第15章「世界に関わる者」その2



タロットカードなんて実物で見たことがなかった分、品定めするようについつい見入っていると、


他の生徒の視線を感じたので急いでさっきの席に戻った。


にしても、このカードは劇の中で使うのか?


もしそうだとしたらまずいことになるな。


今ごろ舞台裏ではカードが無いことにみんな慌てふためいて、このままだとタイトルだけでも滑稽なのに、さらに滑稽な演技を見せられるのか。


ならどうする?舞台にはまだ誰もいないし、進行役の人も出てきていない。


迷いに迷った挙句、僕は立ち上がり体育館を出ようとした。


もう面倒事に巻き込まれるのはごめんだ。


数少ない幽かな勇気を強く振り絞ったところで、良いことが起きることは限らない。


結局、僕は良いことをしたら見返りを求め、悪いことをしたら見返りを求めない最低の人間なんだ。


けど足は前へと進めなかった。


ここでまた逃げたらもう二度と平木とは話せない気がする。


僕があそこのドアから舞台裏にいけば恥をかくのは否が応でも理解できる。


知らない奴がいきなり入ってくるんだ、白い目で見られるのは当然だ。


きっと舞台裏じゃみんなが緊張をほぐすために円陣とか組んでいるかもしれない。


そんな場所に落し物を持って飛び込んでも、感謝よりも「誰こいつ」という不気味がれた目をされるんだろう。


でも無様でも格好悪くても、人が困っているのだとしたら見放すわけにはいかない。


他人の為じゃない、自分のために、この罪悪感を消すために僕は恥をかいて他人を助けるんだ。




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