気で、と言おうとしたようだが、今死のうとしている私にそう言うのは憚られたのだろう。メリンダ王女は泣き顔のままくしゃくしゃの笑顔を作った。

 私ももう一言発するのが限界なようで、瞳だけで了解の意を示すことしかできない。


 ──転生先で、元気にのんびり過ごしますよ。


 残り全ての魔力を、そして命を対価に、私は最後の呪文を紡ぐ。


「──【輪廻転生リンカーネイション】‼」


 発声と同時に金色に輝く魔法陣が私の体の上に現れた。

 その魔法陣は徐々に回転し始め、そして上昇し始める。

 そして、


「──お師匠様―――‼」


 メリンダ王女の私を呼ぶ声と同時に──バシュン、という音と共に金色の光の柱が立ち昇る。


 そして私の意識は肉体から離れる。得も言われぬ浮遊感と途方もないエネルギーの渦に巻き込まれ、私の意識はそのエネルギーに溶けてゆく。


 最期に目に映った光景は、光の柱を仰ぎ見る金色に輝く可愛らしい少女の姿だった。


 ──さようなら。またいつの日か……。


 そう心の中で呟きながら、私は光の渦の中に紛れてゆくのだった。



────────────────



 後世、カーネギー王国王城に黄金の光の柱が天高くに昇った日、カーネギー王国の守護神が不在になった、という噂が世界中に轟いたという。

 時を同じくして亡くなった大賢者シリウスが、その守護神だったのか、それともその守護神が大賢者シリウスを連れて行ったなどと、そんな噂が長く語り継がれたという。


 その日を境にカーネギー王国の崩壊が始まるのだが、転生魔法を使った大賢者シリウスに、そのことは知る由もないことだった。

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