第12章「冷めた花火」その13
僕は制服を着て、約二週間ぶりに学校に向かった。
今日が美術室が空いているかは知らなかったが、
とりあえず宿題をしない理由が欲しかった。
だから、美術室が空いているかはそれほど重要じゃなかった。
校舎の四階まで上がり、美術室に着くと電気が点いていた。
ドアが少し開いているので、僕が中に入れるくらいまでゆっくり開けると、
二カ月ほど前に見た光景を思い出した。
なぜならその時見た景色と同じだったからだ。
何の着色もない木の机、背もたれのない椅子、
キャンパスを立てかける譜面台のようなもの。
そして、ニスと絵の具の臭い。
ああ、やっぱり僕はこの臭いが好きだ。
「久しぶりだね、羽塚」
声の主は文田だった。
「お邪魔だったかな」
ずっと絵を描いているので、何ともいたたまれない気持ちになった。
「座れば?」
後ろに椅子があったので、文田の横まで持ってきて座った。
「あー、...夏休みはどう?楽しい?」
「別に、普通」
「宿題は終わった?」
「当然。でなきゃ、ここに来てないよ」
「ハハハッ。そうだよね」
「何で文田は絵を描いてるの?」
「好きだから、他に理由なんてないよ」
ドキッとした。
「何か悩みがあるなら、正直に言ってみそ」
そう言いながら、彼女はキャンパスに絵を描くことを止めなかった。
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