第11章「確かな憩い」その10


「3年5組委員長、小嶋沙南」


案外、素直に答えるんだな。


こうなると、今度は僕が彼女の質問にも答えなくてはいけなくなる。


「いや、僕にとって西山は…友だちかな」


ありきたりな答えを言ったはずだが、いぶかしげな顔をしている。



「ただの友だちが皐月を呼び出せるとは思えないけど」


「どういうこと?」


「皐月は男に対してプライドが高い子だから、


普通あんな呼び出しされても、会議を抜け出すことはめったにない」


そうなのか。西山の性格上、多少何もされても笑顔で返しそうだけど。



「でも、クラスの西山は誰に対しても優しいよ」


何となく反論すると、


小嶋はわかっていないなぁと言いたげなため息をつき、


「それはみんなに対しての顔。


あの子、モテるから個人で呼び出される男には警戒心が強いんだよ。


いつも呼び出された時には、あの顔から想像できないくらい怖い顔をするの」


それはわかる気がする。


モテない男は可愛い女の子に優しくされたら、


嫌でも好きなんじゃないかと期待してしまう。


でも、可愛い子はたいてい誰に対しても優しいのだ(※平木を除く)。



特に初対面にはなおさらだ。


初対面は印象操作に重要な瞬間になる。


だからこそ、彼女たちは誰隔てなく優しく接して、自分の価値を高めようとする。


それは卑怯なことじゃない。


このえこひいきだらけの社会を生きていく上で必要な一種の知恵だと思う。


だから、男は女の好意の優しさと、


そういう建前の優しさをかぎ分けなくてはいけない。


それができなければ、心の中で妄想が生まれて、


自分の中では収まりがつかなくなる。


自分の中では気持ちいいものだ。


しかし、むき出しの好意ほど恐ろしいものはない。


確か平木が悩み部屋で言っていた気がする。

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