第12章「冷めた花火」その14
相変わらずこちらを見る様子はないが、
ふざけているようには聞こえなかった。
だから正直に言うことにした。
「実は…気になっている奴がいるんだけど...
最近、考え方っていうか彼女の言うことがよくわからないんだ」
「その子は知り合ってどれくらいなの?」
「…三ヶ月くらいかな」
そう答えた時、文田は筆を初めて止めた。
キャンパスには日本には無いであろう赤いレンガ風車が描かれていた。
「は?逆にそんな期間でわかり合えると思ったの?
あんた、実は馬鹿なの?」
描かれた絵とは似つかわしくないほどの嫌味だった。
「何十年と連れ添った夫婦さえ別れるのが人間なの。
たった三ヶ月で他人を理解できると思っているなら、
それは自惚れって言うの」
落ち込んでいたのを察したのか、さっきよりかは言葉が優しかった。
「解決できないこともある。
現実は問題が表面化されないことが多いのよ。
みんな隠して生きている。
自分の悩みとか苦しみは隠して、どうでもいい世間話ばかりするのよ。
だけど、隠したものほど心の中に居座る」
保健室では文田はよくわからない存在だった。
でも、今は違う。
僕を理解し、悟してくれた。
場所が違うだけで、接し方は変わるんだ。
それから僕は何も言わずに文田の絵を遠い景色を見るように、じっと眺めていた。
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