第13章「空いた学び」その4



宿題を回収した関原先生は、


チョークの白粉を落とした教卓を見ることもなく、教室を去っていた。


日直だった僕は黒板に書かれた文字を消そうと、


前に向かうと案の定、教卓は白い粉まみれだった。




迷った。


何がって?


教卓を綺麗にするべきか否かだ。


日直の役割は黒板消しと日誌を書くことだ。


それ以外は先生に指示されない限り、特に何かする必要はない。


しかし教卓を綺麗にするくらい、気づいた人間がやるべきなんじゃないか?


それが優しさってものだ。


いや、本当は汚した人間が綺麗にするべきなんじゃないか?




でも、それは薄情か。


分からない、考えがお尻のように真っ二つに割れている(この例えしか思いつかなった)。


結局、黒板の文字を消した後、ぞうきんで教卓を拭いておいた。


誰に気づかれたわけでもない。


誰も僕の善行を目視することはなかったはずだ。


用が済んだ僕は自分の座席に戻った。


そして、また窓の外を眺めていた。




これで「正しい人間」になれたのか?




悪いことをしたことがない人間なんていない。


それは誰もが思うこと。


それなら、正しいことをしたことがない人間もいないんじゃないのか?


生きていれば表立っては正しくなければならない。


意識的にしろ無意識的にしろ、正しいことの一つや二つはしてしまう。


それなら「悪人」という奴はこの世に存在しないんじゃないのか?








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