第15章「世界に関わる者」その11



さっきのこともあるし僕が聞こうとしたが、彼女は小走りで彼に向かって話しかけた。


「すいません、つかぬことをお聞きするのですが、このクラスで今日、盗品にあったものはありませんか?」


「いや、知らないな。俺はさっき当番になったところだから」


彼女の衣装に驚いたのか、少したじろいで間をあけて答えた。


「それじゃあ、あなたの前に当番だった人を呼んでもらってもよろしいでしょうか?」


「いや、今どこにいるか分からないし、それは無理かなぁ」


パッと見たところ、その男子はその話に興味はなく、立ち去ろうとしていた。


「それじゃあ、その人は何時ごろこちらに帰ってくるか分かりますか?」


東海は彼の態度を見ても、決して引くことなく立て続けに質問をぶつけた。


「悪い、今から昼飯食べに行くから、これで」


そう言って彼は小走りで教室を出ていった。


うつむく東海の小さな背中を見て、何だかやるせない気持ちになった。


彼女にとっては重要なことなんだ、もう少し真面目に取り合ってもいいんじゃないかと思う。


「まあこんなこともあるよ」


気のきいた励ましが思いつかず、適当なことを言ってしまった。


余計に落ち込んだかなぁと、心配になって後ろから顔を覗くと、


「さあ次は二組に行きましょう!」


さっき僕と話していた時と変わらないくらい溌剌な状態だった。


「落ち込んでないの?」


自分の予想が外れて、驚いたせいかついつい質問してしまった。


「ん、どうしてなのです?」


「いや、あんな軽くあしらわれたら、普通は傷つくと思うけど」


「他人が自分に対して言葉を選ばない場面に出会うことはよくあること、


大事なのは何を言われたかではなく、どう捉えるかなのです」





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