第8章「私のレール」その1


「なにこれ」


僕らは驚愕した。


ここで僕だけでなく、西山も含めたのは、


表情から察しただけでなく、そうあって欲しかったからだ。


今、見ているこの情景に疑いと不安を覚えたのだ。


扉を開けると、大勢の人がいたからだ。


僕は確認していた。


電車に乗り込む時には僕ら以外の乗客など見る影もなく、


この電車は僕らがいた駅が始発だった。


しかし、僕の網膜という名のスクリーンには、


軽く50人はいるんじゃないかと思うほどの人だかりが映し出されている。


まるで平日の通勤ラッシュの時のようだ。


西山も今の状況が異様な様であることはわかった。


「とりあえず、運転席まで行ってみよう」


呆然としているのか、ただ首を縦に振るだけだった。


本来ならばいるはずのない人混みの中をかき分けていった。


通り過ぎていく顔を見ると、本当に生きている人間のようだ。


きっとこれも、西山が作り出したものなのだろうか。


だとしたら、これはすごい規模だ。


平木は一部屋だったなのに、西山は電車なのだから。


ならば、西山は平木よりも悩んでいるということなのか。


いや、憶測できるものではないはずだ。


僕は悩み部屋については何も知らないんだ。


行く先も分からない切符を無理やり握らされた、


哀れな男子高校生といったところか。


その切符は手放すには惜しく、乗ってみるにはあまりに怖かった。


汗で切符がぐちゃぐちゃになりそうだ。

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