第7話 希美が出て行く

ある日のデートの事だ。


若い男の子が「あなたは希美ちゃんの何なんですか? 

まさか…付き合ってる訳じゃあ…?」

と問い詰めて来た事があった。



後で分かった事だが、希美ちゃんに片思いしている自意識過剰の友達というか知り合いらしい。



「ゴメンね…嫌な思いさせちゃって…何て謝ったら良いか…。」



「いや…俺なら大丈夫だよ。 

こんなに歳が離れているんだから…

希美ちゃんの友達だろうと知り合いだろうと追求されるのは覚悟してるから… 」



二人になって…

「本当にゴメンなさい…。」

彼女は俺の胸に顔を埋めて泣いた。


俺に済まないという思いと、

歳の差が何なのだろう…という

悔しい思いも混じったのかもしれない。



「私…私…拓也が居れば…他に何も要らない」

そう言って泣きじゃくっていた。



彼女がアパートを引き払って俺の部屋に転がり込んで来たのは…その1週間後だった。



「私…もう帰る所…無いの……。」

そう言って俺の布団に潜り込んできた。



「良いのかい? こんな庶民で? 

君には約束された輝く未来があるだろう…?」


そう言われても希美にとっては嬉しくないだろうという事を知りながらも、そう俺は言った。



その夜二人は深く結ばれた。 


言葉では言えないような…

あんな事や こんな事をしてしまった。 


彼女の目には固い決意に似たものがあった。 


ただ俺は こうなる事で やがて来るであろう二人の別れが早くなるだろう と予想していた。



半年後くらいだろうか…希美の父と母と名乗る中年の夫婦が二人の愛の巣を訪ねて来た。



「何も言わずに希美を帰してください。 

タダとは言いません。 

あなたにもご迷惑をかけましたから…

これでひとつ!」


分厚い封筒を差し出された。

きっと500万は入っているのだろう。



「これは受け取れません」


俺は打算では無く、希美に惚れていたからだろう…

俺の純情にかけて封筒を受け取らなかった。


「とにかく…希美が帰ってきたら実家に連絡するように言ってください。 

もしも連絡が無かったら、警察に連絡しますから…

そのつもりで」


そう言って希美の両親は俺のアパートを後にした。



俺の事を希美が好きなのは確かだと思う。


でもその先の事をどう考えているのだろう?


希美も21才になったのだから、俺とちゃんと話を出来る分別のある大人になっている筈だ。


…………………………………………………………………………


「ただいま~☆」


希美はいつものように俺に甘えるような口調で ただいま を言って…

俺の胸を目掛けて飛び込んで来た。


「拓也~☆会いたかったぞ~☆ 

希美を抱き抱きしてたもれ~☆」


俺はいつものように希美の頬擦りやボディータッチを受け入れると、

エッチの準備として二人でシャワーを浴びた。


希美は俺の身体を好きなように触り…

キスし…もう待てないという感じになっている。



甘えん坊の希美をベッドに運ぶと、

彼女は潤んだ目で「来て~☆」と囁く。


希美に惚れている俺は…

彼女の両親が訪ねてきた その日であっても…希美の誘いを断れない☆


希美の顎を片手で挟み その唇を愛する。

そして目を愛して耳を愛し…胸や脚に向かって順番に愛していく☆


たまに その愛する順番を変えると、

希美は その意外性に身体を のけ反らせて反応する。


希美の両親からのメッセージを彼女に実行させないと いけないと思うと…

いつもよりテンションが上がっていた。



三度 彼女がクライマックスを迎えると…

そろそろ止めて話をしないとな…と思った。



ぐったりした彼女が夢虚ろでいたが、

少しでもショックを和らげてあげようと、

彼女を膝に乗せてハグしながら用件を伝えた。



少し彼女はイヤイヤをしたが、

抱きしめてあげる事で彼女の心を労った。


実家への電話番号は俺が押してやった。


「希美なの? あなた自分のしてることが…

どういう事だか…分かってるの? 

若い娘が父娘ほど歳の離れた男と同棲したりして… 」



希美は暫く母親の言葉を聞いていたが…

辛抱が出来なくなって話始めた。


「お母さん…私…今 幸せなの。 

お母さんも女なら好きな男性と一緒に暮らしたい気持ち…解るでしょ。 


でも私も気が付いているの…こんな幸せが長く続かない事を。 

大人に成ったのだから…

何処かでケジメを付けないといけないって… 。」


「そう…分かっているのなら良いわ。 

お父さんにはお母さんから言っておくわ。 


希美はバカじゃないからって。 

ちゃんとケジメを付けられる娘だって」



電話を終えた希美は泣いた…

悔しくて泣いた。 

こういう幸せが長く続かないと…

ずっと感じていたから。



一週間後に希美は荷物を まとめて俺のアパートを出て行った。 


俺もそれで正解だと思った。


彼女の将来や彼女の両親…

どの事を考えても、そうなる運命だったのだと思った。

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