第13章「空いた学び」その5



二限目まで、特にやりたいこともなかったので携帯でネットニュースを見ていた。


殺人、煽り運転、芸能人の結婚、感染症の猛威、僕には関係のないことばかりが起きている。


それからというもの、六限が終了するまでネットニュースを見ていた。


窓際の最後列ということもあってか、バレることはなく、このスリルを楽しめた。


それでも疲れた。


一ヶ月半ぶりに受けた授業は四月に受けた頃となんら変わらない、簡素でつまらないものだった。


ペンを走らせる音、時計のチクタク、誰かの鼻の啜り声、寝息の音、すべてが雑音に聞こえた。


それを六時間ものあいだ耐えた僕は、表彰台に上がってもいいんじゃないかと心の中で確信している。


ホームルームを終えて、誰と話すこともなく家路についた。


二学期の初日は黒板を消し、スマホニュースを見て終わってしまった。


久々の学校で疲れたせいか、すぐに着替えて仮眠をとると、


辺りは暗くなり、夕飯の時間になっていた。


いつも通り、母と妹と三人で食卓を囲んで食べている。


「そういえば祐、今朝、家の鍵を閉めてなかったでしょ?」


「ああ、そうだっけ?」


今日も終わりかけているのに今朝の出来事を話されても、こっちとら覚えちゃいない。


「まったく久々の学校だからって、忘れたらダメでしょ。


もし空き巣にでも入られたらどうするの?」


こんな築十年の庭もない二階建ての家に空き巣が入ってくるもんかと思ったが、


万が一ということもある。


それに母に逆らえるほど、僕のこの家での地位は高くないんだ。


「ごめん」 


謝ることにもずいぶん慣れてしまった。


でもこれは妥協の末のものであって、反省とか後悔は微塵子程度もない。


「あんたも高校生なんだから、しっかりしなさいよ。それから夏休みの宿題はちゃんとやったの?」



「今日提出してきたよ」


鍵を閉めてなかったからって、宿題のことまで言われなきゃいけないんだ。


そんなに自分の息子を信用していないのか。


だんだん腹が立ってきた、ご飯を噛む回数が減っている気がする。


無意識に早く食べようとしているのがわかる。


「ごちそうさまでした」


いつもなら食器を洗い場に持っていくが、今日はしなかった。


これが今の僕にできるせめてもの仕返しだった。

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