第8章「私のレール」その2


それにしても、これだけ多くの人がいるなんて思わなかった。


通り過ぎていくたび、たくさんの人の熱気が伝わってくる。


本当にこの世界の住人のように生きている。


他人の吐息、咳払い、中年男性の体臭の鼻を突き通るような臭さ、


全てが気持ち悪く、実行できるわけがない殺意が湧いたことに驚いた。


僕は朝の通勤ラッシュに乗り合わせたことはないけれど、


もうみんなの同じ道を進む自信を失ってしまった。


大人になればこんな毎日が待っていると思うと、


この世界からダイブしてしまいたくなる。


いや、僕は一度屋上のからダイブしたことがあったか。


でも、あの時は死ぬことがたまらなく怖かった。


きっと慣れてしまえば、満員電車に揺られながら、


外の景色を眺めているんだろうな。


なるほどな。


もう一度、深呼吸とともに思う。


なるほどな。


吐き出す息が、ため息の重さになる。


何がどうなるかは僕らが決めることじゃない。

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